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57. 王子様と天使の攻防
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「ロイ!」「ロイ様?」
植込みの角から芝生に踏み入って来たのはロイだった。
怪訝そうな表情ではあったが、シュゼットの姿を見つけるとやんわりと微笑んだ。
「フェリックス殿下? シュゼット様? こんなところでどうされたのですか?」
ロイは二人の顔を交互に見ながら、頭をかしげた。
シュゼットが、口を開く前にフェリックスがロイに向かって答えた。
「歩道を散策していたシュゼット嬢に、ご一緒させて頂いた。そう言うお前はどうしてこんなところに?」
さっきまでの様子が嘘のように、爽やかオーラを纏っている。さすが王子だ。
「ロイ様こそどうされたのですか?」
シュゼットが笑顔でロイに向き直して問う。その笑顔にロイの頬はさっと朱に染まった。一瞬の表情の変化にフェリックスは気付いてしまった。
(ああ。やっぱりロイは、彼女の事が好きなんだ・・・)
「バザーの時に、こちらの庭に飲み物と菓子の売店を設置する予定なのですが、馬車寄せからの道案内版をどう立てたらいいか考えていたのです。それで、実際に歩いていたら、話し声がしたので。こんな時間に珍しいな? と思って見たらお二人だったのです」
ニコニコしながら説明するロイの顔。茶色の目が嬉しそうに輝いている。シュゼットに向ける顔は、今まで見たことも無い表情だ。初めて見たその顔に、フェリックスは大いに驚いていた。
5年前のお茶会のもう一つの目的。側近選び。
貴族の子息との交流と称して少年達と馬上競技ポロをしたのだった。自分とオーランドがそれぞれ大将になってゲームをしたのだ。そこでロイの存在を知った。クルクルした茶色い髪と茶色い丸い瞳が仔犬のようで、あまり得意とは言えない馬術に、一生懸命な姿と明るい笑顔が気に入った。
それに、ゲームが終わった後、乗馬した馬を他の者は従者に任せていたのに、彼だけは水場まで自分で連れて行った。彼の髪色と似た栗毛の馬の首を優しく撫でながら。その瞳に好感を持ったことが縁で、学院に通うようになってからは、オーランドと共に身近な存在になった。側近と言うには、まだまだ子供であったけれど。
あれから、5年たったのだ。
(もう、コドモでは無いという事か・・・)
頬を染めて嬉しそうに会話をするロイにそう思った。ロイは、多分。いや、絶対、シュゼットに恋をしている。
複雑な気分がした。ロイは知っているはずだ。シュゼットも婚約者候補であることを。
(結局、コレが皆の気持ちに釘を刺しているんだ。エーリックにも、セドリックにも、ロイにも)
彼等から見たら、制度を傘に自分の想い人を理不尽に縛る、いけ好かない男と言う立場に見えるだろう。フェリックス自身が望んだわけでは無いが、こうまで彼女を見詰める男が多いと居た堪れなくなる。
レイシルの言った言葉が浮かんだ。
『そんなの、無くしてしまえば良いのに』
自分だってそう思う。
「……あの、フェリックス殿下? もうすぐ授業が始まりますわ……」
シュゼットとロイが穏やかに話をしているのを見ていた。ぼんやりしていた訳ではないが、その声に現実に引き戻された。思わず声のした方向に顔を向けると、シュゼットとロイも同じように振り返った。
「ローナ」
ここにもいた。婚約者候補の一人が。
木々の陰から、おずおずと顔を出したのは、ローナ様ですわ。もしや、ずっといらしたのですね。全く気が付きませんでした。この方の気配を消すスキルは相当な物ですわ。
「おはようございます。ローナ様」
ロイ様も彼もいますから、軽くスカートを摘んで天使130%位で微笑んでご挨拶します。
「あ、あの、お二人共、急ぎませんと授業に遅れてしまいます」
ああ。やっぱり私のことは無視ですか? 私の挨拶には目もくれませんの。
でもね、流石ですよこの方。しっかり彼の方には笑顔を向けていますし、ロイ様にも言っていますのよ感を出していますもの。
ソウキマスカ? アナタ?
「・・・」
ローナ様、貴方がそういう態度なら、私にも考えがあります。貴方は堪こたえるでしょうけど?
「ローナ様のおっしゃる通りですわね。フェリックス様、教室まで急ぎましょう?」
私は彼・に向かってそう言うと、彼の腕にそっと手を掛けました。早くこの場から抜け出ましょう。という意味を込めて。
「それでは、ロイ様、ローナ様? お先に失礼致しますわね」
彼の腕を軽く引くように歩き出します。腕を引かれている彼は、驚いているようですが大人しく私のするままに任せてくれています。
チラリと伺い見たローナ様の顔が真っ赤になって、垂れ目気味の目が悲しそうに顰ひそめられました。でも、あれは相当怒っているのでしょう。彼女の王子様(本物の王子様ですけど)を連れ去った魔女のように思われているかもしれません。
でも、良いのです。彼女への仕返しは、彼女の居場所を奪うことですから。
「シュゼット嬢? あの、手を」
隣から、小さな声が聞こえました。
「あっ」
ずっと、彼の腕を引っ張るように手を添えていたのです。彼が遠慮がちに声を掛けてきたので、ようやくこの場所が人通りの多い正面玄関近くだと判りました。
私ったら、ローナ様に見せつけるために随分と大胆な行動をしてしまったようです。思わず頬がカッと熱くなりました。だって、エーリック殿下やセドリック様以外とこんなに近づいたことは無かったですから。
馬車から降りてくる生徒達が、チラチラとこちらを見ています。ここで注目されるのはイタイです。でも、自分から引っ張ってきたため彼との離れ際が判りません!
(どうしましょう!? 早まってしまいました。ローナ様に張り合った結果、こんな事に!!)
隣にいる彼は、じっと私を見下ろしているのだと思います。そんな気配がビシビシ感じられますもの。
慌てて、彼の腕から手を離そうとしたのですが、逆にその手はギュッと握られてしまいました。
(う、うそっ!!??)
「今日の放課後、もう一度話をしたい。時間を作って欲しい。良いと言うまでこの手は離さない。シュゼット嬢、お願いだ」
どうしましょう! 人通りが多くなってきました。こんな状況をずっと見られているのは嫌ですけど、改めて話をするのも気が進みませんわ!! どうする? 私!?
『君はフェリックス殿と、話をした方が良いと思うよ』
エーリック殿下のあの一言が再び胸に蘇ってきました。
「……」
「シュゼット嬢?」
「……判りました」
私は、彼の顔を見上げて答えました。すると、不安そうなグリーントルマリンの瞳が安堵したように優しく細められました。
「ありがとう」
握られていた手は、そっと外されて、小さな声でそう言われました。
「放課後、グリーンフィールド公爵家に伺いたい。良いだろうか?」
なんと。我が家に来ますか? まあ、そうですね。学院の食堂ホールで話すのも気が引けますし、王宮に呼ばれるのも嫌です。名実ともにホームで迎え撃ちます。そうさせて下さい!
「……承知しました」
まさかの急展開ですわ!!
植込みの角から芝生に踏み入って来たのはロイだった。
怪訝そうな表情ではあったが、シュゼットの姿を見つけるとやんわりと微笑んだ。
「フェリックス殿下? シュゼット様? こんなところでどうされたのですか?」
ロイは二人の顔を交互に見ながら、頭をかしげた。
シュゼットが、口を開く前にフェリックスがロイに向かって答えた。
「歩道を散策していたシュゼット嬢に、ご一緒させて頂いた。そう言うお前はどうしてこんなところに?」
さっきまでの様子が嘘のように、爽やかオーラを纏っている。さすが王子だ。
「ロイ様こそどうされたのですか?」
シュゼットが笑顔でロイに向き直して問う。その笑顔にロイの頬はさっと朱に染まった。一瞬の表情の変化にフェリックスは気付いてしまった。
(ああ。やっぱりロイは、彼女の事が好きなんだ・・・)
「バザーの時に、こちらの庭に飲み物と菓子の売店を設置する予定なのですが、馬車寄せからの道案内版をどう立てたらいいか考えていたのです。それで、実際に歩いていたら、話し声がしたので。こんな時間に珍しいな? と思って見たらお二人だったのです」
ニコニコしながら説明するロイの顔。茶色の目が嬉しそうに輝いている。シュゼットに向ける顔は、今まで見たことも無い表情だ。初めて見たその顔に、フェリックスは大いに驚いていた。
5年前のお茶会のもう一つの目的。側近選び。
貴族の子息との交流と称して少年達と馬上競技ポロをしたのだった。自分とオーランドがそれぞれ大将になってゲームをしたのだ。そこでロイの存在を知った。クルクルした茶色い髪と茶色い丸い瞳が仔犬のようで、あまり得意とは言えない馬術に、一生懸命な姿と明るい笑顔が気に入った。
それに、ゲームが終わった後、乗馬した馬を他の者は従者に任せていたのに、彼だけは水場まで自分で連れて行った。彼の髪色と似た栗毛の馬の首を優しく撫でながら。その瞳に好感を持ったことが縁で、学院に通うようになってからは、オーランドと共に身近な存在になった。側近と言うには、まだまだ子供であったけれど。
あれから、5年たったのだ。
(もう、コドモでは無いという事か・・・)
頬を染めて嬉しそうに会話をするロイにそう思った。ロイは、多分。いや、絶対、シュゼットに恋をしている。
複雑な気分がした。ロイは知っているはずだ。シュゼットも婚約者候補であることを。
(結局、コレが皆の気持ちに釘を刺しているんだ。エーリックにも、セドリックにも、ロイにも)
彼等から見たら、制度を傘に自分の想い人を理不尽に縛る、いけ好かない男と言う立場に見えるだろう。フェリックス自身が望んだわけでは無いが、こうまで彼女を見詰める男が多いと居た堪れなくなる。
レイシルの言った言葉が浮かんだ。
『そんなの、無くしてしまえば良いのに』
自分だってそう思う。
「……あの、フェリックス殿下? もうすぐ授業が始まりますわ……」
シュゼットとロイが穏やかに話をしているのを見ていた。ぼんやりしていた訳ではないが、その声に現実に引き戻された。思わず声のした方向に顔を向けると、シュゼットとロイも同じように振り返った。
「ローナ」
ここにもいた。婚約者候補の一人が。
木々の陰から、おずおずと顔を出したのは、ローナ様ですわ。もしや、ずっといらしたのですね。全く気が付きませんでした。この方の気配を消すスキルは相当な物ですわ。
「おはようございます。ローナ様」
ロイ様も彼もいますから、軽くスカートを摘んで天使130%位で微笑んでご挨拶します。
「あ、あの、お二人共、急ぎませんと授業に遅れてしまいます」
ああ。やっぱり私のことは無視ですか? 私の挨拶には目もくれませんの。
でもね、流石ですよこの方。しっかり彼の方には笑顔を向けていますし、ロイ様にも言っていますのよ感を出していますもの。
ソウキマスカ? アナタ?
「・・・」
ローナ様、貴方がそういう態度なら、私にも考えがあります。貴方は堪こたえるでしょうけど?
「ローナ様のおっしゃる通りですわね。フェリックス様、教室まで急ぎましょう?」
私は彼・に向かってそう言うと、彼の腕にそっと手を掛けました。早くこの場から抜け出ましょう。という意味を込めて。
「それでは、ロイ様、ローナ様? お先に失礼致しますわね」
彼の腕を軽く引くように歩き出します。腕を引かれている彼は、驚いているようですが大人しく私のするままに任せてくれています。
チラリと伺い見たローナ様の顔が真っ赤になって、垂れ目気味の目が悲しそうに顰ひそめられました。でも、あれは相当怒っているのでしょう。彼女の王子様(本物の王子様ですけど)を連れ去った魔女のように思われているかもしれません。
でも、良いのです。彼女への仕返しは、彼女の居場所を奪うことですから。
「シュゼット嬢? あの、手を」
隣から、小さな声が聞こえました。
「あっ」
ずっと、彼の腕を引っ張るように手を添えていたのです。彼が遠慮がちに声を掛けてきたので、ようやくこの場所が人通りの多い正面玄関近くだと判りました。
私ったら、ローナ様に見せつけるために随分と大胆な行動をしてしまったようです。思わず頬がカッと熱くなりました。だって、エーリック殿下やセドリック様以外とこんなに近づいたことは無かったですから。
馬車から降りてくる生徒達が、チラチラとこちらを見ています。ここで注目されるのはイタイです。でも、自分から引っ張ってきたため彼との離れ際が判りません!
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慌てて、彼の腕から手を離そうとしたのですが、逆にその手はギュッと握られてしまいました。
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どうしましょう! 人通りが多くなってきました。こんな状況をずっと見られているのは嫌ですけど、改めて話をするのも気が進みませんわ!! どうする? 私!?
『君はフェリックス殿と、話をした方が良いと思うよ』
エーリック殿下のあの一言が再び胸に蘇ってきました。
「……」
「シュゼット嬢?」
「……判りました」
私は、彼の顔を見上げて答えました。すると、不安そうなグリーントルマリンの瞳が安堵したように優しく細められました。
「ありがとう」
握られていた手は、そっと外されて、小さな声でそう言われました。
「放課後、グリーンフィールド公爵家に伺いたい。良いだろうか?」
なんと。我が家に来ますか? まあ、そうですね。学院の食堂ホールで話すのも気が引けますし、王宮に呼ばれるのも嫌です。名実ともにホームで迎え撃ちます。そうさせて下さい!
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