27 / 121
26. 石像は呟く?
しおりを挟む
フェリックスがジッとセドリックを見ている。
「彼は、どうしたんだ?」
さっき、エーリックに無理矢理ハンカチで拭かれたせいで、前髪がいつもより乱れて酷いことになっている。
挨拶を済ませたエーリックとフェリックスは、二人でサイドテーブルを囲んでいる。王子二人の傍には、ロイとローナ、そしてまだ石像化から回復できていないセドリックがいた。
チェリアーナとカテリーナは、小さなカナッペを摘んでお喋りを始めていて、こちらの会話には興味を持っていないようだった。
「ああ、気にしないで。雨に濡れて拭いただけだから」
エーリックが、にこやかにフェリックスに答える。
黒髪で人形のように整った顔立ちの少年と、銀髪にグリーントルマリンの瞳が華やかな美しい少年のツーショットは、近寄り難い異質な雰囲気を出していた。
誰もが近寄りたいが、誰も近寄ることが出来ない、硬質な煌めく結界でも張られているようだった。
「今日は盛況だな。さすが、人気の演目だ。エーリック殿も初めて観に?」
「ええ。カテリーナがどうしても観たいと言っていまして。コレールの古典文学に興味があったらしく、随分熱心に観ていましたよ。よく勉強しているようでした」
シュゼットの為もあるが、カテリーナについて好感度アップのアピールをしておく。このぐらいは従兄弟としてやっておかないと。
「「……」」
しかし、改めて二人で会話といっても続かない。いつもなら良い意味でも悪い意味でもムードメーカーになるはずのセドリックが……まだ人として機能していない。
「ところで、エーリック殿下。先程ハート先生をお見かけしたように思ったのですけど、ご一緒ではありませんの?」
チェリアーナが、シードルを片手に振り返った。他国の王弟殿下の名前を、軽々しくは言わないように注意しているようだ。
「ああ、教授なら先程迄こちらにいらっしゃいましたよ。でも、もうお帰りになりました」
「まあ! お帰りになってしまったの? 残念ですわ!」
「観劇の途中でお帰りになるとは、どうかされたのですか?」
ロイが心配そうに口を挟んだ。このまま王子二人では会話が弾まないと感じ取ったようだ。
「さあ? 詳しくは判りませんが……」
エーリックはシュゼットの情報をむやみに出したくなかった。それも、フェリックスには特に。
「そういえば、今夜の先生には、パートナーがいらっしゃったようですわね? 1階のボックス席にいらしたのを見ましたわ。金髪の綺麗な女性で、パステルブルーのドレスでしたわね? お見かけしたことが無い方でしたわ。ダリナス王国の令嬢かしら? エーリック殿下はご存じでしょう?」
チェリアーナが頬に片手を当てて、思い出すように聞いてきた。その言い方は、知らないとは言わせない圧力を秘めていた。
(シュゼットの事を教えて良いものか?)
「金髪にパステルブルーのドレス? ハート先生?」
エーリックが答えあぐねていると、ロイが目を見開いて詰め寄ってきた。
「エーリック殿下! エーリック殿は、その令嬢をご存じなのですか!?」
どうしたのかと驚いてロイの顔を見た。フェリックスもチェリアーナも、ローナも普段のロイからは想像つかない勢いに驚いたようだった。
(どうする? 教えるか?)
「それは……シュゼットだ。シュゼット・メレリア・グリーンフィールド……」
石像化が緩んできたセドリックがポソッと呟いた。
(馬鹿セドリック!! 何故ここで復活する!!)
『シュゼット・メレリア・グリーンフィールド????』
フェリックスとチェリアーナ、ロイにローナの4人が同時にセドリックの方を向いて復唱した。
(あーあ、シュゼットのこと、バレちゃったわ。 ねぇ、エーリック? どうするの?)
カテリーナがこそっと耳打ちをした。アーモンド形の目が好奇心にキラッキラに輝いていた。
土曜日、夜の歌劇場は一人の少女の話題で持ち切りとなった。
その名は、シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。
グリーンフィールド公爵令嬢のことだった。
「彼は、どうしたんだ?」
さっき、エーリックに無理矢理ハンカチで拭かれたせいで、前髪がいつもより乱れて酷いことになっている。
挨拶を済ませたエーリックとフェリックスは、二人でサイドテーブルを囲んでいる。王子二人の傍には、ロイとローナ、そしてまだ石像化から回復できていないセドリックがいた。
チェリアーナとカテリーナは、小さなカナッペを摘んでお喋りを始めていて、こちらの会話には興味を持っていないようだった。
「ああ、気にしないで。雨に濡れて拭いただけだから」
エーリックが、にこやかにフェリックスに答える。
黒髪で人形のように整った顔立ちの少年と、銀髪にグリーントルマリンの瞳が華やかな美しい少年のツーショットは、近寄り難い異質な雰囲気を出していた。
誰もが近寄りたいが、誰も近寄ることが出来ない、硬質な煌めく結界でも張られているようだった。
「今日は盛況だな。さすが、人気の演目だ。エーリック殿も初めて観に?」
「ええ。カテリーナがどうしても観たいと言っていまして。コレールの古典文学に興味があったらしく、随分熱心に観ていましたよ。よく勉強しているようでした」
シュゼットの為もあるが、カテリーナについて好感度アップのアピールをしておく。このぐらいは従兄弟としてやっておかないと。
「「……」」
しかし、改めて二人で会話といっても続かない。いつもなら良い意味でも悪い意味でもムードメーカーになるはずのセドリックが……まだ人として機能していない。
「ところで、エーリック殿下。先程ハート先生をお見かけしたように思ったのですけど、ご一緒ではありませんの?」
チェリアーナが、シードルを片手に振り返った。他国の王弟殿下の名前を、軽々しくは言わないように注意しているようだ。
「ああ、教授なら先程迄こちらにいらっしゃいましたよ。でも、もうお帰りになりました」
「まあ! お帰りになってしまったの? 残念ですわ!」
「観劇の途中でお帰りになるとは、どうかされたのですか?」
ロイが心配そうに口を挟んだ。このまま王子二人では会話が弾まないと感じ取ったようだ。
「さあ? 詳しくは判りませんが……」
エーリックはシュゼットの情報をむやみに出したくなかった。それも、フェリックスには特に。
「そういえば、今夜の先生には、パートナーがいらっしゃったようですわね? 1階のボックス席にいらしたのを見ましたわ。金髪の綺麗な女性で、パステルブルーのドレスでしたわね? お見かけしたことが無い方でしたわ。ダリナス王国の令嬢かしら? エーリック殿下はご存じでしょう?」
チェリアーナが頬に片手を当てて、思い出すように聞いてきた。その言い方は、知らないとは言わせない圧力を秘めていた。
(シュゼットの事を教えて良いものか?)
「金髪にパステルブルーのドレス? ハート先生?」
エーリックが答えあぐねていると、ロイが目を見開いて詰め寄ってきた。
「エーリック殿下! エーリック殿は、その令嬢をご存じなのですか!?」
どうしたのかと驚いてロイの顔を見た。フェリックスもチェリアーナも、ローナも普段のロイからは想像つかない勢いに驚いたようだった。
(どうする? 教えるか?)
「それは……シュゼットだ。シュゼット・メレリア・グリーンフィールド……」
石像化が緩んできたセドリックがポソッと呟いた。
(馬鹿セドリック!! 何故ここで復活する!!)
『シュゼット・メレリア・グリーンフィールド????』
フェリックスとチェリアーナ、ロイにローナの4人が同時にセドリックの方を向いて復唱した。
(あーあ、シュゼットのこと、バレちゃったわ。 ねぇ、エーリック? どうするの?)
カテリーナがこそっと耳打ちをした。アーモンド形の目が好奇心にキラッキラに輝いていた。
土曜日、夜の歌劇場は一人の少女の話題で持ち切りとなった。
その名は、シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。
グリーンフィールド公爵令嬢のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる