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王子、苦悩する。
第4話ー4
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マルティン・アルデモートは王太子の執務室へと急ぎながらなぜ呼び出されたのかを考えていた。急ぎの用はなかったと思ったが。不備があったのだろうかと、執務室に入ると、王太子の視線は机の横、窓枠に固定されていた。
これはよっぽどお怒りなのかと身に覚えはないが背筋に冷たいものが走る。なかなか口を開かないヴェルターにマルティンはから声を掛けるわけにもいかず、マルティンは自分がしでかしただろうことを出来るだけ思い出すことに努める時間となった。
窓の外は季節の嵐で、歴史ある宮殿の窓はガタガタと大きな音を立てていた。……窓を強化しろとのことだろうか。それなら自分ではなくエアンが呼ばれるはずだ。
「マルティン」
ヴェルターの声にマルティンはひっ、と肩を上げた。
「はい、なんでございましょうか」
「君の意見を聞きたい」
「は、意見でございますか」
叱責を受けるのではないとほっとしたが、ヴェルターの視線はまだ窓枠にぎっちり固定されていて何の意見なのかなかなか聞かせて貰えなかった。
ふう、とため息を吐くと、ヴェルターは言った。
「マダム・シュナイダーの処遇についてだが」と。
予想だにしていない名前にマルティンはポカンとした。マダム・シュナイダーの処遇について、を自分に意見を求めるものか。彼女が不正でもしたのだろ……
「マルティン、昨日、リティアのドレスは見たか? 」
考えのまとまらないまま話が続けられ、マルティンはなぜかを考えるより昨日のリティアのドレスを思い出すことを優先した。
「ええ、見ました」
「何だと!? 見たのか!? 」
ヴェルターの窓枠の固定は外れ、王太子の綺麗な目が刺すように鋭くマルティンに向けられた。
「え、いえ。殿下が体で遮られたではありませんか。色ぐらいはわかりましたが」
「そうか」
ヴェルターの声はいつもの穏やかなものに変わり、視線もまた窓枠へと戻っていった。マルティンは早くなった鼓動を落ち着けるように息を整えた。何だっていうのだ。
「オリブリュス公爵令嬢のドレスがどうかなさいましたか」
「ああ、あれをデザインしたのがマダム・シュナイダーなのだが。あのドレスはいささか不備があるのではないか」
ヴェルターは小さく「忌々しい」と吐き捨てた。
「そうでしょうか」
マルティンは普段は感情を表に出さない王太子の態度に珍しいものを見る気持ちだった。
「肌の露出……が、多くないだろうか」
「そうでしょうか。最近の流行は襟ぐりが大きく開いたものですが、見たところ……令嬢のドレスは、」
あまり開いていなかった。袖も手首まで覆われて、と話しながら思い出す。
「見たところ、だと!? 」
マルティンは王太子の剣幕にひっと肩を跳ねさせたが、慌てて訂正する。
「顔をそちらに向ければ自然に目に入る範囲でございます」
「……そうか」
マルティンはふうふう息を吐いていたが、ヴェルターの視線が窓枠に固定されたのを確認するとヴェルターの意見を聞くことにした。
「殿下は令嬢をご覧になってどう思われましたか」
ヴェルターはうん、と咳払いして、そこからは随分と饒舌になった。
「あのような姿で馬車を下りて宮庭を歩くなどと危険だとは思わないのだろうか。いや、この豊かで平和なフリデン王国でことさら治安の良い首都ルーイヒにある宮殿ほど安全なところはない。ないがな、あのような姿では、んんんん。貴婦人に免疫のない若い男なんかは、惑わされるのではないか。いや、免疫などあったとしてもリティの前では無意味、つまり、私はリティの身だけを心配しているのではなく、懸想する輩も少なくないのではと思う。リティにはすでに婚約者がいるのだし、無駄な横恋慕、いや、そんな反逆を犯す輩はいないだろうが、リティアを見てしまった男には私が同情することになるかもしれないと危惧したのだ。あのような姿は、罪深い。そうは思わないか」
王国で屈指の頭脳を持つマルティンでも何を言っているのかわからなかった。何度“あのような姿”と言っただろうか。……3回。とマルティンは頭の中で数えた。
「つまり、殿下はリティア嬢のドレス姿は」
「……素晴らしかった」
ヴェルターは感嘆の言葉を述べた。窓枠に視線を固定してるがゆえにマルティンに表情は見えなかったが、恍惚としているに違いない声だった。
「ええ、ではマダム・シュナイダーの処遇については意見を相殺致しまして現状維持という事でいかがでしょうか」
「そうか。では、君の意見を尊重することにしよう」
「はい。では、私はこれで失礼しても? 」
「ああ」
「では」
「マルティン」
「は?」
マルティンはドアにかけた手を置いてヴェルターへ顔を向けた。
「今日は、比較的穏やかな天気だな」
「……え、ええ」
マルティンは執務室から出ると首を傾げた。廊下の窓もガタガタと揺れ、窓ガラスに雨粒が叩きつけられる音が聞こえた。……穏やかな天気とは?
マルティンは頭に手をやり自身の癖っ毛がいつもにも増してあっちこっちへ散っているのを確認すると、
「止みそうにないけどな……」と呟いた。
速足で仕事に戻りながら、ヴェルターの言葉を分析した。
なるほど。リティア嬢のドレスは気に入ったのか。だが、それを他の男に見せたくないと。“若い男”? 殿下より? ご自分が惑わされたということか。ご自分の婚約者殿に?
「何をいまさら」
マルティンは理不尽に呼ばれたことで滞った職務に戻るため、髪を弾ませて廊下を急いだ。
これはよっぽどお怒りなのかと身に覚えはないが背筋に冷たいものが走る。なかなか口を開かないヴェルターにマルティンはから声を掛けるわけにもいかず、マルティンは自分がしでかしただろうことを出来るだけ思い出すことに努める時間となった。
窓の外は季節の嵐で、歴史ある宮殿の窓はガタガタと大きな音を立てていた。……窓を強化しろとのことだろうか。それなら自分ではなくエアンが呼ばれるはずだ。
「マルティン」
ヴェルターの声にマルティンはひっ、と肩を上げた。
「はい、なんでございましょうか」
「君の意見を聞きたい」
「は、意見でございますか」
叱責を受けるのではないとほっとしたが、ヴェルターの視線はまだ窓枠にぎっちり固定されていて何の意見なのかなかなか聞かせて貰えなかった。
ふう、とため息を吐くと、ヴェルターは言った。
「マダム・シュナイダーの処遇についてだが」と。
予想だにしていない名前にマルティンはポカンとした。マダム・シュナイダーの処遇について、を自分に意見を求めるものか。彼女が不正でもしたのだろ……
「マルティン、昨日、リティアのドレスは見たか? 」
考えのまとまらないまま話が続けられ、マルティンはなぜかを考えるより昨日のリティアのドレスを思い出すことを優先した。
「ええ、見ました」
「何だと!? 見たのか!? 」
ヴェルターの窓枠の固定は外れ、王太子の綺麗な目が刺すように鋭くマルティンに向けられた。
「え、いえ。殿下が体で遮られたではありませんか。色ぐらいはわかりましたが」
「そうか」
ヴェルターの声はいつもの穏やかなものに変わり、視線もまた窓枠へと戻っていった。マルティンは早くなった鼓動を落ち着けるように息を整えた。何だっていうのだ。
「オリブリュス公爵令嬢のドレスがどうかなさいましたか」
「ああ、あれをデザインしたのがマダム・シュナイダーなのだが。あのドレスはいささか不備があるのではないか」
ヴェルターは小さく「忌々しい」と吐き捨てた。
「そうでしょうか」
マルティンは普段は感情を表に出さない王太子の態度に珍しいものを見る気持ちだった。
「肌の露出……が、多くないだろうか」
「そうでしょうか。最近の流行は襟ぐりが大きく開いたものですが、見たところ……令嬢のドレスは、」
あまり開いていなかった。袖も手首まで覆われて、と話しながら思い出す。
「見たところ、だと!? 」
マルティンは王太子の剣幕にひっと肩を跳ねさせたが、慌てて訂正する。
「顔をそちらに向ければ自然に目に入る範囲でございます」
「……そうか」
マルティンはふうふう息を吐いていたが、ヴェルターの視線が窓枠に固定されたのを確認するとヴェルターの意見を聞くことにした。
「殿下は令嬢をご覧になってどう思われましたか」
ヴェルターはうん、と咳払いして、そこからは随分と饒舌になった。
「あのような姿で馬車を下りて宮庭を歩くなどと危険だとは思わないのだろうか。いや、この豊かで平和なフリデン王国でことさら治安の良い首都ルーイヒにある宮殿ほど安全なところはない。ないがな、あのような姿では、んんんん。貴婦人に免疫のない若い男なんかは、惑わされるのではないか。いや、免疫などあったとしてもリティの前では無意味、つまり、私はリティの身だけを心配しているのではなく、懸想する輩も少なくないのではと思う。リティにはすでに婚約者がいるのだし、無駄な横恋慕、いや、そんな反逆を犯す輩はいないだろうが、リティアを見てしまった男には私が同情することになるかもしれないと危惧したのだ。あのような姿は、罪深い。そうは思わないか」
王国で屈指の頭脳を持つマルティンでも何を言っているのかわからなかった。何度“あのような姿”と言っただろうか。……3回。とマルティンは頭の中で数えた。
「つまり、殿下はリティア嬢のドレス姿は」
「……素晴らしかった」
ヴェルターは感嘆の言葉を述べた。窓枠に視線を固定してるがゆえにマルティンに表情は見えなかったが、恍惚としているに違いない声だった。
「ええ、ではマダム・シュナイダーの処遇については意見を相殺致しまして現状維持という事でいかがでしょうか」
「そうか。では、君の意見を尊重することにしよう」
「はい。では、私はこれで失礼しても? 」
「ああ」
「では」
「マルティン」
「は?」
マルティンはドアにかけた手を置いてヴェルターへ顔を向けた。
「今日は、比較的穏やかな天気だな」
「……え、ええ」
マルティンは執務室から出ると首を傾げた。廊下の窓もガタガタと揺れ、窓ガラスに雨粒が叩きつけられる音が聞こえた。……穏やかな天気とは?
マルティンは頭に手をやり自身の癖っ毛がいつもにも増してあっちこっちへ散っているのを確認すると、
「止みそうにないけどな……」と呟いた。
速足で仕事に戻りながら、ヴェルターの言葉を分析した。
なるほど。リティア嬢のドレスは気に入ったのか。だが、それを他の男に見せたくないと。“若い男”? 殿下より? ご自分が惑わされたということか。ご自分の婚約者殿に?
「何をいまさら」
マルティンは理不尽に呼ばれたことで滞った職務に戻るため、髪を弾ませて廊下を急いだ。
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