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ユルギと悠久の森
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気がつくと、空は青く澄み渡っていた。ユルギは重たいまぶたをこすりながら、隣に座っているアケルを見た。
「目が覚めた? ちょうどよかったわ。下を見てごらん」
ユルギはアケルに促されるまま、窓から下の景色を覗いた。
「わぁ……!」
ユルギの歓声によって、ヒノとヒロセも目を覚ました。ヒロセもまぶたをこすり、窓から下の景色を見て驚いた。
「これは……」
一同が見たものは、海に浮かぶ巨大な島。茄子のような形をしたそれは、日本列島の本州である。ユルギもヒロセも、ほぼ毎日のように確認してきた日本の形だ。間違えるはずはない。
「どうして……」
ユルギがアケルに問いかけたとき、運転席から「おい」とトビラの声がした。
「東京に降りるぞ」
東京とは、かつての日本の首都だ。
ユルギたちが状況を整理するよりも早く、飛行機は東京に向けて降下していく。陸地が近づくにつれ、日本列島の形はわからなくなり、東京があった場所が眼前に広がっていく。
ヒロセの記憶にある東京は、空にそびえるビル群が印象的な都会だ。何千万人という人間が住むこの街では、人々は窮屈そうにスクランブル交差点を渡り、それぞれの職場や学校などの目的地に向かう。
飛行機が東京に近づくにつれ、ヒロセは、かつての記憶にあった景色は完全になくなったのだと理解した。
もともと、日本列島はなくなったといわれていたのだ。それは真実だった。今、東京にあるのは広大なコンクリート製の土地だけで、ビルもなければ人もいない。もちろん、自然もない。ぽつぽつと小屋のような建物があるだけで、砂漠と似たようなものだ。
飛行機が空き地に降り立つと、一同は席を立った。飛行機から降り、灰色の地面だけが広がる光景を眺めた。
「これが、日本……」
ユルギが呟いたとき、
「おーい」
と男性の声がした。振り向くと、黒い髪に黒い瞳の日本人らしき青年が、赤い屋根の小屋の前で手を振っている。
トビラは青年のことを「レオ」と呼び、レオに近づいた。
「トビラ、お疲れ様。アケルも」
アケルは頷くと、ユルギたちに向かって言った。
「紹介するわ。彼はレオ。現純粋日本復活の会のメンバーよ」
「よろしく」
レオはユルギたちと順番に握手をしてまわった。それからズボンのポケットから手のひらサイズの通信機器を取り出し、一同に向かって言った。
「連合軍から、仮非のくにの生存者リストをパクっといたよ。見るかい」
ユルギは「はい」と頷くのと同時に、レオから通信機器を受け取った。通信機器の画面には、仮非のくにの人々の名前が並んでいる。そのなかに、マドロイとウツロイの名前があった。
「よかった……」
ユルギは安堵した。
ちなみに、研究所を脱出する際に遭遇したミサカたちバリアー研究班のメンバーの名前は載っていない。
一方、ヒロセは焦っていた。ユルギがヒロフミの名前まで確認したあと、ヒロセはユルギから通信機器を受け取った。そして、何度も生存者名簿を見直した。
「さ、サユキ先生の名前がない……」
ヒロセは愕然とした。サユキは一連の暴動によって命を落としたのか。
ヒノはこのとき、サユキの死の真相について話そうか迷った。ヒロセが本当にサユキのことを愛しているのなら、サユキがどうして死んだのかを教えてあげるべきだろう。だが、ヒノもまた、ツルギを愛している。ツルギの名誉を思えば、サユキの死の真相について語るべきではない。
ヒノはついに、ヒロセに真実を話さないまま黙っておくことを選択した。
落ち込んでいるヒロセに、アケルは話しかけた。
「ヒロセ先生、落ち込むのはわかるわ。でも、先生はもっと生きなくちゃならないのよ。これからが、先生の力が本当に必要になるんだから」
「ワイの力が必要?」
「そう。正しく日本を復活させるためには、かつての日本の地理に精通している人間が必要不可欠なの。そして、それがあなたよ」
ヒロセはサユキの死のショックを受け止めきれないまま、ぼんやりと、周囲のコンクリートを見た。
アケルはユルギにも話しかけた。
「見て、ユルギ。今、日本はこんな状態よ。まだ、四国や沖縄といった本州以外の土地については復活させることができていないの。これから海を埋め立てて開発していくことになるわ。
でもね、土地以上に大変なのは、自然を取り戻すこと。
そのために、純粋日本復活の会のなかで有志の者たちが、アメリカで眠っているわ。
彼らはいつか、ナズナと同じ力を持った人に、自分たちが亡くなったら日本の一部に変えてほしいと願ってきたの。彼らは、あなたに力を使ってもらいたいと思っているのよ。
ユルギ、お願い。日本を本来の日本の姿に戻すために協力してほしいの」
本来の日本。それは、研究所でずっと教わってきた日本のことだろうか。熱帯から亜寒帯までを含む珍しい国、日本。四季があり、どの都道府県にいっても自然と触れ合うことができる日本。
今、目の前にあるコンクリート島は、かつて日本列島があった場所にあり、本州と同じ輪郭をしているだけで、「日本」ではない。
アケルの話では、純粋日本復活の会のメンバーは、自分の身体を変化させられたとしても、かつての日本の姿を取り戻してほしいと願っていた。そしてその願いのために、肉体を土に還すことが叶わないでいる。
人間は自然から生まれ、自然に帰る。その当たり前の輪のなかに、日本を愛する人たちを戻したいと、ユルギは思った。
「わかったわ。その代わり、一番に復活させる場所は、私に決めさせてほしいの」
「一番に復活させる場所?」
ユルギは小さく微笑んだ。
「目が覚めた? ちょうどよかったわ。下を見てごらん」
ユルギはアケルに促されるまま、窓から下の景色を覗いた。
「わぁ……!」
ユルギの歓声によって、ヒノとヒロセも目を覚ました。ヒロセもまぶたをこすり、窓から下の景色を見て驚いた。
「これは……」
一同が見たものは、海に浮かぶ巨大な島。茄子のような形をしたそれは、日本列島の本州である。ユルギもヒロセも、ほぼ毎日のように確認してきた日本の形だ。間違えるはずはない。
「どうして……」
ユルギがアケルに問いかけたとき、運転席から「おい」とトビラの声がした。
「東京に降りるぞ」
東京とは、かつての日本の首都だ。
ユルギたちが状況を整理するよりも早く、飛行機は東京に向けて降下していく。陸地が近づくにつれ、日本列島の形はわからなくなり、東京があった場所が眼前に広がっていく。
ヒロセの記憶にある東京は、空にそびえるビル群が印象的な都会だ。何千万人という人間が住むこの街では、人々は窮屈そうにスクランブル交差点を渡り、それぞれの職場や学校などの目的地に向かう。
飛行機が東京に近づくにつれ、ヒロセは、かつての記憶にあった景色は完全になくなったのだと理解した。
もともと、日本列島はなくなったといわれていたのだ。それは真実だった。今、東京にあるのは広大なコンクリート製の土地だけで、ビルもなければ人もいない。もちろん、自然もない。ぽつぽつと小屋のような建物があるだけで、砂漠と似たようなものだ。
飛行機が空き地に降り立つと、一同は席を立った。飛行機から降り、灰色の地面だけが広がる光景を眺めた。
「これが、日本……」
ユルギが呟いたとき、
「おーい」
と男性の声がした。振り向くと、黒い髪に黒い瞳の日本人らしき青年が、赤い屋根の小屋の前で手を振っている。
トビラは青年のことを「レオ」と呼び、レオに近づいた。
「トビラ、お疲れ様。アケルも」
アケルは頷くと、ユルギたちに向かって言った。
「紹介するわ。彼はレオ。現純粋日本復活の会のメンバーよ」
「よろしく」
レオはユルギたちと順番に握手をしてまわった。それからズボンのポケットから手のひらサイズの通信機器を取り出し、一同に向かって言った。
「連合軍から、仮非のくにの生存者リストをパクっといたよ。見るかい」
ユルギは「はい」と頷くのと同時に、レオから通信機器を受け取った。通信機器の画面には、仮非のくにの人々の名前が並んでいる。そのなかに、マドロイとウツロイの名前があった。
「よかった……」
ユルギは安堵した。
ちなみに、研究所を脱出する際に遭遇したミサカたちバリアー研究班のメンバーの名前は載っていない。
一方、ヒロセは焦っていた。ユルギがヒロフミの名前まで確認したあと、ヒロセはユルギから通信機器を受け取った。そして、何度も生存者名簿を見直した。
「さ、サユキ先生の名前がない……」
ヒロセは愕然とした。サユキは一連の暴動によって命を落としたのか。
ヒノはこのとき、サユキの死の真相について話そうか迷った。ヒロセが本当にサユキのことを愛しているのなら、サユキがどうして死んだのかを教えてあげるべきだろう。だが、ヒノもまた、ツルギを愛している。ツルギの名誉を思えば、サユキの死の真相について語るべきではない。
ヒノはついに、ヒロセに真実を話さないまま黙っておくことを選択した。
落ち込んでいるヒロセに、アケルは話しかけた。
「ヒロセ先生、落ち込むのはわかるわ。でも、先生はもっと生きなくちゃならないのよ。これからが、先生の力が本当に必要になるんだから」
「ワイの力が必要?」
「そう。正しく日本を復活させるためには、かつての日本の地理に精通している人間が必要不可欠なの。そして、それがあなたよ」
ヒロセはサユキの死のショックを受け止めきれないまま、ぼんやりと、周囲のコンクリートを見た。
アケルはユルギにも話しかけた。
「見て、ユルギ。今、日本はこんな状態よ。まだ、四国や沖縄といった本州以外の土地については復活させることができていないの。これから海を埋め立てて開発していくことになるわ。
でもね、土地以上に大変なのは、自然を取り戻すこと。
そのために、純粋日本復活の会のなかで有志の者たちが、アメリカで眠っているわ。
彼らはいつか、ナズナと同じ力を持った人に、自分たちが亡くなったら日本の一部に変えてほしいと願ってきたの。彼らは、あなたに力を使ってもらいたいと思っているのよ。
ユルギ、お願い。日本を本来の日本の姿に戻すために協力してほしいの」
本来の日本。それは、研究所でずっと教わってきた日本のことだろうか。熱帯から亜寒帯までを含む珍しい国、日本。四季があり、どの都道府県にいっても自然と触れ合うことができる日本。
今、目の前にあるコンクリート島は、かつて日本列島があった場所にあり、本州と同じ輪郭をしているだけで、「日本」ではない。
アケルの話では、純粋日本復活の会のメンバーは、自分の身体を変化させられたとしても、かつての日本の姿を取り戻してほしいと願っていた。そしてその願いのために、肉体を土に還すことが叶わないでいる。
人間は自然から生まれ、自然に帰る。その当たり前の輪のなかに、日本を愛する人たちを戻したいと、ユルギは思った。
「わかったわ。その代わり、一番に復活させる場所は、私に決めさせてほしいの」
「一番に復活させる場所?」
ユルギは小さく微笑んだ。
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