【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

文字の大きさ
67 / 121

66. それぞれの役割

しおりを挟む
 目を覚まさない。

 あれから少し時間が経っている。シュゼットの頭を自分の膝に載せている。膝枕だ。
 微かに上下する胸元に、息をしている様子が見えてホッとした。

 熱は無い。額に手を載せて計る。熱くは無い。寧ろ少し低く感じる位だ。首筋に指を当てて、脈を診るが、そこもトクトクと規則正しいリズムを刻んでいる。

 異常がある様子は見えないが……

「何が起きた? 眠っているのか?」

 小さな声で、シュゼットに呼びかけるが、返事は無い。聞こえているようにも見えな
 閉じられた瞼はほんのピクッとも動かない。

『・・・』

 何か聞こえた? ような気がした。

「シュゼット?」

 聞き返しても返事は無い。思わずその口元に耳を寄せた。何か呟いたのかもしれないと。



「シルヴァ叔父上!」「シルヴァ殿!」

 魔法術教室の扉が開いた。







「……シルヴァ叔父上。、何をされていました?」

 エーリックの目が鋭い。自分と、自分の膝に頭を載せているシュゼットを交互に見ている。

「何か呟いた様な気がしたのだ。他意は無い。お前が心配しているような事はしていない。安心しろ。な?」

 エーリックを安心させたいのか、それとも挑発したいのか。エーリックの後ろにいたフェリックスは、何とも言い難い緊張感を感じた。

「シルヴァ殿、シュゼットはどんな状況ですか?」

 二人の間に発生したピリついた糸を切るように、フェリックスはシュゼットに視線を向けて聞いた。

「息も、脈も問題ない。熱も無い。ただ、意識を消失している。身体にも力が判じられないから、完全に意識を失っているようだ」

 確かにシュゼットの様子はそのように見える。

「眠っているのですか?」

 エーリックが気を取り直し、いつもの調子になって尋ねる。

「いや。眠っているのとも違うような感じがする」

 シルヴァが少し身じろぎしたため、シュゼットの頭が少し動いた。彼女の髪がスルリとシルヴァの膝から一筋滑り落ちる。

「叔父上、替わりましょう。そろそろレイシル様がいらっしゃいますから。動ける方が宜しいでしょう?」

 床に付きそうになったシュゼットの髪を掬い上げると、エーリックがシルヴァの傍に立った。普段のエーリックとは語気が違う感じがした。

「大丈夫だ。レイシルが来たら彼女を静養室に運ぶ。それまでは問題無い」

 見上げる叔父と、見下ろす甥。目線が交錯する。
 こんな意志を感じる二人を見るのは初めてだと、フェリックスはじっと見ていた。

(やっぱり、この二人は……)

 目を伏せて動かないシュゼットを見やる。改めてよく見た。

(随分変わったのだな……5年前とは全然違う)

 白い貌と美しい金色の髪。彼女の持つ色は変わっていない。そして、その雰囲気も。彼等の知らない彼女の過去を知っているということに、少しだけ何とも言えない甘酸っぱい気持ち? を感じた。少しだが。

(イヤイヤ。でも、超絶悪印象しか持って貰えなかったんだ。全く自慢にならないが)

 エーリックが跪いてシュゼットの様子を見ている。その目には心配そうな色が見える。


 触れたくても、触れられない。
 エーリックのジレンマが手に取るように判った。




(彼、エーリックは本気なのか……)


 チラリと伺い見るシルヴァの表情にも、同じような色を感じる。自分には鑑定の識別は無いが、これだけは確信をもって言える。

(シルヴァ殿とエーリック殿は、シュゼットに心を寄せている)

 多分そう感じるのは、自分だけでは無いはずだ。普段本心を見せない二人だから、余計にそう感じられるのだろう。





(まさか、レイ叔父上もに加わるなど無いだろうな? マズいだろう。ややこしさが3倍になるぞ?)

 ふと、フェリックスは自分はどうなんだと思ったが、直ぐに掻き消した。

 自分にはがあるのだと。




(彼女には、許しを得られれば良いのだ。に関わってはいけない)


 双子王子達もシュゼットを囲むように床に座って、彼女をじっと見つめている。その顔からは、心配している表情しか見えない。

(全く。アイツらは猫か!?)


 フェリックスは只一人、この場を冷静に見ていた。













「待たせた」

 レイシルが部屋に駆けこんできた。水脈移動をしたと言っていたが、髪も服も濡れている処は一つも無い。副師長のカイルも一緒だ。

「それで? どうしてこうなった? シルヴァ殿、説明願おうか」

 シュゼットの元に膝を付き、様子を伺うように目線をシルヴァに向けた。

「その前に、ずっとここで寝かせる訳にはいかない。静養室に移動する。話はそれからだ」

 そう言ってシルヴァが、シュゼットの身体の下に手を通すとスクッと立ち上がった。しっかりと彼女を横抱きにしてしている。
 思わずエーリックが眼を剥いた。しかし、シルヴァが軽々とシュゼットを横抱きにした様子に、伸ばし掛けた手を引っ込めた。その広い胸に身体を預ける彼女に無理がないことが見えたからだ。

 レイシルには見えた。一瞬だがエーリックが悔しそうな、残念そうな、諦めたような顔をしたこと。そして、ぐっと手を握りしめたのを。

「それもそうだ。判った静養室に移動しよう。カイル、そこの鑑定石を持って来てくれ。それから、パリスとカルンは帰りなさい。お前達に出来る事はもう無い。ご苦労だったな。お前達のお陰で、早く対応できる。感謝する」

 レイシルが双子王子に言い聞かすように言うと、にっこり微笑んで二人の頭を軽く撫でた。双子達は残念そうな顔をしたが、素直に帰ることにしたようだ。確かに、子供二人に出来る事はもう無いのだ。










「それで、どうだったのだ?」

 静養室に移動し、シュゼットの身体をベッドに横たえる。これだけ周りで話をしていても、全く目を覚ます様子は無かった。
 椅子に腰を下ろしたのは、シルヴァ、レイシル、エーリック、フェリックスだ。カイルはレイシルの後ろに控えている。レイシルが視線をシルヴァに向けた。

「鑑定石を持って魔力の引き出しを始めた。光の魔力がどんなものか判らないので、私の魔力を触媒として僅かだが使った。そして、その直後に手の隙間から光の雫が零れ落ちた。まるで、水が滴り落ちるように。それを見て、すぐに彼女は気を失った」



 たったそれだけだ。何が彼女に起きたのか。


「何が影響したのか。魔力の引き出しをして倒れたり、意識を無くした者など聞いたことは無い。あの双子二人はどうだったのだ? 出来たのか?」
「出来なかった。しかし、まだ始めて一回目だ。変化は起きなかったが、そんなことは当たり前のことだ」
「つまり、シュゼット嬢は、貴方の力が触媒に使われたとしても、稀に見る魔力の反応が出たという事か。魔力の雫が滴り落ちるなど、見たことが無い。私が魔力の引き出しをした時にも、そんなことは起きなかった。貴方は?」

 レイシルが、唇に指を当てている。考えている時の癖だ。

「私やエーリックにもそんなことは起きなかった。フェリックス殿、貴方はどうだった?」
「私の時にもそんなことは起きませんでした。聞いたこともありません」
「カイル、貴方は?」

 レイシルが後ろに控えていたカイルに声を掛けた。仮にもレイシルに次ぐ高位魔法術士だ。

「いいえ。私自身にも、他から聞いたこともございません」

 やはり。というようにレイシルが頷いた。
 いつまでもこうしていてはいられない。目を覚まさないシュゼットをこのままには出来ない。

「彼女は、魔法科学省の医術院に入院させよう。自身の力で目覚めるのか、外部から目覚めさせるのか調べねば」

 とにかくそうと決まれば準備をしなければならない。シルヴァが、現状と入院することになった説明にグリーンフィールド公爵家に行くことになった。

 レイシルはシュゼットを連れて、医術院に馬車で向かう。さすがに意識の無い状態で魔力の不安定な彼女を、水脈移動で運ぶにはリスクがありすぎると判断したためだ。

 カイルは医術院に受け入れの準備をさせるため、通信魔法で連絡をすると、乗って来ていた馬車を寝台型に変更するため出て行った。

 フェリックスとエーリックは、何も出来ずにそこに座っていた。二人が出来た事とはシュゼットの心配と、大人たちの動きを邪魔せずにいる事だけだった。





 自分達が無力な事に改めて気付いた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...