635 / 698
2-Ⅰ 依世とフルエレ
依世、セクハラに耐える
しおりを挟む―少し前、ニナルティナの閑静な立地に立つ高級レストランの個室……
雪乃フルエレ女王は喫茶猫呼常連のリーダー的存在、芹沢老人を呼び出していた。
「な、なんですかいのう? この老いぼれに女王陛下自ら、ハッいえフルエレちゃんが一体?」
突如呼び出された芹沢老人は嬉しさ半分、一体何を言われるのだろうかという恐怖もあった。当然雪乃フルエレ女王の背後には、護衛のシャルとライラが仁王像の如くに目を光らせ立っていた。
「あらあら、そんな恐縮しなくて良いのよ芹沢さん。今晩は常連さんの貴方に特別にお礼がしたくて……だけど一つお願いがあるのよ」
ウイスキーを注ぎつつフルエレ女王は不敵に笑った。しかし芹沢老人は何事かとドキッとする。
「一体何を?」
「うちに依世っていう、うぶい新人が入ったのよね。芹沢さんにはちょっとその子の事を揉んで欲しいのよ……」
「なん……ですと!?」
芹沢老人は雷に撃たれた様なショックを受けた。
「さぁさ、今晩は好きに食べて飲んで頂戴な」
そう言われても芹沢老人は一体何をどうすれば良いのか、高級料理も味がしない程の戸惑いを覚えた。
―そして現在に至る。
芹沢老人は激しい緊張の中、喫茶猫呼の個室の中で依世の到着を待ち構えていた。芹沢老人の脳内にズカズカと分け入ってみよう。
「ふうはあ……一体何事なんじゃろうか。なんでも新人の依世ちゃんは雪乃フルエレ女王の妹さんだと聞く。果たしてそんな子に本当にセクハラをして良いのか? 実はこれはトラップでは無いのかのう? 常連のワシに何か不審点があり、ワシの態度を試しておるのではないか?? それに揉むと言って何を揉むのか曖昧じゃ……本当に依世ちゃんの身体を揉んだりしたら即、怖いニーちゃんが出て来てニナルティナ湾に浮くんじゃなかろうかのぅ? そうじゃこれはトラップじゃ!!」
ピコーン!
芹沢老人の脳内はセクハラをしないという決断に至った……
ガチャッ
「あらいらっしゃい芹沢さん、この子が新人の依世ちゃんよよろしくね。じゃあしっかりお相手するのよ、大切な常連さんなのよ、うふふ」
フルエレは芹沢さんに目くばせした。
「は、はいお姉さま……」
「じゃあね」
ガチャッ
小さな物音にもビクッとしながらオドオドして依世が個室に入って来た。
「ほっほっほっ君が依世ちゃんかね、怖がらなくて良いよ。こっちに来なさい」
「はぃ」
依世は芹沢老人に導かれるまま、席の隣に座った。当然ながら喫茶猫呼はコンカフェでは無いので、普段はこんなシステムは無い。
―しばらく後、緊張の中依世が戻って来た。
「お姉さま、無事接客終了しました。芹沢さん昔話がウザイとか以外はとても優しい方で、何事も無く本当に良かったです!」
依世が多少疲れた様な顔をして戻って来たが、その表情は晴れやかだった。
「何ですって!? 何事も無かったですって?? あんたみたいなペーペーは触ってもらってナンボよ? もう一回戻って行って脚を触って下さいご主人さまって言って来なさい」
「何でーーーー!!」
依世は姉の言葉が信じられなくて激高した。
「フルエレ何て事言うの?? セクハラ厳禁は貴方が決めた事でしょ?」
依世自身だけでは無く、聞いていた猫呼までもが戸惑った。
「……依世には私の後釜になって女王を継いで欲しいのよ。その為にはこうやって世間の荒波に揉まれるのが最適なのよ」
「荒波に揉まれるって意味ちがく無い?」
「ちょっと! お姉さま酷いです。どうやったらこの接客が女王の仕事に役立つんですか!? それに……私一言も女王を継ぐとか言ってませんから!! ていうか絶対に嫌です。今でもほとぼりが冷めたらこの店から脱出する事ばかり考えてましたっ!」
遂に依世が本心を言ってしまった。
「脱出してどうするのよ?」
「冒険者に戻ります!」
フルエレが額に手を当てクラッとする。
「なんてこと、冒険者なんてヤ〇ザな商売は止めなさい! 貴方には堅気になって喫茶猫呼で短いスカート履いて働いて欲しいの……」
「この格好のどこがカタギですか!? 冒険者の方がよっぽど堅気です!!」
言い合いを聞いていて猫呼はどっちの味方をすれば良いか迷った。
「何ですって!? そんな勝手絶対に許さないわよ、貴方は私が楽隠居する為に早く女王に即位するのよ!?」
「楽隠居てアンタ何歳よ?」
猫呼が呆れたが、雪乃フルエレは現在十六歳くらいである。
「そんなの知らないわよ! 今日はもう終わりますから!!」
依世は床に可愛いふりふりのエプロンを叩き付けると店を出て行った……
「アッこら待て―――――!!」
フルエレはドラ猫を追い掛けるサザ〇さんの様に腕を振り上げたが、依世は無視して帰って行った。
「あ、待ってくれよ美柑!」
それを紅蓮が慌てて追い掛けて行った。
「……さすがフルエレでも家族が絡むと本性が現れる物ですね、実に面白い」
砂緒は美しい姉妹の喧嘩をにこにこしながら眺めた。
0
あなたにおすすめの小説
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった
ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。
悪役貴族がアキラに話しかける。
「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」
アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。
ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる