【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

文字の大きさ
75 / 121

74. サルベージ -3-

しおりを挟む
 レイシル様のサルベージを聞いた。



「王子様のお迎えですか。まあ、随分と誘い方をしたものですね」

 エーリックが溜息交じりに言った。そして何を考えていたのかと、呆れた表情でレイシルを見た。

「面目無い。それに、彼女の憂いを取る事が出来そうだと伝えたんだ。でも、それがお気に召さなかったようで、潜り込もうとしたんで引っ張り上げた。でも、まあ結果的には、沈まれてしまったが……」
「「「……」」」

 つまりはシュゼットにそっぽを向かれて、強引に近づいたら速攻で逃げられたということだ。

「レイシル様、二度とお一人で彼女にサルベージを掛けないで下さい。これ以上警戒されたら、本当に戻ってこれなくなりそうですから」

 エーリックが強い調子で言い放つと、流石にレイシルもムッとした様で顔を上げた。

「一対一と言うのに警戒するんです。彼女は女の子ですよ? たった15歳の。私でも貴方と相対するのは緊張するし、委縮する事もあるんです。そこはご理解して頂かないと駄目でしょう?」

 レイシルの隣で聞いていたカイルが、心の中で手を叩いた。

(上手い! エーリック様、レイシル様の扱いが上手いです!)

「……そう言うものか?」

 レイシルの表情が少し緩んだように見えた。

(レイシル師長、案外チョロいですよ)

 二人のやり取りを聞いていたシルヴァだが、新たに設置されたという書棚を覗き込んでいる。普段見る事の出来ない貴重本が目に留まった様だ。

「レイシル。何故彼女があの状態になったか、理由は判ったのか?」

 呼びかけられたレイシルは、シルヴァが立つ本棚まで近づくと、彼の目線の先にある書籍を見た。

「コレ。これに一部原因らしきことがあった。過去の光の識別者について書かかれた本だ。まあ、これが編集されたのがたった千年位前だから、記載されているのも半分は作り話かもしれない。確かな記述はここ400年位だろう。しかし、それも100年前からは更新はされていない」
「それで、原因としては何があるのだ?」

 レイシルが、本棚を開けて大きな黒い革張りの本を取り出した。鍵が4ヵ所も付いたタイトルの無い本だ。重そうなその本をシルヴァが支えるのを手伝いながら尋ねた。

「……歴代の光の識別者になった人物は、心が壊れてしまった者が多い。光の魔法術の強度は、識別者の聖魔力の純度によるらしいから」

 エーリックの片眉がクイっと上がった。

「それは、聖魔力の純度が低くなれば、光の魔法術が使えないという事ですか? でも、シュゼットは聖職者でも聖職に関わる家系でも、その血統を継ぐ者でも無いはずですが。そもそも、聖魔力は神職に関わる魔力でしょう? そうでなくても純度は高められるモノなのですか?」
「判らない。俺達の魔法術を展開するために使う魔力は、個々の識別に由来する魔力だ。でも、光の魔力は聖なる魔力、聖魔力と言う力で展開される」
「レイシル。心が壊れてしまうとはどういう事だ」

 カイルから鑑定石を受け取り、レイシルが本に掛かっている4つの鍵に当てる。鑑定石に反応するようにうっすらと虹色に光った。



「ここから先は、この本の中にあった」


 一番最後の頁を開くと、最後の文章を指差した。古代コレール文字で書かれた禁書だ。


『光の識別者は、聖なる心と聖なる意志によって聖魔力を使役する。万物を平等に愛し、己の欲望や妬み嫉みの悪しき心を持たず。自らを滅して聖なる光に殉じよ』

 レイシルの指先が文字を辿ると、古代文字は現代の文字に替わって浮かび上がった。レイシルの錬金の魔法術によるものだろう。

「自らを滅して? 聖なる光に殉じよ? ナニコレ……自分自身を殺して聖魔力に捧げろって? そうしなければ、光の魔法術は使えない。ってこと?」

 エーリックの瞳に怒りの色が見えた。

「つまりはそういう事だ。過去の識別者はそうさせられた。だから、。それはそうだろうな。幼い頃から世界から隔離され、悪しき感情を持たぬように育てられたようだ。国政の手段とされた使役者は、己の力を理解し自己に目覚めた時に、精神のバランスを崩す事が多かったようだ。教わってきた事と現実の差に理解が追い付かなかったのかもしれない」
「そんな歪な生活させて、感情を持たないようにコントロールして? 使えるだけ魔法術を使わせて? そんな事、現在で赦される事では無いですよ? コレールでは、またコレをしようとしているのですか?」

 エーリックがレイシルに詰め寄った。

「……そんな事にはしない。その為に俺達魔法科学省がいるんだ。俺達は彼女を護るためにいるんだから。誓っても良い」

 伏せていた眼を静かに上げて、レイシルが答える。隣にいるカイルも大きく頷いた。

「とりあえず、今はその言葉を信じよう。それで、彼女が意識を沈めている原因はなんだ」

 シルヴァが椅子に座って、正面からレイシルを見詰めて問うた。

「原因は、多分……彼女のが、導入教育で活性化された聖魔力と拮抗したのかもしれない。均衡が保たれていた正と負が、正が活性化したため、負の気持ちが凝縮されて奥底に押し込まれたか……彼女が抱えていた負の気持ちが、昇華されずに奥底に沈み込んでしまったのかも」
「それでは、彼女の負の心がある限り、浮上できないという事ですか!?」

 思わずエーリックが椅子から立ち上がった。レイシルに食って掛かるような勢いだ。

「エーリック、座れ。レイシル、それで目を覚まさせる方法はあるのか」
「……俺がサルベージで行った方法がソレだった。彼女の意識の端をこちらに向けて、紐づいている負の心ごと意識を引っ張り上げる。その為、俺の鑑定魔法を直接手から流したんだが……」

 少し悔しそうにレイシルが唇を噛んだ。自分のやった失態を思い出したからだ。

「……鑑定魔法が使えないと、シュゼットと話が出来ないのですか?」

 エーリックが不安そうな顔でレイシルとカイルを見た。鑑定魔法の識別を持つ者は少ないのだ。

「そんなことは無い。鑑定石を媒体とすれば可能と思われる。俺の魔力を鑑定石に触媒として使えば、仮に鑑定魔法術の識別が無くても話せるだろう。特に、エーリックとシルヴァ殿なら彼女の心象も良いはずだから」

 まあ、試してみないと判らないが。と付け加えられた。話せる可能性がゼロで無い事に、エーリックはほっとした表情になった。同じく鑑定の識別を持たないシルヴァの表情も、ほんの少しだけ和らいだように見えた。







 それまでじっと話を聞いていたばかりのカイルが、ふと思いついたように口を開いた。

「でも負の心って、人ならば多かれ少なかれ皆持っています。私にだって人に知られたくない負の気持ちとかあります。それを無くさない限り、このような事が起きるという事でしょうか? まさか、今のままのシュゼット嬢では、光の識別者には成れないなんて事無いですよね?」



「「「まさか……?」」」



 カイルは思わず口を塞いで目を逸らしたが、三人の視線が痛い程に突き刺さった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...