光と闇の継承者〜神に選ばれた少女の物語〜

加藤 すみれ

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一章 別れと出会い、歪みの“兆し”

歌と氷の大精霊イレイナ~光を紡ぐ契約~

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すみれとルイの目の前に、白銀の髪を揺らす女性が立っていた。
(右目は深いピンク、左目は澄んだ青)オッドアイの異彩が、静かに空気を支配している。

「誰だ…!」
ルイが叫ぶ。だが女性は微動だにせず、音もなくすみれの前へ歩み寄った。

「…なぜ、あの精霊を助けたの?」

その声には温度がなかった。怒りでも哀しみでもなく、ただ空虚な冷たさが漂う。

「助けるのに、理由なんて必要でしょうか?」

すみれは胸の奥で震えを感じながらも、声を強く保った。
目は見えなくとも、女性の呼吸の重さ、髪の微かな揺れ、魔力の波動の震えを感じ取り、逃げずに立っている自分を確かめた。

「今まで精霊に近づく者達には、理由があった。精霊をこき使おうという思いが含まれていた。あなたは、違うと言えるの?」
言葉の端々に、拭いきれない怨念が滲む。

「言えます。
私は、困っている存在を、見捨てたくないんです。
 二度と…あんなことが起こらないように」

女性の呼吸が、わずかに揺れたのをすみれは感じた。
胸の奥で、不安と希望が交互に押し寄せる。

「…一つ、聞いてもいい?」
「えぇ」
「精霊と契約するなら、何を差し出せる?」

精霊との契約には必ず代償がある。力を得る代わりに、何かを失わなければならない。

「差し出すもの…私にはありません。目も、足も使えないのですから」

女性は沈黙し、視線を伏せるかのように立ち尽くす。
そのまま背を向けかけた。その瞬間、すみれの声が、湖面の水音をかき消すように響いた。

「でも」

その声は、揺らがない強さを帯びていた。

「差し出せるものがなくても、家族になることはできます」

「…家族?」

女性の息づかいが、一瞬止まった。
風が湖面を渡り、二人の間に小さな波紋を生む。

「精霊は命形のある場所にしか存在できません。
 命形が生まれるのは、何十年に一度。
 だから精霊は、ずっと孤独です」

すみれは胸の奥の震えを押し込み、力強く続ける。

「なら、私は家族になります。
 一緒に笑い、一緒に日々を分かち合います。
 それしか、私にはできません」

長い沈黙のあと、女性の呼吸がゆっくり戻る。

「…家族だなんて」

初めて聞いた言葉だった。そして、初めて心が揺れた。

「ねぇ、私と、契約しない?」
「え…?」
「あなたなら、契約してもいいと思えた。だから、私と契約してくれる?」

ルイが眉をひそめ、一歩前に出る。

「契約って…? 精霊か聖獣としか...
 人の姿をした精霊なんて、聞いたことがない」

女性は微かに息を吐き、声だけで微笑むかのようだった。

「私は精霊ではない。
 世界樹から最初に生まれた存在。大精霊イレイナ」

空気が震え、ルイとすみれの胸に重く響いた。
大精霊。世界樹から直接生まれた、伝説の存在。聞いたことすらない存在だった。

「私以外に、大精霊は四人しかいません」

「…なぜ、そんな方が、私に?」

イレイナの声は柔らかく、それでいて揺るがない。

「初めてだから。
 精霊を“家族”と言った人は、これまでいなかった。

 もし契約すれば…あなたの目と足も、使えるようになります」

「本当に…本当に、契約したら…目が見えるの?」
すみれは震える声で問いかける。希望と不安が入り混じる。

「えぇ。私があなたの魔力を制御します」

ー本当、なのかな?私、しんじてもいいのかな?ー
すみれの手は、僅かに震えている。

少しの沈黙のあと、すみれは力強く頷いた。

「…お願いします」


湖面に光が反射し、波紋が世界を包み込む。
すみれは両手を前に伸ばし、深呼吸して契約の儀式の言葉を口にした。

「我、歌と氷の大精霊は、汝との契約を望む。
 汝の荒れた魔力を鎮め、共に歩まん」

「我も汝との契約を願う。
 我は汝と家族となり、命尽きるその日まで共にいることを誓おう。
 我はスミレ。汝の名は?」
「イレイナ」

光が溢れ、湖面に反射して波紋となり、世界を震わせた。
すみれの視界に初めて光と色が映る。

「…見える…」

色、光、空――世界のすべてが目に飛び込み、すみれの頬を涙が伝う。

「立てる…足が、動く…!ルイ!見て、私...」

振り返ると、黒い翼を持つルイが立っていた。
微かに羽ばたくたびに、光を受けた翼が湖面に映り、幻想的な影を落とす。

「…ルイ?まさか、君は...」
ルイの瞳が一瞬揺れ、黒い翼がわずかに震えた。
そして次の瞬間、すべてを伏せるように、静かに視線を落とした。
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