5 / 15
一章 別れと出会い、歪みの“兆し”
歌と氷の大精霊イレイナ~光を紡ぐ契約~
しおりを挟む
すみれとルイの目の前に、白銀の髪を揺らす女性が立っていた。
(右目は深いピンク、左目は澄んだ青)オッドアイの異彩が、静かに空気を支配している。
「誰だ…!」
ルイが叫ぶ。だが女性は微動だにせず、音もなくすみれの前へ歩み寄った。
「…なぜ、あの精霊を助けたの?」
その声には温度がなかった。怒りでも哀しみでもなく、ただ空虚な冷たさが漂う。
「助けるのに、理由なんて必要でしょうか?」
すみれは胸の奥で震えを感じながらも、声を強く保った。
目は見えなくとも、女性の呼吸の重さ、髪の微かな揺れ、魔力の波動の震えを感じ取り、逃げずに立っている自分を確かめた。
「今まで精霊に近づく者達には、理由があった。精霊をこき使おうという思いが含まれていた。あなたは、違うと言えるの?」
言葉の端々に、拭いきれない怨念が滲む。
「言えます。
私は、困っている存在を、見捨てたくないんです。
二度と…あんなことが起こらないように」
女性の呼吸が、わずかに揺れたのをすみれは感じた。
胸の奥で、不安と希望が交互に押し寄せる。
「…一つ、聞いてもいい?」
「えぇ」
「精霊と契約するなら、何を差し出せる?」
精霊との契約には必ず代償がある。力を得る代わりに、何かを失わなければならない。
「差し出すもの…私にはありません。目も、足も使えないのですから」
女性は沈黙し、視線を伏せるかのように立ち尽くす。
そのまま背を向けかけた。その瞬間、すみれの声が、湖面の水音をかき消すように響いた。
「でも」
その声は、揺らがない強さを帯びていた。
「差し出せるものがなくても、家族になることはできます」
「…家族?」
女性の息づかいが、一瞬止まった。
風が湖面を渡り、二人の間に小さな波紋を生む。
「精霊は命形のある場所にしか存在できません。
命形が生まれるのは、何十年に一度。
だから精霊は、ずっと孤独です」
すみれは胸の奥の震えを押し込み、力強く続ける。
「なら、私は家族になります。
一緒に笑い、一緒に日々を分かち合います。
それしか、私にはできません」
長い沈黙のあと、女性の呼吸がゆっくり戻る。
「…家族だなんて」
初めて聞いた言葉だった。そして、初めて心が揺れた。
「ねぇ、私と、契約しない?」
「え…?」
「あなたなら、契約してもいいと思えた。だから、私と契約してくれる?」
ルイが眉をひそめ、一歩前に出る。
「契約って…? 精霊か聖獣としか...
人の姿をした精霊なんて、聞いたことがない」
女性は微かに息を吐き、声だけで微笑むかのようだった。
「私は精霊ではない。
世界樹から最初に生まれた存在。大精霊イレイナ」
空気が震え、ルイとすみれの胸に重く響いた。
大精霊。世界樹から直接生まれた、伝説の存在。聞いたことすらない存在だった。
「私以外に、大精霊は四人しかいません」
「…なぜ、そんな方が、私に?」
イレイナの声は柔らかく、それでいて揺るがない。
「初めてだから。
精霊を“家族”と言った人は、これまでいなかった。
もし契約すれば…あなたの目と足も、使えるようになります」
「本当に…本当に、契約したら…目が見えるの?」
すみれは震える声で問いかける。希望と不安が入り混じる。
「えぇ。私があなたの魔力を制御します」
ー本当、なのかな?私、しんじてもいいのかな?ー
すみれの手は、僅かに震えている。
少しの沈黙のあと、すみれは力強く頷いた。
「…お願いします」
湖面に光が反射し、波紋が世界を包み込む。
すみれは両手を前に伸ばし、深呼吸して契約の儀式の言葉を口にした。
「我、歌と氷の大精霊は、汝との契約を望む。
汝の荒れた魔力を鎮め、共に歩まん」
「我も汝との契約を願う。
我は汝と家族となり、命尽きるその日まで共にいることを誓おう。
我はスミレ。汝の名は?」
「イレイナ」
光が溢れ、湖面に反射して波紋となり、世界を震わせた。
すみれの視界に初めて光と色が映る。
「…見える…」
色、光、空――世界のすべてが目に飛び込み、すみれの頬を涙が伝う。
「立てる…足が、動く…!ルイ!見て、私...」
振り返ると、黒い翼を持つルイが立っていた。
微かに羽ばたくたびに、光を受けた翼が湖面に映り、幻想的な影を落とす。
「…ルイ?まさか、君は...」
ルイの瞳が一瞬揺れ、黒い翼がわずかに震えた。
そして次の瞬間、すべてを伏せるように、静かに視線を落とした。
(右目は深いピンク、左目は澄んだ青)オッドアイの異彩が、静かに空気を支配している。
「誰だ…!」
ルイが叫ぶ。だが女性は微動だにせず、音もなくすみれの前へ歩み寄った。
「…なぜ、あの精霊を助けたの?」
その声には温度がなかった。怒りでも哀しみでもなく、ただ空虚な冷たさが漂う。
「助けるのに、理由なんて必要でしょうか?」
すみれは胸の奥で震えを感じながらも、声を強く保った。
目は見えなくとも、女性の呼吸の重さ、髪の微かな揺れ、魔力の波動の震えを感じ取り、逃げずに立っている自分を確かめた。
「今まで精霊に近づく者達には、理由があった。精霊をこき使おうという思いが含まれていた。あなたは、違うと言えるの?」
言葉の端々に、拭いきれない怨念が滲む。
「言えます。
私は、困っている存在を、見捨てたくないんです。
二度と…あんなことが起こらないように」
女性の呼吸が、わずかに揺れたのをすみれは感じた。
胸の奥で、不安と希望が交互に押し寄せる。
「…一つ、聞いてもいい?」
「えぇ」
「精霊と契約するなら、何を差し出せる?」
精霊との契約には必ず代償がある。力を得る代わりに、何かを失わなければならない。
「差し出すもの…私にはありません。目も、足も使えないのですから」
女性は沈黙し、視線を伏せるかのように立ち尽くす。
そのまま背を向けかけた。その瞬間、すみれの声が、湖面の水音をかき消すように響いた。
「でも」
その声は、揺らがない強さを帯びていた。
「差し出せるものがなくても、家族になることはできます」
「…家族?」
女性の息づかいが、一瞬止まった。
風が湖面を渡り、二人の間に小さな波紋を生む。
「精霊は命形のある場所にしか存在できません。
命形が生まれるのは、何十年に一度。
だから精霊は、ずっと孤独です」
すみれは胸の奥の震えを押し込み、力強く続ける。
「なら、私は家族になります。
一緒に笑い、一緒に日々を分かち合います。
それしか、私にはできません」
長い沈黙のあと、女性の呼吸がゆっくり戻る。
「…家族だなんて」
初めて聞いた言葉だった。そして、初めて心が揺れた。
「ねぇ、私と、契約しない?」
「え…?」
「あなたなら、契約してもいいと思えた。だから、私と契約してくれる?」
ルイが眉をひそめ、一歩前に出る。
「契約って…? 精霊か聖獣としか...
人の姿をした精霊なんて、聞いたことがない」
女性は微かに息を吐き、声だけで微笑むかのようだった。
「私は精霊ではない。
世界樹から最初に生まれた存在。大精霊イレイナ」
空気が震え、ルイとすみれの胸に重く響いた。
大精霊。世界樹から直接生まれた、伝説の存在。聞いたことすらない存在だった。
「私以外に、大精霊は四人しかいません」
「…なぜ、そんな方が、私に?」
イレイナの声は柔らかく、それでいて揺るがない。
「初めてだから。
精霊を“家族”と言った人は、これまでいなかった。
もし契約すれば…あなたの目と足も、使えるようになります」
「本当に…本当に、契約したら…目が見えるの?」
すみれは震える声で問いかける。希望と不安が入り混じる。
「えぇ。私があなたの魔力を制御します」
ー本当、なのかな?私、しんじてもいいのかな?ー
すみれの手は、僅かに震えている。
少しの沈黙のあと、すみれは力強く頷いた。
「…お願いします」
湖面に光が反射し、波紋が世界を包み込む。
すみれは両手を前に伸ばし、深呼吸して契約の儀式の言葉を口にした。
「我、歌と氷の大精霊は、汝との契約を望む。
汝の荒れた魔力を鎮め、共に歩まん」
「我も汝との契約を願う。
我は汝と家族となり、命尽きるその日まで共にいることを誓おう。
我はスミレ。汝の名は?」
「イレイナ」
光が溢れ、湖面に反射して波紋となり、世界を震わせた。
すみれの視界に初めて光と色が映る。
「…見える…」
色、光、空――世界のすべてが目に飛び込み、すみれの頬を涙が伝う。
「立てる…足が、動く…!ルイ!見て、私...」
振り返ると、黒い翼を持つルイが立っていた。
微かに羽ばたくたびに、光を受けた翼が湖面に映り、幻想的な影を落とす。
「…ルイ?まさか、君は...」
ルイの瞳が一瞬揺れ、黒い翼がわずかに震えた。
そして次の瞬間、すべてを伏せるように、静かに視線を落とした。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる