全ての魔法は千変万化～異世界転移したけど補填と言われて与えられたスキルがピーキー過ぎる！～

序章

5.絶体絶命

「お前にはここで死んでもらう」

　兵士はそう告げると腰に付けていた剣を抜き俺に近づいてきた

「ちょ、ちょっとまって下さい！」

　俺は必死に逃げるため無様に馬車から転げ落ちながら兵士と距離をとった

「どうして俺を殺そうとするんですか！？」

「お前の存在が国民に知られたら無能を召喚したとして国は大いに批判されるだろう！今この国の民はギリギリの状態なんだ、少しでも国民を不安にさせる要素を残しておくわけにはいかない」

「俺は絶対にもうこの国には関わりませんし俺が勇者として召喚されたことも口外しません！」

「そんな言葉は信じられないし、お前が死んでいた方が確実だ」

　確かにそうだ。俺が生きていようと死んでいようと関係なく、事実が露呈することを避けたいのだったら俺を殺した方が確実に良い

　俺は兵士に背を向けて走り出した

「無駄だ」

　兵士は一瞬にして俺を地面に叩きつけた。そして俺がうつ伏せの状態から辛うじて上を見るとそこには剣を振りかぶる兵士の姿が見えた

「運がなかったな」

　あぁまだ死にたくない

　兵士が剣を振り下ろそうとした刹那、どこからか声が聞こえた

「やはりアゼー国は腐ってるようですね」

　そして兵士は遠くに吹っ飛ばされていた

　俺は急いで起き上がる

「危ないところでしたねイエヒサさん！会うのは二度目ですが一応自己紹介はしておきますね？私はアンナ。神国の裁き手です」

　突然俺の目の前に現れた女性はそういった

　彼女は見覚えがある、広間で俺の基礎能力値ステータスを見えるようにしてくれた基礎能力値鑑定士と呼ばれていた人だ

「貴様！確か勇者召喚の際に基礎能力値鑑定士として召集されていた女だな！まさか神国の裁き手だったとはな！」

　兵士の顔には焦りが見える

「裁き手は自国の防衛の為の組織じゃなかったのか！？これは大問題だぞ！」

「イエヒサさん、少しだけお待ちください」

　アンナさんはそう言うと何かを小声で唱えた

　次の瞬間彼女の姿は消えた

「どこだ！どこへ消えた！」

　兵士は辺りを見回すがアンナさんの姿は見えない

　事は一瞬だった

「え？」

　気が付いたら突然現れたアンナさんのナイフが兵士の首を貫いていた

「あ゛、がはッ」

　兵士は力なく倒れた

「怪我はないですか？イエヒサさん」

「ぁ、えぇ、大丈夫です」

「それは良かったです！それではイエヒサさん、そこの木に掛けてもらっても良いですか？」

「分かりました」

　言われるがままに俺は木の根にもたれかかるように座った

　するとアンナさんは俺の隣に座って肩を組んできた

　俺は突然の事で叫びそうになるがアンナさんに制止される。そして彼女は小声で言った

「すみませんがこれから朝まではこの体勢でお願いします。あと朝までは極力声を発するのも止めて頂きます。よろしいでしょうか？」

　俺がその言葉にコクコクと頷くと彼女は笑った

　俺は馬車での移動などで体力が削られていたこともあり、アンナさんに体を預けたまま深い眠りに落ちた

　~~~

　光が眩しい

「ふあぁ」

　俺は間抜けな欠伸をしながら目を覚ました

「おはようございます、よく眠れましたか？」

　俺の隣から女性の声が聞こえた

　アンナさんだ。昨日は肩を組んで座ったまま俺は眠ってしまったのだ

　俺はすぐさま飛び起きて土下座をした

「昨日は危ないところを助けて頂きありがとうございました！」

　やはりお礼はしなければダメだろう、命を救われたんだから

「そんなにかしこまらないでくださいイエヒサさん、私は当然のことをしただけです。それよりイエヒサさんには事の経緯を説明しなくてはいけません」

　事の経緯か、俺はこの世界について何も知らない。情報は少しでも欲しい

「分かりました。俺はこの世界に来たばかりで何も分かっていないので助かります」

「ではまずは世界の現状から説明します」

　そう言ってアンナさんは語り始めた