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建国祭(後半)
第9話ー3
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リティアはしばらく恋人たちの様子を眺めていた。こんなに人が多いのにまるでお互いの事しか見えていないようで、褒められた様子ではないのに、なぜだかとても羨ましかった。
ぼんやりしていると飲み物を買いに行ったヴェルターの帰りが遅い事に気が付いた。店は近くにあるはずなのに。リティアは目を走らせたが、リティアの目の届く範囲にはいなかった。不安になったリティアは立ち上がり、ヴェルターを探すことにした。彼の身の安全に不安を覚えたわけではなかった。
さっきみたいに女性に足止めされているのかもしれない。彼は優しいから無下に出来ないだろうし。
そう考えるとリティアの胸の内が穏やかではなくなって、つい足が急ぐ。ヴェルターは意外にもすぐに見つかった。近くにいるのが女性じゃなくてほっとする。ヴェルターはそこで古い友人と立ち話をしていた。横にはランハートとレオンがいた。二人も祭りを見に来たのか、たまたまここで会ったのだろう。だが軽装とはいえ貴族だとわかる二人と、平民服のヴェルターが気さくに話していると異質であるからか、物陰で話していた。リティアは見知った顔に自分も話に加わろうと近寄った。
私のこの髪、二人はなんて言うかしら。そう思うとわくわくする気持ちだった。
リティアは驚かしてやろうとそっと近づいた。
「……俺は……お前はどうなったんだ、ラン」
内容はよく聞き取れなかったがヴェルターの声が聞こえた。ヴェルターはごく近い関係の友人とプライベートな話をする時は砕けた話し方をする。
「……本人にプロポーズした」
ランハートが答えるとレオンがひゅーと口笛を吹く。
「最近は貴族でも政略結婚ではないのか? 」
ヴェルターが驚きの声を上げる。
「ああ。愛ある結婚も少なくないな。さすがに身分や国境を超えることは難しいがな。それも前例がないわけじゃない」
「言ってもランは、政治的にも問題ない家門の令嬢を選んで恋愛してるけどな。ランらしいぜ」
「……まあな。だが、愛は本物だ」
珍しいランハートの惚気にリティアはつい顔が緩む。声を掛けようともう一歩近づいた時だった。
「そうか。俺は……。結婚相手さえ自分で選べなかったな」
ヴェルターが呟いた。
「ああ。でも、」
レオンが口を挟もうとしたが、ヴェルターはふっと笑ったようだった。
「好きな子と結婚出来るってどんな気分なんだ、ラン」
リティアに背を向けているヴェルターの表情はわからなかったが、声は明るいものでは無かった。リティアはさーっと血の気が引くのを感じた。
リティアは誰にも気づかれないうちに背を向け早足でその場を去った。自分自身もヴェルターと同じ意見だった。物心ついた時には結婚相手は自分の意思なく決まっていて、全国民が知ることとなっている。婚約破棄を望み、すべての手筈を整えて自分の位置を悪女に譲るつもりだった。だが、それを目前にしてヴェルターに同じことを言われて傷つくのは身勝手だ。じわりと涙が滲み前が霞む。
涙と早足のせいで前をよく見ていなかった。バンッと誰かにぶつかってリティアは顔を上げた。
「失礼、お嬢さん。大丈夫ですか」
聞き覚えのある声に、誰であるかを確認しようとパチパチと瞬きをして涙を乾かす。相手も同じように瞬きを繰り返した。ゆっくりと脳が相手を認識した。漆黒の髪、ミステリアスな瞳。ウォルフリック・シュベリーだ。
「リティア! 髪色が違うから君だって気づくのに時間がかかったよ」
「ウォルフリック。あなたまでここに来ているなんて」
リティアが言うと、生真面目なウォルフリックは目に見えて動揺した。
「ああ、ちょっとね」
服は軽装だが、もしかして、とリティアは思った。
「ウォル、もしかして警備なの? 」
図星だったのかウォルフリックは目を泳がせた。
「いや、公の命ではなく、用が無い者は自主的にここにいる。非番だが用も無くて……」
「なるほど。だからレオンもいたのね」
「う、そうなんだ。不自然に見えないように、いや、半分は自分も楽しめるように誰かを誘って行けばいいと上官からアドバイスがあった」
「じゃあ、レオンたら、ランハートを誘ったの? なんて仲良しなの」
「……いや、そうじゃなくて。フリューリング卿は令嬢たちに連れて行ってくれってせがまれてね。たまたま通りかかったアルデモート卿と行くことになってると逃げたんだ」
「ふふふ、レオンたら。ランもなにも本当に来なくても。おかしいわ」
「うーん、あのままじゃ令嬢たちがつかみ合いの喧嘩でもし兼ねない雰囲気だったよ。いや、大変だね、彼も」
「何言ってるのあなただって……。あ、もしかして、どなたかと来ているの」
「その、たまたま通りかかった彼女を運良く誘えたんだ。勿論彼女を危険にさらしたりしないし、いざとなれば君と殿下のことは……」
「ストップ、ウォル。私たちは大丈夫よ。ちゃんと警備も厳重だわ。それに、平和な街で楽しい時間を台無しにしたい人なんていないわよ。非番の人まで出番はないはずよ。どうか楽しんで」
「ああ。君も。ブラウンの髪も素敵だね。リティ。じゃあ、もう行くね」
ウォルフリックはあっさりとリティアの元を去る。リティアは彼女の元へと急ぐウォルフリックを見送った。彼もさっきは彼女の元へ急ぎ過ぎて前を向いていなかったのだろうか。
ぼんやりしていると飲み物を買いに行ったヴェルターの帰りが遅い事に気が付いた。店は近くにあるはずなのに。リティアは目を走らせたが、リティアの目の届く範囲にはいなかった。不安になったリティアは立ち上がり、ヴェルターを探すことにした。彼の身の安全に不安を覚えたわけではなかった。
さっきみたいに女性に足止めされているのかもしれない。彼は優しいから無下に出来ないだろうし。
そう考えるとリティアの胸の内が穏やかではなくなって、つい足が急ぐ。ヴェルターは意外にもすぐに見つかった。近くにいるのが女性じゃなくてほっとする。ヴェルターはそこで古い友人と立ち話をしていた。横にはランハートとレオンがいた。二人も祭りを見に来たのか、たまたまここで会ったのだろう。だが軽装とはいえ貴族だとわかる二人と、平民服のヴェルターが気さくに話していると異質であるからか、物陰で話していた。リティアは見知った顔に自分も話に加わろうと近寄った。
私のこの髪、二人はなんて言うかしら。そう思うとわくわくする気持ちだった。
リティアは驚かしてやろうとそっと近づいた。
「……俺は……お前はどうなったんだ、ラン」
内容はよく聞き取れなかったがヴェルターの声が聞こえた。ヴェルターはごく近い関係の友人とプライベートな話をする時は砕けた話し方をする。
「……本人にプロポーズした」
ランハートが答えるとレオンがひゅーと口笛を吹く。
「最近は貴族でも政略結婚ではないのか? 」
ヴェルターが驚きの声を上げる。
「ああ。愛ある結婚も少なくないな。さすがに身分や国境を超えることは難しいがな。それも前例がないわけじゃない」
「言ってもランは、政治的にも問題ない家門の令嬢を選んで恋愛してるけどな。ランらしいぜ」
「……まあな。だが、愛は本物だ」
珍しいランハートの惚気にリティアはつい顔が緩む。声を掛けようともう一歩近づいた時だった。
「そうか。俺は……。結婚相手さえ自分で選べなかったな」
ヴェルターが呟いた。
「ああ。でも、」
レオンが口を挟もうとしたが、ヴェルターはふっと笑ったようだった。
「好きな子と結婚出来るってどんな気分なんだ、ラン」
リティアに背を向けているヴェルターの表情はわからなかったが、声は明るいものでは無かった。リティアはさーっと血の気が引くのを感じた。
リティアは誰にも気づかれないうちに背を向け早足でその場を去った。自分自身もヴェルターと同じ意見だった。物心ついた時には結婚相手は自分の意思なく決まっていて、全国民が知ることとなっている。婚約破棄を望み、すべての手筈を整えて自分の位置を悪女に譲るつもりだった。だが、それを目前にしてヴェルターに同じことを言われて傷つくのは身勝手だ。じわりと涙が滲み前が霞む。
涙と早足のせいで前をよく見ていなかった。バンッと誰かにぶつかってリティアは顔を上げた。
「失礼、お嬢さん。大丈夫ですか」
聞き覚えのある声に、誰であるかを確認しようとパチパチと瞬きをして涙を乾かす。相手も同じように瞬きを繰り返した。ゆっくりと脳が相手を認識した。漆黒の髪、ミステリアスな瞳。ウォルフリック・シュベリーだ。
「リティア! 髪色が違うから君だって気づくのに時間がかかったよ」
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リティアが言うと、生真面目なウォルフリックは目に見えて動揺した。
「ああ、ちょっとね」
服は軽装だが、もしかして、とリティアは思った。
「ウォル、もしかして警備なの? 」
図星だったのかウォルフリックは目を泳がせた。
「いや、公の命ではなく、用が無い者は自主的にここにいる。非番だが用も無くて……」
「なるほど。だからレオンもいたのね」
「う、そうなんだ。不自然に見えないように、いや、半分は自分も楽しめるように誰かを誘って行けばいいと上官からアドバイスがあった」
「じゃあ、レオンたら、ランハートを誘ったの? なんて仲良しなの」
「……いや、そうじゃなくて。フリューリング卿は令嬢たちに連れて行ってくれってせがまれてね。たまたま通りかかったアルデモート卿と行くことになってると逃げたんだ」
「ふふふ、レオンたら。ランもなにも本当に来なくても。おかしいわ」
「うーん、あのままじゃ令嬢たちがつかみ合いの喧嘩でもし兼ねない雰囲気だったよ。いや、大変だね、彼も」
「何言ってるのあなただって……。あ、もしかして、どなたかと来ているの」
「その、たまたま通りかかった彼女を運良く誘えたんだ。勿論彼女を危険にさらしたりしないし、いざとなれば君と殿下のことは……」
「ストップ、ウォル。私たちは大丈夫よ。ちゃんと警備も厳重だわ。それに、平和な街で楽しい時間を台無しにしたい人なんていないわよ。非番の人まで出番はないはずよ。どうか楽しんで」
「ああ。君も。ブラウンの髪も素敵だね。リティ。じゃあ、もう行くね」
ウォルフリックはあっさりとリティアの元を去る。リティアは彼女の元へと急ぐウォルフリックを見送った。彼もさっきは彼女の元へ急ぎ過ぎて前を向いていなかったのだろうか。
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