570 / 698
Ⅵ 女王
神話の終わり ⑪ 真・国引き……動く
しおりを挟む全高10Nキロのヌッ様の威容は、我々の現実世界で言えば世界一の高さを誇るエベレスト(チョモランマ)が標高8848メートルであり、それを軽く越えていた。ほぼジェット機が飛ぶ高度1万メートルと同じ高さである。その様な姿であるからその時間に起きているほぼ全ての人に見えていた。ただ見えてはいるが、上半身の上の方になると夜の闇に紛れて霞んで良く分からない状態でもあった。まさに神という形容がピッタリ来る存在であるが、その下の実在のヌッ様内からまだうら若い娘三人が操縦していた……
(ヒッお姉さまがまた仕切りながら、真・神魔ローダースキルとか勝手に命名してるッ!?)
「ハイッ!!」
しかしフゥーは構う事無く強く返事をした。
(またフゥーも言われるままなのねっ)
「ちょっと、また貴方の悪い癖が出ているわ……」
雪乃フルエレ女王がジトッとした目で美柑のパピヨンマスク越しの顔を見た。
(ヒィッ、心の中で突っ込んだだけでお姉さまにバレた!? 怖いよ)
「も、申し訳ありませんっ! 真・必殺技を執り行いましょう!」
「真・神魔ローダースキルよっ」
「はいっ!」
今度は出鼻をくじかれてフゥーが二人をジトッとした目で見た。
「あのう……」
「行くわよっ! 真・必殺技!! じゃ無くて、真・神魔ローダースキルよっ!!」
いきなりフルエレは美柑に引っ張られて言い間違ったが、フゥーは触れてはいけないと思い無視した。
「ハイッ! 今度こそ行きますっお願いヌッ様、今度こそ私達の願いを聞き届けて下さい……真・神魔ローダースキル国引き……」
フゥーが静かに祈ると、実体の全高300Nメートルのヌッ様の全身から謎の黄金の粒子が放出され始めた。
「うわぁ綺麗……」
家の窓から見ていたアナの地の住民の少女が呟いた。
シュバァアアアッ!! ビキィイイイイイイイイイイッッ!!!
そして今までと同じ様に全高300Nメートルのヌッ様から光の綱が放出される。三人の娘はもしかしてこれまで通りなのかと一瞬落胆しかけたが、直ぐに白鳥號に乗って飛ぶ紅蓮アルフォードからのフォローが入った。
『す、凄い……超超巨大ヌッ様の腕から飛んでも無く太い光の綱が発生して、遥か彼方まで伸びているよ……どこまで続いているのだろうか……』
ぐんぐんと急上昇した白鳥號で、とてつもなく巨大な幻想のヌッ様の腕の辺りまで飛び、その指先から四方八方に伸びる光の綱を見て、紅蓮は一瞬今までの千岐大蛇との戦いを忘れて遠い世界の果てにまで思いを馳せた。そして紅蓮が考えた様に実際に超超巨大ヌッ様から伸びた綱は、当初の目的通りセブンリーフ島と東の地(中心の洲)の西端都市アナの地とそれに付随する三角島を結び付けただけでは無く、東の地の南に存在する二名洲や、以前に砂緒とセレネが旅した南のキィーナール諸島、さらにはまだまだ神聖連邦帝国が到達していない遥か東の地、広大なひし形島のさらにそれらに付随する細長い島々、同じ言葉を話す人々の洲という島の全てが結ばれていた。
『ありがとう紅蓮くん、私達の上のとても大きなヌッ様からもちゃんと光の綱が伸びているのね』
『ああ、そうだよフルエレちゃん!』
『美柑です』
『ああ、美柑もいたんだっ!』
『……』
フルエレは静かにフゥーの瞳を見た。彼女も静かに頷いた。
『フゥーちゃん今度こそ、一緒に引っ張ろう!!』
『はい……』
『私も頑張るよ!』
『僕も一生懸命見守るよ』
『同じく、空から見守るから!』
フルエレとフゥーと美柑は静かに操縦桿を握り直し、同室に居る猫弐矢と上空の白鳥號の紅蓮が静かに見守った。
『行きます、真・神魔ローダースキル国引き、国来国来……オオオオオオーーーーーーッッ!!!』
『たあああああああああああああああああああああ!!!』
『でやああああああああああああああああああああ!!!』
三人娘は、此処まで時間を稼ぎ続けたル・ツー漆黒ノ天の大猫乃主の想いを無駄にしない為にも、心から幻想のヌッ様に祈りながら力を込め続けた……
ビビビビビビッビビビビビビ……
すると地震とは全く異なる微かで微妙な振動が東の地に伝わり始めた。
「お、おおおお、な、何だ?? 微妙な振動が」
「見ろっ波が微妙にちゃぷちゃぷ言い出したぞ……」
アナの砂浜に立ち尽くし、超超巨大ヌッ様を見上げていた兵士達が海岸線の微かな異変に気付き始めた。
「違う、陸が陸が動いているんだ……」
「なんか、ベアリングでも付いているみたいにスムーズだな……」
「もっとガッガッガッて行くのかと思ってやがったぜっ」
海岸線に元々居た兵士達も、偶然起きていた住民達も異様な出来事に目を見張った。そしてそれはクラウディア王国に取り残された夜叛モズや地元住人達、遠く聖都ナノニルヴァの人々にも気付いている者が多くいた。
―セブンリーフ島。
リュフミュラン七華王女から海岸線の住民避難と、即位式予行練習の為に集まっていたフルエレシンパの王族達の退去を通告されていたが、東の海岸線の向こうに全高5~600Nメートルの超モンスター発見とのリュフミュラン軍の報告を受け、王族達はあろう事かわざわざ海の見える神殿から、兎幸の天球庭園のさらに東のフルエレと砂緒が初デートをした砂浜にまで物見遊山にやって来ていた。
「おいおい、もう観念しねえか折角初体面なんだからよ、そろそろ腹割って話しあおうぜっ昔の事は水に流してよ、ガハハハッ」
「い、いや俺やっぱ帰るわ」
衣図ライグに発見されて以降、ガッチリと首根っこを押さえ付けられ魔戦車の上に乗せられ、此処まで連れられて来ていた有未レナードは生きた心地がしなかった。
「ぐへへ、大将の機嫌が良いうちに家来になった方が良いですぜ」
やっぱりコソ泥にしか見えないラフが笑った。
「いや、俺女王の次に偉い人なんだが……おおお嬢さん、助けてくれ」
その有未レナードの目に、ワイン片手にこちらを見るイェラの姿が見え、彼はゾンビの様に腕だけを伸ばした。それを見て自称美人秘書のメガネは顔を背けた。
「なんで私が貴様を助ける? 私は衣図ライグ大将殿側だと言う事を忘れるな」
「そりゃないせ~~~」
「と、言うわけだ。諦めて……おっ? 何だありゃ……」
ライグはガッチリとレナードを離さないまま上を見上げた。
「何だっありゃああ……」
「大きい、魔ローダーなんてレベルでは無いな」
イェラもワインをぐいっと飲み干しながら見上げた。続いてコーディエや大アリリァ乃シャル王達もあっけに取られて見上げていた。
「すげー、マジすげーーぜ」
とシャルも叫び、この時セブンリーフの人々は超巨大な巨人が遥か夜空の果てにまで立ち尽くしている事に気付いた。そしてそれからしばらく後……
ビビビビビビ……
人々を微かな振動が襲う。
「お、おい今度はなんか海岸線が動いてないか? なんて言うか動く魔法歩道みたいな? ていうかもうそろそろ離してくんない?」
まだレナードは衣図ライグに掴まれていた。しかし実は実際にはセブンリーフ自体は余り動いて無く、東の地の方が近付いているという表現が正しかった、目の錯覚である……
「いいじゃねーか、この異様な景色を一緒に眺めようぜっうははは」
と、その場に来ていた瑠璃ィキャナリーとラ・マッロカンプのウェカ王子にセクシーなメイドさんのメアも、能天気にサンドイッチを食べながら異様な光景を眺めていた。
「あちゃ~~~なんや全高600Nメートルくらいの謎の物体までどんどん近付いて来るで~~」
林立するSRV魔ローダー部隊よりも先に、瑠璃ィは対岸の東の地が近付いている事に気付いた。
「えーーーーっ!! いいんですか逃げなくて!?」
メアは瑠璃ィの言葉に飛び上がる程驚いた。遠く対岸の火事だと思っていた事が何故かどんどん近付いて来るのだ。
「いやあ、謎のモンスターも近付いて来るけど、相対的にあの超デカイ奴も近付いて来る訳だろ? だとしたら最終的にあの超巨人がプチッてやってくれるんじゃないかナ~~?」
「なるへそ……」
メアは王子の言葉に妙に納得して再び光景を眺め始めた。何故超特大巨人が都合よく自分達の味方だと思うのかは謎である。
0
あなたにおすすめの小説
雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった
ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。
悪役貴族がアキラに話しかける。
「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」
アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。
ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
