綴った言葉の先で、キミとのこれからを。

小湊ゆうも

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拝啓、愛しのキミヘ。そろそろ正直になりませんか。

慧司との生活

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大真はるま、ご飯持って行って」
「はーい」

 慧司けいしの言った通りになり、結局地元から離れた場所で、俺たちはルームシェアを始めた。
 お互いすぐにバイトを始めたからか、大学生活は思ったよりも忙しく、すれ違う日が多い。

 それでもたまに夕飯を一緒に食べたり、朝起きておはようと言える環境がとても嬉しかった。

 今日は久しぶりにふたりの時間があったから、レシピを見ながらほうれん草コロッケを作った。
 小麦粉やパン粉がこぼれても良いように、テーブルにチラシを敷いて、ふたりでワイワイ言いながら作ったコロッケは、お店に並んでいるようなきれいな形でもなければ、揚げすぎて若干の焦げもあるけれど、世界一愛おしいコロッケだった。

「なあ、やばくない? そこそこうまそうじゃん」
「次に休みが被ったらさ、また手の込んだ料理に挑戦してみようぜ」

 慧司がコロッケに大きくかぶりつき、ぽろぽろと衣をこぼす姿を見ながら、愛おしさが込み上げる。
 
 大学生活が始まってすぐから、「かっこいい人がいる」と噂されるほど人気の慧司だったけれど、相変わらず恋人は作らずに過ごしていた。
 慧司のことを好いている女子は、彼のこんな姿を見られなくて残念だなと、優越感すらある。

「なあに?」

 慧司を見つめていると、その視線に気づいた彼が俺を見つめ返してきた。そのときの声があまりにも甘く、一気に体温が上がる。

「な、んでもねえよ」

 気まずくなって俺から先に視線を逸らすと、慧司はけらけらと笑い、それから俺の口元へと手を伸ばした。

「ソースついてる」
「え?」

 慌てて拭こうとした俺の手を払いのけ、慧司が指先でソースを取ってくれると、そのままペロリと舐めた。

「えっ、」
「何?」
「だって、舐め……」
「拭くのダルいからな。それともあれか? 指じゃなくて直接舐めてほしかった?」
「はあ!?」

 冷静に考えれば本気でそうするわけがないことは分かっている。
 だってほとんどキスをするようなものだから。
 けれど、慧司の表情は冗談で済ませる気でもないような雰囲気があったし、何より身を乗り出してきたものだから思わず手で口元を隠した。

「大真、焦って可愛い。馬鹿じゃん」
「馬鹿って言うなよ。お前が馬鹿だろ」

 俺の煽りとも言えないこの反応にスイッチが入ったのかもしれない。
 慧司はさらに身を乗り出し、俺の部屋着の襟を掴むと、自分のほうに引き寄せた。

「えっ、」
「黙っとけ」

 思わず口元から手を離してしまったその隙に、慧司の顔が目の前まで来て、次の瞬間には唇の端に柔らかな感触があった。

「けい、し……っ、おま、えなあ!」
「なあに」
「だからその顔、やめろよ……! もう無理!」

 わざとやっているのか、慧司はまた甘い視線を俺に送り、口角を上げた。

 こういう触れ合いを期待してルームシェアを始めたわけではないから、思わぬ出来事にパニックになる。
 けれど、慧司からすれば些細なおふざけでしかないし、だからこうして笑っていられるんだろう。

 俺は好きだから意識するのに、慧司はその程度の気持ちでしかないと思うと、泣きそうになるくらい悲しい。

「嫌だった?」
「……嫌だった」
「ちゃんと唇にしなかったから?」
「なわけないだろ。馬鹿じゃねえの」

 せっかく楽しく食事をしているのに台無しにされた気持ちになって、俺は席を立つ自分の部屋へと入った。
 けれど鍵があるわけでもなければ、引くタイプの扉だったせいで、慧司は部屋に侵入してあっさり俺を捕まえた。

「大真、拗ねんなって」
「拗ねたとかじゃねえよ」
「じゃあ何?」

 俺を後ろから抱きしめ、慧司は首筋を吸った。

「大真、キスマークつけちゃった」
「はあ!?」
「嘘だよ。こんな簡単につくわけねえだろ」

 笑ってばかりの慧司に腹が立ち、肘で脇腹を押すと、さらに抱きしめられる力が強くなり身動きが取れなくなった。

「慧司、なんでこんなことするんだよ」
「お前が言えよ」

 耳元で囁かれ、身体中に熱が集まっていくのが分かる。
 慧司の言葉の意味も分からず、混乱で頭がパンクしそうだ。
 
「……はあ? 俺は何もしてねえだろ。慧司に聞いてんの。何でこんなことするのかって。だからお前が言え、馬鹿!」
「お前が始めたんだから、お前が言えよ」
「俺が何を始めたんだよ!」
「大真、お前うるせえよ」

 ドンッと鈍い音がしたと同時に、背中に痛みが走った。
 どうやら慧司が俺を振り向かせ、そのまま壁に押し付けたようだ。
 バランスを崩して座り込んでしまったところで、慧司が俺を囲うように両手を顔の横に叩きつけた。

 最悪な壁ドンすぎる。睨みつけると、顎を掴まれた。

「お前が始めたから、だから俺だってもう止まらねえんだよ」
「慧司、意味分かんないって。俺が何を始めたってんだよ」

 慧司の意図が何も分からない。はっきりと言ってくれないと、この状況でただでさえ思考が働かないんだから。

 慧司が俺を睨むように見つめ返し、その目力に吸い込まれそうになった俺が視線を逸らすと、慧司は掴んだままの俺の顎を強引に自分のほうへと向けた。

 そこからは一瞬で、今度は端ではなく唇に重ねられた。
 柔らかな感触と、さっきまで食べていたソースの香りが広がる。

 唇の境目を舌先でなぞられ、突然のことに何も考えられなくなり、快楽に身を任せてしまう。 
 慧司は俺の後頭部へと手を回すと、さらに自分のほうへ引き寄せ舌を入れた。

 想像しなかったわけではないけれど、初めてのキスがこんなことになるとは思わなかった。
 涙で視界が滲む。

「慧司っ、やめろよ……!」
「俺が簡単にやってると思うなよ。こっちは覚悟決めてんだ。中途半端ならそんな顔するな」

 慧司は俺を睨むと、壁に押し付け、それから部屋を出て行った。


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