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第3話 遺跡に眠る真実
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月影の村は夜の闇に包まれていた。魔獣が去った後も、焦げた木の匂いと煙の残り香が村中に漂っている。倒れた家屋の片付けが続き、ガーレンが燃えかけた梁を引き抜きながら怒鳴った。「水をもっと持ってこい!」人々の顔には恐怖と疲労がにじんでいた。
リオンはその中心に立ち尽くしていた。手の中の短剣はまだかすかに温かく、微かに光を宿している。村を救ったのは自分の力だ。しかし、その力がどこから来たのか、誰も説明できなかった。
「お前、あの光……いったい何をしたんだ?」ガーレンが低い声で問う。
「分からない。ただ、竜の声が聞こえたんだ。俺に力を貸してくれたみたいで……」
「竜だと?」ガーレンの顔が険しくなった。「あの遺跡の話か。やっぱり何かあったんだな」
周囲の村人たちの視線が集まる。恐れと期待が交じった目。リオンは居たたまれなくなってうつむいた。
そのとき、ミナが走り寄ってきた。「リオン、ガーレンさん、こっち!」彼女が指さした先では、倒れた建物の裏手の地面が穴のように崩れていた。中から青白い光が漏れている。
「さっきの戦いの時、地面が裂けて……中に何かあるの」ミナの声が震えている。
リオンとガーレンは慎重に近づいた。穴は遺跡へと続く地下の通路だった。崩れた石段の奥から、あの竜の気配に似た静かな鼓動を感じる。
「俺が行く」
「一人で行くつもりか?まだ何があるか分からん」
「それでも、行かなきゃ。シェリアが言ってた……“西へ行け”って。でも、その前に“真実”を知らないと」
ガーレンは数秒黙ってから頷いた。「ミナ、松明を頼む。こいつから目を離すな」
「分かった。でも気をつけて」
湿った石の匂い。洞窟の壁には苔が生え、青い光がかすかに跳ね返っている。リオンは深く息を吸い、剣を抜いた。短剣の刃が柔らかく光り、まるで導かれるように通路の奥へと足を進めた。
狭い通路を抜けると、円形の広間に出た。天井の大穴からわずかな月光が差し込み、中心には古い碑石が立っている。その表面に光の線が走り、竜の紋章が浮かび上がった。
「……これが、父さんが探してた“記録”……?」
碑に手をかけた瞬間、視界がじんわりと白く染まる。足元が消え、周囲の空気が歪んだ。
気づけばそこは別世界のような空間だった。夜と昼の境にあるような淡い光の中、眼前に白竜シェリアの姿が現れる。
「来たか、リオン。記憶の門が開かれた」
「ここは……過去?」
「お前の魂に刻まれた“前の生”の記録。この場所に触れ、封印がわずかに綻んだのだ」
シェリアの翼がゆっくりと広がる。光の中に、古代の王国の映像が浮かび上がる。城壁は白大理石で築かれ、空を舞う竜と人々が共に暮らしていた。その中心に、黒髪の青年が立っている。
「……あれは……俺?」
「かつての汝、ルシエル=カーディス。王位の継承者であり、契約の剣を抜いた者」
青年ルシエルが掲げる剣は、今リオンが手にしているものと同じ形をしていた。
「お前は“滅びの契約”に触れ、この世界の均衡を壊した。竜の力と人の欲が交わる時、すべては滅びに至る。だが、最後の願いが輪を作り、魂を今に残した」
「俺が……王国を滅ぼした?」
「そう。だが今、お前は別の生としてその罪を贖うために生まれた」
リオンの喉が渇いた。滅びの王ルシエル。それが自分だという現実を、すぐには受け止められない。
「もしそれが本当なら、俺に何ができる?たった一人で過去なんて変えられない」
シェリアが目を閉じ、小さく首を振った。「過去を変えるのではない。繰り返しを止めるのだ」
「繰り返し?」
「滅びは幾度も訪れた。この世界は、記憶と願いが折り重なり、輪のように回っている。お前がこの輪を断つ唯一の鍵……“蒼き契約”を継ぐ者よ」
「蒼き契約……それが何か、教えてくれ」
だが、シェリアの姿が揺らぎ始めた。
「時が満ちていない。真実は西の都で知るだろう……。だが注意しろ、影はすでに動き出している」
光が一気に弾け、リオンは現実に引き戻された。穴の上からミナの声がする。「リオン!大丈夫!?」
「うん……なんとか」リオンはふらつきながらも立ち上がった。碑石は崩れ、ただの灰になっていた。
ガーレンが懐中の灯をかざして覗き込む。「中で何があった?」
「竜の記憶を見たんだ。そして分かった。俺……前の時代で王国を滅ぼした。でも今度は違う。今度は終わらせるために、生まれたんだ」
ガーレンは目を見張り、やがて肩に手を置いた。「よく分からんが、お前が信じるなら俺は止めねぇ。ただしその力、制御できなきゃ自分を滅ぼすぞ。」
リオンは小さく笑った。「それでも、行くよ。もう“呼び声”が聞こえる。西へ向かわなきゃ」
村の外れでは、修理の煙が夕空に細く揺れていた。ミナが不安げに見つめる。
「もう行くのね。」
「ああ。俺が戻る場所があるって分かったから、怖くない。だけどミナ、お願いがある」
「なに?」
「村を頼む。俺がいない間、みんなを守ってほしい」
ミナは唇を噛んだが、やがて強く頷いた。「分かった。だから絶対帰ってきて。今度は“呼ばれたから”なんて理由じゃなく、自分の意思で帰ってくるの」
「約束する。」
森を抜ける小道に夜風が吹き抜ける。リオンは短剣を腰に差し、夜空を仰いだ。遠く、白竜の鳴き声のような風音が聞こえる。
その胸に、見えない鎖の音が響いた。魂の奥で、ルシエルの記憶が微かに疼く。王国を焼いた炎と、果たせなかった約束。その全ての答えが、西の都にある。
リオンは村を振り返らず、月を背に歩き出した。黒い森の奥、光と影の境へ――。
(続く)
リオンはその中心に立ち尽くしていた。手の中の短剣はまだかすかに温かく、微かに光を宿している。村を救ったのは自分の力だ。しかし、その力がどこから来たのか、誰も説明できなかった。
「お前、あの光……いったい何をしたんだ?」ガーレンが低い声で問う。
「分からない。ただ、竜の声が聞こえたんだ。俺に力を貸してくれたみたいで……」
「竜だと?」ガーレンの顔が険しくなった。「あの遺跡の話か。やっぱり何かあったんだな」
周囲の村人たちの視線が集まる。恐れと期待が交じった目。リオンは居たたまれなくなってうつむいた。
そのとき、ミナが走り寄ってきた。「リオン、ガーレンさん、こっち!」彼女が指さした先では、倒れた建物の裏手の地面が穴のように崩れていた。中から青白い光が漏れている。
「さっきの戦いの時、地面が裂けて……中に何かあるの」ミナの声が震えている。
リオンとガーレンは慎重に近づいた。穴は遺跡へと続く地下の通路だった。崩れた石段の奥から、あの竜の気配に似た静かな鼓動を感じる。
「俺が行く」
「一人で行くつもりか?まだ何があるか分からん」
「それでも、行かなきゃ。シェリアが言ってた……“西へ行け”って。でも、その前に“真実”を知らないと」
ガーレンは数秒黙ってから頷いた。「ミナ、松明を頼む。こいつから目を離すな」
「分かった。でも気をつけて」
湿った石の匂い。洞窟の壁には苔が生え、青い光がかすかに跳ね返っている。リオンは深く息を吸い、剣を抜いた。短剣の刃が柔らかく光り、まるで導かれるように通路の奥へと足を進めた。
狭い通路を抜けると、円形の広間に出た。天井の大穴からわずかな月光が差し込み、中心には古い碑石が立っている。その表面に光の線が走り、竜の紋章が浮かび上がった。
「……これが、父さんが探してた“記録”……?」
碑に手をかけた瞬間、視界がじんわりと白く染まる。足元が消え、周囲の空気が歪んだ。
気づけばそこは別世界のような空間だった。夜と昼の境にあるような淡い光の中、眼前に白竜シェリアの姿が現れる。
「来たか、リオン。記憶の門が開かれた」
「ここは……過去?」
「お前の魂に刻まれた“前の生”の記録。この場所に触れ、封印がわずかに綻んだのだ」
シェリアの翼がゆっくりと広がる。光の中に、古代の王国の映像が浮かび上がる。城壁は白大理石で築かれ、空を舞う竜と人々が共に暮らしていた。その中心に、黒髪の青年が立っている。
「……あれは……俺?」
「かつての汝、ルシエル=カーディス。王位の継承者であり、契約の剣を抜いた者」
青年ルシエルが掲げる剣は、今リオンが手にしているものと同じ形をしていた。
「お前は“滅びの契約”に触れ、この世界の均衡を壊した。竜の力と人の欲が交わる時、すべては滅びに至る。だが、最後の願いが輪を作り、魂を今に残した」
「俺が……王国を滅ぼした?」
「そう。だが今、お前は別の生としてその罪を贖うために生まれた」
リオンの喉が渇いた。滅びの王ルシエル。それが自分だという現実を、すぐには受け止められない。
「もしそれが本当なら、俺に何ができる?たった一人で過去なんて変えられない」
シェリアが目を閉じ、小さく首を振った。「過去を変えるのではない。繰り返しを止めるのだ」
「繰り返し?」
「滅びは幾度も訪れた。この世界は、記憶と願いが折り重なり、輪のように回っている。お前がこの輪を断つ唯一の鍵……“蒼き契約”を継ぐ者よ」
「蒼き契約……それが何か、教えてくれ」
だが、シェリアの姿が揺らぎ始めた。
「時が満ちていない。真実は西の都で知るだろう……。だが注意しろ、影はすでに動き出している」
光が一気に弾け、リオンは現実に引き戻された。穴の上からミナの声がする。「リオン!大丈夫!?」
「うん……なんとか」リオンはふらつきながらも立ち上がった。碑石は崩れ、ただの灰になっていた。
ガーレンが懐中の灯をかざして覗き込む。「中で何があった?」
「竜の記憶を見たんだ。そして分かった。俺……前の時代で王国を滅ぼした。でも今度は違う。今度は終わらせるために、生まれたんだ」
ガーレンは目を見張り、やがて肩に手を置いた。「よく分からんが、お前が信じるなら俺は止めねぇ。ただしその力、制御できなきゃ自分を滅ぼすぞ。」
リオンは小さく笑った。「それでも、行くよ。もう“呼び声”が聞こえる。西へ向かわなきゃ」
村の外れでは、修理の煙が夕空に細く揺れていた。ミナが不安げに見つめる。
「もう行くのね。」
「ああ。俺が戻る場所があるって分かったから、怖くない。だけどミナ、お願いがある」
「なに?」
「村を頼む。俺がいない間、みんなを守ってほしい」
ミナは唇を噛んだが、やがて強く頷いた。「分かった。だから絶対帰ってきて。今度は“呼ばれたから”なんて理由じゃなく、自分の意思で帰ってくるの」
「約束する。」
森を抜ける小道に夜風が吹き抜ける。リオンは短剣を腰に差し、夜空を仰いだ。遠く、白竜の鳴き声のような風音が聞こえる。
その胸に、見えない鎖の音が響いた。魂の奥で、ルシエルの記憶が微かに疼く。王国を焼いた炎と、果たせなかった約束。その全ての答えが、西の都にある。
リオンは村を振り返らず、月を背に歩き出した。黒い森の奥、光と影の境へ――。
(続く)
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