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建国祭(後半)
第9話ー4
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ウォルフリックの向かう先にはべルティーナ嬢の姿があった。彼女を見つめるウォルフリックの表情は熱に浮かされたようで、少年のように純粋だった。ウォルフリックが自分の元へと来るのを待つべルティーナ嬢の表情もまた彼に何かを期待した目をしていた。気持ちを、愛を、知りたい。そんな感情が瞳から彼に注がれていた。リティアは二人を通して自らの感情に向き合った。
疑似体験など必要ない。あれが恋というのならば……。私はこの感情を知っている。
リティアは収まったばかりの涙の兆候を感じ、逃すために二人から視線を逸らした。戻らなくては。そう思いヴェルターと別れた噴水まで向かった。ほぼ同時に戻ったようでヴェルターの後ろ姿が見えた。
「どこかへ行ってたの、リティ」
「ええ、あなたの帰りが遅かったから少しうろうろしてたの」
「ああ、ごめん。レオとランに偶然出会って立ち話をね。髪色を変えても僕はすぐわかるって言われちゃったよ」
リティアは知っていたことを知らない振りして誤魔化した。
「そうね。私もそう思うわ」
「そうか。残念だな」
ヴェルターは前髪を一束持って自分の髪を確認するとそう言った。
「残念? どういう意味? 」
「僕は誰かにはなれないってことさ」
「それはそうでしょう」
「うん」
ヴェルターはどこかもの悲し気な笑顔だった。リティアはどうかしたのかとヴェルターに尋ねようとしたタイミングだった。ひと際目立つ出で立ちの紳士が前から歩いて来た。ヴェルターは大きなため息を吐いた。
「あの人……」
ヴェルターはさっと背を向け、群衆の目に着きにくい場所へと進む。
「すまない、ヴェルター。邪魔したか? 」
「ええ、叔父上。何のために髪まで染めたのか察していただけますか」
「……ごめんなさい」
リティアはアデルモ・フォン・エアハルドの前では妙に子供っぽく感じられるヴェルターを見るのが好きだった。
「ごめんなさい」
高潔な彼も甥っ子には弱いのだ。しゅんとしたアデルモについ吹き出してしまうと、アデルモはリティアを見てますます目じりを下げた。
「かっわいいな、リティ。ブラウンの髪も良く似合う」
腕を伸ばし何のためらいもなくリティアを抱きかかえるアデルモをヴェルターが止める。
「叔父上! レディに何てことを」
「あ、そうか。でもまだこんなに小さいぞ? 」
「おじさま、私はもうとっくに成長はとまっておりますわ」
とはいえ、懐かしくてリティアも子供のようにはしゃぐ。アデルモは人を油断させるのが得意だった。が、久しぶりの再会に盛り上がるには見物人が多かった。
「……ああ、そうだった」
アデルモの後ろには多くの美女たちがこちらをほほえましく見ていた。アデルモが声を落とす。
「いやぁ、ラゥルウントは本当に美女が多い」
アデルモの言葉通りだった。アンを見た時も驚いたが、本当に綺麗な人たちだった。それぞれに簡易な挨拶を交わす。
「叔父上、この方々とは? 」
「うむ。街を見たいと言うのでな。案内をしている。簡単に言うと君たちと同じ。デートだ」
「どこが同じなのですか、全く」
「はは。あまり邪魔をしてはいけないからな。また後日、正式に会おう。せっかくここへ来ているのに時間が足りないな。正式に会った後にもまた会おう。私がこっちにいる間毎日でも構わない」
「……ああ、はい」
「時間の許す限り、会おう」
「ああ、はいはい」
アデルモはリティアにウィンクして去っていった。
「あははは、もうおじさま大好き」
「いい加減落ち着いて欲しいよ。何だよ、団体でデートって」
「すごく綺麗な方だったわね。特に前にいらっしゃった、あれ……? どこかでお会いしたことがあったかしら」
「いや、知らないが、彼が直々に案内しているということは、来賓の可能性がある。それなら後日また正式にお会いすることになるだろうね」
ラゥルウントに知り合いなどいるわけは無かったが、なぜか知っている面影を感じた。ふわり彼らの残した香りにも覚えがあった。
「あ、髪を、どなたかも髪を染めてらっしゃるのだわ」
それは、染色料の香りだった。誰であるか、招待を隠したい身分の高い令嬢ってことだろう。だが、アデルモといる限り目立って仕方ないのだろうと思うと笑えて来てしまった。
「そうだね。叔父上は隠れる気がないんだけどね。ありがたいことだ」
「どういうこと? 」
「自らが案内することで他国の令嬢にこの国は王族が平民と同じように祭りを楽しめるほど王都が安定してるという開示をしているんだ。父上や僕にそれをさせられないからね。まぁ、僕はこうやってこっそりしてるんだけど。でもそれもわかってて自分に目が集まるように今日を選んでくれてるのさ、あの人は」
「……素敵な人ね。やっぱり大好きだわ」
「……君を考えなしに抱き上げたりしなければもっと素敵なんだけどね」
アデルモは、街の人から歓声を浴びて手を振っていた。王族の象徴である銀の髪がキラキラと輝いていた。一緒に歩いている令嬢たちの目に密かに敬慕の情が映っているように見えた。
「モテるでしょうね、おじさまは」
「だろうね。結婚出来ないって言ってるけど、自分の結婚という切り札をまだ使いたくないんだよ」
「ええ、何か考えがおありなのでしょうね」
アデルモは何も考えてないように振る舞いながら一番国の利益を考える人だった。
「私たちもデートの続きをしましょうか」
リティアはアデルモに出会ったことで陽気な気持ちになり他意なくその言葉を使ったのだったが、ヴェルターの身体が一瞬強張ったのを見てヴェルターにそんなつもりはなかったのだと感じた。
「そんな風に見せた方がいいと思った……だけで、深い意味はないの」
「はは、うん。そうだね。リティ他に見たいところある? 」
「いいえ。でももう少しこの夜の熱気を感じたいわ」
「じゃあ、もう少し歩いてみようか」
リティアは歩きながら飲み物を飲むという初めての経験を楽しんだ。
疑似体験など必要ない。あれが恋というのならば……。私はこの感情を知っている。
リティアは収まったばかりの涙の兆候を感じ、逃すために二人から視線を逸らした。戻らなくては。そう思いヴェルターと別れた噴水まで向かった。ほぼ同時に戻ったようでヴェルターの後ろ姿が見えた。
「どこかへ行ってたの、リティ」
「ええ、あなたの帰りが遅かったから少しうろうろしてたの」
「ああ、ごめん。レオとランに偶然出会って立ち話をね。髪色を変えても僕はすぐわかるって言われちゃったよ」
リティアは知っていたことを知らない振りして誤魔化した。
「そうね。私もそう思うわ」
「そうか。残念だな」
ヴェルターは前髪を一束持って自分の髪を確認するとそう言った。
「残念? どういう意味? 」
「僕は誰かにはなれないってことさ」
「それはそうでしょう」
「うん」
ヴェルターはどこかもの悲し気な笑顔だった。リティアはどうかしたのかとヴェルターに尋ねようとしたタイミングだった。ひと際目立つ出で立ちの紳士が前から歩いて来た。ヴェルターは大きなため息を吐いた。
「あの人……」
ヴェルターはさっと背を向け、群衆の目に着きにくい場所へと進む。
「すまない、ヴェルター。邪魔したか? 」
「ええ、叔父上。何のために髪まで染めたのか察していただけますか」
「……ごめんなさい」
リティアはアデルモ・フォン・エアハルドの前では妙に子供っぽく感じられるヴェルターを見るのが好きだった。
「ごめんなさい」
高潔な彼も甥っ子には弱いのだ。しゅんとしたアデルモについ吹き出してしまうと、アデルモはリティアを見てますます目じりを下げた。
「かっわいいな、リティ。ブラウンの髪も良く似合う」
腕を伸ばし何のためらいもなくリティアを抱きかかえるアデルモをヴェルターが止める。
「叔父上! レディに何てことを」
「あ、そうか。でもまだこんなに小さいぞ? 」
「おじさま、私はもうとっくに成長はとまっておりますわ」
とはいえ、懐かしくてリティアも子供のようにはしゃぐ。アデルモは人を油断させるのが得意だった。が、久しぶりの再会に盛り上がるには見物人が多かった。
「……ああ、そうだった」
アデルモの後ろには多くの美女たちがこちらをほほえましく見ていた。アデルモが声を落とす。
「いやぁ、ラゥルウントは本当に美女が多い」
アデルモの言葉通りだった。アンを見た時も驚いたが、本当に綺麗な人たちだった。それぞれに簡易な挨拶を交わす。
「叔父上、この方々とは? 」
「うむ。街を見たいと言うのでな。案内をしている。簡単に言うと君たちと同じ。デートだ」
「どこが同じなのですか、全く」
「はは。あまり邪魔をしてはいけないからな。また後日、正式に会おう。せっかくここへ来ているのに時間が足りないな。正式に会った後にもまた会おう。私がこっちにいる間毎日でも構わない」
「……ああ、はい」
「時間の許す限り、会おう」
「ああ、はいはい」
アデルモはリティアにウィンクして去っていった。
「あははは、もうおじさま大好き」
「いい加減落ち着いて欲しいよ。何だよ、団体でデートって」
「すごく綺麗な方だったわね。特に前にいらっしゃった、あれ……? どこかでお会いしたことがあったかしら」
「いや、知らないが、彼が直々に案内しているということは、来賓の可能性がある。それなら後日また正式にお会いすることになるだろうね」
ラゥルウントに知り合いなどいるわけは無かったが、なぜか知っている面影を感じた。ふわり彼らの残した香りにも覚えがあった。
「あ、髪を、どなたかも髪を染めてらっしゃるのだわ」
それは、染色料の香りだった。誰であるか、招待を隠したい身分の高い令嬢ってことだろう。だが、アデルモといる限り目立って仕方ないのだろうと思うと笑えて来てしまった。
「そうだね。叔父上は隠れる気がないんだけどね。ありがたいことだ」
「どういうこと? 」
「自らが案内することで他国の令嬢にこの国は王族が平民と同じように祭りを楽しめるほど王都が安定してるという開示をしているんだ。父上や僕にそれをさせられないからね。まぁ、僕はこうやってこっそりしてるんだけど。でもそれもわかってて自分に目が集まるように今日を選んでくれてるのさ、あの人は」
「……素敵な人ね。やっぱり大好きだわ」
「……君を考えなしに抱き上げたりしなければもっと素敵なんだけどね」
アデルモは、街の人から歓声を浴びて手を振っていた。王族の象徴である銀の髪がキラキラと輝いていた。一緒に歩いている令嬢たちの目に密かに敬慕の情が映っているように見えた。
「モテるでしょうね、おじさまは」
「だろうね。結婚出来ないって言ってるけど、自分の結婚という切り札をまだ使いたくないんだよ」
「ええ、何か考えがおありなのでしょうね」
アデルモは何も考えてないように振る舞いながら一番国の利益を考える人だった。
「私たちもデートの続きをしましょうか」
リティアはアデルモに出会ったことで陽気な気持ちになり他意なくその言葉を使ったのだったが、ヴェルターの身体が一瞬強張ったのを見てヴェルターにそんなつもりはなかったのだと感じた。
「そんな風に見せた方がいいと思った……だけで、深い意味はないの」
「はは、うん。そうだね。リティ他に見たいところある? 」
「いいえ。でももう少しこの夜の熱気を感じたいわ」
「じゃあ、もう少し歩いてみようか」
リティアは歩きながら飲み物を飲むという初めての経験を楽しんだ。
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