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43. 魔法術鑑定式
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「シュゼット、今日、魔法術鑑定式でしょ?」
水曜日のランチの時間です。今日のランチはトマトクリームソースのマカロニとクロケット&サラダ、オレンジとチョコレートのケーキです。
「はい。そうです。放課後に行うと伺っています」
ケーキを食べながら、4人でテーブルを囲んでいます。そう言えば、皆さんは魔法術鑑定式をお受けになっているのですね?
「エーリック殿下達は、鑑定式をお受けになったのですね? どんな感じなのですか?」
エ-リック殿下、セドリック様、カテリーナ様のうち、魔法術が使えるのはエーリック殿下だけと聞いています。そう言えば、エーリック殿下は識別の指輪はしていないのですね。
「魔法科学省の鑑定士が来て、魔力鑑定の干渉と識別をするんだよ。実際には鑑定石を触って魔力を巡らせる。魔力があれば、それぞれの識別の術者と手を合わせて魔力交換をするんだ。それで自分の識別が判る」
「因みに、エーリック殿下の識別は?」
「水と土、火と錬金の4つ。私達は、ダリナスにいる時に調べているから」
「そう言うことだ。シュゼット・メレーーー シュゼット。私達は10歳の時に受けているのだ。残念ながら、私にはこれっぽっちも魔力は無かったがな!」
何だか。偉そうですわ。それに、またフルネーム呼びになりそうでしたよ?
「そう言えば、エーリック殿下は、魔法術の識別の指輪はしていないのですか?」
そうです。普段から指輪をお付けになることはありませんでした。
「ああ。指輪は成人になってから貰うことにしている。今は別に魔法術を誇示する必要も無いし。それに、成長期は特に着けなくてもいいんだ」
そうなのですか。
「シュゼット。鑑定式は希望者は見学できるから、私も見学して良いかな?」
「私も見たいぞ! 君の鑑定式を見届けてやろうではないか! 心して鑑定式を受けるがいい! 何かあっても心配はいらない、私が傍にいるのだからな! 安心して受けたまえ!」
「……良いですけど。何でしょうか、セドリック様には見て貰いたくないような気もしますわ」
「なっ!! 何て事を言うのだ! わ、判った。邪魔などしない! お、大人しくしているから!」
もう、カテリーナ様が必死に笑い声を押えています。でも、肩が震えていますわ。
「久しぶりだ! 懐かしき我が学び舎よ!」
銀髪をたなびかせて、白いローブ姿の彼が馬車から降り立った。
「お待ちしておりました。魔法科学省の皆様。レイシル様、お久し振りでございます」
トンバール学院長の出迎えに、レイシルはさっさと荷物を運びこむように指示する。挨拶など時間の無駄だという素気なさであった。しかし、学院長も慣れたもので、早々にハート教授に案内役を渡した。
「それでは、ハート教授、鑑定式には私達も同席しますから、時間になるまで皆様をよろしくお願いします」
「じゃあ、案内して頂きましょう? ハート先生?」
久し振りの鑑定式と、気心の知れているシルヴァがいることで、いつも以上にテンションが高くなっている。ように見える。
「こっちだ。第二公会堂で行う」
魔法科学省の鑑定士を案内しながら、レイシルを見る。さすがに今日は鑑定団の長として来ているせいか、鑑定士の白いローブを着こんでいる。長である彼のローブには金色刺繍で魔法科学省の紋章がされている。ゆったりしたローブに長い銀髪が揺れて、見た目だけは魔法科学省の高官の姿だ。
「結局、32名だっけ? 10歳が31名に15歳が1名。準備ができ次第始めるから。そろそろ中等部は授業が終わるだろう?」
第二公会堂は、まあまあの広さに、四方の壁には括り付けの椅子がある。見届け人や見学者はそこの椅子に座ることになる。
「そうだ。これが終わったら、エーリックにも会いたいな。会わせてくれる? ハート先生?」
これは駄目だと言っても、無理なパターンだ。
もうすぐ放課後になる。放課後に今日は中等部の魔法鑑定式が行われる。弟王子のパリスとカルンの双子達も鑑定式を受けると聞いている。誕生日の遅い双子達も、ようやく鑑定式を受けられる時期になった。
「フェリックス。パリスとカルンの鑑定式を見学に行くだろう。授業が終わったらすぐに第二公会堂に行こう」
今日の鑑定式に両親は来られない。代わりに自分が見届け人となる予定だ。フェリックスには水と風の二つの魔法術の識別がある。オーランドには残念ながら魔力は無い。コレール王国の貴族、それも王族の血を以ても、魔法術が使えるかどうかは五分五分になっている。姉であるチェリアーナも、偶然かどうかは判らないが水と風の二つだ。双子王子達が、別の識別の魔法術が使えるのが望ましいが、こればかりは鑑定してみなければ判らない。今までの二人からは、魔力の存在を感じたことは無かったけれど。
(まあ、鑑定でも使えれば判るだろうが……)
鑑定を使える鑑定士の人数は少ない。それでも、鑑定士の長は、自分と同じ祖父の血を引く人間だ。彼が現在のコレール王国で最高位の魔法術師なのだ。双子達にその血が繋がっていることを祈るしかない。
「オーランド、行こう」
フェリックスはオーランドに声を掛けると、第二公会堂に向かった。
そう言えば、あの編入生の彼女も鑑定式を受けると聞いた。あの、ダリナスの外交大使の息子、セドリックが何故だか上から目線で受け方のレクチャーをしていた。ここ最近何日かは大人しかったと思ったが、今日は今までと変わらない騒々しさだった。まあ、以前よりも変わった点と言えば、今まではエーリックやカテリーナと親しくしていたが、今はその輪に彼女が加わった。まるで、ずっと前からそうだったように。すんなりと編入初日から。
彼女が来てから、変わったのはセドリックだけでは無いように思う。
まずは、ローナ。彼女の隣の席なのにお喋りをするところを見たことが無い。いや、しゃべるどころか顔を向けることも無いように見える。確か、初日に静養室への案内を自ら買って出たのに。帰って来てから何か変だった。そして今日に至る。だ。
ロイも変と言えば変だ。彼女から貰ったという菓子の袋を大事に保管している。皺を伸ばして綺麗に畳んで。たまに彼女と挨拶したり話していたりするが、その顔は楽しそうに紅潮して見えた。
そう言えば、ドロシアとイザベラも彼女と話をしていた。マカロンがどうとか、キャンディーがどうとか聞こえたから、多分菓子の話をしていたようだったが、いつの間にそんな話をし合う仲になったのだろう。
「女の子は謎だ」
「なに? 何か言ったか?」
隣を歩くオーランドが、聞き返してきた。いや。そこはスルーしてくれ。
「何でもない。そうだ、レイシル様がいらっしゃるのだろう? 久し振りだからお会いしておこう。こんな時でもなければ、お会いすることも無いからな」
普段は、魔法科学省の会館の中、王宮神殿の最奥に籠っている変り者の叔父。父である国王陛下の異母兄弟。なのに、両親や兄弟よりも自分と似ている。髪も目も顔も。多分、曾祖母の血が色濃く出ているのかもしれない。幼い頃は兄弟に見られることもあった。
(いた!)
第二公会堂の中央に置かれた鑑定石の傍に立ち、生徒の鑑定をすでに行っていた。
まだ、パリスとカルンの順番にはなっていない。双子の王子は呼ばれるまで隣の控室にいるようだ。オーランドと共に、静かに席に着く。
(確かに、あの様子だけを見れば、神官長に見えない事も無いか)
近視の彼には、フェリックスもオーランドの姿も認識できているかどうか。
(さて、そろそろ呼ばれるか? 二人はどうだ?)
「「兄上!!」」
休憩時間になり、鑑定が終わった二人が報告の為に駆け寄って来た。
「兄上! 見て下さいましたか? 僕には水と鑑定がありました!」
「僕には、土と錬金です!」
何と、パリスには水と鑑定、カルンには土と錬金の魔法術が識別された。貴重な鑑定と錬金は、二人に王族として将来の選択肢を広げることが出来る。良かった。弟たちにとっては最も有効な魔法術だ。
二人は嬉しそうに、私の隣の席に座った。まだ続く鑑定式を見学するつもりだろう。意外と自分の鑑定式は緊張して覚えていないもので、他の者がどうやっているかを見ておきたいものだから。
すると、近くの扉からエーリック、カテリーナそしてセドリックが入って来た。エーリックとカテリーナがこちらをチラリと見ると、ふわりと手を振った。こちらも片手を挙げて挨拶する。セドリックは……少し青い顔をしているように見えるが、緊張しているのか? しきりにハンカチで額の汗を拭っている。
「鑑定式を再開する。次の鑑定者は入室しなさい」
レイシル様の声がして鑑定式が再開された。
ドキドキしますわ。初鑑定式! 何事も初めては緊張します。
次々に、10歳の子たちが呼ばれて鑑定を受けています。今回の最後は、15歳の私ですわ。会場に行けばエーリック殿下やカテリーナ様、セドリック様が見届け人として見学しているはずです。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。中に入りなさい」
呼ばれました。いよいよですわ。グリーンフィールド公爵家初の魔法術師になれますでしょうか!?
「失礼します」
第二公会堂の扉が開かれました。公会堂の中は広めの教室位でしょうか。
壁に沿って置かれた椅子の、一番扉側にエーリック殿下とカテリーナ様、そしてセドリック様が並んで座っていました。エーリック殿下はガンバって。と口の形で応援して下さいます。カテリーナ様は、隣で青い顔をしているセドリック様の額の汗を拭いてあげています。どうしてそうなったのでしょうか。駄目でしょう!セドリック様。
そして、正面側の椅子席には、ヤツとオーランド様、そして銀髪の可愛らしい顔立ちの双子ちゃんが座っています。この子達が双子の弟王子達なのですね。初めてお会いしましたわ。しかし、私の鑑定式を何故この人たちもご覧になっているの?
終わったのならば、さっさとお帰り下されば良いのに!!(毒)
気を取り直して、集中しましょう。
部屋の真ん中には鑑定石と聞いた虹色に光る石が金属でできた籠? のような物の中で浮かんでいます。どうなっているのでしょう? 浮かんでいる仕組みが判りません。
鑑定石の近くに、ひと際目立つ金の刺繍が施された白いローブの方と、その周りにも数人の白ローブの方々が鑑定石を囲むようにいらっしゃいます。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。鑑定石の傍へ」
金刺繍の白ローブの方に呼ばれて石の傍に立ちます。ふと、視線を感じて目の前の鑑定士を見上げました。
(げっ!? ヤツ!?---じゃない?)
多分、私は思いっきり目を見開いて目の前の人を見詰めていました。
『目、こぼれるよ?』
鑑定石を挟んで、真正面に立つヤツによく似た顔立ちの男性が、小さな声で囁きました。
よく考えれば、ヤツはあちらの席に座っていますもの。目の前の方はヤツじゃないですわ。驚きました。銀色の髪も、5年前に見たグリーントルマリンの瞳も、顔立ちも良く似ています。この方も王族の一員ですよね。
誰だ?
『深呼吸して、気持ちを楽にして。それから鑑定石に手を当てて』
言われた通りに深呼吸してから、鑑定石に手を当てます。虹色に輝くそれが、掌を当てた場所から色を変えていきます。明るいオレンジ色からの~白色?
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールドに魔力は存在する!」
声高らかに宣言されました。おおう!! グリーンフィールド公爵家初ですわ!!
そして、その後数人の鑑定士と、代わるがわる掌を合わせて識別を検証していきます。
しかし、鑑定士全員と干渉を行って識別をして貰ったのに、どなたの識別にも引っかかりません。
「どういうことだ?」
目の前にいるヤツモドキ様が、首を捻ります。こんなことは今まで見たことも無いとおっしゃいます。
イヤイヤ、こちらが教えて頂きたいですわ。
ざわつく会場で、鑑定士達が慌てたように何やら集まって相談しています。そこに、ハート先生も加わっていますけど。何でしょう? とっても不安になってきました。
すると、ヤツモドキ様が近くまで寄ってきて、ニッコリ微笑んで私の顔を覗き込みました。
「おめでとう。君はここ100年程存在しなかった、光の識別者だよ」
光の識別者って、何ですの?
それよりも、ヤツモドキ様、一体アナタ様は誰ですかっー!?
水曜日のランチの時間です。今日のランチはトマトクリームソースのマカロニとクロケット&サラダ、オレンジとチョコレートのケーキです。
「はい。そうです。放課後に行うと伺っています」
ケーキを食べながら、4人でテーブルを囲んでいます。そう言えば、皆さんは魔法術鑑定式をお受けになっているのですね?
「エーリック殿下達は、鑑定式をお受けになったのですね? どんな感じなのですか?」
エ-リック殿下、セドリック様、カテリーナ様のうち、魔法術が使えるのはエーリック殿下だけと聞いています。そう言えば、エーリック殿下は識別の指輪はしていないのですね。
「魔法科学省の鑑定士が来て、魔力鑑定の干渉と識別をするんだよ。実際には鑑定石を触って魔力を巡らせる。魔力があれば、それぞれの識別の術者と手を合わせて魔力交換をするんだ。それで自分の識別が判る」
「因みに、エーリック殿下の識別は?」
「水と土、火と錬金の4つ。私達は、ダリナスにいる時に調べているから」
「そう言うことだ。シュゼット・メレーーー シュゼット。私達は10歳の時に受けているのだ。残念ながら、私にはこれっぽっちも魔力は無かったがな!」
何だか。偉そうですわ。それに、またフルネーム呼びになりそうでしたよ?
「そう言えば、エーリック殿下は、魔法術の識別の指輪はしていないのですか?」
そうです。普段から指輪をお付けになることはありませんでした。
「ああ。指輪は成人になってから貰うことにしている。今は別に魔法術を誇示する必要も無いし。それに、成長期は特に着けなくてもいいんだ」
そうなのですか。
「シュゼット。鑑定式は希望者は見学できるから、私も見学して良いかな?」
「私も見たいぞ! 君の鑑定式を見届けてやろうではないか! 心して鑑定式を受けるがいい! 何かあっても心配はいらない、私が傍にいるのだからな! 安心して受けたまえ!」
「……良いですけど。何でしょうか、セドリック様には見て貰いたくないような気もしますわ」
「なっ!! 何て事を言うのだ! わ、判った。邪魔などしない! お、大人しくしているから!」
もう、カテリーナ様が必死に笑い声を押えています。でも、肩が震えていますわ。
「久しぶりだ! 懐かしき我が学び舎よ!」
銀髪をたなびかせて、白いローブ姿の彼が馬車から降り立った。
「お待ちしておりました。魔法科学省の皆様。レイシル様、お久し振りでございます」
トンバール学院長の出迎えに、レイシルはさっさと荷物を運びこむように指示する。挨拶など時間の無駄だという素気なさであった。しかし、学院長も慣れたもので、早々にハート教授に案内役を渡した。
「それでは、ハート教授、鑑定式には私達も同席しますから、時間になるまで皆様をよろしくお願いします」
「じゃあ、案内して頂きましょう? ハート先生?」
久し振りの鑑定式と、気心の知れているシルヴァがいることで、いつも以上にテンションが高くなっている。ように見える。
「こっちだ。第二公会堂で行う」
魔法科学省の鑑定士を案内しながら、レイシルを見る。さすがに今日は鑑定団の長として来ているせいか、鑑定士の白いローブを着こんでいる。長である彼のローブには金色刺繍で魔法科学省の紋章がされている。ゆったりしたローブに長い銀髪が揺れて、見た目だけは魔法科学省の高官の姿だ。
「結局、32名だっけ? 10歳が31名に15歳が1名。準備ができ次第始めるから。そろそろ中等部は授業が終わるだろう?」
第二公会堂は、まあまあの広さに、四方の壁には括り付けの椅子がある。見届け人や見学者はそこの椅子に座ることになる。
「そうだ。これが終わったら、エーリックにも会いたいな。会わせてくれる? ハート先生?」
これは駄目だと言っても、無理なパターンだ。
もうすぐ放課後になる。放課後に今日は中等部の魔法鑑定式が行われる。弟王子のパリスとカルンの双子達も鑑定式を受けると聞いている。誕生日の遅い双子達も、ようやく鑑定式を受けられる時期になった。
「フェリックス。パリスとカルンの鑑定式を見学に行くだろう。授業が終わったらすぐに第二公会堂に行こう」
今日の鑑定式に両親は来られない。代わりに自分が見届け人となる予定だ。フェリックスには水と風の二つの魔法術の識別がある。オーランドには残念ながら魔力は無い。コレール王国の貴族、それも王族の血を以ても、魔法術が使えるかどうかは五分五分になっている。姉であるチェリアーナも、偶然かどうかは判らないが水と風の二つだ。双子王子達が、別の識別の魔法術が使えるのが望ましいが、こればかりは鑑定してみなければ判らない。今までの二人からは、魔力の存在を感じたことは無かったけれど。
(まあ、鑑定でも使えれば判るだろうが……)
鑑定を使える鑑定士の人数は少ない。それでも、鑑定士の長は、自分と同じ祖父の血を引く人間だ。彼が現在のコレール王国で最高位の魔法術師なのだ。双子達にその血が繋がっていることを祈るしかない。
「オーランド、行こう」
フェリックスはオーランドに声を掛けると、第二公会堂に向かった。
そう言えば、あの編入生の彼女も鑑定式を受けると聞いた。あの、ダリナスの外交大使の息子、セドリックが何故だか上から目線で受け方のレクチャーをしていた。ここ最近何日かは大人しかったと思ったが、今日は今までと変わらない騒々しさだった。まあ、以前よりも変わった点と言えば、今まではエーリックやカテリーナと親しくしていたが、今はその輪に彼女が加わった。まるで、ずっと前からそうだったように。すんなりと編入初日から。
彼女が来てから、変わったのはセドリックだけでは無いように思う。
まずは、ローナ。彼女の隣の席なのにお喋りをするところを見たことが無い。いや、しゃべるどころか顔を向けることも無いように見える。確か、初日に静養室への案内を自ら買って出たのに。帰って来てから何か変だった。そして今日に至る。だ。
ロイも変と言えば変だ。彼女から貰ったという菓子の袋を大事に保管している。皺を伸ばして綺麗に畳んで。たまに彼女と挨拶したり話していたりするが、その顔は楽しそうに紅潮して見えた。
そう言えば、ドロシアとイザベラも彼女と話をしていた。マカロンがどうとか、キャンディーがどうとか聞こえたから、多分菓子の話をしていたようだったが、いつの間にそんな話をし合う仲になったのだろう。
「女の子は謎だ」
「なに? 何か言ったか?」
隣を歩くオーランドが、聞き返してきた。いや。そこはスルーしてくれ。
「何でもない。そうだ、レイシル様がいらっしゃるのだろう? 久し振りだからお会いしておこう。こんな時でもなければ、お会いすることも無いからな」
普段は、魔法科学省の会館の中、王宮神殿の最奥に籠っている変り者の叔父。父である国王陛下の異母兄弟。なのに、両親や兄弟よりも自分と似ている。髪も目も顔も。多分、曾祖母の血が色濃く出ているのかもしれない。幼い頃は兄弟に見られることもあった。
(いた!)
第二公会堂の中央に置かれた鑑定石の傍に立ち、生徒の鑑定をすでに行っていた。
まだ、パリスとカルンの順番にはなっていない。双子の王子は呼ばれるまで隣の控室にいるようだ。オーランドと共に、静かに席に着く。
(確かに、あの様子だけを見れば、神官長に見えない事も無いか)
近視の彼には、フェリックスもオーランドの姿も認識できているかどうか。
(さて、そろそろ呼ばれるか? 二人はどうだ?)
「「兄上!!」」
休憩時間になり、鑑定が終わった二人が報告の為に駆け寄って来た。
「兄上! 見て下さいましたか? 僕には水と鑑定がありました!」
「僕には、土と錬金です!」
何と、パリスには水と鑑定、カルンには土と錬金の魔法術が識別された。貴重な鑑定と錬金は、二人に王族として将来の選択肢を広げることが出来る。良かった。弟たちにとっては最も有効な魔法術だ。
二人は嬉しそうに、私の隣の席に座った。まだ続く鑑定式を見学するつもりだろう。意外と自分の鑑定式は緊張して覚えていないもので、他の者がどうやっているかを見ておきたいものだから。
すると、近くの扉からエーリック、カテリーナそしてセドリックが入って来た。エーリックとカテリーナがこちらをチラリと見ると、ふわりと手を振った。こちらも片手を挙げて挨拶する。セドリックは……少し青い顔をしているように見えるが、緊張しているのか? しきりにハンカチで額の汗を拭っている。
「鑑定式を再開する。次の鑑定者は入室しなさい」
レイシル様の声がして鑑定式が再開された。
ドキドキしますわ。初鑑定式! 何事も初めては緊張します。
次々に、10歳の子たちが呼ばれて鑑定を受けています。今回の最後は、15歳の私ですわ。会場に行けばエーリック殿下やカテリーナ様、セドリック様が見届け人として見学しているはずです。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。中に入りなさい」
呼ばれました。いよいよですわ。グリーンフィールド公爵家初の魔法術師になれますでしょうか!?
「失礼します」
第二公会堂の扉が開かれました。公会堂の中は広めの教室位でしょうか。
壁に沿って置かれた椅子の、一番扉側にエーリック殿下とカテリーナ様、そしてセドリック様が並んで座っていました。エーリック殿下はガンバって。と口の形で応援して下さいます。カテリーナ様は、隣で青い顔をしているセドリック様の額の汗を拭いてあげています。どうしてそうなったのでしょうか。駄目でしょう!セドリック様。
そして、正面側の椅子席には、ヤツとオーランド様、そして銀髪の可愛らしい顔立ちの双子ちゃんが座っています。この子達が双子の弟王子達なのですね。初めてお会いしましたわ。しかし、私の鑑定式を何故この人たちもご覧になっているの?
終わったのならば、さっさとお帰り下されば良いのに!!(毒)
気を取り直して、集中しましょう。
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鑑定石の近くに、ひと際目立つ金の刺繍が施された白いローブの方と、その周りにも数人の白ローブの方々が鑑定石を囲むようにいらっしゃいます。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド。鑑定石の傍へ」
金刺繍の白ローブの方に呼ばれて石の傍に立ちます。ふと、視線を感じて目の前の鑑定士を見上げました。
(げっ!? ヤツ!?---じゃない?)
多分、私は思いっきり目を見開いて目の前の人を見詰めていました。
『目、こぼれるよ?』
鑑定石を挟んで、真正面に立つヤツによく似た顔立ちの男性が、小さな声で囁きました。
よく考えれば、ヤツはあちらの席に座っていますもの。目の前の方はヤツじゃないですわ。驚きました。銀色の髪も、5年前に見たグリーントルマリンの瞳も、顔立ちも良く似ています。この方も王族の一員ですよね。
誰だ?
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声高らかに宣言されました。おおう!! グリーンフィールド公爵家初ですわ!!
そして、その後数人の鑑定士と、代わるがわる掌を合わせて識別を検証していきます。
しかし、鑑定士全員と干渉を行って識別をして貰ったのに、どなたの識別にも引っかかりません。
「どういうことだ?」
目の前にいるヤツモドキ様が、首を捻ります。こんなことは今まで見たことも無いとおっしゃいます。
イヤイヤ、こちらが教えて頂きたいですわ。
ざわつく会場で、鑑定士達が慌てたように何やら集まって相談しています。そこに、ハート先生も加わっていますけど。何でしょう? とっても不安になってきました。
すると、ヤツモドキ様が近くまで寄ってきて、ニッコリ微笑んで私の顔を覗き込みました。
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