ユルギと剣の柱

eden

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統治者の姿

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「もしかして、飛行機で来ているの?」

「マイシップだよ、アケル兄」

 トビラは根っからのマシーン好きだ。現在のアメリカでは、十二歳以上ならば小型飛行機免許を取得できる。トビラは今、十四歳。迷彩柄の小型飛行機を乗り回している。

「今すぐここを出ないとヤバそう?」

「なんだよ、なんか問題あるのか」

「五分待ってくれる? 折り返し連絡する」

 アケルはいったん通信を切った。

「アケル、バリアーシステムは解除されたの? だったら、どうしてお兄ちゃんはここにいないの」

 不安そうな表情をしているユルギに対し、アケルは迷いのない目で言った。

「研究所に行きましょう。ツルギを迎えに」

「他のみんなは」

「国連が来れば助かるわ。大丈夫」

 ユルギは束の間ホッとした。それから、マドロイとウツロイを見た。

「二人はどうする?」

「僕はいっしょに行きます」

 マドロイは即答した。ウツロイもまた、頷いた。

「私も行くわ。さっき、主人にユメカを預けたことだし。主人がいれば、ユメカのことは安心だから」

 そのセリフを聞いて、ユルギは再び安心した。

「それじゃあ、研究所に行きましょう」

「OK。その前に、もう一度トビラと話をさせてね」

 アケルはもう一度通信機器を使ってトビラを呼び出した。

「おう、話はついたか」

「ええ。研究所のツルギを拾ってから、そっちに向かうわ」

「おい、正気かよ!? 研究所って、敵の本拠地じゃねえか。そんなところに寄ってる余裕なんかあんのか? それとも、研究所を制圧できたのか」

「制圧できているはずよ。でも、万が一、研究所にボクやツルギの知らないセキュリティシステムのようなものがあったら、ヤバイかもしれないわね。

 そういうわけで、トビラ。あなたがボクにくれたマシーンのなかで、オススメはある?」

「そうだな、そこにいるのはアケル兄と黎明ナズナの孫とおまぬけジジイ、それに情けなさそうな男とぽっちゃり女子だな。だったら、アウリガでいいんじゃねえか」

 おまぬけジジイ……!

 情けない……。

 ぽっちゃり……!?

 ショックを受けている三人をよそに、アケルは「わかったわ」と答えた。

「とにかく急げよ。待てるのはあと二時間ってところだ」

「ええ。それじゃ、二時間後に、最初にここに来た場所で」

 アケルは通信を終えると、パーカーのポケットのなかから手榴弾のようなものを取り出した。

「なあに、それ」

 ユルギが尋ねると、アケルは「見てて」と言って微笑んだ。

「リターン」

 アケルが呟くと、手榴弾のようなものが浮かび上がり、一瞬でシルバーの四輪車両に姿を変えた。フロントガラスの向こうにあるのは左ハンドルの操縦席と、助手席。その向こうは、トラックの荷台のようになっている。

「すごい」

 ユルギが小さくつぶやいたのを聞いて、アケルは得意そうな表情になった。

「さあ、みんな乗って。この子はトビラご自慢のアウリガ二号式。もともとステルス機能を搭載しているわ。この乗り物に乗ると、乗っている人間も乗り物そのものまで、周囲から見えなくなるのよ」

「そんなに外界の科学は発達しているの?」

「ええ。このくにを覆っているバリアーよりもずっと発達しているわ。アウリガ二号式を創ったのはトビラよ。言い換えれば、彼女でもこんなマシーンを造れる時代になったの」

 驚いている一同に向かって、アケルはパンパンと手を叩いた。

「さあ、時間がないわ。急いで乗ってちょうだい。運転はボクがするから」

「……なんてこった、ワイの常識が崩れていく」

「そんなちっぽけな常識、とっとと壊れちゃえばいいのよ」

「なんじゃと!?」

「でも、あなたの頭のなかにある日本の姿だけは、きっちり守るのよ」

 ふいに、アケルの目に、ヒロセに対する期待の色が浮かんだ。ヒロセは一瞬驚いたあと、「ふんっ」と顔をそむけて後部の荷台に乗った。荷台には、ガトリングガンが装着されている他、人数分のハンドガンにライフル銃やマシンガンが数台乗っている。荷台に乗ったヒロセ、マドロイ、ウツロイは武器を物色し始めた。

 ユルギは屋根のある助手席に乗った。

「さ、ツルギを迎えに行きましょう」

 左窓の近くにあるエンジンスイッチを押し、アケルはアウリガ二号式を起動した。起動音はかすかな風の音がしただけで、動いているのか動いていないのかは、アウリガ二号式が進むか進まないかだけでわかる。

 アケルがアウリガ二号式を発進させようとしたとき、ユルギはアケルに言った。

「お兄ちゃん、大丈夫かな」

 心細そうなユルギに対し、アケルは明るく振舞った。

「大丈夫よ、ツルギは。だって、研究所の誰にも気づかれないで、ボクにメッセージを送った男なのよ」

「……そうよね」

「それにね」

 まだ不安そうなユルギの手を、アケルはギュッと握った。


「あなたがいるわ」


 アケルのまっすぐな青い目に戸惑ったユルギは、ふいっと俯いた。

「私なんて」

「私なんて、なんて言わないで。あなたには、他の誰にも真似できない、たくさんのことができる。その力は、必ずあなたの大切な人を助ける力になるわ。

 ユルギ、もっと自分に素直に生きて。あなたは今、ツルギを助けたい。それだけじゃなくて、すべてのことに対して、自分の心を解放してほしい」

「自分に素直に……?」

「それがツルギの願いでもあるわ」


 お兄ちゃんの、願い。


「そして、それができれば、あなたは自信を持つことができる」


 自信。自分を信じるなんてことが、今までにあっただろうか。そんなこと、考えたことがあっただろうか。


 いつも誰かの命令に従って、いつも誰かの顔色を伺って過ごしていた。

 今は違う。アケルにも、ヒロセやマドロイ、ウツロイにも、素直に接することができている。だけど、もっと素直にならなければならない相手が他にいるのではないか。


 思考にふけりそうになっているユルギを、現実に引き戻したのは、アケルの温かい手だ。

「さあ、行くわよ」

 ユルギはアケルの手を握り返して、頷いた。
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