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急変
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鹿野正枝の家を後にした神之目一行は周りの住民にも聞き込みを行うことにした。
まずは警察と一緒に被害者の捜索に当たった消防団の青年、新村義正に話を聞く。
大挙して押し寄せた警察の圧をものともせずに、髪を刈り上げた色黒の偉丈夫はこう語った。
「あの日は非番で家にいたんですけど警察から探すのを手伝ってほしいって頼まれたんです。確か消防団の半分は街の設備点検に行っていて、もう半分は仮眠していたんです。それで通報で飛び起きた仮眠組から人員補填のために電話があって。多分、非番の消防員全員に電話が入ったと思います。それで俺の車はエンストしていた上に雪道対応のじゃないので歩いて向かったんです。スノーモビールとかも家にあるんですけど、あれの運転はちょっと不安で……」
はきはきと威勢よくその声は新村が町の第一線で活躍する消防士であることを証明しているようにも聞こえる。
「なるほど、ありがとうございます」
後ろで新村の名前を呼ぶ声を聞いた彼らは新村の仕事を圧迫しないようにその場を立ち去った。
次に来たのは近所の土産物屋だ。
漬物や特産品、はては猟の道具や本物の毛皮を使った動物の足を模した靴というトンチンカンなものまで売られている。
「あ、あのののの、当日、なにかおかしなことはなかったですか?」
彼は少し声を震わせながら聞く。というのも応対したのが彼が今ぞっこんな美人店員だったからだ。どこかのつっけんどんなAIと違ってこのふんわりとした雰囲気の美人店員に会うため彼は定期的にこの店を訪れている。
「おかしなことねえ。う~ん特になかったと思いますよ。鹿野さんは定期的にこの店に来られてますしぃ……。おかしなことは特に何も……」
「そうでででですか。どうも」
「ああ、神之目さん。当店をいつも御贔屓にしてくださりありがとうございますう」
「いええええええ、滅相もないでございます」
「……あいつ……」と周りの刑事たちがあきれていると
『すいません。その奥さんがいつ来たのかはわかりますか?』と彼女が質問した。
「え、スマホがしゃべった?」
スマホが勝手に動き出し、しゃべり始めたら多くの人が驚くだろう。当然の反応だ。
しかし、その当然の反応に対して、『質問に答えて下さい』と少し脅すように声を低くして応える彼女。周りの刑事達も若干不穏なこのAIの言動に顔を見合わせる。
店員も、彼女のこの態度にはたじろいでいたが、普段もっと面倒臭い客を相手しているのに慣れているからか、一瞬で平静を取り戻し、答えた。
「えーと確か3日前だったかな。何を買っていたかは私はレジにいなかったからちょっと。でも鹿野さんはいつも漬物とかお野菜とかしか買わないので……」
『そうですか、ありがとうございます』
これで満足だと言わんばかりにAIが沈黙し、彼もぐだぐだと生産性のない話を勤務時間中にし始めたため、刑事達は店を後にした。
「おい、あんまり圧力かけるなよ」と刑事に引っ張られながらも店を出てすぐに、彼は彼女を諭した。これで店員の彼の印象まで悪くなってはこれまで積み上げてきた信頼が無駄になってしまう。信頼は得るのは難しいが、失うのは意外と簡単だからだ。
『あなたこそ、あんなにしどろもどろになって気持ちが悪い』
「おまえなあ」
その後、彼らは方々に今回の事件について聞いて回った。
捜査の役に立つような情報は皆無だったが、みんな一様に言えるのは夫婦の関係性については口を閉ざしがちだったことだけだ。さっぱり分からない、という感じでもなく、何か思い当たるような節がありそうな感じだったが、なぜかあまり話したがらなかった。これに見切りをつけた彼女の催促により、彼らは最後の場所に向かうことになった。
最後に彼らが来たのはガソリンスタンド。事務所で付けらていたテレビは明後日からまた大雪が降るということを伝え、住民に注意を促していた。
中村が、応対した中年の店員に事件の日に何か変わったことは無かった質問する。このガソリンスタンドは山の麓から程近かった。
「さあ、特に何も‥‥‥。あ、一応来訪者の名簿見ます? 役に立つかは分かりませんが」と親切にも店員が言ってくれた。彼はその好意に甘えることにする。
『なんの意味があるんです?』と彼女が聞く。
『現状私が推理していることでは車を使ったとは考えにくいんですが……』
まるで無駄だと切り捨てるように言う彼女。
彼は名簿をめくりながら答える。
「まあ、その無駄なことが後々じゅう…………え?」
彼の様子が気になったのか「どうしたんです?」と聞く中村。
それでも彼は答えない。周りの刑事たちが彼に「どうした」と問いかけたことは分かったが、それっきり彼の脳に音は入り込んでこなかった。
彼が、真相の赤い糸、それに肉薄したのだ。
今の彼の頭の中は量子コンピューターが如く情報が入り乱れ、秩序だってその情報たちが整理されていく。
速く、そして正確に、速く、そして正確に、速く、そして正確に……。それだけを念頭に置きながら、演繹的に推理を続けている。
膨大な情報で構成された一本の道。彼の思考はその道を全速力で駆けていく。
そして、その道の果てへとたどり着いた彼は、はっと顔をあげ、声を張り上げた。
「ああ、おいあの事件のあった山の反対側の登山道を調べろ!!」
「おい、急にどうした?」
「早くしろ!! また雪が降る前に!!」
彼の中で一つの扉が開いた瞬間だった。
まずは警察と一緒に被害者の捜索に当たった消防団の青年、新村義正に話を聞く。
大挙して押し寄せた警察の圧をものともせずに、髪を刈り上げた色黒の偉丈夫はこう語った。
「あの日は非番で家にいたんですけど警察から探すのを手伝ってほしいって頼まれたんです。確か消防団の半分は街の設備点検に行っていて、もう半分は仮眠していたんです。それで通報で飛び起きた仮眠組から人員補填のために電話があって。多分、非番の消防員全員に電話が入ったと思います。それで俺の車はエンストしていた上に雪道対応のじゃないので歩いて向かったんです。スノーモビールとかも家にあるんですけど、あれの運転はちょっと不安で……」
はきはきと威勢よくその声は新村が町の第一線で活躍する消防士であることを証明しているようにも聞こえる。
「なるほど、ありがとうございます」
後ろで新村の名前を呼ぶ声を聞いた彼らは新村の仕事を圧迫しないようにその場を立ち去った。
次に来たのは近所の土産物屋だ。
漬物や特産品、はては猟の道具や本物の毛皮を使った動物の足を模した靴というトンチンカンなものまで売られている。
「あ、あのののの、当日、なにかおかしなことはなかったですか?」
彼は少し声を震わせながら聞く。というのも応対したのが彼が今ぞっこんな美人店員だったからだ。どこかのつっけんどんなAIと違ってこのふんわりとした雰囲気の美人店員に会うため彼は定期的にこの店を訪れている。
「おかしなことねえ。う~ん特になかったと思いますよ。鹿野さんは定期的にこの店に来られてますしぃ……。おかしなことは特に何も……」
「そうでででですか。どうも」
「ああ、神之目さん。当店をいつも御贔屓にしてくださりありがとうございますう」
「いええええええ、滅相もないでございます」
「……あいつ……」と周りの刑事たちがあきれていると
『すいません。その奥さんがいつ来たのかはわかりますか?』と彼女が質問した。
「え、スマホがしゃべった?」
スマホが勝手に動き出し、しゃべり始めたら多くの人が驚くだろう。当然の反応だ。
しかし、その当然の反応に対して、『質問に答えて下さい』と少し脅すように声を低くして応える彼女。周りの刑事達も若干不穏なこのAIの言動に顔を見合わせる。
店員も、彼女のこの態度にはたじろいでいたが、普段もっと面倒臭い客を相手しているのに慣れているからか、一瞬で平静を取り戻し、答えた。
「えーと確か3日前だったかな。何を買っていたかは私はレジにいなかったからちょっと。でも鹿野さんはいつも漬物とかお野菜とかしか買わないので……」
『そうですか、ありがとうございます』
これで満足だと言わんばかりにAIが沈黙し、彼もぐだぐだと生産性のない話を勤務時間中にし始めたため、刑事達は店を後にした。
「おい、あんまり圧力かけるなよ」と刑事に引っ張られながらも店を出てすぐに、彼は彼女を諭した。これで店員の彼の印象まで悪くなってはこれまで積み上げてきた信頼が無駄になってしまう。信頼は得るのは難しいが、失うのは意外と簡単だからだ。
『あなたこそ、あんなにしどろもどろになって気持ちが悪い』
「おまえなあ」
その後、彼らは方々に今回の事件について聞いて回った。
捜査の役に立つような情報は皆無だったが、みんな一様に言えるのは夫婦の関係性については口を閉ざしがちだったことだけだ。さっぱり分からない、という感じでもなく、何か思い当たるような節がありそうな感じだったが、なぜかあまり話したがらなかった。これに見切りをつけた彼女の催促により、彼らは最後の場所に向かうことになった。
最後に彼らが来たのはガソリンスタンド。事務所で付けらていたテレビは明後日からまた大雪が降るということを伝え、住民に注意を促していた。
中村が、応対した中年の店員に事件の日に何か変わったことは無かった質問する。このガソリンスタンドは山の麓から程近かった。
「さあ、特に何も‥‥‥。あ、一応来訪者の名簿見ます? 役に立つかは分かりませんが」と親切にも店員が言ってくれた。彼はその好意に甘えることにする。
『なんの意味があるんです?』と彼女が聞く。
『現状私が推理していることでは車を使ったとは考えにくいんですが……』
まるで無駄だと切り捨てるように言う彼女。
彼は名簿をめくりながら答える。
「まあ、その無駄なことが後々じゅう…………え?」
彼の様子が気になったのか「どうしたんです?」と聞く中村。
それでも彼は答えない。周りの刑事たちが彼に「どうした」と問いかけたことは分かったが、それっきり彼の脳に音は入り込んでこなかった。
彼が、真相の赤い糸、それに肉薄したのだ。
今の彼の頭の中は量子コンピューターが如く情報が入り乱れ、秩序だってその情報たちが整理されていく。
速く、そして正確に、速く、そして正確に、速く、そして正確に……。それだけを念頭に置きながら、演繹的に推理を続けている。
膨大な情報で構成された一本の道。彼の思考はその道を全速力で駆けていく。
そして、その道の果てへとたどり着いた彼は、はっと顔をあげ、声を張り上げた。
「ああ、おいあの事件のあった山の反対側の登山道を調べろ!!」
「おい、急にどうした?」
「早くしろ!! また雪が降る前に!!」
彼の中で一つの扉が開いた瞬間だった。
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