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70. 二人の王子
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フェリックスサイドからのエーリックサイドです。
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王宮の広い廊下。
国王である父には、すでに今までの事を報告したいと侍従を通して伝えてある。自分の部屋に鞄を置きに戻ると、扉の前で双子が待っていた。パリスとカルンが廊下に座り込んでいるのが見えた。
(またこの二人は、こんな所に座り込んで)
多分、駄々をこねたのだろう。普段ならこんな所に座るなど止められるはずだが。
「「兄上!!」」
足音と私の気配に、二人が同時に顔を上げた。うっすらと涙ぐんでいるように見える。二人は二人で、心配していた様子が判る。
「心配かけた。医術院に入院したから、もう心配はいらない。ここから先はレイ叔父上とハート教授が頑張って下さるから」
なるべく二人を刺激しないように、少しでも安心できるように伝えると、扉を開けて部屋に招き入れた。
「シュゼットお姉さまは、目を覚ましたのですか?」
パリスが腕に縋って聞いてきた。
「いや、まだだ」
現場を見ていた二人には嘘は言えなかった。今現在、彼女の瞳は閉ざされたままだったから。
「眠っているのですか? 何時目を覚ますのですか?」
カルンは今にも泣きそうな顔をしている。
「眠っているのとは少し違うかもしれないと……何時目を覚ますかは判らない。でも、これから叔父上達の治療が始まる。今、コレールにいる魔法術の権威であるお二人が当たるのだ。お前達は心配しなくていい」
二人のフワフワした銀髪を撫でてやると、大きな琥珀色の瞳で見上げてきた。
「大丈夫だ。シュゼットはちゃんと目を覚ます」
そして、まだ心配して不安そうな顔の二人を残し、父上のいらっしゃる国王の執務室に向かった。
「---という訳で、現在シュゼット嬢は、魔法科学省の医術院に入院しています。グリーンフィールド公爵家には、シルヴァ殿とエーリック殿が説明に行って下さいました」
「うむ。それで、シュゼット嬢は目を覚ましそうか?」
国王の執務室。その奥の小部屋で、父である国王に報告する。この小部屋に入るのは初めてだった。噂には聞いていたが、秘密の謀や親密な話などをする特別な部屋らしい。
テーブルを挟んで、事の顛末を報告する。もっと詳しい専門的な報告は、レイ叔父上が直々にするはずだから、まずは一報という感じだ。
「今は判りません。魔法術の引き出し時点で、意識を失う者はいなかったと聞きました。それに、その引き出しの時に、魔力が光の雫になって手から零れたと。そんな現象も今まで起きたことは無いと言っていました。レイ叔父上も、シルヴァ殿も」
現場を見ていた訳では無いが、確かにそう言っていた。初めてだと。
「そうか。如何せん、先代の光の識別者の事を知る者は誰もいないからな。どんなことがおきるか判らぬか。とにかく今は目を覚ますように、働きかけることが先決という事だな」
「はい。そこはレイ叔父上とシルヴァ殿、魔法科学省に任せるしかありませんが」
こと、魔法術に関しては専門家以外は無力だ。
「承知した。フェリックス、其方そなたは次代の王族として光の識別者を支援せよ。良いな?」
「はい」
大きく頷いて王の顔を見た。目尻に皺を寄せて、頬を緩める父の顔がそこにはあった。
大手を振ってシュゼットを支援できる。国王から直々に勅命を得た。
そう思って少し安堵した自分を感じていた。
特別な思惑で動くことは叶わないと思っていたが、王族として支援せよという命があれば、少しは近い位置にいる事も、考える事も赦される……かもしれない。
まあ、あくまでも心配をしたり、彼女が健やかに暮らせる手助けをするぐらいかもしれない。
それ以上は無理だ。というか、止めておく。誰になっても面倒事が国レベルになりそうだ。
仕方ないのだ。私にこれ以上は。
「コレール王国第一王子、フェリックスよ」
「? 何でしょうか、陛下?」
改まった物言いに、ふと顔を上げた。さっきまでの表情とは打って変わって真剣そうだ。
国王の眼だ。
「ガーデンパーティーで、其方そなたの婚約者を発表する」
「婚約者ですか? 婚約者候補では無くてですか?」
「そうだ。理由は、判るか? そして、側室制度を廃止する」
「判っています。私はコレールの第一王子ですから」
国王の眼を見詰めてはっきりと伝える。
すると、誰が婚約者だと、その目が尋ねている。はっきり申してみよ、と。
私には、コレール王国を担う義務と責任がある。歴代の国王がそうだったように、その婚姻は国の意志が尊重される。婚約者候補が集められた時から、誰が婚約者になるのか、そして王妃になるのかなんて判っていたことだ。慣例として残りの候補者が、側室になる可能性があることも当然知っている者は多い。
まあ、側室制度には言いたいこともある。レイ叔父上も言っていたが、無くしてしまえば良いと思う。
今どき時代遅れの制度であるし、何と言ってもその制度で、幸せになった者など誰もいないように思えた。
昔、聞こうとして聞いた訳でないレイ叔父上の母上の事……
それに、シュゼットへの5年分の許しを得るには、婚約者候補でなくなるというのが条件だった。遅かれ早かれ、そうなると思っていたが、これで確実に果たせる。
彼女の望み通りになりそうだ。嫌われたままは辛いが、少しでもあの時の気持ちを判って貰えればそれだけでいい。彼女には伝えたのだから。
「私の婚約者は、カテリーナ・ジェイド・ダリナス姫、その人です」
満足そうに目を細める国王が見えた。
同じ頃、魔法科学省の医術院。
グリーンフィールド公爵家から真っ直ぐにこの医術院、シュゼットの病室へと到着した。
彼女はベッドに寝かせられていて、学院で見た時と変わらず眠っているように目を閉じていた。ベッドの脇で、跪いて彼女の顔をよく見る。
息はしていて、とても穏やかだ。そして微かに上下する胸元が、緩やかなリズムで動いている。
「シュゼット? 聞こえる?」
枕元で彼女の名を呼んでみる。シーツの上に力なく置かれた右手をそっと握り締めてみる。ほんの少し指先は冷えているが、それでも血の通った温かさを感じる。でも、握り返される力は感じられない。まるで、人形の手を握っているようだ。
ズキン。と心臓が痛む。
彼女の手を布団の中に入れてやる。そして、そっとその頬を撫でる。もしかして、目を覚ますのではないかと期待して……
彼女の眼が相変わらず閉じられたままなので、ふうっと息を吐いて振り返った。
「レイシル様、これからどのようにするのですか?」
レイシル様とシルヴァ叔父上、カイル副師長が相談している。私はその相談の輪に入ることが躊躇われたので、こうしてシュゼットの傍に居たのだけれど。
「とにかく近くで調べて検証するしかない。医術院のこのフロアに調査室を置く。とりあえず、光の識別者に関する文書や文献を持ち込んで集中的に調査を行う。しかし、彼女のこの状態を公には出来ないから、調査する者は出来るだけ限られた人数で行おう。シルヴァ殿、加わって貰えるか?」
「判った」
シルヴァ叔父上は、即答で了承した。
「それから、エーリック。君にもお願いしたいのだが、どうだろうか?」
えっ? 私も? 良いのか? 思わずレイシル様に聞き返した。
「こちらの方から頼みたい。とにかく魔力と、魔法術の知識のある者が欲しいのだ。君は俺の補佐も出来る位優秀だ。それに、心配だろう? 私達では?」
最後は少し、揶揄いもあるのだろう。片目を瞑って私を見た。この人は本当に!
「判りました。協力させて貰います」
この二人の大人は、信用は出来ても信頼はできないから。
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王宮の広い廊下。
国王である父には、すでに今までの事を報告したいと侍従を通して伝えてある。自分の部屋に鞄を置きに戻ると、扉の前で双子が待っていた。パリスとカルンが廊下に座り込んでいるのが見えた。
(またこの二人は、こんな所に座り込んで)
多分、駄々をこねたのだろう。普段ならこんな所に座るなど止められるはずだが。
「「兄上!!」」
足音と私の気配に、二人が同時に顔を上げた。うっすらと涙ぐんでいるように見える。二人は二人で、心配していた様子が判る。
「心配かけた。医術院に入院したから、もう心配はいらない。ここから先はレイ叔父上とハート教授が頑張って下さるから」
なるべく二人を刺激しないように、少しでも安心できるように伝えると、扉を開けて部屋に招き入れた。
「シュゼットお姉さまは、目を覚ましたのですか?」
パリスが腕に縋って聞いてきた。
「いや、まだだ」
現場を見ていた二人には嘘は言えなかった。今現在、彼女の瞳は閉ざされたままだったから。
「眠っているのですか? 何時目を覚ますのですか?」
カルンは今にも泣きそうな顔をしている。
「眠っているのとは少し違うかもしれないと……何時目を覚ますかは判らない。でも、これから叔父上達の治療が始まる。今、コレールにいる魔法術の権威であるお二人が当たるのだ。お前達は心配しなくていい」
二人のフワフワした銀髪を撫でてやると、大きな琥珀色の瞳で見上げてきた。
「大丈夫だ。シュゼットはちゃんと目を覚ます」
そして、まだ心配して不安そうな顔の二人を残し、父上のいらっしゃる国王の執務室に向かった。
「---という訳で、現在シュゼット嬢は、魔法科学省の医術院に入院しています。グリーンフィールド公爵家には、シルヴァ殿とエーリック殿が説明に行って下さいました」
「うむ。それで、シュゼット嬢は目を覚ましそうか?」
国王の執務室。その奥の小部屋で、父である国王に報告する。この小部屋に入るのは初めてだった。噂には聞いていたが、秘密の謀や親密な話などをする特別な部屋らしい。
テーブルを挟んで、事の顛末を報告する。もっと詳しい専門的な報告は、レイ叔父上が直々にするはずだから、まずは一報という感じだ。
「今は判りません。魔法術の引き出し時点で、意識を失う者はいなかったと聞きました。それに、その引き出しの時に、魔力が光の雫になって手から零れたと。そんな現象も今まで起きたことは無いと言っていました。レイ叔父上も、シルヴァ殿も」
現場を見ていた訳では無いが、確かにそう言っていた。初めてだと。
「そうか。如何せん、先代の光の識別者の事を知る者は誰もいないからな。どんなことがおきるか判らぬか。とにかく今は目を覚ますように、働きかけることが先決という事だな」
「はい。そこはレイ叔父上とシルヴァ殿、魔法科学省に任せるしかありませんが」
こと、魔法術に関しては専門家以外は無力だ。
「承知した。フェリックス、其方そなたは次代の王族として光の識別者を支援せよ。良いな?」
「はい」
大きく頷いて王の顔を見た。目尻に皺を寄せて、頬を緩める父の顔がそこにはあった。
大手を振ってシュゼットを支援できる。国王から直々に勅命を得た。
そう思って少し安堵した自分を感じていた。
特別な思惑で動くことは叶わないと思っていたが、王族として支援せよという命があれば、少しは近い位置にいる事も、考える事も赦される……かもしれない。
まあ、あくまでも心配をしたり、彼女が健やかに暮らせる手助けをするぐらいかもしれない。
それ以上は無理だ。というか、止めておく。誰になっても面倒事が国レベルになりそうだ。
仕方ないのだ。私にこれ以上は。
「コレール王国第一王子、フェリックスよ」
「? 何でしょうか、陛下?」
改まった物言いに、ふと顔を上げた。さっきまでの表情とは打って変わって真剣そうだ。
国王の眼だ。
「ガーデンパーティーで、其方そなたの婚約者を発表する」
「婚約者ですか? 婚約者候補では無くてですか?」
「そうだ。理由は、判るか? そして、側室制度を廃止する」
「判っています。私はコレールの第一王子ですから」
国王の眼を見詰めてはっきりと伝える。
すると、誰が婚約者だと、その目が尋ねている。はっきり申してみよ、と。
私には、コレール王国を担う義務と責任がある。歴代の国王がそうだったように、その婚姻は国の意志が尊重される。婚約者候補が集められた時から、誰が婚約者になるのか、そして王妃になるのかなんて判っていたことだ。慣例として残りの候補者が、側室になる可能性があることも当然知っている者は多い。
まあ、側室制度には言いたいこともある。レイ叔父上も言っていたが、無くしてしまえば良いと思う。
今どき時代遅れの制度であるし、何と言ってもその制度で、幸せになった者など誰もいないように思えた。
昔、聞こうとして聞いた訳でないレイ叔父上の母上の事……
それに、シュゼットへの5年分の許しを得るには、婚約者候補でなくなるというのが条件だった。遅かれ早かれ、そうなると思っていたが、これで確実に果たせる。
彼女の望み通りになりそうだ。嫌われたままは辛いが、少しでもあの時の気持ちを判って貰えればそれだけでいい。彼女には伝えたのだから。
「私の婚約者は、カテリーナ・ジェイド・ダリナス姫、その人です」
満足そうに目を細める国王が見えた。
同じ頃、魔法科学省の医術院。
グリーンフィールド公爵家から真っ直ぐにこの医術院、シュゼットの病室へと到着した。
彼女はベッドに寝かせられていて、学院で見た時と変わらず眠っているように目を閉じていた。ベッドの脇で、跪いて彼女の顔をよく見る。
息はしていて、とても穏やかだ。そして微かに上下する胸元が、緩やかなリズムで動いている。
「シュゼット? 聞こえる?」
枕元で彼女の名を呼んでみる。シーツの上に力なく置かれた右手をそっと握り締めてみる。ほんの少し指先は冷えているが、それでも血の通った温かさを感じる。でも、握り返される力は感じられない。まるで、人形の手を握っているようだ。
ズキン。と心臓が痛む。
彼女の手を布団の中に入れてやる。そして、そっとその頬を撫でる。もしかして、目を覚ますのではないかと期待して……
彼女の眼が相変わらず閉じられたままなので、ふうっと息を吐いて振り返った。
「レイシル様、これからどのようにするのですか?」
レイシル様とシルヴァ叔父上、カイル副師長が相談している。私はその相談の輪に入ることが躊躇われたので、こうしてシュゼットの傍に居たのだけれど。
「とにかく近くで調べて検証するしかない。医術院のこのフロアに調査室を置く。とりあえず、光の識別者に関する文書や文献を持ち込んで集中的に調査を行う。しかし、彼女のこの状態を公には出来ないから、調査する者は出来るだけ限られた人数で行おう。シルヴァ殿、加わって貰えるか?」
「判った」
シルヴァ叔父上は、即答で了承した。
「それから、エーリック。君にもお願いしたいのだが、どうだろうか?」
えっ? 私も? 良いのか? 思わずレイシル様に聞き返した。
「こちらの方から頼みたい。とにかく魔力と、魔法術の知識のある者が欲しいのだ。君は俺の補佐も出来る位優秀だ。それに、心配だろう? 私達では?」
最後は少し、揶揄いもあるのだろう。片目を瞑って私を見た。この人は本当に!
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