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2-Ⅰ 依世とフルエレ
依世に迫る影!!
しおりを挟む依世は重い顔で喫茶猫呼から地上に出る階段を上がった。
「嗚呼、夜窓から月や星を眺めて一人涙してらした、儚げなお姉さまとは全く変わってしまわれたわ……」
彼女は目を閉じて大袈裟にヤレヤレと首を振った。
「……それはそれでキツイと思うけどね。僕は今の頑丈なフルエレちゃんも好きだな。でも昔は彼女もす、素潜りでアワビを取ったりして、かなりアクティブな面もあったんでしょ?」
「今紅蓮、素潜りってだけで一瞬妄想して興奮したんでしょ……我が姉ながら魔性の娘ね。でもそれは御幼少の頃の話で、少し大きくなってからは結構清楚系なカンジだったんだよっ!」
依世はクルリと反転しながら紅蓮アルフォードに語り掛けていた。
「い、いよ……ちゃ、ちゃん……ボクだよ」
「ヒッ!?」
その階段広場に背中を向けた依世の背後からぺたっと何者かが手を触れた。
「ほ、ほら、僕だよボク、覚えて無いの!?」
思わず振り返った依世の眼前に、フードを被った同じ背丈くらいの少年が居た。
「誰よ!?」
「ほらっ御幼少のみぎりに君にいきなり魔法で半殺しにされた、ラ・マッロカンプ王国のウェカ王子だよ! 覚えてるでしょ!?」
依世は姉夜宵である雪乃フルエレ女王が涙の即位宣言をして以降、しばしば声を掛けてくるウェカ王子を全力で避けまくっていた。
「……そ、そげな人、知りませんのぅ。何かの人違いじゃなかとね? じゃっ」
(やべっコイツ生きていた上に、私がお姉さまの占いの指示で暗殺してた事まで覚えてるの??)
依世は視線を逸らし、足早にその場を立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと依世ちゃん、ボクがどれだけ君を探し求めて来たと思うんだよ! ちょっとだけお話、ね!?」
しかし構わずウェカ王子は依世の前を遮り逃がさない様にする。
(もーめんどくさいわ、魔法で強打してもっぺん記憶を消してやるか)
依世が思わず幼少期の凶悪な顔になり、伸縮式の魔法ステッキを繰り出そうとした。
「ちょっと待てよ! 君とのいきさつは知らないけどさ、美柑は今は僕のパートナーなんだ。もう忘れた方がいいよ? なんなら僕が相手してやろうか」
今の紅蓮は店のエントランスで預けていた剣を持っていて、それを軽く見せ付けた。
「ちょっ紅蓮、止めてあげて、この子も悪いコじゃないのよ。私にも少しだけ責任が」
(ちょっとちょっと! 私を取り合って的な!? 思わず笑いが、いやイカンイカン)
依世はシチュエーションに思わずニヘラと笑い掛ける所を、必死に堪えて健気な少女の風情を装って紅蓮を止めた。
「安心して! 僕もこんな子をいきなり斬ったりしないよ。美柑が一体誰のパートナーかって知らせて少し脅すだけだよ」
紅蓮は振り返って爽やかな笑顔で言った。こうした態度だけなら立派なヒーローにしか見えない美形な彼であった。
「紅蓮……お願いあまり酷い事しないでね」
「はぁ~~~? ボクも遂に怒ったぞ!! 穏便に済ませてやるつもりだったけどな、お前依世ちゃんに付きまとうなら、そこそこ痛い目合わせてやるーーっ!!」
何故かウェカ王子の脳内では紅蓮が悪役になっていた。そしてスラッと剣を抜いてしまった。
「仕方ないねっ裸にでもなれっ!!」
シャッ!!
紅蓮はいつもの恐ろしい速さでウェカ王子のズボンを切り裂いた……つもりだった。
カキーーーーン!!
「何だ? 何を狙ってんだよ!?」
「え?」
「何」
依世と紅蓮が同時に驚いた。手を抜いているとは言え最強レベルと思っていた神聖連邦帝国聖帝の息子、紅蓮アルフォードの剣をウェカ王子はあっさりと受け止めた。
「何だーーーでもお前もそこそこヤルみたいだナー、じゃあ本気だすぞっ!! うりゃっ」
ビュンッ
剣を押し返し間合いを取ると、ウェカ王子の鋭い剣が真横に胴を切り裂こうとし、紅蓮は慌てて後ろに避けた。
「君もそこそこヤルようだね。意外だよ、ならこれはどうだっ!」
ブンッ!! カキィイーーン!! シュルシュルシュル……
紅蓮は大袈裟に上段から兜割りを決めようと振りかぶり、予想通りその隙を突いて胴を突こうと突っ込んで来たウェカ王子の剣を回転する様に巻き取り、手元から剣だけを飛ばそうとした……
パシィイイーーーーーンッカランッ
「何だコイツやっぱり弱いぞ」
「えっ」
「嘘」
気付くと逆に紅蓮の剣こそ蛇に巻かれる様にからめ取られ床に転がっていた。本気では無いとしても大番狂わせであった。
「わーーーーーっ王子何やってるんですか!? 完全に不審者じゃないですかっ! すいませんすいません、本当は悪い人じゃ無いんですよーー」
と、そこで丁度良いタイミングでセクシーなメイドさんのメアがすっ飛んで来たのであった。
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