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25. 酔っぱらい天使は知らない
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黙って事態を見ていた叔父上が、シュゼットの肩をゆっくりと引き戻した。
「もしや、シュゼット。酔っているのか?」
「酔って無いですよぉ?」
そう。エーリックは知っていた。酔っぱらいは皆こう言うことを。
壊滅的に酒に弱いことが判明したシュゼットに、このまま観劇続行は無理だと判断した。仕方ない。ここはエスコート役の叔父上に頼んで屋敷まで送って貰うしかない。
「今日の所は仕方ありませんから、お任せします。彼女をよろしくお願いします」
固まって石像化しているセドリックは放って置く。もう、色々が面倒臭いから。自分の負担が多すぎる。
「判っている。それでは先に失礼する」
「先生? シュゼットをよろしくお願いしましすわ。というか、そうですわ!私も一緒に送って---」
「止やめて」
「でも、私と一緒の方が」
「カテリーナ! や・め・て・く・れ?」
「……判りましたわ」
そんなやり取りの間にシュゼットの目は、眠そうにうつらうつらしてきた。さっさと帰さないと駄目そうだ。叔父上は頷いてシュゼットの手を引き、腰を支えるようにしてラウンジを出て行った。
エーリックはふーっと深い溜息を吐いた。
「仕方ないじゃないか。今日の所は……」
誰に言うとも無しに声が出た。自分には彼女を送り届ける理由が無かった。ただのクラスメートでは駄目なのだと思った。チリチリとしたモノが胸をざわつかせる。
(これが何かは判った気がする)
未だ石像になっているセドリックをそのままにして置けない。
少し意地悪になる。シュゼットが手櫛で整えてやった前髪に、ハンカチを被せてわしゃわしゃと拭いてやる。我に返ったセドリックが、アワアワ何か言っているが気にしないで拭いてやる。まるで、シュゼットの感触を消してしまうかのように。
「お前、ズルいぞ?」
あんな風に、シュゼットに触れられるなんて。あんな風に微笑みかけられるなんて。
これが嫉妬というものかと、改めて思った。
「あら? シルヴァ様は? このラウンジには、いらっしゃらないのかしら?」
ラウンジまで来る間に沢山の挨拶を受けていたため、少し時間が掛かってしまった。姉姫は、オペラグラスで見つけた人物を探しに来ている。自分は喉でも潤したいところだが、反対側の出口から出て行く人影にふと眼が留まった。
(あれは、シルヴァ殿ではないか?)
しかしそれも一瞬で、扉は閉まり彼は出て行ってしまった。彼の陰にパステルブルーのドレスと金色の髪がチラッと見えた気がした。そう言えば、彼の隣に女性がいたように見えたから、その相手か。
ロイはいつになくキョロキョロしている。この前から落ち着きをなくしているが、何なのだ?
「フェリックス殿下、チェリアーナ姫様、お飲み物をどうぞ?」
ローナがグラスを渡してくれる。自分には林檎水、姉姫にはシードルを。
「ありがとう。ローナ」
カリノ家の双子とはずっと小さな頃から付き合っているせいか、細々したこともよく気が付いてくれる。飲み物や食べ物の好みもよく知っている。
ふっくらとした白い手からグラスを受け取った。小さな声でいいえ。と聞こえた。
「駄目ね。見つからないわ」
姉姫が諦めたように言った。この人数では、いても判らないかもしれないし、ラウンジはここだけでは無いから。まあ、さっき出て行ったシルヴァ殿らしき人物の事は黙っておこう。
「確かに、シルヴァ様だと思ったのだけど? あの方が女性をエスコートしていたのよ? 初めて見たわ」
そう言えばそうだ。こういった社交場にはいつもお一人か、カテリーナ嬢と参加する。今日はエーリック殿とカテリーナ嬢が一緒だったから、それならあの女性は誰なのだろう。
「フェリックス殿下? 如何されましたか?」
ロイの問いかけに我に返った。ロイの方が、何だか元気が無いように見えるが。
「いや? 何もない」
「そうですか?それでは、あちらにエーリック殿下とカテリーナ嬢がいらっしゃいます。ご挨拶されますか?」
「あら? そうなの? エーリック様達が……行きましょうよ、フェリックス」
姉姫に言われて挨拶に行く。そうか、もしかしたら彼等ならばシルヴァ殿のパートナーの事を知っているかもしれない。
姉姫をエスコートして、フェリックスがエーリック達に近づいて行く。
近くで見る彼らは、あの大使の賑やかな息子を囲んで楽しそうにしていた。
「もしや、シュゼット。酔っているのか?」
「酔って無いですよぉ?」
そう。エーリックは知っていた。酔っぱらいは皆こう言うことを。
壊滅的に酒に弱いことが判明したシュゼットに、このまま観劇続行は無理だと判断した。仕方ない。ここはエスコート役の叔父上に頼んで屋敷まで送って貰うしかない。
「今日の所は仕方ありませんから、お任せします。彼女をよろしくお願いします」
固まって石像化しているセドリックは放って置く。もう、色々が面倒臭いから。自分の負担が多すぎる。
「判っている。それでは先に失礼する」
「先生? シュゼットをよろしくお願いしましすわ。というか、そうですわ!私も一緒に送って---」
「止やめて」
「でも、私と一緒の方が」
「カテリーナ! や・め・て・く・れ?」
「……判りましたわ」
そんなやり取りの間にシュゼットの目は、眠そうにうつらうつらしてきた。さっさと帰さないと駄目そうだ。叔父上は頷いてシュゼットの手を引き、腰を支えるようにしてラウンジを出て行った。
エーリックはふーっと深い溜息を吐いた。
「仕方ないじゃないか。今日の所は……」
誰に言うとも無しに声が出た。自分には彼女を送り届ける理由が無かった。ただのクラスメートでは駄目なのだと思った。チリチリとしたモノが胸をざわつかせる。
(これが何かは判った気がする)
未だ石像になっているセドリックをそのままにして置けない。
少し意地悪になる。シュゼットが手櫛で整えてやった前髪に、ハンカチを被せてわしゃわしゃと拭いてやる。我に返ったセドリックが、アワアワ何か言っているが気にしないで拭いてやる。まるで、シュゼットの感触を消してしまうかのように。
「お前、ズルいぞ?」
あんな風に、シュゼットに触れられるなんて。あんな風に微笑みかけられるなんて。
これが嫉妬というものかと、改めて思った。
「あら? シルヴァ様は? このラウンジには、いらっしゃらないのかしら?」
ラウンジまで来る間に沢山の挨拶を受けていたため、少し時間が掛かってしまった。姉姫は、オペラグラスで見つけた人物を探しに来ている。自分は喉でも潤したいところだが、反対側の出口から出て行く人影にふと眼が留まった。
(あれは、シルヴァ殿ではないか?)
しかしそれも一瞬で、扉は閉まり彼は出て行ってしまった。彼の陰にパステルブルーのドレスと金色の髪がチラッと見えた気がした。そう言えば、彼の隣に女性がいたように見えたから、その相手か。
ロイはいつになくキョロキョロしている。この前から落ち着きをなくしているが、何なのだ?
「フェリックス殿下、チェリアーナ姫様、お飲み物をどうぞ?」
ローナがグラスを渡してくれる。自分には林檎水、姉姫にはシードルを。
「ありがとう。ローナ」
カリノ家の双子とはずっと小さな頃から付き合っているせいか、細々したこともよく気が付いてくれる。飲み物や食べ物の好みもよく知っている。
ふっくらとした白い手からグラスを受け取った。小さな声でいいえ。と聞こえた。
「駄目ね。見つからないわ」
姉姫が諦めたように言った。この人数では、いても判らないかもしれないし、ラウンジはここだけでは無いから。まあ、さっき出て行ったシルヴァ殿らしき人物の事は黙っておこう。
「確かに、シルヴァ様だと思ったのだけど? あの方が女性をエスコートしていたのよ? 初めて見たわ」
そう言えばそうだ。こういった社交場にはいつもお一人か、カテリーナ嬢と参加する。今日はエーリック殿とカテリーナ嬢が一緒だったから、それならあの女性は誰なのだろう。
「フェリックス殿下? 如何されましたか?」
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「いや? 何もない」
「そうですか?それでは、あちらにエーリック殿下とカテリーナ嬢がいらっしゃいます。ご挨拶されますか?」
「あら? そうなの? エーリック様達が……行きましょうよ、フェリックス」
姉姫に言われて挨拶に行く。そうか、もしかしたら彼等ならばシルヴァ殿のパートナーの事を知っているかもしれない。
姉姫をエスコートして、フェリックスがエーリック達に近づいて行く。
近くで見る彼らは、あの大使の賑やかな息子を囲んで楽しそうにしていた。
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