光と闇の継承者〜神に選ばれた少女の物語〜

加藤 すみれ

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一章 別れと出会い、歪みの“兆し”

蒼薔薇の介入

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「大精霊、だと?」

グレイルは目を細め、喉の奥で愉快そうに笑った。

「そんな存在が、まだこの世に残っていたとはな…」
「いやはや、世界も捨てたものではない」

氷と歌の魔力が、砕けた余韻として空間に漂っている。
肌を刺す冷気と、耳鳴りのように残る音の残響。

その中心で、イレイナは静かに立っていた。

「…ありがとう、イレイナ」

スミレの声は、わずかに掠れていた。

イレイナは首を横に振る。

「感謝はいらないわ」
「あなたが“命じた”から、私は動いただけ」

その言葉に、スミレは小さく息を呑む。

――違う。

はっきりとした理屈などなかった。
ただ、グレイルの視線が一瞬こちらから逸れた、その刹那。

胸の奥を握り潰されるような、不吉な予感が走った。

(来る…)

そう思った瞬間、言葉は勝手に口を突いて出ていた。

「――逃がして」

命令だった。

「…それでも、ありがとう」

イレイナは何も答えず、ただ一度だけ目を伏せた。

「やはり…お前は危険だな」

グレイルの声が、低く、確実な殺意を伴って響く。

「今は未熟。だが、その器はすでに完成している
 いずれ――“そこ”へ至る力だ」

視線が、真っ直ぐスミレを射抜いた。

「ならば、今ここで摘むのが最善か」

そう言いかけて――
グレイルは、ふと別の存在に目を留めた。

「…おや?」

愉快そうに、口角が吊り上がる。

「かなりの深手を負わせたはずだが…
 生きていたか。我が子よ」

その一言で、世界が凍りついた。

「――――」

ルイの身体が、はっきりと震えた。

説明できない恐怖が、背骨を這い上がる。

「……ルイ?」

スミレの声が聞こえた。

その一瞬、
スミレの視線が――ほんの僅か、逸れた。

「敵を前に、よそ見とはな!!」

世界が、跳ねた。

「スミレ!!」

叫びと同時に、血の魔力が弾ける。

「ブラッド――」
「咲け、蒼バラよ!」

グレイルの魔法が形を成すより早く、
蒼い氷の薔薇が、空間に咲き誇った。

冷気が爆ぜる。
花弁は刃のように鋭く、触れた空気すら凍らせる。

「……ちっ」

グレイルが舌打ちし、視線を向けた先。

そこに立っていたのは、一人の男と――
スミレと、あまりにも似すぎた少女だった。

少女は迷いなく駆け寄り、スミレを抱きしめる。

「こんにちは、姉さん
 …やっと、会えた」

感情の薄い声。
だが、その唇は、ほんのわずかに微笑んでいた。

「…え?」

場にいた全員が、言葉を失う。

「私はスイレン
 あなたの、三つ子の妹よ」

混乱が広がる中、男が肩をすくめた。

「説明は後だ、スイレン
 まずは怪我人が先だろ」

彼の魔力は、確かに魔人族のものだった。
だが――不思議と、刺々しさがない。

「無茶しすぎだ、メイサ」

男が指を鳴らす。

「蒼バラの揺り籠」

蒼い花が編まれ、メイサを包み込む。
裂けた傷が、ゆっくりと塞がっていった。

「…っ」

「お、起きたか」

メイサが顔を上げ、目を見開く。

「…アイビス?
 なぜ、あなたが?

驚きと喜びが混じったような声だった。

だが――
氷の薔薇が、音を立てて砕け散った。

「なんだ?やるならやってやるぞ。たった一人で俺を相手にできるもんならな」

「…続きは、いずれだ」

グレイルは興味を失ったように空を見上げ、
次の瞬間には、その姿は消えていた。

静寂。

「…いったい、どういうこと?」

リリナが、呆然と呟く。

その時だった。

「…ゲホッ」

全員が振り向く。

スミレが口元を押さえ、
その指の隙間から、赤が零れ落ちた。

「スミレ!?」

声が重なった瞬間、
スミレの身体が、力なく崩れ落ちる。

地面に倒れる直前、
彼女は誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

「…まだ…隠せると、思ってたのに…」

そして、意識は闇に沈んだ。

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