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レミレニア編
94話 事のコスト①
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気が付いた時には、どこかの室内だった。
差し込む夕日に釣られ、近くの窓を覗く。
レミレニアの建物の上層階…というか、酒場のすぐ近くだ。
仕切りを挟んで空きベッドが並んでいる。ギルド管轄の救護施設といったとこだろう。
「…気が付いた?」
ついたての向こう側、に待合の席でもあるのだろう、エンが様子を見にやってくる。
「あぁ、多分大丈夫だ。」
「色々と話すべき事はあるけど、まずは言わなきゃね。
…ありがと、力を貸してくれて。」
「いや、僕は僕の冒険者としてやるべき事を、やっただけだよ。
それで、ディエルの方はどうなった?」
「ディエル…というか『魔力の根源』は討伐に指定されてたけど、今は要監視になった。
直ちに脅威にはならず、一度『魔王化』を経験した貴重な例として、研究も兼ねた検査。
終わって大丈夫と判断したら解放だって。」
「そうか、よかった。」
まだ少し気が張っていたのだろう。目的を果たした安心感で、疲れが一気に来る。
聞きたい事はあったが、どう切り出したものか、そもそも聞いて大丈夫なものなのかと迷う。
そんな沈黙の時間を破ったのは、エンの方だった。
「憧れ、だったんだね。ああいう冒険が。
遺跡を探索したり、強い魔物と戦ったりっていう。」
静かな口調だが、見透かした言葉にどきっとする。
アスレィの「竜討伐」を想起してしてたのがバレた? 確かにモチベーションには繋がったけど、重ねるつもりはなかったし、討伐しようなんて事も全然──
「いや、別にそういう訳じゃ──」
「ううん、もっと本質的なところ。」
エンが何か覚悟を決めたように言葉を続ける。
「…言わない方が不誠実だと思うから、言うね。
あの術の時、ついでで見えてしまったの。そういう冒険を求めてた事、今回のはまさにそういう冒険だったって事。
動機はどうだっていいの。悪意があった訳でもないし、現にそれで助けてもらったんだし。
ただ…その左腕は、納得ずくって事でいいんだよね…?」
受け入れる覚悟ができるまで、考えを反らし見ないようにしていた。けどエンの言葉に不思議と勇気が湧き、左腕の方に目をやる。
左肘があった所には包帯が巻いてあり、その先はなくなっていた。
「ま、まぁね。
片腕を犠牲にってほら、英雄譚としてはよくできてるだろ?
それにほら、片腕でも名を残す剣豪とかだって……。」
元々片手剣1本でやってた訳だし、魔術の補助道具でもあればまだやれる。
だが、二刀流も悪くないと思い始めてただけに、やりきれない想いもある。
「ごめん、私が無茶な頼みをしたせいで。」
「…リスクは承知した上で、自分で選んだやり方だ。エンが気にする事じゃないよ。」
「……分かった。そう思う事にする。」
エンのその言葉には、複雑な心境がこもっていた。
差し込む夕日に釣られ、近くの窓を覗く。
レミレニアの建物の上層階…というか、酒場のすぐ近くだ。
仕切りを挟んで空きベッドが並んでいる。ギルド管轄の救護施設といったとこだろう。
「…気が付いた?」
ついたての向こう側、に待合の席でもあるのだろう、エンが様子を見にやってくる。
「あぁ、多分大丈夫だ。」
「色々と話すべき事はあるけど、まずは言わなきゃね。
…ありがと、力を貸してくれて。」
「いや、僕は僕の冒険者としてやるべき事を、やっただけだよ。
それで、ディエルの方はどうなった?」
「ディエル…というか『魔力の根源』は討伐に指定されてたけど、今は要監視になった。
直ちに脅威にはならず、一度『魔王化』を経験した貴重な例として、研究も兼ねた検査。
終わって大丈夫と判断したら解放だって。」
「そうか、よかった。」
まだ少し気が張っていたのだろう。目的を果たした安心感で、疲れが一気に来る。
聞きたい事はあったが、どう切り出したものか、そもそも聞いて大丈夫なものなのかと迷う。
そんな沈黙の時間を破ったのは、エンの方だった。
「憧れ、だったんだね。ああいう冒険が。
遺跡を探索したり、強い魔物と戦ったりっていう。」
静かな口調だが、見透かした言葉にどきっとする。
アスレィの「竜討伐」を想起してしてたのがバレた? 確かにモチベーションには繋がったけど、重ねるつもりはなかったし、討伐しようなんて事も全然──
「いや、別にそういう訳じゃ──」
「ううん、もっと本質的なところ。」
エンが何か覚悟を決めたように言葉を続ける。
「…言わない方が不誠実だと思うから、言うね。
あの術の時、ついでで見えてしまったの。そういう冒険を求めてた事、今回のはまさにそういう冒険だったって事。
動機はどうだっていいの。悪意があった訳でもないし、現にそれで助けてもらったんだし。
ただ…その左腕は、納得ずくって事でいいんだよね…?」
受け入れる覚悟ができるまで、考えを反らし見ないようにしていた。けどエンの言葉に不思議と勇気が湧き、左腕の方に目をやる。
左肘があった所には包帯が巻いてあり、その先はなくなっていた。
「ま、まぁね。
片腕を犠牲にってほら、英雄譚としてはよくできてるだろ?
それにほら、片腕でも名を残す剣豪とかだって……。」
元々片手剣1本でやってた訳だし、魔術の補助道具でもあればまだやれる。
だが、二刀流も悪くないと思い始めてただけに、やりきれない想いもある。
「ごめん、私が無茶な頼みをしたせいで。」
「…リスクは承知した上で、自分で選んだやり方だ。エンが気にする事じゃないよ。」
「……分かった。そう思う事にする。」
エンのその言葉には、複雑な心境がこもっていた。
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