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58. 聞かれた! 見られた!
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「シュゼット?」
「……」
「シュゼット? 聞こえてる?」
目の前で手をヒラヒラと動かされて、はっと気付きました。
エーリック殿下が、心配そうなお顔で覗き込んできます。お昼休みになって、いつものように食堂ホールでランチ中です。
因みに、本日のランチは香辛料の効いたカリーです。香ばしく専用窯で焼かれたナンが大きくて、食べ応えがあります。ドリンクのヨーグルト風味が辛さを和らげてくれます。
「ええ? とっても美味しいですわよ?」
カリーの味を問われたと思いました。
「やっぱり変だ。シュゼット、今はカリーの話はしていないよ? 大丈夫なの?」
うっ。そうなのですか。
「ごめんなさい。考え事をしていましたの」
気を遣って下さるエーリック殿下に、申し訳ない気持ちで謝ります。
「まったく、どんな心配事があると言うのだ? そーゆー時は遠慮なく私に相談しろと言っているだろう? さあ、シュゼット、言ってみたまえ!」
セドリック様? 今日はいつもの調子なのですね? 上から目線も変わりありませんけど、フルネーム呼びでなくなりましたのね?
「大丈夫です。ご相談するまでもない事なんです。ご心配をお掛けしてごめんなさい」
「大丈夫なら良いのよ。シュゼットの憂い顔も良いけど、やっぱり私は笑顔の方が良いわ! 覚えておいて、皆シュゼットに笑顔でいて欲しいのよ? だから、心配かけて悪いなんて思わないで、相談してちょうだいな?」
カテリーナ様がそう言って、ニッコリと笑いました。
カテリーナ様が変わったような気がします。そう、以前より大分落ち着いたと言うか、何と言うか。大人っぽくなったと言うか?
「まあ、大丈夫なら良いけど。ところでシュゼットは、学院バザーの手伝いをするのだって?」
エーリック殿下が、カリーを食べながら聞いてきました。ちらりとセドリック様を見ると、あからさまにそっぽを向いていますけど……エーリック殿下にお話ししましたのね?
「はい。お手伝いできればと思いまして。でも大方の準備は出来ているそうですし、私も魔法術の講義の間を縫ってとのことですから、ほんの少しだけですわ」
「殿下! シュゼットのできない分は、一緒に手伝う私が・やりますからご心配無く!」
「お前の事は全く気にしていないから。でも、シュゼットは無理しないでね?」
「殿下!!ひどっ!! 私の事はどうでも良いのですか!?」
二人のやり取りを聞いて、カテリーナ様と顔を見合わせて笑います。そうですわ。ここにいる皆さんは、本当に温かくて、楽しい方々ばかりなのです。
ランチを終えて、中庭の花壇まで散歩をしています。
ここの花壇も良く手入れがされて見ごたえがありますね。カテリーナ様は、午後の授業で当てられるからと先に教室に帰られました。
でもですね、
「セドリックも行くわよ!」
なぜか、セドリック様も一緒に戻ろうと誘います。セドリック様は、思いっきり眉を顰ひそめてカテリーナ様を見上げています。
「はっ!? なんで? 一緒に散歩---」
「エーリックの番なの!! 昨日の!! 知っているのよ!?」
「くっ!?」
謎の会話をされていましたけど、カテリーナ様の迫力のドヤ顔に、セドリック様が押し切られました。このお二人実は、物凄く気が合っているように思います。
なので今は、エーリック殿下と二人でお散歩中です。
「いい天気だね。気持ち良いなぁ」
花壇の傍のベンチに腰掛けます。珍しくエーリック殿下は眠そうに目を細めると、紫色の瞳が静かに閉じられました。スッキリとした鼻梁に長い睫毛。お日様の光で、黒髪の頭には天使の輪ができています。
大分お疲れのようです。何かあったのでしょうか? エーリック殿下は普段こんな様子を見せない方ですけど……
それにしても、お綺麗な方です。ダリナスの王族の方は黒髪や黒目等、髪や瞳の色が濃い方が多いですけど、その中でも一、二を競う美貌ですよね? この髪なんて、思わず撫でてしまいたくなるくらいの真っ直ぐ艶サラですもの。
コテン。
(ひえっ!?)
エーリック殿下が、私の肩に凭れてきました!
今の私達はベンチに隣同士で座っています。
エーリック殿下は足を組んで、腕を組んで……そして、頭だけ私の肩に載せています!
小さく寝息が聞こえています。こんな殿下は初めてです。
(う、動けません。どうしましょう?)
仕方ありません。予鈴が鳴るまでは、このままでいるしかありませんね。
スースーと穏やかな寝息をたてて眠るエーリック殿下の体温を肩に感じながら、私はくすぐったい気持ちになったのでした。
昨日、シルヴァ叔父上と話をしてから、ずっと考えていた。
シュゼットが光の識別者になったことで、カテリーナと相対する立場になったかもしれないこと。そして、場合によっては両国間にヒビが入る可能性がでてきたこと。
そればかりではない。シルヴァ叔父上も、レイシル様もシュゼットに対してなんらかの感情を持っているようだし、セドリックも覚醒したし、もっと言えばロイもフェリックスも少なからず想いはありそうだ。
でも、どう想っても今はフェリックスの婚約者候補。
候補者のいる前で、余りあからさまに誘うことも、想いをひけらかす様なことも出来ない。幾ら、シュゼットが候補者になりたくない。婚約者にも王妃にもなりたくないと言っていても。
自分には今時点では婚約者はいないけど、本国で急に決まる事もあるかもしれない。見たことも会ったことも無い令嬢と……
嫌だな。シュゼットがいるのに。シュゼットが良い。
「シュゼットじゃなければ嫌だ!」
目が覚めた。目線の先には、手が見える。両手を組んでいる。女の子の手だ。
そうか、両手を組んでスカートの上、膝の上に置いているのか……
「はっ!?」
目が覚めた。自分の今の体勢はどうなっているのか? 顔の下にある温かな体温。
ガバリと起きて、体勢を整える。恐る恐る隣を見た……
「っ!?」
隣にいるシュゼットの顔が真っ赤になっていた。
まさか、まさかと思うが、さっきの言葉は夢の中だけでは無かったのか? 思いっきりしゃべった実感がある。マジ寝言だったのか!?
誰か、嘘だといってくれ……
「あの、シュゼット、私は寝ていたのかな?」
「……はい。少しですけど」
「あの……何か言っていたかな?」
「ぇっ!?」
「シュゼット?」
「ぅっ……」
ああ。言っていたのだ!! 夢でなかった!! どんな告白だ!! セドリック並みのうっかりだ!!
でも、言ってしまったことは取り消せないし、取り消すつもりもない。
ベンチから立ち上がって、思いっきり伸びをした。何だか、気持ちが晴れ晴れとして、頭がクリアになった気がした。
「私は、眠っていても君の事を考えていたらしい。でも、そう言うことだから」
そう言って、手を差し出してシュゼットを立ち上がらせる。良かった。彼女の頬は赤いけど、嫌がっている様子は見えない。
「さあ、教室に戻ろう?」
シュゼットと手を繋ぐと、ゆっくりと教室に向かった。まだ、予鈴が鳴るまでは時間がある。
「可愛いねぇ。あの、エーリックがあんなに安心して、うたた寝するなんてね?」
「茶化すのは止めてやれ」
中庭を望む廊下で、レイシルが二人を見つけた。声を掛けようとするレイシルを、シルヴァが止めて暫く様子を見ていた。時間が来ても起きないようなら、起こそうと思っての事で、他に他意は無い。と思いたい。
「ああ。起きたようだ。大丈夫だな? しかし、まあ絵のように綺麗な二人だった。ある意味お似合いの二人か?」
二人が中庭から出て行ったのを見て、シルヴァに向かって振り返った。
今日のレイシルは午前中に王宮での仕事を終えて、先程シルヴァに会いに来た。遅いランチを食堂ホールでしようと来たところ、廊下から中庭にいる二人を見つけたのだった。近視で目が悪いはずなのに、良くも見つけたものだと感心する。
コイツにとって、識別者のエーリックとシュゼットは、貴重な研究対象で同志で、庇護対象者になる。しかし、シュゼットに対しては少し違うのかもしれない。
「さあ行こう」
今日のレイシルは、長い銀髪を肩下で緩く三つ編みにして、紺色で詰襟、深いスリットの入った異国風の上着を着ている。神官長でも鑑定士長の服装でもない普段着のようだ。刺繍も飾りも何もついていないのに、上質な布と身体にぴったりした丁寧な縫製は、一目で上等な物と判る。そして、それを優雅に着こなしている銀髪の麗人は、明らかに一般人とは言えない雰囲気を漂わせている。
(黙っていればいいものを。勿体ない事だ・・・)
シルヴァがレイシルの事をそう思っているのを、気付く風でもなくウキウキと食堂ホールを目指す。
「しかし、アレだね? 甥っ子の初恋なら叶えてやりたくなるよな? そう思わない?」
何を言い出すかと思ったら。多分、自分に対しての引っ掛けだ。
「でも、お前は割って入る気なのだろう?」
それには引っ掛からないと、逆に仕掛けてみる。
グリーントルマリンの瞳が、じっと見ている。やっぱり引っ掛けだったようだ。
「そうだね。言ったじゃない? 俺は立ち位置を考えてるって。でも、貴方はどうなの? 甥っ子の初恋を応援している訳じゃないでしょ?」
「応援も何も、それ以前に大きな問題があるだろう」
シュゼットがフェリックスの婚約者候補である事実。こればかりは、ダリナスの人間がどう頑張っても変えられない。エーリックもそれを判っているはずだ。
「ソレ、変わったらどうする?」
レイシルの顔をじっと見た。何を言っているのか。
「貴方も、エーリックも生涯の伴侶をどうするか、国で問題になっているんじゃないの? 幾ら、コレールに来ていても、それは一刻の時間稼ぎ。急がないと自分の気持ちなんて関係なく扱われるよ?」
王族である以上、政略結婚は仕方が無い。それも義務の一つと思っている。相思相愛で結ばれるなどと、ほとんど無い。そんなことは十分承知している。レイシルだって立場は同じはずだ。何を焚きつけるような事を言っているのか。
オマエも同じだろ。と言おうと口を開きかけた時、
「変わるんだよ。色々とね」
レイシルは、慈悲深い神官長の微笑みを浮かべてそう言った。
「……」
「シュゼット? 聞こえてる?」
目の前で手をヒラヒラと動かされて、はっと気付きました。
エーリック殿下が、心配そうなお顔で覗き込んできます。お昼休みになって、いつものように食堂ホールでランチ中です。
因みに、本日のランチは香辛料の効いたカリーです。香ばしく専用窯で焼かれたナンが大きくて、食べ応えがあります。ドリンクのヨーグルト風味が辛さを和らげてくれます。
「ええ? とっても美味しいですわよ?」
カリーの味を問われたと思いました。
「やっぱり変だ。シュゼット、今はカリーの話はしていないよ? 大丈夫なの?」
うっ。そうなのですか。
「ごめんなさい。考え事をしていましたの」
気を遣って下さるエーリック殿下に、申し訳ない気持ちで謝ります。
「まったく、どんな心配事があると言うのだ? そーゆー時は遠慮なく私に相談しろと言っているだろう? さあ、シュゼット、言ってみたまえ!」
セドリック様? 今日はいつもの調子なのですね? 上から目線も変わりありませんけど、フルネーム呼びでなくなりましたのね?
「大丈夫です。ご相談するまでもない事なんです。ご心配をお掛けしてごめんなさい」
「大丈夫なら良いのよ。シュゼットの憂い顔も良いけど、やっぱり私は笑顔の方が良いわ! 覚えておいて、皆シュゼットに笑顔でいて欲しいのよ? だから、心配かけて悪いなんて思わないで、相談してちょうだいな?」
カテリーナ様がそう言って、ニッコリと笑いました。
カテリーナ様が変わったような気がします。そう、以前より大分落ち着いたと言うか、何と言うか。大人っぽくなったと言うか?
「まあ、大丈夫なら良いけど。ところでシュゼットは、学院バザーの手伝いをするのだって?」
エーリック殿下が、カリーを食べながら聞いてきました。ちらりとセドリック様を見ると、あからさまにそっぽを向いていますけど……エーリック殿下にお話ししましたのね?
「はい。お手伝いできればと思いまして。でも大方の準備は出来ているそうですし、私も魔法術の講義の間を縫ってとのことですから、ほんの少しだけですわ」
「殿下! シュゼットのできない分は、一緒に手伝う私が・やりますからご心配無く!」
「お前の事は全く気にしていないから。でも、シュゼットは無理しないでね?」
「殿下!!ひどっ!! 私の事はどうでも良いのですか!?」
二人のやり取りを聞いて、カテリーナ様と顔を見合わせて笑います。そうですわ。ここにいる皆さんは、本当に温かくて、楽しい方々ばかりなのです。
ランチを終えて、中庭の花壇まで散歩をしています。
ここの花壇も良く手入れがされて見ごたえがありますね。カテリーナ様は、午後の授業で当てられるからと先に教室に帰られました。
でもですね、
「セドリックも行くわよ!」
なぜか、セドリック様も一緒に戻ろうと誘います。セドリック様は、思いっきり眉を顰ひそめてカテリーナ様を見上げています。
「はっ!? なんで? 一緒に散歩---」
「エーリックの番なの!! 昨日の!! 知っているのよ!?」
「くっ!?」
謎の会話をされていましたけど、カテリーナ様の迫力のドヤ顔に、セドリック様が押し切られました。このお二人実は、物凄く気が合っているように思います。
なので今は、エーリック殿下と二人でお散歩中です。
「いい天気だね。気持ち良いなぁ」
花壇の傍のベンチに腰掛けます。珍しくエーリック殿下は眠そうに目を細めると、紫色の瞳が静かに閉じられました。スッキリとした鼻梁に長い睫毛。お日様の光で、黒髪の頭には天使の輪ができています。
大分お疲れのようです。何かあったのでしょうか? エーリック殿下は普段こんな様子を見せない方ですけど……
それにしても、お綺麗な方です。ダリナスの王族の方は黒髪や黒目等、髪や瞳の色が濃い方が多いですけど、その中でも一、二を競う美貌ですよね? この髪なんて、思わず撫でてしまいたくなるくらいの真っ直ぐ艶サラですもの。
コテン。
(ひえっ!?)
エーリック殿下が、私の肩に凭れてきました!
今の私達はベンチに隣同士で座っています。
エーリック殿下は足を組んで、腕を組んで……そして、頭だけ私の肩に載せています!
小さく寝息が聞こえています。こんな殿下は初めてです。
(う、動けません。どうしましょう?)
仕方ありません。予鈴が鳴るまでは、このままでいるしかありませんね。
スースーと穏やかな寝息をたてて眠るエーリック殿下の体温を肩に感じながら、私はくすぐったい気持ちになったのでした。
昨日、シルヴァ叔父上と話をしてから、ずっと考えていた。
シュゼットが光の識別者になったことで、カテリーナと相対する立場になったかもしれないこと。そして、場合によっては両国間にヒビが入る可能性がでてきたこと。
そればかりではない。シルヴァ叔父上も、レイシル様もシュゼットに対してなんらかの感情を持っているようだし、セドリックも覚醒したし、もっと言えばロイもフェリックスも少なからず想いはありそうだ。
でも、どう想っても今はフェリックスの婚約者候補。
候補者のいる前で、余りあからさまに誘うことも、想いをひけらかす様なことも出来ない。幾ら、シュゼットが候補者になりたくない。婚約者にも王妃にもなりたくないと言っていても。
自分には今時点では婚約者はいないけど、本国で急に決まる事もあるかもしれない。見たことも会ったことも無い令嬢と……
嫌だな。シュゼットがいるのに。シュゼットが良い。
「シュゼットじゃなければ嫌だ!」
目が覚めた。目線の先には、手が見える。両手を組んでいる。女の子の手だ。
そうか、両手を組んでスカートの上、膝の上に置いているのか……
「はっ!?」
目が覚めた。自分の今の体勢はどうなっているのか? 顔の下にある温かな体温。
ガバリと起きて、体勢を整える。恐る恐る隣を見た……
「っ!?」
隣にいるシュゼットの顔が真っ赤になっていた。
まさか、まさかと思うが、さっきの言葉は夢の中だけでは無かったのか? 思いっきりしゃべった実感がある。マジ寝言だったのか!?
誰か、嘘だといってくれ……
「あの、シュゼット、私は寝ていたのかな?」
「……はい。少しですけど」
「あの……何か言っていたかな?」
「ぇっ!?」
「シュゼット?」
「ぅっ……」
ああ。言っていたのだ!! 夢でなかった!! どんな告白だ!! セドリック並みのうっかりだ!!
でも、言ってしまったことは取り消せないし、取り消すつもりもない。
ベンチから立ち上がって、思いっきり伸びをした。何だか、気持ちが晴れ晴れとして、頭がクリアになった気がした。
「私は、眠っていても君の事を考えていたらしい。でも、そう言うことだから」
そう言って、手を差し出してシュゼットを立ち上がらせる。良かった。彼女の頬は赤いけど、嫌がっている様子は見えない。
「さあ、教室に戻ろう?」
シュゼットと手を繋ぐと、ゆっくりと教室に向かった。まだ、予鈴が鳴るまでは時間がある。
「可愛いねぇ。あの、エーリックがあんなに安心して、うたた寝するなんてね?」
「茶化すのは止めてやれ」
中庭を望む廊下で、レイシルが二人を見つけた。声を掛けようとするレイシルを、シルヴァが止めて暫く様子を見ていた。時間が来ても起きないようなら、起こそうと思っての事で、他に他意は無い。と思いたい。
「ああ。起きたようだ。大丈夫だな? しかし、まあ絵のように綺麗な二人だった。ある意味お似合いの二人か?」
二人が中庭から出て行ったのを見て、シルヴァに向かって振り返った。
今日のレイシルは午前中に王宮での仕事を終えて、先程シルヴァに会いに来た。遅いランチを食堂ホールでしようと来たところ、廊下から中庭にいる二人を見つけたのだった。近視で目が悪いはずなのに、良くも見つけたものだと感心する。
コイツにとって、識別者のエーリックとシュゼットは、貴重な研究対象で同志で、庇護対象者になる。しかし、シュゼットに対しては少し違うのかもしれない。
「さあ行こう」
今日のレイシルは、長い銀髪を肩下で緩く三つ編みにして、紺色で詰襟、深いスリットの入った異国風の上着を着ている。神官長でも鑑定士長の服装でもない普段着のようだ。刺繍も飾りも何もついていないのに、上質な布と身体にぴったりした丁寧な縫製は、一目で上等な物と判る。そして、それを優雅に着こなしている銀髪の麗人は、明らかに一般人とは言えない雰囲気を漂わせている。
(黙っていればいいものを。勿体ない事だ・・・)
シルヴァがレイシルの事をそう思っているのを、気付く風でもなくウキウキと食堂ホールを目指す。
「しかし、アレだね? 甥っ子の初恋なら叶えてやりたくなるよな? そう思わない?」
何を言い出すかと思ったら。多分、自分に対しての引っ掛けだ。
「でも、お前は割って入る気なのだろう?」
それには引っ掛からないと、逆に仕掛けてみる。
グリーントルマリンの瞳が、じっと見ている。やっぱり引っ掛けだったようだ。
「そうだね。言ったじゃない? 俺は立ち位置を考えてるって。でも、貴方はどうなの? 甥っ子の初恋を応援している訳じゃないでしょ?」
「応援も何も、それ以前に大きな問題があるだろう」
シュゼットがフェリックスの婚約者候補である事実。こればかりは、ダリナスの人間がどう頑張っても変えられない。エーリックもそれを判っているはずだ。
「ソレ、変わったらどうする?」
レイシルの顔をじっと見た。何を言っているのか。
「貴方も、エーリックも生涯の伴侶をどうするか、国で問題になっているんじゃないの? 幾ら、コレールに来ていても、それは一刻の時間稼ぎ。急がないと自分の気持ちなんて関係なく扱われるよ?」
王族である以上、政略結婚は仕方が無い。それも義務の一つと思っている。相思相愛で結ばれるなどと、ほとんど無い。そんなことは十分承知している。レイシルだって立場は同じはずだ。何を焚きつけるような事を言っているのか。
オマエも同じだろ。と言おうと口を開きかけた時、
「変わるんだよ。色々とね」
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