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59. 三人模様
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今朝、見たくないモノを見ました。
いえ、見たい者と見たくないモノです。
フェリックス殿下と彼女です。校内にある庭園の端でお二人を見つけました。馬車寄せから正面玄関に向かう歩道から、庭園の方に少しそれた樹々の陰で、明らかに人目を避けた場所、です。
こんな時間に。なんで? 二人で?
二人が教室や校内で親しくしている様子や、ましてお話したり近い距離にいるところも、見たことはありませんでした。彼女はダリナスの三人と親しかったし、お話もランチも、教室の移動もいつも一緒でした。フェリックス殿下だって、敢えて彼女に近づく様子など微塵も感じませんでした。
なのに・・・なぜ?
『それでは、ロイ様、ローナ様? お先に失礼致しますわね』
そう言った彼女は、フェリックス殿下の腕に手を掛けると、殿下を急かすように行ってしまいました。隣にいるロイが、見惚れる様な笑顔を残して。
フェリックス殿下も何も言わず、彼女に腕をとられたまま一緒に歩いて行きました。その顔は少し驚いたようでしたが、うっすらと頬が赤くなっていたように見えて、見たことの無い恥ずかしさを堪こらえたような表情でした。
言ったのに。
最初に言ったはずなのに! 彼女はフェリックス殿下に、お詫びすることも無く過ごしています! それに、最近ではイザベラ様やドロシア様とも親しくお話することもありました。
あの二人こそ、フェリックス殿下を激しく非難したのに! もしや三人でまだ、フェリックス殿下を責めているのだったら、なんてお気の毒なんでしょう。
「初めて見たね? フェリックス殿下とシュゼット様がご一緒の所なんて。ね、ローナ?」
ロイは彼女の事が気になるようです。確かに、あのキレイな顔で微笑まれたら。
「行きましょう! 私達も遅れてしまうわ」
なんだかウキウキと嬉しそうに話すロイにイラっとします。ロイは彼女と私、フェリックス殿下の立場を判っているのでしょうか?
私は、フェリックス殿下と二人きりで、人目を避けてお会いしたことなどありませんのに。
エーリック殿下とシュゼットが、昼休みを終えて戻って来た。午前中は顔色の冴えなかったエーリック殿下の顔色が随分と良くなって、すっきりした表情になっていた。彼女との散歩はいい気分転換になったのだろう。良い事だと思う。思うが……
(一緒に散歩がしたかった)
セドリックは頬杖をついて、教室に入って来た二人を見ていた。キラキラしい二人の姿は、クラスの中で誰もが目を見張る。ついつい目で追ってしまう。よく言えばお似合いの二人だ。
(それは、……認める)
セドリックにとって、エーリックもシュゼットも特別の存在だ。二人とも種類は違うが、大切で大好きな人間なのだ。
近づいて来たシュゼットに眼を向けると、ばっちりと眼が合った。見上げるセドリックの前に立ったシュゼットが、屈んで目線を合わせて来た。
「なっ!?」
驚いて思わず姿勢を正した。
「セドリック様? やっぱり前髪が長すぎますわ。目が悪くなりそうですから、切った方が良いと思いますけど」
屈んだシュゼットが、セドリックの机に顔を載せるようしてセドリックの顔を覗き込んだ。
今度は、シュゼットの方が上目遣いにセドリックを見ている。
「……くれ」
「? なんですの? もう一度おっしゃって?」
セドリックは口ごもった。
でも、意を決したように彼女の耳元に、口を近づけて小さな声で答えた。
「シュゼットが切ってくれ。君が切ってくれたら、切ってもイイ」
ガンッ!!
後ろから椅子の座面の下を思いっきり蹴られた。
振り向かなくても判る。エーリック殿下が、どんな表情でいるのかも想像できる。
「私で良かったら、お手伝いしますわ」
そう言ってシュゼットは、後ろの席にも目を向けると花のように笑った。
午後の授業も終わりに近づきます。あと数分で今日の授業は終わりです。
放課後、彼が私の家、グリーンフィールド公爵邸に来るとのことです。話がしたいから。お願いだと懇願された結果ですわ。
本来でしたら、王族である彼からの申し出であれば、私の方が王宮に出向くのが普通でしょうが、今回はあくまでも、相手からの申し入れで我が家に来ることを了承しました。
はっきり言って話なんか聞きたくないですわ。今さら感がたっぷりですもの。でもね、今朝の彼・は思った以上に真摯な姿に見えました。仮にも一国の王子、多分いずれは国王になる第一王子が自ら跪いて、許しを請うた訳ですから。普通であれば、只の公爵令嬢に軽々しく頭は下げません。王族とはそういう者でしょう。
あんな場面を誰かに見られたら、どんな噂になるか判りません。下手をすれば、求愛されたような場面ですもの。
言っておいてなんですが、ぞわっとしました。良かったですわ。誰にも見られませんでしたわね? そう考えれば、近くに来たのがロイ様とローナ様で良かったという事です。
とは言っても、何だか情にほだされたような感じで、彼の訪問を了承してしまったワケです。
彼の話を聞かない!! 話をしない!! と彼への仕返しを決めていたのに・・・
とにかく、先に屋敷に帰って彼を迎える準備をしましょう。すでに、お昼休みに屋敷にその旨の伝令を出してあります。マリもマシューも驚いていると思います。お母様はもしかしたら、お父様に連絡しているかもしれません。それでなくても魔法術士であることが判明して、屋敷中が浮足立っているのに、王子様のご訪問ですから。
彼の話をちゃんと聞くの?
何を答えるの?
どうするの、ワタシ・・・?
どうしたいの、私。
いえ、見たい者と見たくないモノです。
フェリックス殿下と彼女です。校内にある庭園の端でお二人を見つけました。馬車寄せから正面玄関に向かう歩道から、庭園の方に少しそれた樹々の陰で、明らかに人目を避けた場所、です。
こんな時間に。なんで? 二人で?
二人が教室や校内で親しくしている様子や、ましてお話したり近い距離にいるところも、見たことはありませんでした。彼女はダリナスの三人と親しかったし、お話もランチも、教室の移動もいつも一緒でした。フェリックス殿下だって、敢えて彼女に近づく様子など微塵も感じませんでした。
なのに・・・なぜ?
『それでは、ロイ様、ローナ様? お先に失礼致しますわね』
そう言った彼女は、フェリックス殿下の腕に手を掛けると、殿下を急かすように行ってしまいました。隣にいるロイが、見惚れる様な笑顔を残して。
フェリックス殿下も何も言わず、彼女に腕をとられたまま一緒に歩いて行きました。その顔は少し驚いたようでしたが、うっすらと頬が赤くなっていたように見えて、見たことの無い恥ずかしさを堪こらえたような表情でした。
言ったのに。
最初に言ったはずなのに! 彼女はフェリックス殿下に、お詫びすることも無く過ごしています! それに、最近ではイザベラ様やドロシア様とも親しくお話することもありました。
あの二人こそ、フェリックス殿下を激しく非難したのに! もしや三人でまだ、フェリックス殿下を責めているのだったら、なんてお気の毒なんでしょう。
「初めて見たね? フェリックス殿下とシュゼット様がご一緒の所なんて。ね、ローナ?」
ロイは彼女の事が気になるようです。確かに、あのキレイな顔で微笑まれたら。
「行きましょう! 私達も遅れてしまうわ」
なんだかウキウキと嬉しそうに話すロイにイラっとします。ロイは彼女と私、フェリックス殿下の立場を判っているのでしょうか?
私は、フェリックス殿下と二人きりで、人目を避けてお会いしたことなどありませんのに。
エーリック殿下とシュゼットが、昼休みを終えて戻って来た。午前中は顔色の冴えなかったエーリック殿下の顔色が随分と良くなって、すっきりした表情になっていた。彼女との散歩はいい気分転換になったのだろう。良い事だと思う。思うが……
(一緒に散歩がしたかった)
セドリックは頬杖をついて、教室に入って来た二人を見ていた。キラキラしい二人の姿は、クラスの中で誰もが目を見張る。ついつい目で追ってしまう。よく言えばお似合いの二人だ。
(それは、……認める)
セドリックにとって、エーリックもシュゼットも特別の存在だ。二人とも種類は違うが、大切で大好きな人間なのだ。
近づいて来たシュゼットに眼を向けると、ばっちりと眼が合った。見上げるセドリックの前に立ったシュゼットが、屈んで目線を合わせて来た。
「なっ!?」
驚いて思わず姿勢を正した。
「セドリック様? やっぱり前髪が長すぎますわ。目が悪くなりそうですから、切った方が良いと思いますけど」
屈んだシュゼットが、セドリックの机に顔を載せるようしてセドリックの顔を覗き込んだ。
今度は、シュゼットの方が上目遣いにセドリックを見ている。
「……くれ」
「? なんですの? もう一度おっしゃって?」
セドリックは口ごもった。
でも、意を決したように彼女の耳元に、口を近づけて小さな声で答えた。
「シュゼットが切ってくれ。君が切ってくれたら、切ってもイイ」
ガンッ!!
後ろから椅子の座面の下を思いっきり蹴られた。
振り向かなくても判る。エーリック殿下が、どんな表情でいるのかも想像できる。
「私で良かったら、お手伝いしますわ」
そう言ってシュゼットは、後ろの席にも目を向けると花のように笑った。
午後の授業も終わりに近づきます。あと数分で今日の授業は終わりです。
放課後、彼が私の家、グリーンフィールド公爵邸に来るとのことです。話がしたいから。お願いだと懇願された結果ですわ。
本来でしたら、王族である彼からの申し出であれば、私の方が王宮に出向くのが普通でしょうが、今回はあくまでも、相手からの申し入れで我が家に来ることを了承しました。
はっきり言って話なんか聞きたくないですわ。今さら感がたっぷりですもの。でもね、今朝の彼・は思った以上に真摯な姿に見えました。仮にも一国の王子、多分いずれは国王になる第一王子が自ら跪いて、許しを請うた訳ですから。普通であれば、只の公爵令嬢に軽々しく頭は下げません。王族とはそういう者でしょう。
あんな場面を誰かに見られたら、どんな噂になるか判りません。下手をすれば、求愛されたような場面ですもの。
言っておいてなんですが、ぞわっとしました。良かったですわ。誰にも見られませんでしたわね? そう考えれば、近くに来たのがロイ様とローナ様で良かったという事です。
とは言っても、何だか情にほだされたような感じで、彼の訪問を了承してしまったワケです。
彼の話を聞かない!! 話をしない!! と彼への仕返しを決めていたのに・・・
とにかく、先に屋敷に帰って彼を迎える準備をしましょう。すでに、お昼休みに屋敷にその旨の伝令を出してあります。マリもマシューも驚いていると思います。お母様はもしかしたら、お父様に連絡しているかもしれません。それでなくても魔法術士であることが判明して、屋敷中が浮足立っているのに、王子様のご訪問ですから。
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どうするの、ワタシ・・・?
どうしたいの、私。
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