5 / 7
急変
しおりを挟む
鹿野正枝の家を後にした神之目一行は周りの住民にも聞き込みを行うことにした。
まずは警察と一緒に被害者の捜索に当たった消防団の青年、新村義正に話を聞く。
大挙して押し寄せた警察の圧をものともせずに、髪を刈り上げた色黒の偉丈夫はこう語った。
「あの日は非番で家にいたんですけど警察から探すのを手伝ってほしいって頼まれたんです。確か消防団の半分は街の設備点検に行っていて、もう半分は仮眠していたんです。それで通報で飛び起きた仮眠組から人員補填のために電話があって。多分、非番の消防員全員に電話が入ったと思います。それで俺の車はエンストしていた上に雪道対応のじゃないので歩いて向かったんです。スノーモビールとかも家にあるんですけど、あれの運転はちょっと不安で……」
はきはきと威勢よくその声は新村が町の第一線で活躍する消防士であることを証明しているようにも聞こえる。
「なるほど、ありがとうございます」
後ろで新村の名前を呼ぶ声を聞いた彼らは新村の仕事を圧迫しないようにその場を立ち去った。
次に来たのは近所の土産物屋だ。
漬物や特産品、はては猟の道具や本物の毛皮を使った動物の足を模した靴というトンチンカンなものまで売られている。
「あ、あのののの、当日、なにかおかしなことはなかったですか?」
彼は少し声を震わせながら聞く。というのも応対したのが彼が今ぞっこんな美人店員だったからだ。どこかのつっけんどんなAIと違ってこのふんわりとした雰囲気の美人店員に会うため彼は定期的にこの店を訪れている。
「おかしなことねえ。う~ん特になかったと思いますよ。鹿野さんは定期的にこの店に来られてますしぃ……。おかしなことは特に何も……」
「そうでででですか。どうも」
「ああ、神之目さん。当店をいつも御贔屓にしてくださりありがとうございますう」
「いええええええ、滅相もないでございます」
「……あいつ……」と周りの刑事たちがあきれていると
『すいません。その奥さんがいつ来たのかはわかりますか?』と彼女が質問した。
「え、スマホがしゃべった?」
スマホが勝手に動き出し、しゃべり始めたら多くの人が驚くだろう。当然の反応だ。
しかし、その当然の反応に対して、『質問に答えて下さい』と少し脅すように声を低くして応える彼女。周りの刑事達も若干不穏なこのAIの言動に顔を見合わせる。
店員も、彼女のこの態度にはたじろいでいたが、普段もっと面倒臭い客を相手しているのに慣れているからか、一瞬で平静を取り戻し、答えた。
「えーと確か3日前だったかな。何を買っていたかは私はレジにいなかったからちょっと。でも鹿野さんはいつも漬物とかお野菜とかしか買わないので……」
『そうですか、ありがとうございます』
これで満足だと言わんばかりにAIが沈黙し、彼もぐだぐだと生産性のない話を勤務時間中にし始めたため、刑事達は店を後にした。
「おい、あんまり圧力かけるなよ」と刑事に引っ張られながらも店を出てすぐに、彼は彼女を諭した。これで店員の彼の印象まで悪くなってはこれまで積み上げてきた信頼が無駄になってしまう。信頼は得るのは難しいが、失うのは意外と簡単だからだ。
『あなたこそ、あんなにしどろもどろになって気持ちが悪い』
「おまえなあ」
その後、彼らは方々に今回の事件について聞いて回った。
捜査の役に立つような情報は皆無だったが、みんな一様に言えるのは夫婦の関係性については口を閉ざしがちだったことだけだ。さっぱり分からない、という感じでもなく、何か思い当たるような節がありそうな感じだったが、なぜかあまり話したがらなかった。これに見切りをつけた彼女の催促により、彼らは最後の場所に向かうことになった。
最後に彼らが来たのはガソリンスタンド。事務所で付けらていたテレビは明後日からまた大雪が降るということを伝え、住民に注意を促していた。
中村が、応対した中年の店員に事件の日に何か変わったことは無かった質問する。このガソリンスタンドは山の麓から程近かった。
「さあ、特に何も‥‥‥。あ、一応来訪者の名簿見ます? 役に立つかは分かりませんが」と親切にも店員が言ってくれた。彼はその好意に甘えることにする。
『なんの意味があるんです?』と彼女が聞く。
『現状私が推理していることでは車を使ったとは考えにくいんですが……』
まるで無駄だと切り捨てるように言う彼女。
彼は名簿をめくりながら答える。
「まあ、その無駄なことが後々じゅう…………え?」
彼の様子が気になったのか「どうしたんです?」と聞く中村。
それでも彼は答えない。周りの刑事たちが彼に「どうした」と問いかけたことは分かったが、それっきり彼の脳に音は入り込んでこなかった。
彼が、真相の赤い糸、それに肉薄したのだ。
今の彼の頭の中は量子コンピューターが如く情報が入り乱れ、秩序だってその情報たちが整理されていく。
速く、そして正確に、速く、そして正確に、速く、そして正確に……。それだけを念頭に置きながら、演繹的に推理を続けている。
膨大な情報で構成された一本の道。彼の思考はその道を全速力で駆けていく。
そして、その道の果てへとたどり着いた彼は、はっと顔をあげ、声を張り上げた。
「ああ、おいあの事件のあった山の反対側の登山道を調べろ!!」
「おい、急にどうした?」
「早くしろ!! また雪が降る前に!!」
彼の中で一つの扉が開いた瞬間だった。
まずは警察と一緒に被害者の捜索に当たった消防団の青年、新村義正に話を聞く。
大挙して押し寄せた警察の圧をものともせずに、髪を刈り上げた色黒の偉丈夫はこう語った。
「あの日は非番で家にいたんですけど警察から探すのを手伝ってほしいって頼まれたんです。確か消防団の半分は街の設備点検に行っていて、もう半分は仮眠していたんです。それで通報で飛び起きた仮眠組から人員補填のために電話があって。多分、非番の消防員全員に電話が入ったと思います。それで俺の車はエンストしていた上に雪道対応のじゃないので歩いて向かったんです。スノーモビールとかも家にあるんですけど、あれの運転はちょっと不安で……」
はきはきと威勢よくその声は新村が町の第一線で活躍する消防士であることを証明しているようにも聞こえる。
「なるほど、ありがとうございます」
後ろで新村の名前を呼ぶ声を聞いた彼らは新村の仕事を圧迫しないようにその場を立ち去った。
次に来たのは近所の土産物屋だ。
漬物や特産品、はては猟の道具や本物の毛皮を使った動物の足を模した靴というトンチンカンなものまで売られている。
「あ、あのののの、当日、なにかおかしなことはなかったですか?」
彼は少し声を震わせながら聞く。というのも応対したのが彼が今ぞっこんな美人店員だったからだ。どこかのつっけんどんなAIと違ってこのふんわりとした雰囲気の美人店員に会うため彼は定期的にこの店を訪れている。
「おかしなことねえ。う~ん特になかったと思いますよ。鹿野さんは定期的にこの店に来られてますしぃ……。おかしなことは特に何も……」
「そうでででですか。どうも」
「ああ、神之目さん。当店をいつも御贔屓にしてくださりありがとうございますう」
「いええええええ、滅相もないでございます」
「……あいつ……」と周りの刑事たちがあきれていると
『すいません。その奥さんがいつ来たのかはわかりますか?』と彼女が質問した。
「え、スマホがしゃべった?」
スマホが勝手に動き出し、しゃべり始めたら多くの人が驚くだろう。当然の反応だ。
しかし、その当然の反応に対して、『質問に答えて下さい』と少し脅すように声を低くして応える彼女。周りの刑事達も若干不穏なこのAIの言動に顔を見合わせる。
店員も、彼女のこの態度にはたじろいでいたが、普段もっと面倒臭い客を相手しているのに慣れているからか、一瞬で平静を取り戻し、答えた。
「えーと確か3日前だったかな。何を買っていたかは私はレジにいなかったからちょっと。でも鹿野さんはいつも漬物とかお野菜とかしか買わないので……」
『そうですか、ありがとうございます』
これで満足だと言わんばかりにAIが沈黙し、彼もぐだぐだと生産性のない話を勤務時間中にし始めたため、刑事達は店を後にした。
「おい、あんまり圧力かけるなよ」と刑事に引っ張られながらも店を出てすぐに、彼は彼女を諭した。これで店員の彼の印象まで悪くなってはこれまで積み上げてきた信頼が無駄になってしまう。信頼は得るのは難しいが、失うのは意外と簡単だからだ。
『あなたこそ、あんなにしどろもどろになって気持ちが悪い』
「おまえなあ」
その後、彼らは方々に今回の事件について聞いて回った。
捜査の役に立つような情報は皆無だったが、みんな一様に言えるのは夫婦の関係性については口を閉ざしがちだったことだけだ。さっぱり分からない、という感じでもなく、何か思い当たるような節がありそうな感じだったが、なぜかあまり話したがらなかった。これに見切りをつけた彼女の催促により、彼らは最後の場所に向かうことになった。
最後に彼らが来たのはガソリンスタンド。事務所で付けらていたテレビは明後日からまた大雪が降るということを伝え、住民に注意を促していた。
中村が、応対した中年の店員に事件の日に何か変わったことは無かった質問する。このガソリンスタンドは山の麓から程近かった。
「さあ、特に何も‥‥‥。あ、一応来訪者の名簿見ます? 役に立つかは分かりませんが」と親切にも店員が言ってくれた。彼はその好意に甘えることにする。
『なんの意味があるんです?』と彼女が聞く。
『現状私が推理していることでは車を使ったとは考えにくいんですが……』
まるで無駄だと切り捨てるように言う彼女。
彼は名簿をめくりながら答える。
「まあ、その無駄なことが後々じゅう…………え?」
彼の様子が気になったのか「どうしたんです?」と聞く中村。
それでも彼は答えない。周りの刑事たちが彼に「どうした」と問いかけたことは分かったが、それっきり彼の脳に音は入り込んでこなかった。
彼が、真相の赤い糸、それに肉薄したのだ。
今の彼の頭の中は量子コンピューターが如く情報が入り乱れ、秩序だってその情報たちが整理されていく。
速く、そして正確に、速く、そして正確に、速く、そして正確に……。それだけを念頭に置きながら、演繹的に推理を続けている。
膨大な情報で構成された一本の道。彼の思考はその道を全速力で駆けていく。
そして、その道の果てへとたどり着いた彼は、はっと顔をあげ、声を張り上げた。
「ああ、おいあの事件のあった山の反対側の登山道を調べろ!!」
「おい、急にどうした?」
「早くしろ!! また雪が降る前に!!」
彼の中で一つの扉が開いた瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる