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69. 閑話 編入生が来るって? -2-
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びっくりした。
いきなり何て事を聞くんだ! どうしてその話題になったのか判らないけど。確か、編入生の話をしていたと思ったけど。
『なあ、セドリックの好きな女の子のタイプってどういう子なんだ?』
エーリック様が、隣から聞いてくる。好奇心でキラッキラの瞳だ。
『お前の初恋って何時? どんな子だったの? 教えて?』
エーリック様は、頬杖を付いて上目遣いに僕を見た。
「うっ」
言えるか!? 幾ら、エーリック様でも。
あれは、今から3年前。確か7歳になってすぐの事だった。
あの日、僕は父に連れられて新しく開園したという植物園に来ていた。ダリナス王国の国立植物園で、各国の大使を始め、王族や貴族、各界の名士などがパーティーに招かれていた。大きな植物園には、中央の白亜の建物の他に、幾つかのエリアに分かれてそのコンセプトに合わせた建物があった。
「きれいな花が、たくさんありますね」
父上の隣で僕は、順番に建物を巡っていた。色とりどりの南国の花々が咲き乱れる温室には、見たことも無いような果実の樹が茂っている。
「セドリック、ご覧、あちらにいらっしゃるのが陛下だ。ご挨拶に伺おう」
大広間でご挨拶をされた王様が、すぐ前を見学されている。周りにはお妃様も王子様達もいらっしゃる。本当だ。と目を向けると、人だかりが出来ている。護衛の近衛騎士と、植物園の警備兵に囲まれた集団は少し近寄り難かったが、父上の姿を見つけた王様が気付いて声を掛けて下さった。
談笑する父と王様の姿に、少しだけ退屈してきた僕は、きょろきょろと周囲を見ていた。さすがに招かれている客たちは華やかに着飾った人たちばかりだ。
(大人ばっかりだ。でも、植物を見てる人は少ないね)
折角の植物園なのに、肝心の樹々や花々を見ている人は少ないようだ。
(きれいな花や、珍しい樹がいっぱいあるのにね?)
父上の隣でそう考えていた。
「只今より、第三号館で南国の植物について、お子様向けの特別講座が開催されます。ご聴講を希望の方は、第三号館の中央花壇前にお集まりください」
植物園の職員が、大きな声で案内をしている。第三号館は今いるところだ。中央花壇はさっき過ぎた場所だ。見ればすでに、陛下と父は次の第四号館への入口に向かって歩いている。
(せっかく植物園に来たのに……)
僕は慌てて父上の袖を引いた。
「父上、ここで先生のお話を聞いても良いですか?」
そう言うと、父は困ったような顔をした。やっぱり駄目かな、そう思った時だった。
「イヤっ! キレイなお花がいっぱいあるのに。もっと見たいの!!」
「姫様、そうはおっしゃても、お一人ではなりません」
「じゃあ、他の人も連れて来てちょうだい! お話も聞きたいの!」
大きな声で、何か言い合っているみたいだ。女の子と女の人。女の子は姫様と呼ばれている。女の人は侍女か?
「ああっ! あなた! あなたも先生のお話を聞くのね!?」
びっしと指差された。
黒い髪で、黒目の女の子。アーモンド形で猫みたいに、ぱっちりとした大きな目だ。きれいな青いドレスに、同じ色の小さい帽子が黒髪の頭にちょこんと載っている。
(猫が女の子になったらこんな感じかな?)
指差されてその場に固まった。女の子は近づいてくると、有無を言わせない目力でこう言った。
「私はカテリーナ。あなたも先生のお話を聞きたいのよね?」
カテリーナ? 誰か判んないけど、さっき姫様って呼ばれていた。王族のお姫様なのかな?
「聞きたいのでしょう? ならば、一緒に聞きましょう! ねっ!? 聞くでしょう!? そして、貴方の名前は何て言うの? どこのお家なのかしら? ねえ!?」
こ、断れない。というか、返事を返させないごり押し感。
カテリーナ姫? の大きな声に、先にいた王族の皆さんが一斉に振り向いた。
「カテリーナ。何を騒いでいるのかな?」
近づいて来たのは、第二王子様だ。この王子様の事は知っている。この植物園の名誉館長としてさっきご紹介されたから。
「エドアルドお兄様! 私は先生のお話が聞きたいの! この子も聞きたいのですって! でも、侍女もダメだって言うし! お兄様良いでしょう? 滅多に外出できないし、キレイな植物を見るのは貴重な経験よ!」
カテリーナ姫は、一気に早口で捲し立てるように言う。
何か、僕まで巻き込まれた感じがするけど。
「一人で大丈夫?」
「一人じゃないわ。彼が-、えっとお名前伺ったかしら?」
「セドリック・シン・マラカイトです」
「そう! セドリックが一緒にいるから大丈夫よ!!」
「マラカイト。君はマラカイト公爵家のセドリックか? 君も聞きたいのかい?」
「聞きたいって言いなさいよ!!」
「……カテリーナは黙ってて」
エドアルド王子に聞かれて、大きく頷いた。そうか。とエドアルド様は微笑むと、父上に向かって何かおっしゃった。小さく頷く父上と目が合った。そして、近衛騎士にも指示を出すと、僕たちの前に戻って来た。
「カテリーナ。近衛騎士を付けるから話が終わったら彼と一緒に来なさい。セドリックも一緒だよ。終わったら必ず騎士と一緒に行動する。守れるならここにいていいよ」
「判ったわ。ありがとう。お兄様」
「あ、ありがとうございます」
思いがけず、先生のお話を聞くチャンスを得た。
「さあ! セドリック! 先生のお傍に行くわよ!」
カテリーナ姫が私の手を取ると、さっさと歩き始めた。
「エスコート! 忘れていてよ?」
二っと笑う顔は、やっぱり猫のように見えた。
先生を囲む子供達は15人程いたと思う。集合場所に着くと、花壇に植えられている珍しい花々について、詳しく説明してくれた。カテリーナ姫は僕の隣で、意外と熱心にお話を聞いていた。キラッキラの目をしていたので、花が好きなのは本当なんだと思った。
「皆さん、今日の植物園見学のお土産に、こちらの花々を使ってお好きな物を作ってみてください。ブーケや花冠、押し花などご自由にどうぞ」
助手らしい人が、花壇の先にある幾つかのテーブルに案内してくれる。テーブルの上には、色とりどりの花々が籠に盛られていた。小さな実のなる可愛い枝物もある。
「ステキ! このお花を使って良いのね? セドリックも作りましょ! お母様へのお土産にしましょ?」
話を聞き終わったら、近衛騎士と一緒に戻って来いと言われたのに。やる気満々でテーブルに近づいている。思わず騎士の方を見ると、やはり困ったように眉を寄せている。
(これは、僕に止めて貰いたいってことだよね?)
「カテリーナ姫。エドアルド様は先生のお話を聞いたら戻って来いとおっしゃいましたよ? もう、行きましょう。騎士様も待って下さっていますからー」
「イ・ヤ! これを作ったら帰るわ。良いでしょう? 今日来ていないお母様に、キレイなお花のお土産を差し上げられるのよ?」
もう席に座っている。梃子でも動かないようなその様子に僕と騎士様は顔を見合わせた。どうしたら良いのか……考えていた。
カテリーナ姫に無理強いは禁物だろう。今日初めて会ったけど、それだけは良く判った。僕の勘がそう言っている。
「でも、それならちゃんと許可を頂かないとー」
「ダ・メ! 時間が無くなっちゃうわ! それより、セドリックも早く作らないと、もっと時間が遅くなるわよ? 遅くなったら、貴方のせいになってよ?」
その手にはピンクと白の花が握られていて、器用に何かを作り始めている。
ああ。やることは決定事項になっている。困った……
「カテリーナ? どうしたの? 大きな声を出して」
僕のすぐ後ろから声が掛けられた。カテリーナ姫を呼びつけにできる人?
「まあ! 来ていらしたの? 今日は無理だと思っていたのに!」
僕が見たのは、車椅子に座っている女の子だった。年は同じ位かと思う。車椅子を従者に押して貰って、カテリーナ姫が座るテーブル席に近づいた。
「何を騒いでいたの? お花がどうしたの?」
静かにカテリーナ姫の前まで行くと、小首を傾げるようにして尋ねている。
「このお花で、お母様にお土産のブーケを作って差し上げたかったの。でも、セドリックが、エドアルドお兄様が戻るように言ったとか、何とか―」
「つまり、戻れと言われているのに、セドリック君とそこにいる近衛騎士に『戻らない』と言って、困らせていたってことだね? ブーケを作りたいの?」
「だって、お母様にもお見せしたくって……」
「判った」
カテリーナ姫と話をしていた彼女は、近衛騎士を呼ぶと自分と従者が付き添うので、終わったら一緒に戻るという事を伝えた。
「セドリック? 君は騎士と一緒に戻っても良いけど。どうしますか?」
彼女はくるりと車椅子を回転させるて、僕の方を見ながら言った。
黒くて真っ直ぐの髪は、耳の下でぱっつんと切り揃えられている。紫色の大きな瞳が……とっても綺麗だ。まるで、アメジストのようだ。小首を傾げるその仕草が、とても可愛らしい感じがした。
(こんな可憐な女の子、見たこと無い。どこのご令嬢だろう?)
何だか、目が離せないような感じがした。
「セドリックも一緒に作りましょう? ほら、貴方にもあげる!」
ずっと手を動かして何かを作っていたカテリーナ姫が、彼女の頭にポンと何かを置いた。
白とピンクの小花で作られた、一重の花冠だった。
「カワイイ!! 良く似合ってよ?」
カテリーナ姫が嬉しそうに微笑んだ。
ツヤツヤの黒髪に淡い色の花は良く映えた。それに、簡単な造りの花冠は、まるで妖精が手遊びで作ったような繊細な感じがした。そのまま絵本に出てくるようだ。
「……!」
言葉が出なかった。でも、何か言わなくては! それから、名前も聞かなければ。
「よ、良く、に、似合っていますよ?」
思わず彼女にそう言ってしまった。
彼女は、ほんの少し驚いたように目を真ん丸にした。でも、それは一瞬のことでにっこり笑うと、
「ありがとう」
と、言った。
僕の頬は赤かったと思う。
「良く似合っているでしょう、それにとっても可愛いわ。セドリックもそう思って?」
何故かにんまり顔でカテリーナ姫が、僕の顔を見ている。
可愛いかどうかと聞かれたら、多分100人中100人がカワイイって思う姿だ。だから、イイんだ!
「ところで、脚の具合は如何なの?」
カテリーナ姫が彼女のひざ掛けを直してあげている。肌触りの良い大判のひざ掛けに覆われた脚は、全く見えない。酷い怪我をしたのか、それとも生まれついてのものなのか。聞いてい良いものかと、少し戸惑った顔をしていたと思う。
「ああ。全然。もう何とも無いんだ。ほら、この通り!?」
「あっ!?」
彼女は、勢いよくひざ掛けを捲まくると、脚を交互に上げ下げした。
(トラウザーズ?)
ひざ掛けの下はドレスじゃなかった。僕が履いているのと同じようなトラウザーズだ。
「えっ、えっ?」
目を白黒させている僕の前で、彼女はゆっくり立ち上がった。
「ねっ? もう大丈夫なんだけど、父上に今日まではこれ車椅子を使えって言われて」
「あっ、あの?」
「ああ。ごめんね? 自己紹介がまだだったね。私はエーリック・レイン・ダリナス。君はマラカイト公爵家のセドリックでしょう? これから仲良くできると嬉しいな」
「おおっ!?」
彼女じゃなかった。彼だった。
第三王子の、エーリック様だった。
カワイイ女の子じゃなくて・・・
一癖ある王子だと知るのは、もう少し先の事だった。
何だか、しょっぱい思い出が喉元まで込み上げてきた。あれから、3年経っているのに。
ほっと一息ついて姿勢を正した。
やれやれ。と思っていたら。
「で? セドリックの好みは黒髪?」
「……金髪です!!」
「瞳は、紫? 緑?」
「青です!!」
「私が言うのと違ってばかりだ。まるで反対だ。でも、金髪で青い目の可愛い女の子が現れたらいいね?」
「エーリック様は、どうなのですか?」
「うーん……お前と同じで?」
「「……」」
もう、この話題は終わりにしたい!
いきなり何て事を聞くんだ! どうしてその話題になったのか判らないけど。確か、編入生の話をしていたと思ったけど。
『なあ、セドリックの好きな女の子のタイプってどういう子なんだ?』
エーリック様が、隣から聞いてくる。好奇心でキラッキラの瞳だ。
『お前の初恋って何時? どんな子だったの? 教えて?』
エーリック様は、頬杖を付いて上目遣いに僕を見た。
「うっ」
言えるか!? 幾ら、エーリック様でも。
あれは、今から3年前。確か7歳になってすぐの事だった。
あの日、僕は父に連れられて新しく開園したという植物園に来ていた。ダリナス王国の国立植物園で、各国の大使を始め、王族や貴族、各界の名士などがパーティーに招かれていた。大きな植物園には、中央の白亜の建物の他に、幾つかのエリアに分かれてそのコンセプトに合わせた建物があった。
「きれいな花が、たくさんありますね」
父上の隣で僕は、順番に建物を巡っていた。色とりどりの南国の花々が咲き乱れる温室には、見たことも無いような果実の樹が茂っている。
「セドリック、ご覧、あちらにいらっしゃるのが陛下だ。ご挨拶に伺おう」
大広間でご挨拶をされた王様が、すぐ前を見学されている。周りにはお妃様も王子様達もいらっしゃる。本当だ。と目を向けると、人だかりが出来ている。護衛の近衛騎士と、植物園の警備兵に囲まれた集団は少し近寄り難かったが、父上の姿を見つけた王様が気付いて声を掛けて下さった。
談笑する父と王様の姿に、少しだけ退屈してきた僕は、きょろきょろと周囲を見ていた。さすがに招かれている客たちは華やかに着飾った人たちばかりだ。
(大人ばっかりだ。でも、植物を見てる人は少ないね)
折角の植物園なのに、肝心の樹々や花々を見ている人は少ないようだ。
(きれいな花や、珍しい樹がいっぱいあるのにね?)
父上の隣でそう考えていた。
「只今より、第三号館で南国の植物について、お子様向けの特別講座が開催されます。ご聴講を希望の方は、第三号館の中央花壇前にお集まりください」
植物園の職員が、大きな声で案内をしている。第三号館は今いるところだ。中央花壇はさっき過ぎた場所だ。見ればすでに、陛下と父は次の第四号館への入口に向かって歩いている。
(せっかく植物園に来たのに……)
僕は慌てて父上の袖を引いた。
「父上、ここで先生のお話を聞いても良いですか?」
そう言うと、父は困ったような顔をした。やっぱり駄目かな、そう思った時だった。
「イヤっ! キレイなお花がいっぱいあるのに。もっと見たいの!!」
「姫様、そうはおっしゃても、お一人ではなりません」
「じゃあ、他の人も連れて来てちょうだい! お話も聞きたいの!」
大きな声で、何か言い合っているみたいだ。女の子と女の人。女の子は姫様と呼ばれている。女の人は侍女か?
「ああっ! あなた! あなたも先生のお話を聞くのね!?」
びっしと指差された。
黒い髪で、黒目の女の子。アーモンド形で猫みたいに、ぱっちりとした大きな目だ。きれいな青いドレスに、同じ色の小さい帽子が黒髪の頭にちょこんと載っている。
(猫が女の子になったらこんな感じかな?)
指差されてその場に固まった。女の子は近づいてくると、有無を言わせない目力でこう言った。
「私はカテリーナ。あなたも先生のお話を聞きたいのよね?」
カテリーナ? 誰か判んないけど、さっき姫様って呼ばれていた。王族のお姫様なのかな?
「聞きたいのでしょう? ならば、一緒に聞きましょう! ねっ!? 聞くでしょう!? そして、貴方の名前は何て言うの? どこのお家なのかしら? ねえ!?」
こ、断れない。というか、返事を返させないごり押し感。
カテリーナ姫? の大きな声に、先にいた王族の皆さんが一斉に振り向いた。
「カテリーナ。何を騒いでいるのかな?」
近づいて来たのは、第二王子様だ。この王子様の事は知っている。この植物園の名誉館長としてさっきご紹介されたから。
「エドアルドお兄様! 私は先生のお話が聞きたいの! この子も聞きたいのですって! でも、侍女もダメだって言うし! お兄様良いでしょう? 滅多に外出できないし、キレイな植物を見るのは貴重な経験よ!」
カテリーナ姫は、一気に早口で捲し立てるように言う。
何か、僕まで巻き込まれた感じがするけど。
「一人で大丈夫?」
「一人じゃないわ。彼が-、えっとお名前伺ったかしら?」
「セドリック・シン・マラカイトです」
「そう! セドリックが一緒にいるから大丈夫よ!!」
「マラカイト。君はマラカイト公爵家のセドリックか? 君も聞きたいのかい?」
「聞きたいって言いなさいよ!!」
「……カテリーナは黙ってて」
エドアルド王子に聞かれて、大きく頷いた。そうか。とエドアルド様は微笑むと、父上に向かって何かおっしゃった。小さく頷く父上と目が合った。そして、近衛騎士にも指示を出すと、僕たちの前に戻って来た。
「カテリーナ。近衛騎士を付けるから話が終わったら彼と一緒に来なさい。セドリックも一緒だよ。終わったら必ず騎士と一緒に行動する。守れるならここにいていいよ」
「判ったわ。ありがとう。お兄様」
「あ、ありがとうございます」
思いがけず、先生のお話を聞くチャンスを得た。
「さあ! セドリック! 先生のお傍に行くわよ!」
カテリーナ姫が私の手を取ると、さっさと歩き始めた。
「エスコート! 忘れていてよ?」
二っと笑う顔は、やっぱり猫のように見えた。
先生を囲む子供達は15人程いたと思う。集合場所に着くと、花壇に植えられている珍しい花々について、詳しく説明してくれた。カテリーナ姫は僕の隣で、意外と熱心にお話を聞いていた。キラッキラの目をしていたので、花が好きなのは本当なんだと思った。
「皆さん、今日の植物園見学のお土産に、こちらの花々を使ってお好きな物を作ってみてください。ブーケや花冠、押し花などご自由にどうぞ」
助手らしい人が、花壇の先にある幾つかのテーブルに案内してくれる。テーブルの上には、色とりどりの花々が籠に盛られていた。小さな実のなる可愛い枝物もある。
「ステキ! このお花を使って良いのね? セドリックも作りましょ! お母様へのお土産にしましょ?」
話を聞き終わったら、近衛騎士と一緒に戻って来いと言われたのに。やる気満々でテーブルに近づいている。思わず騎士の方を見ると、やはり困ったように眉を寄せている。
(これは、僕に止めて貰いたいってことだよね?)
「カテリーナ姫。エドアルド様は先生のお話を聞いたら戻って来いとおっしゃいましたよ? もう、行きましょう。騎士様も待って下さっていますからー」
「イ・ヤ! これを作ったら帰るわ。良いでしょう? 今日来ていないお母様に、キレイなお花のお土産を差し上げられるのよ?」
もう席に座っている。梃子でも動かないようなその様子に僕と騎士様は顔を見合わせた。どうしたら良いのか……考えていた。
カテリーナ姫に無理強いは禁物だろう。今日初めて会ったけど、それだけは良く判った。僕の勘がそう言っている。
「でも、それならちゃんと許可を頂かないとー」
「ダ・メ! 時間が無くなっちゃうわ! それより、セドリックも早く作らないと、もっと時間が遅くなるわよ? 遅くなったら、貴方のせいになってよ?」
その手にはピンクと白の花が握られていて、器用に何かを作り始めている。
ああ。やることは決定事項になっている。困った……
「カテリーナ? どうしたの? 大きな声を出して」
僕のすぐ後ろから声が掛けられた。カテリーナ姫を呼びつけにできる人?
「まあ! 来ていらしたの? 今日は無理だと思っていたのに!」
僕が見たのは、車椅子に座っている女の子だった。年は同じ位かと思う。車椅子を従者に押して貰って、カテリーナ姫が座るテーブル席に近づいた。
「何を騒いでいたの? お花がどうしたの?」
静かにカテリーナ姫の前まで行くと、小首を傾げるようにして尋ねている。
「このお花で、お母様にお土産のブーケを作って差し上げたかったの。でも、セドリックが、エドアルドお兄様が戻るように言ったとか、何とか―」
「つまり、戻れと言われているのに、セドリック君とそこにいる近衛騎士に『戻らない』と言って、困らせていたってことだね? ブーケを作りたいの?」
「だって、お母様にもお見せしたくって……」
「判った」
カテリーナ姫と話をしていた彼女は、近衛騎士を呼ぶと自分と従者が付き添うので、終わったら一緒に戻るという事を伝えた。
「セドリック? 君は騎士と一緒に戻っても良いけど。どうしますか?」
彼女はくるりと車椅子を回転させるて、僕の方を見ながら言った。
黒くて真っ直ぐの髪は、耳の下でぱっつんと切り揃えられている。紫色の大きな瞳が……とっても綺麗だ。まるで、アメジストのようだ。小首を傾げるその仕草が、とても可愛らしい感じがした。
(こんな可憐な女の子、見たこと無い。どこのご令嬢だろう?)
何だか、目が離せないような感じがした。
「セドリックも一緒に作りましょう? ほら、貴方にもあげる!」
ずっと手を動かして何かを作っていたカテリーナ姫が、彼女の頭にポンと何かを置いた。
白とピンクの小花で作られた、一重の花冠だった。
「カワイイ!! 良く似合ってよ?」
カテリーナ姫が嬉しそうに微笑んだ。
ツヤツヤの黒髪に淡い色の花は良く映えた。それに、簡単な造りの花冠は、まるで妖精が手遊びで作ったような繊細な感じがした。そのまま絵本に出てくるようだ。
「……!」
言葉が出なかった。でも、何か言わなくては! それから、名前も聞かなければ。
「よ、良く、に、似合っていますよ?」
思わず彼女にそう言ってしまった。
彼女は、ほんの少し驚いたように目を真ん丸にした。でも、それは一瞬のことでにっこり笑うと、
「ありがとう」
と、言った。
僕の頬は赤かったと思う。
「良く似合っているでしょう、それにとっても可愛いわ。セドリックもそう思って?」
何故かにんまり顔でカテリーナ姫が、僕の顔を見ている。
可愛いかどうかと聞かれたら、多分100人中100人がカワイイって思う姿だ。だから、イイんだ!
「ところで、脚の具合は如何なの?」
カテリーナ姫が彼女のひざ掛けを直してあげている。肌触りの良い大判のひざ掛けに覆われた脚は、全く見えない。酷い怪我をしたのか、それとも生まれついてのものなのか。聞いてい良いものかと、少し戸惑った顔をしていたと思う。
「ああ。全然。もう何とも無いんだ。ほら、この通り!?」
「あっ!?」
彼女は、勢いよくひざ掛けを捲まくると、脚を交互に上げ下げした。
(トラウザーズ?)
ひざ掛けの下はドレスじゃなかった。僕が履いているのと同じようなトラウザーズだ。
「えっ、えっ?」
目を白黒させている僕の前で、彼女はゆっくり立ち上がった。
「ねっ? もう大丈夫なんだけど、父上に今日まではこれ車椅子を使えって言われて」
「あっ、あの?」
「ああ。ごめんね? 自己紹介がまだだったね。私はエーリック・レイン・ダリナス。君はマラカイト公爵家のセドリックでしょう? これから仲良くできると嬉しいな」
「おおっ!?」
彼女じゃなかった。彼だった。
第三王子の、エーリック様だった。
カワイイ女の子じゃなくて・・・
一癖ある王子だと知るのは、もう少し先の事だった。
何だか、しょっぱい思い出が喉元まで込み上げてきた。あれから、3年経っているのに。
ほっと一息ついて姿勢を正した。
やれやれ。と思っていたら。
「で? セドリックの好みは黒髪?」
「……金髪です!!」
「瞳は、紫? 緑?」
「青です!!」
「私が言うのと違ってばかりだ。まるで反対だ。でも、金髪で青い目の可愛い女の子が現れたらいいね?」
「エーリック様は、どうなのですか?」
「うーん……お前と同じで?」
「「……」」
もう、この話題は終わりにしたい!
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「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
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