ユルギと剣の柱

eden

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緊急防御システムと神話の竜

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 ヒノと別れたあと、ツルギは地上三階すなわち最上階に忍び込み、研究所のセキュリティ管理室に向かった。

 研究所のセキュリティ管理室周辺に人影はなく、あっさり入ることができた。


 おかしい。ロボットたちは全員研究所の外堀を埋めるように配備されたとしても、研究員の一人もセキュリティシステム管理室に置かないなんて。


 ツルギは不審に思いながら、セキュリティシステムをつかさどっているコンピュータにアクセスした。

 もともと、研究所のセキュリティシステムはここで解除した。緊急防御システムも、同じくここで管理している。だから、解除もできるはずだ。

 ツルギは、研究所の緊急防御システムについてもちろん知っていた。研究所にいる人間なら誰でも知るところだ。

 ただし、一点だけ知らないことがあった。それは、緊急防御システムのロボットたちが、仮非けひのくにの人間まで襲うということだ。ツルギは今まで、ロボットたちは仮非のくにの外部にいる人間が侵入したときに、外部の人間のみを襲うものだと考えていた。つまり、緊急防御システムが作動して危険にさらされるのはアケルだけということになる。だが、アケルはステルスの卵を持っていた。ステルスの卵さえ使えば、アケルも安全だ。

 だから、緊急防御システムが作動したところで、とくに問題ないと思っていたのだ。

 しかし、ロボットたちが仮非けひのくにの人々を襲う様子を見て、考えを改めた。急いで緊急防御システムを解除しなければならない。


 ヒロフミは、万が一のときは仮非けひのくにの人々を殺すつもりだったのだ。研究員たちだけを残し、住民を殺す。そして、その遺体を使って、ユルギに日本列島を復活させる。


 そんなこと、絶対に許してはならない。


 ツルギは緊急防御システムのデータにアクセスしたが、解除方法が見つからない。


 まさか、解除については別のコンピュータが管理している? だから、ここに人がいないのか。


「くそっ」

 ツルギが舌打ちをしたとき、セキュリティ管理室のドアが開き、銃声が鳴った。

 ツルギはドアが開く音を聞いた瞬間に、身を右側に転がせていた。だが、セキュリティ管理室に侵入してきた人型ロボットのライフル銃は、たしかにツルギの足を撃ち抜いた。


 なぜ。どうして、俺を攻撃する。


 疑念はすぐに消えた。ロボットの背後から、ヒロフミとヒナゲシが現れたからだ。ヒナゲシは、右の太ももから血を流しているツルギを見て、涙をこらえるようにして俯いた。

 ロボットはなおもツルギを撃とうとしたが、ヒロフミが「待て」と言うと、その命令に従った。

「どういうことだ」

 ツルギがヒロフミを睨むと、ヒロフミはおかしそうに笑った。

「どういうこと? そんなこと、訊くまでもないだろう。裏切り者は、研究員のリストから外した。それだけだ」

 だから、ツルギはロボットの攻撃対象になったのだ。

 ツルギは足の焼けるような痛みをこらえながら叫んだ。

「緊急防御システムを解除しろ! これ以上人を殺すな」

「何を言っている。今、この状況で、お前が私に命令するのか」

「もう、あんたに従うのはうんざりなんだ」

 数秒、ツルギとヒロフミは睨み合った。そののち、ヒロフミはロボットに短く命令した。

「殺せ」


「待ってください」


 ヒロフミを止めたのはヒナゲシではなかった。セキュリティ管理室に入ってきたミサカである。ミサカは、こっそりとヒロフミのあとをつけていた。ヒロフミが緊急防御システムをいじったところも、ツルギを待ち伏せしているところも見ていた。

 ヒロフミは「なぜここにいる」とミサカを睨んだ。

「お前も裏切り者か?」

「とんでもない。裏切り者はそいつだけですよ」

 ミサカはツルギを指さした。

「なら、なぜ止める」

「安易に殺さないほうが使えるからです。

 所長、ユルギさまは簡単には見つかりませんよ。あの、アケルとかいう外部の人間がそばにいるのでしょう。仮非のくにのバリアーを突破して入ってくることができたんだ、ロボットの攻撃を交わすのも簡単かもしれない。それどころか、急がないと、ユルギさまは仮非けひのくにの外に逃げてしまうかもしれません」

「だったら、どうすればいいと言うんだ」

「こいつをおとりに使うんです」

 ツルギはぎょっとした。

「ユルギさまは、ツルギになついていますからね。ツルギの危機を知れば、向こうからこっちにやってくるでしょう」

「なるほど。それで、どうやってツルギを捕まえたことを知らせるんだ」

「ロボットの通信システムに音声を送り、街中で盛大に知らせればいいでしょう」

「なるほどな」

 ヒロフミとミサカが話しているあいだに、ツルギはズボンのポケットのなかから手榴弾のようなものを取り出した。これは、アケルからもらったもので、「リターン」と呟くと素人でも撃ちやすい小型拳銃になると教えられている。

「リターン」

 ツルギはすぐさま小型拳銃をかまえ、ヒロフミを狙って撃った。弾はヒロフミの頬をかすめた。

 ミサカはヒロフミの盾になるように前に出て、白衣のポケットから拳銃を取り出し、ツルギの右腕を撃った。ミサカの弾は正確に命中した。

 痛みで離したツルギの拳銃をミサカが拾った。

「ふうん、こんな銃はここでは見たことねえな。あのガキにもらったか」

「……ミサカ管理官、なぜ」

「言ったろう、協力するのはバリアー管理室にいるあいだだけだってな」

「何の話だ」

 ヒロフミに尋ねられて、ミサカはどうってことないように笑った。

「いえ、こっちの話です。所長がわざわざ気にするような話ではないですよ。それより、急いでユルギさまに伝えなければ。ユルギさまが、このくにの外に出てしまったら終わりです」

「そうだな」

 ヒロフミはコンピュータをいじり出し、ミサカはツルギに銃口を突きつけている。

 ツルギは、ちらっとヒナゲシを見た。ヒナゲシとたしかに目が合ったが、ヒナゲシのほうは視線をそらした。


 この人はいつもこうだ。いつもヒロフミの言いなりで、こんな状況でも黙っている。もちろん、俺があの人の子どもでないことは知っている。だから、俺がどうなろうがかまわないのかもしれない。

 だが、俺はあんたの姉の子どもなんだろう。俺が死んでも、良心のひとつも痛まないのだろうか。

 いや、この人に期待したって仕方がない。今までだって、ヒカクのじいさんに罵倒されようが、ヒロフミにしごかれようが、かばってくれたことは一度もない。もう何年も前に、この人に助けを求めることがいかに無駄なことか気づいている。


 誰もあてにならないなら、自分でなんとかするしかない。


 ユルギがまだ仮非けひのくににいて、自分がとらわれていると知ってしまったら。

 ユルギのことだから、必ずここに来る。

 俺が死んで、ヒロフミたちが俺を利用してユルギを呼び出すことを諦めるなら、喜んでそうする。だが、今俺が死んだとしても、こいつらは俺の死を偽装してでもユルギを呼び寄せるだろう。それに、今死んだら、ユルギがここに来たときに、俺は何もできない。


 それではダメだ。


「ユルギ、お父さんだ。研究所に戻りなさい。お兄ちゃんもここで待っている」

 ヒロフミが猫なで声でユルギを呼ぶ声を、ツルギは左手の拳を握り締め、唇を噛んで聞いていた。

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