【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

文字の大きさ
66 / 121

65. 魔法の余波

しおりを挟む
 魔法術の授業が始まって半分位経った頃だろうか。

 今日は座学の為、一般棟の円形教室で席に座っていた。高等部の魔法術の授業は、1年生から3年生までの識別者全員で受講する。その為、この教室には20名程の識別者がいる。今日の講師は、魔法科学省の副師長だ。
 廊下からバタバタという音がしたと思ったら、いきなり教室の扉が大きく開かれた。

「兄上!!」
「エーリック様!!」

 双子王子のパリス殿とカルン殿だ。
 シュゼットと一緒に魔法術の導入教育を受けているはずだが?
 二人は全速力で走って来たように髪が乱れ、肩で大きく息をしていた。尋常でない雰囲気に、名前を呼ばれた私とフェリックス殿が席を立った。


「「シュ、シュゼットお姉さまが!!」」

 二人の口から彼女の名前が漏れた。

「落ち着いて。何があったの?」

 私はパリス殿の傍によると、腰を落として彼の背を撫でた。少しでも落ち着くようにと。

「お、お姉様が! 魔力の引き出しを始めたら、いきなり気を失って倒れてしまったの!! め、目を覚まさないの! それで、ハート先生がエーリック様に来て欲しいって!!」
「兄上!! レイシル叔父上を呼んで下さいって!! 早く来てって、連絡して下さい!!」

 カルン殿が、フェリックス殿に縋るように言った。

「「お願い!! 早くしてっ!!」」

 二人が半泣きになって訴えている。様子を見ていた魔法術の講師が緊急事態を察したようだ。シュゼットが光の識別者という事が判っているからだろう。

「フェリックス殿下、レイシル師長には私が伝えましょう。それからエーリック殿下は、ハート教授の所にお急ぎください!」

 講師はそう言うと、杖で出入り口を指さし示しめした。

「判りました。パリス殿、案内して下さい」
「エーリック殿、私も行こう。カルン行くぞ」

 走る双子王子の後を、二人で追う。



 中等部の魔法術教室まで。











「授業は中断します。でも、その前に皆さんにお見せしましょう。応用魔法です」

 魔法術の講師は教室の真ん中で、ドンっと杖で床を強く突いた。





 コポッ。



 水だ。大理石の床から小さな噴水のように水が吹き上がって来た。その水は小さな雫を巻き上げながら、人の頭ほどの球体になった。鏡の上に浮かぶ大きな水滴のようだ。
 講師はその水球の中に、自分の耳からピアスを外して放り込んだ。小さなピアスは、それ自体が生き物のように虹色の眩い光を放ちながら、水球の中を動き廻っている。

「このピアスは私の識別章です。ピアスに使われている石は純度の高い鑑定石で、私の情報を記憶させてあります。この水球とピアスを使ってレイシル師長をお呼びします」

 講師はそう言うと、再度床に杖を打ち鳴らした。床に広がる水がさざめき、水球を囲むように伸びあがったように見えた。



「レイシル師長!」



 彼の呼びかけに、水球の中で激しく動き回っていたピアスが、水球の中央でピタッと留まった。まるで、呼びかけに反応するようだった。



 一瞬、激しい光が瞬いた。





『何用か? カイル・エドワルド』

 カイルと呼ばれた講師は、その場に跪くと声・のする水球に向かって言った。水球は鑑定石の色に合わせて虹色に煌めいている。言葉に合わせて表面が細かく波打つのが見える。

「レイシル師長、魔法術の導入教育を受講していたシュゼット嬢が、魔力の引き出し中に倒れたと。ハート教授が師長にいらして頂きたいと申されています」
『……そうか。承知した。を使う。彼女の所に行けるよう、案内を頼むぞ』
「判りました。礼拝堂の泉でお待ちします」


 そう言って立ち上がると、固唾を飲んで見守っていた生徒達を見渡した。

「今お見せしたのは、水の識別者による通信魔法術です。そして、これからレイシル師長が実演するのが、高等魔法の水脈間移動です。お見せすることはできませんけれど申し訳ありませんが、今日の授業はここまでです」

 水球に手を突っ込み、ピアスを掴む。そして杖を今度は軽く床に打ち付けると、生き物のように宙に浮いていた水球はザンッ! と床に落ちた。落ちた拍子に大きくしぶきを上げるかと、誰もが目を瞑って顔を背けた-。


 しかし、飛沫の一粒も上がらなかった。
 床には何も無かった。さっきまで大理石の床に水面が広がっていた。靴を濡らすほどの深さで水が溜まっていたはずなのに。



「それでは皆さん、ごきげんよう」

 カイル・エドワルドがローブの裾を翻して教室から出て行った。



 急がないと。礼拝殿の泉までは随分距離があるのだ。









 魔法科学省には、膨大な図書を収めている資料棟がある。別名、魔法図書館の最奥にレイシルはいた。

 シュゼットが光の識別者であったことから、久し振りに足を踏み入れたその区画は、重い扉に封じられていて、光の魔法術についての貴重な資料が保管されているはずだ。


(ここに来るのも久し振りだ。師匠が亡くなってから来たことが無かった……)



 小部屋に入って厳重な造りの書棚のカギを開く。黒い大きな革張りの本を風魔法で引き出した。本には鍵が付いていた。4ヵ所もある鍵に内容の重要さが判る。それなのに表紙には何も書かれていない。タイトルの無い本だった。


……古代文字で書かれたこの本に、書いてあれば良いのだが)



 貴重本の保管の為、窓も無い小さな小部屋の中で、レイシルはその本を机の上にそっと置いた。歴代の光の識別者の事が書かれているはずだ。他国への情報漏洩を恐れて古代文字で書かれているらしい。
 というのは、この本は光の識別者が発現しないと開けない。正確には、この本を開く鍵は、光の識別者の魔法術鑑定をした鑑定石が必要だからだ。
 つまり、光の識別者の魔力を感じた鑑定石で、この4ヶ所の特殊な鍵を開ける。あの時使った鑑定石だけがこの本の鍵なのだ。


(さて、開けるかな。この鍵の事がガセネタだったら……師匠の墓石に落書きしてやるか?)



 今は亡き師匠に向かって随分物騒なことを言っているが、その目元は優しく細められていた。唇にもうっすらと笑みが浮かんでいるように見える。まるで懐かしさを噛み締める様な表情だ。

 鑑定石を出して、鍵穴に当てようとした時だった。



『レイシル師長!』

 微かな水音と共に、聞き慣れた声が小部屋に響いた。乾燥を防ぐために置かれている、小さな加湿用のガラスカップの水が虹色に光った。

(水の通信魔法か)

「何用か? カイル・エドワルド」

 ガラスカップを手元に引き寄せた。この声は副師長のカイルだ。今日は王立学院の高等部の授業に行っているはずだ。

(何かあったか?)

 一瞬、シュゼットの魔力を感じた。手に持っている鑑定石が反応しているようだ。

(まさか?)

『レイシル師長、魔法術の導入教育を受講していたシュゼット嬢が、魔力の引き出し中に倒れたと。ハート教授が師長にいらして頂きたいと申されています』


 やはり、シュゼットだ。彼女に何かが起きたようだ。
 今まで、導入教育の魔力の引き出しで倒れる者などいなかった。ただの一人も。



 自分の知っている限りは。


「そうか。承知した。礼拝堂の泉を使う。彼女の所に行けるよう、案内を頼むぞ」

 今なら最速で彼女の元に行けるはずだ。普段は使うことの無い高等魔法、水脈移動を使うことにした。



 レイシルは小部屋から出ると礼拝堂に急ぐ。
 国中の礼拝堂や神殿は、同じ水脈で繋がっている。レイシルが神官長を務める王宮神殿を拠点にし、この魔法技術省にある礼拝堂も繋がっている。
 正式には ≪禊の泉≫ 。毎朝レイシルが禊を行うあの泉が、水の魔法術の根源となっている。自らが禊を行う事で、水脈にはレイシルの魔法術が行き渡っているはずだ。それにシュゼットの魔力を識別した鑑定石もある。

 引き合い、呼び寄せる力は強いはずだ。






 瞬間に移動できるはず。
 そう考えて、ふと苦笑が漏れた。

(そんなコト……)

 何かを振り払うように小さく頭を振った。

 魔法科学省の礼拝堂は、資料棟の隣の建物だ。走り込んできたレイシルの姿に、礼拝を行っていた祭祀の一人が慌てたように扉を開けた。
 祭壇裏の地下室に泉はある。1階の床部分が天井となり、明り取りが出来るように彫刻が施されて柔らかい日差しが差し込んでいる。そして、大天井のステンドグラスから漏れる色とりどりの色彩が、白い大理石の床にモザイク模様を映し出している。


 泉は滾々こんこんと湧き出ているようで、中央部がわずかに盛り上がり四方に円を描いて広がっていた。





「参る」


 レイシルは白い大理石に囲まれた縁に足を掛けると、水面に吸い込まれるように一歩踏み出した。 















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...