B.B.HEARTS

池谷光

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勇士集う

御用心

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 森の中を進んでいくサイガとアリシア。森の中は昼間なのに薄暗く不気味な雰囲気を漂わせており、鳥が羽ばたく音や何かが動いている様な草木のさざめく音とともに時々誰か人の叫び声が聞こえるのであった。

「やっぱり危険な森なんだね。襲われている人が何人かいるよ。私たちも気をつけよう」

 そうは言うものの別段二人は何かに出くわしたということもなく順調に進んでいた。あえて言うなら彼らの前を二匹の兎が横切ったことと道の端っこで雑草を食べていた鹿が二人に気づいて茂みの中に消えていった位である。
 
 気をつけようと言うアリシアであるが、道中の咲いている花を見てきれいと言って摘もうとしたり木々を登っている虫をキラキラした目で見つめたり、横切った兎に至っては可愛いと言って追いかけようとする等、子供みたいな素振りをするので、サイガは気をつけるのはお前だろと心の中でツッコんでいた。

「勇英士の試験、すごく難しいらしいけれどどんな内容なんだろう。噂だと何キロも歩いたり谷底に落ちたり高い塔の頂上から脱出したり・・・後は料理を作ったりなんてことも聞いたことあるよ」
「合格者1%未満って言うくらいだから相当だろうよ。まあ受けてみればわかるさ」

 そんなことを話しながらしばらく歩いていると一人の男が立っているのが見えてきた。どうやら入り口の小男が言っていた解毒剤売りらしい。歩いてきた二人に気がつくと笑みを浮かべながら話しかけてきた。

「お二人さん解毒剤はいかがかな?この先危険な毒蛇がうじゃうじゃいて危ないよ」
「入り口で買ったので大丈夫です」
「入り口で?もしかしてあの小男から?あーそれは不味いね。非常に危険だよお二人さん」

 危険?とアリシアは男に尋ねる。男は地面に置いていたバッグの中身を漁ると中から一本の解毒剤を取り出した。

「もしかしてこの解毒剤を売っていなかったかい?」

 アリシアはそれですと言って頷く。それを聞いて男はこれ買っちまったかぁと呟いて残念そうな顔をする。

「実はこの解毒剤ね、この森の毒蛇の毒には効かないんだよ。お二人さん騙されたね」
「どういうことですか!?」
「この森の毒蛇の毒は特殊でね。この解毒剤のような一般的な店で売っているやつじゃ効かないんだ」

 嘘でしょと言ってアリシアは膝をついて落ち込んでいた。騙された等とぶつぶつ呟いている。サイガはそんな落ち込んでいるアリシアを気の毒そうに見ていた。

「この森の毒蛇の毒に効く解毒剤はこれだよ!」

 そう言って男が二人に見せたのは解毒剤と書かれている少し小さめの容器だった。男はその解毒剤の効用や使用方法などを話し始める。アリシアも買うつもりなのか立ち上がって熱心に話を聞いていた。サイガはまた買う気かよと呆れていると、ふと男の脇に置いてある袋を見る。どうやらお金が入っているようで隙間からはお金の輝きがちらりと見えていた。

「この解毒剤、今ならサービスで一人400ギルだよ。買うかい?」
「買います!」

 アリシアはバッグから財布を取り出しお金を払おうとする。しかしまさにお金を男に払おうとした瞬間、アリシアの腕をサイガが掴んだ。

「待て、払わなくて良い。買う必要はない」

 腕をいきなり掴まれて驚いているアリシアは疑問の表情を浮かべながらサイガを見る。サイガはそのまま男の方に視線を向けて言う。

「あんたら商売が上手いな。」

 サイガの言葉に男は動揺したのか持っていた容器を手から落としてしまう。そしてその容器が地面に接触する瞬間、男は腰元からナイフを取り出してサイガに襲いかかった。しかし男のナイフがサイガに届く前にサイガは男の顔面に拳をたたき込んでいた。男は呻き声を上げるとともに背後の木にぶつかって倒れ込んだ。倒れた男はピクリとも動かず、鼻血を出しながら白目をむいている。どうやら気絶してしまったようだ。

 サイガはお金が入っている袋を拾い上げると中のものをいくつか取り出してアリシアに渡した。黙って受け取るアリシアであったが目の前で起こったことが衝撃だったようで目を丸くしている。サイガはさらに男のバッグを漁りいくつか自分の持っていた袋の中にいれるとアリシアに行くぞと言って歩き始める。

 はっと我に返ったアリシアは急いでサイガの後を追うと彼の前に立ちはだかった。不満そうな顔をしているアリシアにどうした?とあっけらかんとした様子で尋ねるサイガ。

「どうしたじゃないよ!今のはどういうこと!いきなりあの人を襲ってお金とバッグを盗っていくなんてどういうことなの!?」

 語気を強めて言うアリシアを見てサイガはやれやれと呆れたように首を振る。その顔は面倒くさそうである。

「なんだあんた、騙されていたことに気づいていないのか?」
「騙されたってあの入り口にいた小さな男の人にでしょ!?それはさっき・・・」
「違う、入り口にいた男たちとさっき俺がぶっとばした男の三人にだよ」

 サイガの言葉に思わず言葉を詰まらせるアリシア。三人?なんで三人?と言いながら頭を抱えていた。それを無視してサイガは歩き出す。待ってよと言ってアリシアもその後に続く。

「あの三人はグルなんだよ。この森を通ろうとする奴から金を巻き上げるためのな」
「どういうことなの?」
「最初にあの大男だ。大男の役割は森の情報と道を教えることだ。森に危険な毒蛇が出るなんて聞けば誰でも警戒する。そして安心なルートを教えてくれるって言ったらそのルートを知りたいと思うだろう?」

 現にあんたはそうだったとサイガはアリシアを指さす。それに対してアリシアはむっとなる。

「そこで金を要求する。安心だって聞けば少しの金ぐらい誰だって払うだろうしあの小男が売っていた解毒剤よりも安いって聞けばなおさらだ。次に解毒剤を売っていた小男だ。あの男の役割は解毒剤の必要性を説いて上手く解毒剤を買わせることだ。毒蛇の危険性から通行人の不安心理をかき立てる」

 これもあんたに当てはまるなとアリシアにむかって言うサイガ。アリシアはふんっとそっぽを向く。

「さらに森の中で自分よりも高い値段で同じものを売っている男の話をすることでその場で解毒剤を買わせようとしていたわけだ。そして最後に俺がぶっとばした男、あいつは役割が2つある。1つは入り口で解毒剤を買った通行人に対して別の解毒剤を売ることだ。入り口で売っていた解毒剤が森の毒蛇には効かないなんて言われると解毒剤を買うほど慎重な通行人だったら簡単に騙される。そしてあいつが売っていた解毒剤を買う羽目になるわけだ」

 危うくあんたもそうなるところだったとサイガが言うと、うるさい!と言ってすっかり不機嫌になるアリシア。

「もう一つの役割って言うのはなんなの?」
「それは毒蛇に襲われた通行人に解毒剤を売ることだ」

 そして二人は大男が言っていた二本の青い木の所にたどり着いた。するとその先から三人の男が走ってきた。身体中傷だらけでいくつか噛まれたような痕がある。男達は何か文句を言いながら二人の前を慌てて通り過ぎていった。

「売るって言うのはあいつらにだ。大男の情報を信じた奴らにな。たぶんこの二本の木の先の道は安全なルートなんかじゃなくてむしろ毒蛇がうじゃうじゃいるような危険なルートなんだ。大男の情報を信じた奴らは当然教えられたルートを進んでいく。安全だって言われているから解毒剤も持っていないはずだ。でも実際は毒蛇がうじゃうじゃいて噛まれて逆戻り。道中の男から解毒剤を買うってわけだ」

 アリシアは走って行った男達を見送りながら、自分もあんな風になっていたかもしれないと考え思わず唾を飲んだ。

「この手の上手い所は結果的に一石二鳥で儲かるって事だ。大男の話を聞けばその情報料と信じて通った奴から解毒剤の料金を巻き上げられるし、小男から解毒剤を買うくらいの慎重な奴からも小男の解毒材の料金と途中の男の解毒剤の料金を巻き上げられる」

 それじゃあ行くかといってサイガは再び歩き出しアリシアもその後についていく。アリシアはまだ納得していないのか顔をしかめている。

「なんでサイガはわかったの?いつ気づいたの?」
「気がついたのはさっきのぶっ飛ばした男が持っていた金が入っていた袋を見たときだ。一番儲かるはずのないあの男が一番金を持っているんだ、おかしいだろ。そして何より入り口にいた二人と同じ種類の袋に金を入れていたからな」

 全然気がつかなかったと頭を抱えるアリシア。まあ気にすんなよとサイガはアリシアをなだめた。

「確信したのは俺の言葉にさっきの男が動揺した時かな。まさかナイフで刺してくるとは思っていなかったが」
「でもお金入ってた袋盗ってきたんだよね?それ泥棒じゃない!駄目だよ置いてこなきゃ」
「あいつらは騙していたんだ、これぐらいのツケは払ってもらっても構わないだろう。それにあんたが無駄に払った金も取り返せたし、俺の借金もチャラってわけだ」

 皆幸せで万々歳だと言って手をあげるサイガの姿は丁度万歳しているようにも見えた。なんか腑に落ちないなと呟きながらアリシアはサイガの後をついて行くのだった。
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