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11. 婚約者候補と困ったちゃん❜s
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婚約者候補って何よ?
候補よ? 候補って!? さすがにお父様も驚いたようですけど。
何でも、婚約者候補は私を含めて5人らしい。5人が適正人数かは判らないが、基準はやっぱり家柄だろう。上位貴族から順に、年頃の釣り合う娘を当てていった結果ということか。
「余り多くても選べないし、少なければ自分で決めた感が無さそうだし・・・」
現在の国王陛下と王妃は、自由恋愛で一番ふさわしい相手と結婚したと言われている。何でも、王妃の社交界デビューの舞踏会で、国王が名前も知らないまま恋をして、そのまま結婚に辿り着いたという奇跡のラブストーリーの主人公なのだ。
「それを自分の息子にもと思って、5年前にお茶会兼顔合わせ会を開いたのでしょう? でも、その時にそんなラブロマンスは一切起こらなかった訳よ」
自室に引きこもったシュゼットは、マリを相手に冷静に怒っていた。
「それどころか、お嬢様に 『ツンツン、プニプニの刑』 と 『このっ! 白パンダ!!』 の罵声を浴びせたのですね」
「そう! この白パンダって、違うわよ! 笑っていたの!! とっても嬉しそうに!!」
今思い出しても腹が立つというか、ムカつくと言うか……悲しくなるというか!
「本当に嬉しそうに笑ってたのよ? 私が女の子であることも、初めての王宮でカチンコチンに緊張していたことも、何にもヤツは見ていなかったわ! 面白い玩具を見つけたような無邪気さで!」
そうだ。全く邪気が感じられなかった。だから、彼は純粋にそう思ったから言ったのだ。
『白パンダ』
いっそ、悪口を故意に言ったという方が救われるかもしれない。
太っていて、丸々して、ゆっくり動いて、食べてばかりいるイメージ。
確かに当時のシュゼットは肌の色が白く、身体もむっちむち、顔もパンパンに膨らんだ糸目のぬいぐるみのような身体だった。ふわふわ金髪の丸々した少女は、自分の気弱さと自信の無さをお肉で包んで守っていたのだ。
面と言われて初めて自分が、みっともなく見えている事を知った。公爵家で大事に育てられていた少女にはそんな言葉を掛ける者は誰もいなかったから。
『おまえ、白パンダみたいだな?』
笑いながら言った彼は、サラサラの銀髪に澄んだ緑色の瞳のキレイな少年だった。一段高い王族の椅子に座っているのを見た時は、胸が高鳴った気がした。本当に王子様だったから。
「まあ、そのお綺麗な王子様は、考え無しで、デリカシーも無いガキンチョだった訳よ?」
あの大きな声が周りに聞こえることも、周りがどんな態度を取るかも判らなかったのだ。そして、言われた私がどんな気持ちになるかを。
「あー。鮮明に思い出してきたわ。10歳のヤツの笑い顔を!」
とにかく、国王陛下から直に言われた婚約者候補の話は反故にはできない。確かに年回りも家柄も申し分ないのだから、とりあえず候補に入れておかないと示しがつかないということのようだ。まったく、変に気を使ってくれたものだ。
「でも、お嬢様、候補って何をするんですか? まさか、ずっと王子様の傍に侍っているとか?」
「15歳の少女にソレは無いわ。とにかくヤツは17歳までの2年間で婚約者を決めるらしいから。それまでは、候補者はハメを外さない程度に、自然に生活していて良いみたい。まあ、舞踏会やパーティーやらの社交行事には、婚約者候補として参加させられるし、婚約者になりたかったら積極的に近づくわね」
「お嬢様は?」
「近づくわけ無いじゃない!! でも、ヤツに振られるっていうのも嫌だわ」
複雑だ。振られるのは嫌だし、自分から振ることは諸々の事情から難しい。でも、仕返しをするために今の自分があるのだ。さて、どうしたものか?
「とにかく、仕返しは良く考えてやらないと。それに、絶対婚約者になんか選ばれないようにしなくちゃね! エイエイオー!!」
二人は、拳を上げて決意した。
婚約者になんか、ならないぞーっ!! と。
王立学院、放課後。
「さあ、帰ります!! 殿下! 早くご準備して下さい!」
授業終了の鐘が鳴ると同時に、セドリックは教科書を鞄にしまいだした。普段ならば、授業の終わった教師を捕まえて質問やらをぶつけているはずだが。今日は朝の宣言通りに、一刻の猶予も無いとばかりに帰り支度をしていた。
「ああ! 殿下、早くして下さい。Pink・Pink・Candiesに早く行かなければ!!」
「なんだそれは? どこに行くって?」
セドリックが、殿下と呼んだ少年の鞄を一緒に持って急かすように立ちあがった。
「ご存じないですか? 女学生に人気のキャンディーショップですよ!!」
「いや、そうじゃなくて、何のために行くんだ?」
「殿下!! 初めて行く家に手土産も無しに行けますか? 1年間の留学の成果は、センスの良さでも現れていることを見せなければ!!」
「……それで、女生徒に人気がある評判のキャンディーを買いに行くのか」
セドリックは急ぎ足で馬車寄せに向かう。
「殿下! 置いていきますよ! 一番人気の苺キャラメルが売切れたら、目も当てられませんよ!!」
「……セドリック。お前……」
殿下と呼ばれている少年はフーッと溜息を吐いた。まったくコイツは面白い奴だ。でも、彼女が甘いキャンディーを食べて、蕩ける様な笑顔を見せてくれるのは良い。できれば、それが自分のしたことなら尚のこと良い。
「セドリック、土産は私が買おう。連れて行ってもらうのだからな?」
「結構です!!」
瞬殺で却下された。まったく失礼な奴だ、と思わず口元が綻んだ。
「お嬢様、お客様のお菓子はこちらになります」
「あ、ありがとう。昨夜も美味しかったけど、今日は違う種類なのね?」
放課後にセドリックが来ると連絡があったので、シュゼットはマリと準備に余念がない。きっと、何かにつけて張り合う彼の事だからと、菓子やお茶にも趣向を凝らす。
「これはチーズケーキですね? 甘くないお菓子ってあまり聞かないですけど? どうしたんですか?」
実は、ハート教授が甘い物が苦手らしいので 『甘い物が苦手な男性用のお菓子』 を知りたかったのだ。チーズクッキーは食べていたから大丈夫なはず。今後の作戦によっては、差し入れに使うこともあるかもしれない。
「そういうことですか。さすがお嬢様、若干の腹黒さがイイ感じですね? こっちは、どっしり系のチーズタルトで、こっちはスフレの軽いチーズケーキですね。これは?」
「何か軽くディスられたような気がするけど? これは、ソルトナッツクッキー。最近話題の岩塩を使ったクッキーよ。キャラメリゼしたナッツが良い歯ごたえなの。調理長が頑張ってくれたのよ」
シュゼットとマリがテーブルを可愛らしくセッティングしている。ティーセットも可愛らしい花柄で、シュゼットの見た目イメージにぴったりだ。
「お嬢様」
執事のマシューが来客を告げる。
「セドリック様と、エーリック殿下がお見えになりました」
(げっ! エーリック殿下ですと?)
開かれた扉の向こうで、にこやかに微笑む黒髪の少年がいた。
候補よ? 候補って!? さすがにお父様も驚いたようですけど。
何でも、婚約者候補は私を含めて5人らしい。5人が適正人数かは判らないが、基準はやっぱり家柄だろう。上位貴族から順に、年頃の釣り合う娘を当てていった結果ということか。
「余り多くても選べないし、少なければ自分で決めた感が無さそうだし・・・」
現在の国王陛下と王妃は、自由恋愛で一番ふさわしい相手と結婚したと言われている。何でも、王妃の社交界デビューの舞踏会で、国王が名前も知らないまま恋をして、そのまま結婚に辿り着いたという奇跡のラブストーリーの主人公なのだ。
「それを自分の息子にもと思って、5年前にお茶会兼顔合わせ会を開いたのでしょう? でも、その時にそんなラブロマンスは一切起こらなかった訳よ」
自室に引きこもったシュゼットは、マリを相手に冷静に怒っていた。
「それどころか、お嬢様に 『ツンツン、プニプニの刑』 と 『このっ! 白パンダ!!』 の罵声を浴びせたのですね」
「そう! この白パンダって、違うわよ! 笑っていたの!! とっても嬉しそうに!!」
今思い出しても腹が立つというか、ムカつくと言うか……悲しくなるというか!
「本当に嬉しそうに笑ってたのよ? 私が女の子であることも、初めての王宮でカチンコチンに緊張していたことも、何にもヤツは見ていなかったわ! 面白い玩具を見つけたような無邪気さで!」
そうだ。全く邪気が感じられなかった。だから、彼は純粋にそう思ったから言ったのだ。
『白パンダ』
いっそ、悪口を故意に言ったという方が救われるかもしれない。
太っていて、丸々して、ゆっくり動いて、食べてばかりいるイメージ。
確かに当時のシュゼットは肌の色が白く、身体もむっちむち、顔もパンパンに膨らんだ糸目のぬいぐるみのような身体だった。ふわふわ金髪の丸々した少女は、自分の気弱さと自信の無さをお肉で包んで守っていたのだ。
面と言われて初めて自分が、みっともなく見えている事を知った。公爵家で大事に育てられていた少女にはそんな言葉を掛ける者は誰もいなかったから。
『おまえ、白パンダみたいだな?』
笑いながら言った彼は、サラサラの銀髪に澄んだ緑色の瞳のキレイな少年だった。一段高い王族の椅子に座っているのを見た時は、胸が高鳴った気がした。本当に王子様だったから。
「まあ、そのお綺麗な王子様は、考え無しで、デリカシーも無いガキンチョだった訳よ?」
あの大きな声が周りに聞こえることも、周りがどんな態度を取るかも判らなかったのだ。そして、言われた私がどんな気持ちになるかを。
「あー。鮮明に思い出してきたわ。10歳のヤツの笑い顔を!」
とにかく、国王陛下から直に言われた婚約者候補の話は反故にはできない。確かに年回りも家柄も申し分ないのだから、とりあえず候補に入れておかないと示しがつかないということのようだ。まったく、変に気を使ってくれたものだ。
「でも、お嬢様、候補って何をするんですか? まさか、ずっと王子様の傍に侍っているとか?」
「15歳の少女にソレは無いわ。とにかくヤツは17歳までの2年間で婚約者を決めるらしいから。それまでは、候補者はハメを外さない程度に、自然に生活していて良いみたい。まあ、舞踏会やパーティーやらの社交行事には、婚約者候補として参加させられるし、婚約者になりたかったら積極的に近づくわね」
「お嬢様は?」
「近づくわけ無いじゃない!! でも、ヤツに振られるっていうのも嫌だわ」
複雑だ。振られるのは嫌だし、自分から振ることは諸々の事情から難しい。でも、仕返しをするために今の自分があるのだ。さて、どうしたものか?
「とにかく、仕返しは良く考えてやらないと。それに、絶対婚約者になんか選ばれないようにしなくちゃね! エイエイオー!!」
二人は、拳を上げて決意した。
婚約者になんか、ならないぞーっ!! と。
王立学院、放課後。
「さあ、帰ります!! 殿下! 早くご準備して下さい!」
授業終了の鐘が鳴ると同時に、セドリックは教科書を鞄にしまいだした。普段ならば、授業の終わった教師を捕まえて質問やらをぶつけているはずだが。今日は朝の宣言通りに、一刻の猶予も無いとばかりに帰り支度をしていた。
「ああ! 殿下、早くして下さい。Pink・Pink・Candiesに早く行かなければ!!」
「なんだそれは? どこに行くって?」
セドリックが、殿下と呼んだ少年の鞄を一緒に持って急かすように立ちあがった。
「ご存じないですか? 女学生に人気のキャンディーショップですよ!!」
「いや、そうじゃなくて、何のために行くんだ?」
「殿下!! 初めて行く家に手土産も無しに行けますか? 1年間の留学の成果は、センスの良さでも現れていることを見せなければ!!」
「……それで、女生徒に人気がある評判のキャンディーを買いに行くのか」
セドリックは急ぎ足で馬車寄せに向かう。
「殿下! 置いていきますよ! 一番人気の苺キャラメルが売切れたら、目も当てられませんよ!!」
「……セドリック。お前……」
殿下と呼ばれている少年はフーッと溜息を吐いた。まったくコイツは面白い奴だ。でも、彼女が甘いキャンディーを食べて、蕩ける様な笑顔を見せてくれるのは良い。できれば、それが自分のしたことなら尚のこと良い。
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放課後にセドリックが来ると連絡があったので、シュゼットはマリと準備に余念がない。きっと、何かにつけて張り合う彼の事だからと、菓子やお茶にも趣向を凝らす。
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実は、ハート教授が甘い物が苦手らしいので 『甘い物が苦手な男性用のお菓子』 を知りたかったのだ。チーズクッキーは食べていたから大丈夫なはず。今後の作戦によっては、差し入れに使うこともあるかもしれない。
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「何か軽くディスられたような気がするけど? これは、ソルトナッツクッキー。最近話題の岩塩を使ったクッキーよ。キャラメリゼしたナッツが良い歯ごたえなの。調理長が頑張ってくれたのよ」
シュゼットとマリがテーブルを可愛らしくセッティングしている。ティーセットも可愛らしい花柄で、シュゼットの見た目イメージにぴったりだ。
「お嬢様」
執事のマシューが来客を告げる。
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