半月の探偵

山田湖

文字の大きさ
1 / 53

プロローグ

しおりを挟む
「やっぱり、あなたと――って……」
「え? 誰と僕が?」
 太陽のような明るい存在感を放つ金髪の女性と月のように静かな黒髪のような少年。そんな2人の周りを桜の花びらが雪が降るかのようにゆっくりと散っていく。実際には桜の花が散るスピードは秒速1.4メートル程らしいが、なぜかその時は本当にゆっくりに見えたのだ。黒髪の少年は散って地面に落ち、泥に汚れた桜の花びらを眺めていた。どんな姿になっても美しいものは美しい。そうその女性は前に言っていたが、泥に濡れた桜の花びらはとても美しくは見えなかった。
 黒髪の少年の問いに微笑みで返したその女性は羽織っていたコートを脱ぎ、少年の肩にかける。
「これ、あなたにあげるわ。夏用もあるわよ」
「え……」
 それってどういう……と問おうとしたその少年の声を遮り、向日葵のような笑顔のままその女性は少年に告げる。
「私がいなくなったら、あなたは自由よ」
「いなくなったらって、そんな……」
 黒髪の少年の声が震えを帯びていく。そこにあるのは恐怖なのだろうか。

 その女性はそれを見て少し考え込んだ。その表情は若干苦しそうに見える。
「じゃあ、ヒントをあげる。もし、私が居なくなったら……私の机の引き出しを開けて。そこが示す場所に私がいる。でも……覚悟は決めておいてね」
「覚悟?」
「そう。そして、覚えておいて。あなたと――は……」









 2年後、混乱の日。

「やはり、そこに立つのは君だったか」
 一人の男が来訪者に向けて背中を向けたままそう話す。

――東京が、世界有数の大都市が闇に包まれている。非常用電源が作動したのか明かりが戻っている建物もちらほらあったが、まだ星々が普段の数十倍以上はっきり見える位には暗かった。
 


 その中でガラス張りの部屋に浮かぶ人影が二つ。長い階段とエレベーターを使ってその部屋に入ってきた来訪者の影はまだ幼さを残しており、それを背中で迎える影は完全に大人だった。

 星々の明かりと月明かりでその建物の中はぼんやりと明るい。

「なつかしいね、あの日もこんな半月が浮かぶ日だったな。いまでもあの日の事を思い出すことができるよ。あれは刺激的な夜だった。それに、美しい女性だったね」

 美しい女性、という言葉を聞いた途端、来訪者の出す雰囲気が一変する。氷のように冷たい、されど炎のような激情を含んだ殺気がこの場を支配する。

 しかし、迎える影はその殺気を意に介していないかのように、来訪者に告げる。
「さあ、こっちも時間が無い。東京の終焉まで時間が無いんだからね。だから君は今自分が持てる最大限を持って潰す。これが君にできる最後のはなむけだ。でも、君も無抵抗のままやられないだろう? 足の運び方からある程度武装していると見た」

 そして、迎える影はその顔を来訪者の方に向ける。その瞬間、迎える影から、来訪者の放つ殺気を塗り替えるような、完成した一枚の絵を白い絵の具で塗りつぶしてしまいそうな重圧が解き放たれる。

「それじゃあ、推理劇の幕を上げる者と幕を引く者……その最後の戦いを始めるとしよう」

 少し楽しそうに迎える影が来訪者にそう高らかに告げた。

 そして、その2秒後。1発の銃声が空気を切り裂き、その部屋に響き渡った。








 3月30日...
 その日は、東京が闇に包まれた暗黒の日。
 その日は、東京の崩壊が危ぶまれた災厄の日。

 そして、その日の夜は一人の少年の因縁に決着が着いた



 ――運命の夜。



 
   
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...