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マドロイとウツロイ
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屋敷のなかは、五年ものあいだ主を失っていたとは思えないほど、きれいに片付いていた。窓枠には埃ひとつなく、床にも塵ひとつない。
マドロイとウツロイは、ユルギたちを赤色の絨毯が敷いてある居間へと案内した。ウツロイは天狗の掛け軸のあるほうに紫色の座布団を敷き、ユルギに「どうぞ」と言った。アケルとヒロセにもそれぞれ座布団を敷いて席を設け、最後に自分とマドロイの座布団を用意して座った。
「ねえ」
ユルギは、隣に座っているアケルに言った。
「もう離して。ここまで来た以上、逃げないから」
ユルギのまっすぐな瞳を見て、アケルは信用したようにゆっくりと手を離した。
「さて、アケル少年。お前はこのくにの真実をユルギに見せたいとほざきおったな。お前の知っとる真実とはなんじゃ」
ヒロセが問いかけると、アケルは茶化すように両手を上げた。
「本当にぶしつけねぇ、あなたって先生は」
「なんじゃと!」
「まあまあ、先生、落ち着いて。アケルは誰に対してもあんな態度をとるんですよ」
マドロイになだめられ、ヒロセは鼻から息を吐いた。
アケルは、輪の形に座っている一同の中心を見つめながら、話を始めた。
「このくにの真実。それは、このくににとって大切なことを隠されていることよ。このくにの肝は、このくにを覆っているバリアー。ところが、バリアーがどうやって創られたのか、このくにの人たちは知らなかった。これからどうやって日本列島を再建しようとしているのか、具体的な作戦を知っている人もいなかった。
このくにの人たちは、いつかバリアーが消える前に、日本列島が再建されることを信じて、倫理に反した法律を守っちゃってるのよ」
「倫理に反した法律?」と、ユルギが問いかけた。
「例えば、女性は三十歳になったら結婚相手を強制的に決められること。このとき、女性は相手を選べないのよ。もちろん、相手となる男性にも自由はない。ねえ、ウツロイ」
「……そうね。私の場合は十七歳のときだったけど。……私は、屋敷を出るときに、強制的に結婚させられました。ヒロフミさまの命令でした。私の夫は、私よりも十六歳年上で、お父さんって呼んでもいいくらいの人です。太っていて、顔も全然好みじゃなかった。でも、優しい人だったから、今は慣れていますけどね」
ウツロイは、自分の腕のなかで手足をパタパタさせているユメカを見て、微笑んだ。
一方、ユルギはショックを受けていた。三十歳になったら結婚しなくてはならないという法律を知らなかった。ウツロイが、自分の父親の命令で無理やり結婚させられていたことも知らなかった。
よく考えてみると、仮非のくにの法律について、知識がない。幼いころから勉強させられていたとはいえ、法律については教えてもらったことがない。
屋敷にいたときはマドロイが教えるばかりで学校には通わなかった。屋敷を出たら研究所に閉じ込められた。ユルギは、身内以外の仮非のくにの人々と関わる機会がめったになかったのだ。ときどきツルギといっしょに街に出ることはあったが、街で政治や法律に関する話を聞くことはなかった。
「まあ、法律の話はひとまず置いておいて。大切なのは、バリアーのこと」
アケルは本題に戻した。
「ユルギ、あなたにイメージを具現化する力があるのは聞いているわ。ここにいるマドロイとウツロイも、あなたがおじいさんを杉の木に変えた現場を見ていた。ひ
とつ、教えて。あなたは、何もないところでイメージを具現化することはできるの?」
「ううん、何もないっていうのは無理よ。何度かやってみようとしたけど、ダメだった。イメージを与える相手が必要なの。それも……」
ユルギは言葉に詰まった。それを、アケルが、
「人間の身体でしょ」
なんともないことのように言った。
アケルの言葉に傷ついたわけではない。
ここのところ、ユルギは自分の力のことを思うたび、自分の力によって姿形を変えられてしまった人々のことを思い出すのだ。
ユルギが力を使うとき、彼らはすでに息を引き取っていた。死んだ人間だ。もう、意思はない。しかし、少し前まで、たしかに生きていたのだ。その人を、自分の都合で、自分のイメージのままに他のものに変える。それは、とてつもなく恐ろしいことではないのか。その人の魂が傷つき、怒りを覚える行為ではないのか。
「人間の身体にはとてつもないエネルギーが秘められているわ。そのエネルギーを利用して、あなたはイメージを具現化することができるの。ねえ、ユルギ。その力、あなただけが使えるものだと思う?」
ふいにアケルに尋ねられて、ユルギは答えられなかった。考えたこともなかった。自分以外に、自分と同じ力を持つ人間がいるかどうかなんて。
《キミの想像力だけが、日本を救える》
そう、繰り返し聞かされてきた。だから、自分だけがイメージを具現化し、日本列島を再建できるのだと思い込んでいた。
「ユルギ、あなたの力は遺伝によるものなの。あなたのおばあさん、黎明ナズナもイメージを具現化することができたのよ」
「黎明、ナズナ……?」
仮非のくにの人たちには苗字はない。でも、かつての日本には苗字制度があった。黎明って苗字の有名人。たった一人しかいない。
「そこまで知っておるとはな」
ヒロセは「参った」というように右手で頭を押さえ、ため息をついた。
「アケル、お前は何者じゃ」
「待って、先生」
ヒロセの質問を、ユルギが制した。
「先にアケルの話を聞かせて」
ヒロセには、これからアケルが何を話そうとしているのか、おおよそ予想がついた。それは、ユルギには絶対に話してはならないといわれている、研究所の秘密。もっといえば、仮非のくにの人々にも秘密にされている重大な話。
「このくにを創ったのは黎明ナズナ。もちろん、バリアーを創ったのも。そして、ナズナがバリアーを創るときにイメージを与えた相手は、ナズナ自身だった」
「え……?」
ユルギは大きく目を見開いた。
「ユルギ、あなたの力は、生きている人間を相手にしても使えるのよ。そして、自分自身にもね。ここまで話せば、賢いあなたなら察しがつくんじゃないかしら。研究所のおエライ方たちが、どうやってあなたに日本列島を再建させようとしているのか」
それはつまり、私自身を日本列島に変化させようとしているってこと?
ユルギは何も言えなかった。代わりに声を荒げたのはヒロセだ。
「それは違う! ユルギを人柱にはしない。
ユルギ、ここまで来たらワイも話す。いずれ日本列島を再生するために必要な媒体は、研究所に集められておる。仮非のくにが始まって以来、民衆の葬儀は研究所内で行われてきた。そして、遺体は研究所がひきとり、冷暗室で保管している。たくさんの民衆が、国家の礎となるために眠っておるのじゃ。生きている人間を媒体にするわけではない!」
「はたしてそうかしら」
「なに?」
「その、保管している遺体だけで、日本列島を再建できるだけのエネルギーを確保できるのかしら。ユルギ、何もあなたが人柱にならなくてもいいのよ。日本列島を復活させるだけの人間の身体があればいいのだから」
ヒロセは、向かい側に座っているユルギを見た。ユルギは真っ青な顔で、手を震わせている。
ヒロセはアケルに向き直った。
「アケル、もう一度訊こう。何者なんじゃ、お前は」
「ボクはただの日本人よ。祖父が、黎明ツナギの親友だったってだけ。だから、ナズナの話も知っていた。ボクのお父さんも知っているよ。
そして、ボクたちはずっと待っていた。仮非のくにからメッセージが送られてくる日を。ここに来る日をね」
ふいに、強い隙間風が吹き込むような音がした。それは、ユルギの発した音だった。苦しそうに胸を押さえ、背中を丸めている。小刻みに身体を上下させながら、短い呼吸を繰り返している。
「ユルギさま!?」
ウツロイは驚いて、ユルギの傍に寄った。ユルギの背中をさすりながら、アケルに向かって首を横に振った。
アケルは小さくため息をつき、「ちょっと畳の部屋に行くよ」と言って居間を出て行った。
「ワイらもちょっと、部屋を出ようかのう」と、ヒロセはマドロイを誘った。
三人が出て行ったとたん、ユルギはウツロイにしがみついて泣いた。声をあげて泣いた。つられて、ユメカも泣いた。ユルギはユメカに申し訳なくなり、涙を止めようとしたが、ウツロイはユルギの頭を撫でて言った。
「みんなで泣いてもいいんですよ」
ユルギは涙を我慢することを止めた。ユルギには、とめどなく溢れてくる涙の理由について、よくわからなかった。自分の力の恐ろしさのためか、自分が人柱にされるかもしれないからか。
それよりももっと、何か、他のことで窒息しそうになっている。頭では、理由がわからない。ただただ涙だけが、自分の胸の奥底にある感情を吐き出しているようだった。
マドロイとウツロイは、ユルギたちを赤色の絨毯が敷いてある居間へと案内した。ウツロイは天狗の掛け軸のあるほうに紫色の座布団を敷き、ユルギに「どうぞ」と言った。アケルとヒロセにもそれぞれ座布団を敷いて席を設け、最後に自分とマドロイの座布団を用意して座った。
「ねえ」
ユルギは、隣に座っているアケルに言った。
「もう離して。ここまで来た以上、逃げないから」
ユルギのまっすぐな瞳を見て、アケルは信用したようにゆっくりと手を離した。
「さて、アケル少年。お前はこのくにの真実をユルギに見せたいとほざきおったな。お前の知っとる真実とはなんじゃ」
ヒロセが問いかけると、アケルは茶化すように両手を上げた。
「本当にぶしつけねぇ、あなたって先生は」
「なんじゃと!」
「まあまあ、先生、落ち着いて。アケルは誰に対してもあんな態度をとるんですよ」
マドロイになだめられ、ヒロセは鼻から息を吐いた。
アケルは、輪の形に座っている一同の中心を見つめながら、話を始めた。
「このくにの真実。それは、このくににとって大切なことを隠されていることよ。このくにの肝は、このくにを覆っているバリアー。ところが、バリアーがどうやって創られたのか、このくにの人たちは知らなかった。これからどうやって日本列島を再建しようとしているのか、具体的な作戦を知っている人もいなかった。
このくにの人たちは、いつかバリアーが消える前に、日本列島が再建されることを信じて、倫理に反した法律を守っちゃってるのよ」
「倫理に反した法律?」と、ユルギが問いかけた。
「例えば、女性は三十歳になったら結婚相手を強制的に決められること。このとき、女性は相手を選べないのよ。もちろん、相手となる男性にも自由はない。ねえ、ウツロイ」
「……そうね。私の場合は十七歳のときだったけど。……私は、屋敷を出るときに、強制的に結婚させられました。ヒロフミさまの命令でした。私の夫は、私よりも十六歳年上で、お父さんって呼んでもいいくらいの人です。太っていて、顔も全然好みじゃなかった。でも、優しい人だったから、今は慣れていますけどね」
ウツロイは、自分の腕のなかで手足をパタパタさせているユメカを見て、微笑んだ。
一方、ユルギはショックを受けていた。三十歳になったら結婚しなくてはならないという法律を知らなかった。ウツロイが、自分の父親の命令で無理やり結婚させられていたことも知らなかった。
よく考えてみると、仮非のくにの法律について、知識がない。幼いころから勉強させられていたとはいえ、法律については教えてもらったことがない。
屋敷にいたときはマドロイが教えるばかりで学校には通わなかった。屋敷を出たら研究所に閉じ込められた。ユルギは、身内以外の仮非のくにの人々と関わる機会がめったになかったのだ。ときどきツルギといっしょに街に出ることはあったが、街で政治や法律に関する話を聞くことはなかった。
「まあ、法律の話はひとまず置いておいて。大切なのは、バリアーのこと」
アケルは本題に戻した。
「ユルギ、あなたにイメージを具現化する力があるのは聞いているわ。ここにいるマドロイとウツロイも、あなたがおじいさんを杉の木に変えた現場を見ていた。ひ
とつ、教えて。あなたは、何もないところでイメージを具現化することはできるの?」
「ううん、何もないっていうのは無理よ。何度かやってみようとしたけど、ダメだった。イメージを与える相手が必要なの。それも……」
ユルギは言葉に詰まった。それを、アケルが、
「人間の身体でしょ」
なんともないことのように言った。
アケルの言葉に傷ついたわけではない。
ここのところ、ユルギは自分の力のことを思うたび、自分の力によって姿形を変えられてしまった人々のことを思い出すのだ。
ユルギが力を使うとき、彼らはすでに息を引き取っていた。死んだ人間だ。もう、意思はない。しかし、少し前まで、たしかに生きていたのだ。その人を、自分の都合で、自分のイメージのままに他のものに変える。それは、とてつもなく恐ろしいことではないのか。その人の魂が傷つき、怒りを覚える行為ではないのか。
「人間の身体にはとてつもないエネルギーが秘められているわ。そのエネルギーを利用して、あなたはイメージを具現化することができるの。ねえ、ユルギ。その力、あなただけが使えるものだと思う?」
ふいにアケルに尋ねられて、ユルギは答えられなかった。考えたこともなかった。自分以外に、自分と同じ力を持つ人間がいるかどうかなんて。
《キミの想像力だけが、日本を救える》
そう、繰り返し聞かされてきた。だから、自分だけがイメージを具現化し、日本列島を再建できるのだと思い込んでいた。
「ユルギ、あなたの力は遺伝によるものなの。あなたのおばあさん、黎明ナズナもイメージを具現化することができたのよ」
「黎明、ナズナ……?」
仮非のくにの人たちには苗字はない。でも、かつての日本には苗字制度があった。黎明って苗字の有名人。たった一人しかいない。
「そこまで知っておるとはな」
ヒロセは「参った」というように右手で頭を押さえ、ため息をついた。
「アケル、お前は何者じゃ」
「待って、先生」
ヒロセの質問を、ユルギが制した。
「先にアケルの話を聞かせて」
ヒロセには、これからアケルが何を話そうとしているのか、おおよそ予想がついた。それは、ユルギには絶対に話してはならないといわれている、研究所の秘密。もっといえば、仮非のくにの人々にも秘密にされている重大な話。
「このくにを創ったのは黎明ナズナ。もちろん、バリアーを創ったのも。そして、ナズナがバリアーを創るときにイメージを与えた相手は、ナズナ自身だった」
「え……?」
ユルギは大きく目を見開いた。
「ユルギ、あなたの力は、生きている人間を相手にしても使えるのよ。そして、自分自身にもね。ここまで話せば、賢いあなたなら察しがつくんじゃないかしら。研究所のおエライ方たちが、どうやってあなたに日本列島を再建させようとしているのか」
それはつまり、私自身を日本列島に変化させようとしているってこと?
ユルギは何も言えなかった。代わりに声を荒げたのはヒロセだ。
「それは違う! ユルギを人柱にはしない。
ユルギ、ここまで来たらワイも話す。いずれ日本列島を再生するために必要な媒体は、研究所に集められておる。仮非のくにが始まって以来、民衆の葬儀は研究所内で行われてきた。そして、遺体は研究所がひきとり、冷暗室で保管している。たくさんの民衆が、国家の礎となるために眠っておるのじゃ。生きている人間を媒体にするわけではない!」
「はたしてそうかしら」
「なに?」
「その、保管している遺体だけで、日本列島を再建できるだけのエネルギーを確保できるのかしら。ユルギ、何もあなたが人柱にならなくてもいいのよ。日本列島を復活させるだけの人間の身体があればいいのだから」
ヒロセは、向かい側に座っているユルギを見た。ユルギは真っ青な顔で、手を震わせている。
ヒロセはアケルに向き直った。
「アケル、もう一度訊こう。何者なんじゃ、お前は」
「ボクはただの日本人よ。祖父が、黎明ツナギの親友だったってだけ。だから、ナズナの話も知っていた。ボクのお父さんも知っているよ。
そして、ボクたちはずっと待っていた。仮非のくにからメッセージが送られてくる日を。ここに来る日をね」
ふいに、強い隙間風が吹き込むような音がした。それは、ユルギの発した音だった。苦しそうに胸を押さえ、背中を丸めている。小刻みに身体を上下させながら、短い呼吸を繰り返している。
「ユルギさま!?」
ウツロイは驚いて、ユルギの傍に寄った。ユルギの背中をさすりながら、アケルに向かって首を横に振った。
アケルは小さくため息をつき、「ちょっと畳の部屋に行くよ」と言って居間を出て行った。
「ワイらもちょっと、部屋を出ようかのう」と、ヒロセはマドロイを誘った。
三人が出て行ったとたん、ユルギはウツロイにしがみついて泣いた。声をあげて泣いた。つられて、ユメカも泣いた。ユルギはユメカに申し訳なくなり、涙を止めようとしたが、ウツロイはユルギの頭を撫でて言った。
「みんなで泣いてもいいんですよ」
ユルギは涙を我慢することを止めた。ユルギには、とめどなく溢れてくる涙の理由について、よくわからなかった。自分の力の恐ろしさのためか、自分が人柱にされるかもしれないからか。
それよりももっと、何か、他のことで窒息しそうになっている。頭では、理由がわからない。ただただ涙だけが、自分の胸の奥底にある感情を吐き出しているようだった。
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そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
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