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第24話 再会とざまぁの幕開け
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王都の空は、早春の澄んだ光に包まれていた。けれどその美しさは、辺境の村で見た空とはまったく違うものだった。
磨き上げられた白い石畳、整列する衛兵、行き交う貴族たち――すべてが整然としているのに、どこか冷たい。
レティシアは深くフードを被り、人々の群れの中を歩いた。
彼女の胸の奥には、わずかな震えがあった。
この街を去るとき、自分はもう二度と戻らないと誓ったはずだった。
それが、今こうして自ら足を向けている。
だが、そこに怯えはない。
彼がいる。
エドガーがたった一人でこの王都に呼び出されたと聞いた瞬間から、彼女の迷いは消えた。
辺境で村を救った英雄を「反逆者」として裁こうなど、許せることではない。
自分の存在がその原因の一つにあるなら、今度こそ――自分が盾になる番だ。
城門前には、すでに王都の兵が並び、群衆がざわめいていた。
白い馬車が滑るように広場へ入ってくる。
馬車の扉が開き、枷をはめられた一人の男が姿を現した。
「……エドガー!」
抑えきれず口に出た声。
人々が一斉に振り返るが、レティシアは隠すこともせず前へ進んだ。
近づくたびに、彼の顔が見える。
埃だらけの外套、腕には鎖。それでも、その背筋は真っ直ぐに伸びたままだ。
まるで誇りだけが彼を立たせているようだった。
「反逆者エドガー・ラインハルトを、王都裁定の間へ!」
兵たちが声を張り上げる。
――その瞬間、群衆の奥から金糸の衣を纏った男が現れた。
アーベルグ伯爵、その人だった。
レティシアの生家、そして、かつての権威と虚飾の象徴。
伯爵は白髪を整え、取り巻きの貴族たちを従えて笑っていた。
「おや、やはり本当に彼を連れてきたか。これで我が家の面目も保たれよう。」
その声を聞いた瞬間、レティシアの中に堰を切ったような怒りがこみ上げた。
「……どういうことです。」
気づけば声が出ていた。
伯爵がゆっくりと振り向く。
「ほう、この声は。」
鋭い灰色の目が、彼女の顔を射抜いた。
「まさか……レティシア?」
「ええ。お久しぶりです、お父様。」
ざわめきが広場に走る。
伯爵が目を細め、苦笑を浮かべた。
「家を出ておきながら、今さら何の用だ。」
「説明していただきたいのです。なぜ彼が召喚されたのですか。」
「王命だよ。反逆者の疑いがある以上、当然の処置だ。」
「嘘です。」
ピシャリとした声が広場に響いた。
壇上の兵士たちまでもが息を止めるほどの鋭さだった。
レティシアは一歩進み出た。フードを取り、真っすぐに伯爵を見据える。
「彼が王都に呼ばれたのは、あなたが仕組んだことでしょう。」
「妄言だな。」
「“家の名誉のため”――あなたはそれを理由に何人の人生を壊してきました? 私の婚約もそうでした。あなたにとって娘は、王家に取り入り、さらなる地位を得るための飾りだった。
エドガーを裁けば、あなたは再び“権威に尽くす忠臣”として名を取り戻せる。違いますか?」
伯爵の顔色が変わった。
周囲の貴族たちが囁きを交わす。
「まさか……伯爵が?」
「裏で動いていたと?」
レティシアはさらに言葉を重ねた。
「ですが、私は見ました。あの人がどんな思いで剣を握ってきたか。彼は命を奪うためではなく、守るために戦った人です!
それを“反逆”と呼ぶような国であれば、その正義こそが腐っている!」
どよめきが広がる。
伯爵は顔をひくつかせ、声を荒げた。
「黙れ、出来損ないの娘が! 家の恥をさらす気か!」
「恥を生み出したのは、あなたたちです!」
雷鳴のような怒声だった。
その強さに、誰もが息を呑む。
「私はもう、アーベルグ家の名で生きる気はありません。けれど――」
レティシアは広場の中央に立ち、両手を広げた。
「この場で言います。民族の誰が何と言おうと、私はエドガー・ラインハルトの無実を証明します!」
エドガーが首を上げた。
その瞳が一瞬だけ微笑んだ気がした。
伯爵は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「警護兵! あの女を下がらせろ!」
だが、兵士たちは動かない。彼女の言葉に心を動かされた者たちが、互いに目を合わせていた。
すると、人垣の向こうからひとりの女性が現れた。
見覚えのある長い金髪――マイラだった。彼女は監察官としての紋章を掲げ、はっきりと口を開く。
「王命により、再審の準備は私が行うことになっていました。アーベルグ伯爵、あなたが私の報告書の改ざんを画策していた証拠、すべて提出させていただきます。」
「な……何を言う!」
マイラが封筒を掲げると、民衆の間から歓声が上がる。
「王家直属の監察官が告発する以上、もはや隠し立てはできませんね。」
伯爵が蒼ざめ、足をよろめかせた。
その姿は、かつて権勢を誇っていた名門の当主のものではなく、ただの卑小な男にすぎなかった。
「申し訳ありません、レティシア嬢。」
マイラは深く頭を下げた。
「あなたと彼を巻き込んでしまいました。ですが、これで真実が明るみに出ます。」
人々が動揺の中でどよめく。
やがて、王都の騎士団長が前に進み出た。
「この場で拘束する。アーベルグ伯爵、あなたを権力濫用および虚偽報告の罪で捕縛する!」
「そんな馬鹿な……私は王の信頼を――!」
伯爵の叫びは途中で途切れた。
手錠の鎖がカチリと鳴り、群衆の中に安堵の吐息が広がる。
レティシアはその光景を黙って見ていた。
怒りではなく、哀しみすら覚えるほどだった。
これが、自分がかつて縛られていた“正義”の正体。
エドガーがゆっくりと近づいてきた。
兵士が鎖を外す。
自由になった腕を、彼はそのままレティシアの肩に回した。
「よくやった。もう、終わったな。」
「終わりじゃありません。これから、一緒に生きていくための始まりです。」
彼の瞳が細められ、温かく輝く。
群衆が見守る中、二人はそっと微笑み合った。
そして、その瞬間――誰もが気づいた。
王国の“ざまぁ”が本当に下された瞬間を。
権力に溺れた貴族たちが崩れ落ちる中で、かつての令嬢と罪人と呼ばれた男が、積み重ねた真実の上で手を取り合っていた。
この日、王都は確かにひとつの秩序を失い、そして一つの愛の前に膝をついたのだった。
続く
磨き上げられた白い石畳、整列する衛兵、行き交う貴族たち――すべてが整然としているのに、どこか冷たい。
レティシアは深くフードを被り、人々の群れの中を歩いた。
彼女の胸の奥には、わずかな震えがあった。
この街を去るとき、自分はもう二度と戻らないと誓ったはずだった。
それが、今こうして自ら足を向けている。
だが、そこに怯えはない。
彼がいる。
エドガーがたった一人でこの王都に呼び出されたと聞いた瞬間から、彼女の迷いは消えた。
辺境で村を救った英雄を「反逆者」として裁こうなど、許せることではない。
自分の存在がその原因の一つにあるなら、今度こそ――自分が盾になる番だ。
城門前には、すでに王都の兵が並び、群衆がざわめいていた。
白い馬車が滑るように広場へ入ってくる。
馬車の扉が開き、枷をはめられた一人の男が姿を現した。
「……エドガー!」
抑えきれず口に出た声。
人々が一斉に振り返るが、レティシアは隠すこともせず前へ進んだ。
近づくたびに、彼の顔が見える。
埃だらけの外套、腕には鎖。それでも、その背筋は真っ直ぐに伸びたままだ。
まるで誇りだけが彼を立たせているようだった。
「反逆者エドガー・ラインハルトを、王都裁定の間へ!」
兵たちが声を張り上げる。
――その瞬間、群衆の奥から金糸の衣を纏った男が現れた。
アーベルグ伯爵、その人だった。
レティシアの生家、そして、かつての権威と虚飾の象徴。
伯爵は白髪を整え、取り巻きの貴族たちを従えて笑っていた。
「おや、やはり本当に彼を連れてきたか。これで我が家の面目も保たれよう。」
その声を聞いた瞬間、レティシアの中に堰を切ったような怒りがこみ上げた。
「……どういうことです。」
気づけば声が出ていた。
伯爵がゆっくりと振り向く。
「ほう、この声は。」
鋭い灰色の目が、彼女の顔を射抜いた。
「まさか……レティシア?」
「ええ。お久しぶりです、お父様。」
ざわめきが広場に走る。
伯爵が目を細め、苦笑を浮かべた。
「家を出ておきながら、今さら何の用だ。」
「説明していただきたいのです。なぜ彼が召喚されたのですか。」
「王命だよ。反逆者の疑いがある以上、当然の処置だ。」
「嘘です。」
ピシャリとした声が広場に響いた。
壇上の兵士たちまでもが息を止めるほどの鋭さだった。
レティシアは一歩進み出た。フードを取り、真っすぐに伯爵を見据える。
「彼が王都に呼ばれたのは、あなたが仕組んだことでしょう。」
「妄言だな。」
「“家の名誉のため”――あなたはそれを理由に何人の人生を壊してきました? 私の婚約もそうでした。あなたにとって娘は、王家に取り入り、さらなる地位を得るための飾りだった。
エドガーを裁けば、あなたは再び“権威に尽くす忠臣”として名を取り戻せる。違いますか?」
伯爵の顔色が変わった。
周囲の貴族たちが囁きを交わす。
「まさか……伯爵が?」
「裏で動いていたと?」
レティシアはさらに言葉を重ねた。
「ですが、私は見ました。あの人がどんな思いで剣を握ってきたか。彼は命を奪うためではなく、守るために戦った人です!
それを“反逆”と呼ぶような国であれば、その正義こそが腐っている!」
どよめきが広がる。
伯爵は顔をひくつかせ、声を荒げた。
「黙れ、出来損ないの娘が! 家の恥をさらす気か!」
「恥を生み出したのは、あなたたちです!」
雷鳴のような怒声だった。
その強さに、誰もが息を呑む。
「私はもう、アーベルグ家の名で生きる気はありません。けれど――」
レティシアは広場の中央に立ち、両手を広げた。
「この場で言います。民族の誰が何と言おうと、私はエドガー・ラインハルトの無実を証明します!」
エドガーが首を上げた。
その瞳が一瞬だけ微笑んだ気がした。
伯爵は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「警護兵! あの女を下がらせろ!」
だが、兵士たちは動かない。彼女の言葉に心を動かされた者たちが、互いに目を合わせていた。
すると、人垣の向こうからひとりの女性が現れた。
見覚えのある長い金髪――マイラだった。彼女は監察官としての紋章を掲げ、はっきりと口を開く。
「王命により、再審の準備は私が行うことになっていました。アーベルグ伯爵、あなたが私の報告書の改ざんを画策していた証拠、すべて提出させていただきます。」
「な……何を言う!」
マイラが封筒を掲げると、民衆の間から歓声が上がる。
「王家直属の監察官が告発する以上、もはや隠し立てはできませんね。」
伯爵が蒼ざめ、足をよろめかせた。
その姿は、かつて権勢を誇っていた名門の当主のものではなく、ただの卑小な男にすぎなかった。
「申し訳ありません、レティシア嬢。」
マイラは深く頭を下げた。
「あなたと彼を巻き込んでしまいました。ですが、これで真実が明るみに出ます。」
人々が動揺の中でどよめく。
やがて、王都の騎士団長が前に進み出た。
「この場で拘束する。アーベルグ伯爵、あなたを権力濫用および虚偽報告の罪で捕縛する!」
「そんな馬鹿な……私は王の信頼を――!」
伯爵の叫びは途中で途切れた。
手錠の鎖がカチリと鳴り、群衆の中に安堵の吐息が広がる。
レティシアはその光景を黙って見ていた。
怒りではなく、哀しみすら覚えるほどだった。
これが、自分がかつて縛られていた“正義”の正体。
エドガーがゆっくりと近づいてきた。
兵士が鎖を外す。
自由になった腕を、彼はそのままレティシアの肩に回した。
「よくやった。もう、終わったな。」
「終わりじゃありません。これから、一緒に生きていくための始まりです。」
彼の瞳が細められ、温かく輝く。
群衆が見守る中、二人はそっと微笑み合った。
そして、その瞬間――誰もが気づいた。
王国の“ざまぁ”が本当に下された瞬間を。
権力に溺れた貴族たちが崩れ落ちる中で、かつての令嬢と罪人と呼ばれた男が、積み重ねた真実の上で手を取り合っていた。
この日、王都は確かにひとつの秩序を失い、そして一つの愛の前に膝をついたのだった。
続く
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