100 / 228
レミレニア編
100話 水底
しおりを挟む
翌日、再び3人で待ち合わせ。
場所はエンの方から希望があり、魔力濃度の低い近場の森。人が少ない場所の方がやりやすいとの事だ。
「…精神魔術なんてなるべく使いたくないから、今回は特別だからね?」
「はい。でも、じぶんの事くらいは知りたいので。
おねがいします。」
事のきっかけは、ラディとの会話の中でのちょっとした思い付きだった。
エンの精神魔術の中で、それぞれの過去の記憶に触れる事ができた。
なら、ラディの過去も探る事ができるのではないか、と。
「じゃあ…行くね。」
エンの青い目が煌き、それと同色の光を手の間に溜める。
静かに広がるその球体が、3人を包み込む。
浮かぶ映像は、ディエルの時よりもくっきりと見えた。
深く広い、紺色の空間。そこに点在する、ラディ目線の思い出。
この数日でのハルドレーンさんとの猛特訓の事、魔法道具屋で戦力補強した時の事。そして、銀鞭戦で初めて自分で仕留めた時の事。
同時にその時のラディの感情。悔恨、期待、歓喜。
奥の方に進む程に数は減っていき、やがて周囲に何も無い空間がただただ広がる。
空間は暗くなっていき、見通しが悪くなっていき。
その最奥に何かが見えた気がして──
「うおっとと。」
不意に、はじけるように元の景色に戻る。
どうにか転ばず済んだが、まだ浮遊感が残ってる。
「ちょっとだけ見えた。私の力量じゃ、それが限界点。
詳しい事は、何も……。」
「どんな小さい情報でもいいので、おねがいします。」
良くないと思うような内容だったのだろう、淀みながらエンが答える。
「どっかの屋内、壁の感じからして中型施設かな。そこに捕らえられていた…というよりは、逃げるという意思すら無かった?
徒人かエルフの人がいて、顔までは見えなかったけど、その時の呼び名まではどうにか分かった。」
呼び名…最初に名前を聞いた時の事を思い出す。ラディ自身が記憶から引き出した、僅かな手掛かり。
「なんと、呼ばれてたのでしょうか?」
「…『フラッディ』。洪水を意味する言葉ね。」
「こうずい?」
「水に関する災害の1つ。最悪の場合、街が丸ごと流されるほどの河川の氾濫。
危険性のある所では専門の対策員も置かれる程のね。」
今でこそその被害は聞かないが、伝承の中ではよく聞く災害だ。中には水術で意図的に氾濫させて武器にした、なんて話もあるくらいに。
「それ以外は記憶に残ってない…というより、覚えるという意思も無かった、といった感じね。だから、これが最初にかなり近い記憶だと思う。
…ごめん。これくらいしか分からなくて。」
「いえ、何も分からない状態だったので。すこしの事でも助かります。」
「ただ…どういう理由であれ、災害の名で呼ぶなんてきっと碌でもない奴よ。
これ以上の深入りは嫌な予感もするし、一応私からは『やめた方がいい』とだけ添えておく。
それでも、謎を追い求める?」
ラディの様子には探求したいという意思が見える。
しかしこちらを気にし、様子をうかがってくる。
「セイルさんは、よろしいでしょうか……?」
「なにもフィールドワークだけが『冒険』じゃない。
街を回ればラディの過去に繋がる話に出会えるかもしれない。その『部屋』に思いがけず行く事があるかもしれない。
だから、目的の一つとして手伝うよ。ラディの過去探し。」
「なるほど、冒険者の性、ってやつね。
分かった。私も情報気にしてはみるね。偶然便りにはなっちゃうけど。」
「はい、ありがとうございます!」
最初はふわっとしてた「歴史に名を残す」目的はおそらく一度達し、目指すイメージは分かってきた。
そこにラディの事の目的が加わり、静かに新たな冒険に高揚してきた。
場所はエンの方から希望があり、魔力濃度の低い近場の森。人が少ない場所の方がやりやすいとの事だ。
「…精神魔術なんてなるべく使いたくないから、今回は特別だからね?」
「はい。でも、じぶんの事くらいは知りたいので。
おねがいします。」
事のきっかけは、ラディとの会話の中でのちょっとした思い付きだった。
エンの精神魔術の中で、それぞれの過去の記憶に触れる事ができた。
なら、ラディの過去も探る事ができるのではないか、と。
「じゃあ…行くね。」
エンの青い目が煌き、それと同色の光を手の間に溜める。
静かに広がるその球体が、3人を包み込む。
浮かぶ映像は、ディエルの時よりもくっきりと見えた。
深く広い、紺色の空間。そこに点在する、ラディ目線の思い出。
この数日でのハルドレーンさんとの猛特訓の事、魔法道具屋で戦力補強した時の事。そして、銀鞭戦で初めて自分で仕留めた時の事。
同時にその時のラディの感情。悔恨、期待、歓喜。
奥の方に進む程に数は減っていき、やがて周囲に何も無い空間がただただ広がる。
空間は暗くなっていき、見通しが悪くなっていき。
その最奥に何かが見えた気がして──
「うおっとと。」
不意に、はじけるように元の景色に戻る。
どうにか転ばず済んだが、まだ浮遊感が残ってる。
「ちょっとだけ見えた。私の力量じゃ、それが限界点。
詳しい事は、何も……。」
「どんな小さい情報でもいいので、おねがいします。」
良くないと思うような内容だったのだろう、淀みながらエンが答える。
「どっかの屋内、壁の感じからして中型施設かな。そこに捕らえられていた…というよりは、逃げるという意思すら無かった?
徒人かエルフの人がいて、顔までは見えなかったけど、その時の呼び名まではどうにか分かった。」
呼び名…最初に名前を聞いた時の事を思い出す。ラディ自身が記憶から引き出した、僅かな手掛かり。
「なんと、呼ばれてたのでしょうか?」
「…『フラッディ』。洪水を意味する言葉ね。」
「こうずい?」
「水に関する災害の1つ。最悪の場合、街が丸ごと流されるほどの河川の氾濫。
危険性のある所では専門の対策員も置かれる程のね。」
今でこそその被害は聞かないが、伝承の中ではよく聞く災害だ。中には水術で意図的に氾濫させて武器にした、なんて話もあるくらいに。
「それ以外は記憶に残ってない…というより、覚えるという意思も無かった、といった感じね。だから、これが最初にかなり近い記憶だと思う。
…ごめん。これくらいしか分からなくて。」
「いえ、何も分からない状態だったので。すこしの事でも助かります。」
「ただ…どういう理由であれ、災害の名で呼ぶなんてきっと碌でもない奴よ。
これ以上の深入りは嫌な予感もするし、一応私からは『やめた方がいい』とだけ添えておく。
それでも、謎を追い求める?」
ラディの様子には探求したいという意思が見える。
しかしこちらを気にし、様子をうかがってくる。
「セイルさんは、よろしいでしょうか……?」
「なにもフィールドワークだけが『冒険』じゃない。
街を回ればラディの過去に繋がる話に出会えるかもしれない。その『部屋』に思いがけず行く事があるかもしれない。
だから、目的の一つとして手伝うよ。ラディの過去探し。」
「なるほど、冒険者の性、ってやつね。
分かった。私も情報気にしてはみるね。偶然便りにはなっちゃうけど。」
「はい、ありがとうございます!」
最初はふわっとしてた「歴史に名を残す」目的はおそらく一度達し、目指すイメージは分かってきた。
そこにラディの事の目的が加わり、静かに新たな冒険に高揚してきた。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された元OL悪役令嬢、コンサル知識で潰れかけのギルドを王国一に再建します
黒崎隼人
ファンタジー
エルムガンド王国の第一王子から、卒業パーティーの最中に婚約破棄を宣告された公爵令嬢イザベラ。
断罪のショックで、彼女は自分が現代日本で経営コンサルタントとして働いていた前世の記憶を取り戻す。
ここは乙女ゲームの世界。このままでは爵位剥奪、領地没収の破滅ルートが待っている!
「冗談じゃない。そんな未来、絶対に受け入れてなるものか」
イザベラは破滅フラグを回避するため、父の道楽である赤字続きの冒険者ギルド「白銀の獅子」の運営を引き継ぐことを宣言。
前世で培った現状分析、プロジェクト管理、成果報酬制度などのビジネススキルを駆使し、潰れかけのギルドの改革に乗り出す。
クエストの可視化、新人教育、そしてエルフの賢者や獣人ギルドのマスターとの異種族間連携。
最初は彼女を馬鹿にしていた荒くれ者の冒険者たちも、その圧倒的な手腕とカリスマ性に惹かれ、いつしか彼女の頼もしい仲間となっていく。
やがて彼女のギルドは王都最大の組織へと成長し、彼女を陥れた敵の陰謀すらも打ち砕く!
恋愛よりも仕事! 最高の仲間たちと共に、すべての種族が笑って暮らせる未来を創り上げる、元悪役令嬢の痛快お仕事ファンタジー、開幕!
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる