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24. どうしてこうなったか教えて下さい!
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「ところで、ハート先生とご一緒なの?」
久し振りの再会に興奮気味だったカテリーナが、漸く落ち着いてきた。ダリナスにいる頃から、というかシュゼットに会ってからずっとこんな感じに構いまくっている。何でも、カテリーナからするとシュゼットのああの見た目と性格は、ドストライクなのだそうだ。
(もしかしてだけれど、血なのか? シュゼットに惹かれてしまうのは、王族の血なのか?)
(まさかな・・・?)
「私の天使ちゃんマイ・エンジェル」
とか言って、カテリーナは、特別にシュゼットを可愛がっていた。可愛いがっていた? 多分。
カテリーナの好き嫌いを軽々と突破して、あの猪突猛進の行動力を往いなしてる貴重な友人の一人だった。決して親密になり過ぎず、良い距離感の関係を構築できていたのは、シュゼットの資質によるものだろう。
「ねえ、何故ですの? 二人はお知り合いでしたの?」
カテリーナ、ナイス質問だ。公の場なので叔父上とは呼ばない。通り名であるハート先生と呼んで、叔父上にストレートにぶち込んだ。流石、カテリーナに遠慮という文字は無い。
「編入試験の試験官をして頂いたのですわ。その時に、とても親切にして頂きました」
叔父上の顔を見上げて、ニコニコしながらシュゼットが言う。うん。それはこの前に聞いた。それが、何故こうなった?
「シュゼット、元々観劇には先生とご一緒の予定だったの?」
ずっとニコニコしているシュゼットに聞いてみた。
「いいえ? 歌劇場に着いてからですわ。偶然にお会いして、先生が気の毒に思って誘ってくれたのです」
良く判らない。随分端折って言っていないか? 仕方なしに叔父上に説明を求めて目を向けた。
「彼女の父上が急に来れなくなってしまい、諦めかけていたところに偶然に出会ったのだ。それで、折角支度もしていることだし評判の演目だからと、私がエスコートを提案したのだ」
「……ソウデスカ。偶然?」
「偶然」
「ご自分の事をシュゼットには?」
「ああ。執事も一緒だったから教えた。エスコートするのに、ただの教師では信用して貰えまい?」
「確かに。そう言うことなのですね。でも、お珍しいですね? ご自分から明かされることなんて無いと思っていましたので」
ちょっと絡むような言い方になってしまった。叔父上は気が付かれたのか、ほんの少しだけ目を細めたように見えた。
でも、シュゼットは何も気が付いていないようで、相変わらずニコニコしてカテリーナのお喋りを聞いている。
(良かった。見られていなかった)
ホッとして、いつもの王子の顔に戻る。まあ、偶然と二人が言っているのだったら本当にそうなのだろう。これ以上は聞かないほうが良いかもしれない。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド! ここにいたのか?」
セドリックの声が聞こえた。結構な大きさだったので、周囲が一瞬静かになった。
小さな声でシュゼットの名を、反芻する者たちもいる。ああ。これでシュゼットの名前と家が割れてしまうなと咄嗟に感じた。多分、聞きたくても聞けなかった令嬢の名前が、思わぬ登場人物によって知ることが出来たのだ。
シュゼットの背後から来るセドリックに向けて、呆れた表情を見せていると思う。だって、そうだろう? この場所でフルネーム呼びなど、在り得ないのに……余計なことをシヤガッテ!
「セドリック、遅れてきて最初に言うことがそれか? 全くお前という奴は」
「そうでした。殿下にカテリーナ様、今日は遅れて大変申し訳ございませんでした。それより」
「「それより?」」
私達に対するお詫びより、それよりって何なのだ? これにはカテリーナも聞き返した。
「それより、シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。君は一体誰と来たのだ? まさかどこの馬の骨ともわか---えっ!? 王弟でんっ!!」
思わずセドリックの口を塞いだ。こいつは何を言い出すんだ! 少し落ち着け!!
周囲にいる者達がチラチラとこちらを伺っているのに、これ以上の注目は避けたい。止めて欲しい。余計なことを言うなと、目でがっつりと制してから手を外してやる。
「こ、これは失礼しました。ハート先生。何故? ご一緒されているのですか? ま、まさか?」
「そのまさかですわよ? セドリック。ハート先生が、シュゼットをエスコートしていらしたのよ?」
面白いモノを見つけたというように、カテリーナの瞳がキラキラになっている。そうだろう? セドリックは面白いのだ。面白過ぎるのだ。これで、少しセドリックに興味が流れれば、シュゼットの負担も減るかもしれない。そんな風に思っていた。
「セドリック様? 髪が濡れていますわよ? うふっ」
シュゼットがニコニコしながらセドリックの髪に手を伸ばした。
「雨にでも濡れましたの? ふふふ、雫がほら・・・?」
アッシュブロンドの前髪に、雨粒が付いていたようで、シュゼットが手を伸ばして髪を梳いた。ずっと頬を薄く染めてニコニコしながらセドリックの髪を撫でつけている。
されているセドリックが石像の様に固まっている。いや、その場にいた私も、カテリーナも、叔父上さえもじっと見入ってしまった。
白い指で、丁寧に長い前髪を後ろに撫でつけている。
すると、セドリックの顔をじっと見詰めたまま、彼の頬を両手で挟んだ。
「「「!?」」」
いきなりの行動に、見ていた私達は息を飲んだ。
「ほら、こうすれば、アイスブルーの瞳が綺麗に見えますわ? ね? セドリック様?」
そして、春に咲く白薔薇が綻ぶように微笑んだ。
「あら、こんなところに黒子ほくろがありますのね?」
はらりと一筋落ちてきた前髪を払うと、右目の目尻辺りをするっと撫でた。
セドリックの顔が真っ赤になった。人間の顔がこんなに赤くなるのを初めて見たかもしれない。
チリっと心の中心が騒ざわめいた。
久し振りの再会に興奮気味だったカテリーナが、漸く落ち着いてきた。ダリナスにいる頃から、というかシュゼットに会ってからずっとこんな感じに構いまくっている。何でも、カテリーナからするとシュゼットのああの見た目と性格は、ドストライクなのだそうだ。
(もしかしてだけれど、血なのか? シュゼットに惹かれてしまうのは、王族の血なのか?)
(まさかな・・・?)
「私の天使ちゃんマイ・エンジェル」
とか言って、カテリーナは、特別にシュゼットを可愛がっていた。可愛いがっていた? 多分。
カテリーナの好き嫌いを軽々と突破して、あの猪突猛進の行動力を往いなしてる貴重な友人の一人だった。決して親密になり過ぎず、良い距離感の関係を構築できていたのは、シュゼットの資質によるものだろう。
「ねえ、何故ですの? 二人はお知り合いでしたの?」
カテリーナ、ナイス質問だ。公の場なので叔父上とは呼ばない。通り名であるハート先生と呼んで、叔父上にストレートにぶち込んだ。流石、カテリーナに遠慮という文字は無い。
「編入試験の試験官をして頂いたのですわ。その時に、とても親切にして頂きました」
叔父上の顔を見上げて、ニコニコしながらシュゼットが言う。うん。それはこの前に聞いた。それが、何故こうなった?
「シュゼット、元々観劇には先生とご一緒の予定だったの?」
ずっとニコニコしているシュゼットに聞いてみた。
「いいえ? 歌劇場に着いてからですわ。偶然にお会いして、先生が気の毒に思って誘ってくれたのです」
良く判らない。随分端折って言っていないか? 仕方なしに叔父上に説明を求めて目を向けた。
「彼女の父上が急に来れなくなってしまい、諦めかけていたところに偶然に出会ったのだ。それで、折角支度もしていることだし評判の演目だからと、私がエスコートを提案したのだ」
「……ソウデスカ。偶然?」
「偶然」
「ご自分の事をシュゼットには?」
「ああ。執事も一緒だったから教えた。エスコートするのに、ただの教師では信用して貰えまい?」
「確かに。そう言うことなのですね。でも、お珍しいですね? ご自分から明かされることなんて無いと思っていましたので」
ちょっと絡むような言い方になってしまった。叔父上は気が付かれたのか、ほんの少しだけ目を細めたように見えた。
でも、シュゼットは何も気が付いていないようで、相変わらずニコニコしてカテリーナのお喋りを聞いている。
(良かった。見られていなかった)
ホッとして、いつもの王子の顔に戻る。まあ、偶然と二人が言っているのだったら本当にそうなのだろう。これ以上は聞かないほうが良いかもしれない。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド! ここにいたのか?」
セドリックの声が聞こえた。結構な大きさだったので、周囲が一瞬静かになった。
小さな声でシュゼットの名を、反芻する者たちもいる。ああ。これでシュゼットの名前と家が割れてしまうなと咄嗟に感じた。多分、聞きたくても聞けなかった令嬢の名前が、思わぬ登場人物によって知ることが出来たのだ。
シュゼットの背後から来るセドリックに向けて、呆れた表情を見せていると思う。だって、そうだろう? この場所でフルネーム呼びなど、在り得ないのに……余計なことをシヤガッテ!
「セドリック、遅れてきて最初に言うことがそれか? 全くお前という奴は」
「そうでした。殿下にカテリーナ様、今日は遅れて大変申し訳ございませんでした。それより」
「「それより?」」
私達に対するお詫びより、それよりって何なのだ? これにはカテリーナも聞き返した。
「それより、シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。君は一体誰と来たのだ? まさかどこの馬の骨ともわか---えっ!? 王弟でんっ!!」
思わずセドリックの口を塞いだ。こいつは何を言い出すんだ! 少し落ち着け!!
周囲にいる者達がチラチラとこちらを伺っているのに、これ以上の注目は避けたい。止めて欲しい。余計なことを言うなと、目でがっつりと制してから手を外してやる。
「こ、これは失礼しました。ハート先生。何故? ご一緒されているのですか? ま、まさか?」
「そのまさかですわよ? セドリック。ハート先生が、シュゼットをエスコートしていらしたのよ?」
面白いモノを見つけたというように、カテリーナの瞳がキラキラになっている。そうだろう? セドリックは面白いのだ。面白過ぎるのだ。これで、少しセドリックに興味が流れれば、シュゼットの負担も減るかもしれない。そんな風に思っていた。
「セドリック様? 髪が濡れていますわよ? うふっ」
シュゼットがニコニコしながらセドリックの髪に手を伸ばした。
「雨にでも濡れましたの? ふふふ、雫がほら・・・?」
アッシュブロンドの前髪に、雨粒が付いていたようで、シュゼットが手を伸ばして髪を梳いた。ずっと頬を薄く染めてニコニコしながらセドリックの髪を撫でつけている。
されているセドリックが石像の様に固まっている。いや、その場にいた私も、カテリーナも、叔父上さえもじっと見入ってしまった。
白い指で、丁寧に長い前髪を後ろに撫でつけている。
すると、セドリックの顔をじっと見詰めたまま、彼の頬を両手で挟んだ。
「「「!?」」」
いきなりの行動に、見ていた私達は息を飲んだ。
「ほら、こうすれば、アイスブルーの瞳が綺麗に見えますわ? ね? セドリック様?」
そして、春に咲く白薔薇が綻ぶように微笑んだ。
「あら、こんなところに黒子ほくろがありますのね?」
はらりと一筋落ちてきた前髪を払うと、右目の目尻辺りをするっと撫でた。
セドリックの顔が真っ赤になった。人間の顔がこんなに赤くなるのを初めて見たかもしれない。
チリっと心の中心が騒ざわめいた。
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