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守りの盾が凶器になる
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しおりを挟むツルギ七歳、ユルギ五歳のころのこと。ユルギが祖父の畳の間に入り、祖父といっしょに五目並べをしているのを、ツルギは見かけた。
「僕もやりたいな」
そう言って、ツルギが畳の間に足を踏み入れようとしたとき、祖父のヒカクが、
「入るな!」
と、ものすごい勢いで怒鳴った。ツルギの無邪気な好奇心は一瞬でかき消され、代わりに恐怖が生まれた。
ユルギもびっくりした様子で、祖父を見た。祖父は、ユルギの視線を感じると、すぐに穏やかな表情に戻り、ユルギに言った。
「すまん、すまん。今はユルギと五目並べを楽しんでいるところだからな。ツルギは、あとだ」
そのセリフを信じたツルギは、廊下でユルギが出てくるのを待った。
一時間後、ユルギが廊下に出てきて、「お兄ちゃん、どうぞ」と言った。ユルギはパタパタと廊下を走りながら自分の部屋に向かっていった。マドロイが、「こら、廊下は走ったらいけません!」と注意する声が聞こえた。
ツルギはワクワクしながら祖父の部屋に入ろうとした。しかし、祖父は、
「ならん」
低い声でツルギを牽制した。ツルギはビクッと身体を震わせ、祖父を見た。祖父のヒカクの目は鋭く、冷たく、ツルギを見下すような雰囲気だった。
「お前はならん。お前は、ユルギと違ってワシと血のつながりがない。失せろ」
祖父の有無を言わせぬ様子にツルギはあとずさり、畳の間から離れた。
庭の松の木の傍で、幼いツルギは泣いた。どうしておじいちゃんは僕に冷たいんだろう。ユルギには優しいのに。ユルギとばかり遊んでいる。僕とは、血のつながりがないから。
でも、おじいちゃんのユルギを見る目と、僕を見る目は、違いすぎて……同じ人だと思えないくらい、違いすぎて。お父さんも、そう。
僕はどうしてこの家に来てしまったのかな。こんなふうにされるなら、どうしておじいちゃんは僕を引き取るなんてことをしたの。この家には、ユルギさえいたらいいじゃないか。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
背中の向こうから、ユルギの声がした。
ツルギは振り向いて、ユルギを睨みつけた。ユルギはびくっと肩を震わせ、ツルギの顔をじっと見ていた。
ツルギは、ユルギに、「あっちに行け」と言いたかった。突き放したかった。同じ家に住みながら、自分とはまったく違う境遇にある妹。憎い気持ちもあった。
だが、ツルギはユルギを突き放せなかった。幼いころから、「いつかはユルギと結婚するんだ」と、ヒロフミから言われていた。だから、妹であると同時に、将来の恋人のように思うところもあった。
ツルギはユルギに「ごめん」と謝り、ユルギを抱きしめた。
血のつながりがなくても、僕の妹。いつも無邪気に、僕を探して、僕を追いかけてくる。この家でたった一人、僕を慕ってくれる。大好きな妹。結婚って、よくわからないけど、ユルギとはずっといっしょにいたい。
ツルギは成長するにつれ、祖父や父親の態度に対し、怒りや憎しみを増幅させていった。二人の理不尽な態度に我慢ならなくなることも多々あった。しかし、反抗すれば、追い出されるかもしれない。ユルギと離れ離れになるかもしれない。そんなことは耐え難かった。
とくに、ユルギのイメージを具現化する力が目覚めてからは。
ユルギは父親によって研究所に閉じ込められ、毎日の生活を父親に完全にコントロールされた。本人が嫌がっても、力を使う練習をさせられた。父親に甘えようとしても突き放された。
父親に、急に態度を翻されたユルギは、本来の明るさをどんどん失っていった。物事を皮肉めいて見るようになった。
そんなユルギを見ることが、ツルギにはつらかった。そして、自分だけは、最後までユルギの味方でありたいと思った。
いつか、ユルギを自由にしたい。ユルギといっしょに、自由になりたい。
ツルギは少しずつ、恋愛や結婚について知るようになっていた。ツルギのユルギに対する感情は、あくまで妹として可愛いというものだと、自覚していた。
そもそも、ユルギは自分を実の兄だと信じている。実の兄と、いきなり「結婚しろ」と言われても困るだろう。ユルギには、恋愛も自由にしてほしい。それは少し寂しいことだけど、ユルギは幸せにならなければならない。一国の運命をいきなり背負わされて、自由を奪われたユルギ。いつか解放されて、幸せになって――。
ツルギ、十三歳。自分とユルギが自由になるために、バリアーシステムを解除することを決意した。バリアー管理室の研究員たちの目を盗んでは、バリアーシステムの解析を行った。
五年越しの努力が実り、バリアーシステムに搭載されている通信システムを見つけた。送信先の相手は決まっており、変更不可能だった。
その相手の名前は、キリル。
メッセージの内容は、自分で決められた。
『僕はツルギ。仮非のくにからメッセージを送っています。僕は日本人で、仮非のくには日本の仮のくにです。僕たちはここにいます。どうか、迎えに来てください。』
ツルギは、希望を込めてメッセージを送った。
すると、バリアーの通信システムに返事が届いた。
『ありがとう! ボクはアケル。君と交信できて嬉しい。ボクはキリルの孫です。キミの家族は?』
アケルという、おそらく少年からの返事が届き、ツルギは感動で震えた。初めて、仮非のくにの外にいる人と連絡が取れた。
ツルギはアケルへの返事を考えた。
『僕の家族は、いません。ユルギという婚約者がいますが、彼女のことは妹だと思っています。血のつながりはありませんが、僕の父親をしている人は、仮非のくにの研究所所長です。仮非のくにを治めている長でもあります』
『お母さんの名前は?』
不思議なことを訊いてくるな。そう思ったが、ツルギは素直に答えた。
『ヒナゲシといいます』
『わお、やっぱりそうなのね。黎明ナズナの娘だ。ユルギは、ヒナゲシと血がつながっているの?』
『はい』
『だったら、不思議な力を持っているでしょう』
なぜ、仮非のくにの外部の人間が、そんなことを知っているんだ。ツルギは驚いた。ツルギが返事をする前に、アケルからメッセージが届いた。
『驚かないで。きちんと説明するから。その前に、ひとつ、約束するわ。明日、僕はキミのいるくにに行く。こちらで仮非のくにの位置は確認できたから』
『本当ですか!』
『本当よ。ただ、ひとつ約束して。ユルギというあなたの婚約者を守って。必ず、ボクに会わせて。日本を正しく復活させるためには、彼女の力が必要だから』
アケルの言葉に、ツルギは不信感を抱いた。アケルも、ユルギに日本を復活させたいのか。ユルギの自由を奪うつもりだろうか。それなら、アケルに仮非のくにを見つけ出してもらっても、ユルギを解放することはできないじゃないか。
いや、でもアケルの存在は千載一遇のチャンスだ。アケルが本当に仮非のくにに来るなら、バリアーシステムが作動しているあいだであっても、仮非のくにから外部の世界に風穴を開けることができる。
アケルがユルギを拘束しようとするなら、そのときはまた、ユルギを連れて逃げ出せばいい。まずはこのくにから出ることが先決だ。
どこまでもユルギを守る。
ツルギはアケルに返事をした。
『わかりました。では、手短に打ち合わせをさせてください。まず、仮非のくにに着いたら――――』
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