【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

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89. なりたくない者

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「今、何て言った? もう一度言って?」

 レイシル様が、正面の椅子から立ち上がりました。
 私は、一回深く息を吸って深呼吸すると、さっきよりも大きな声で、はっきりと言いました。

「嫌です。魔力の引き出しなんて、もうやりません! 魔法術の鍛錬もしません!!」

 ふーっ。言ってやりましたよ。何度も言いましたけど。サルベージされた時も言ったはずです。

「レイシル様。私は光の識別者なんて、なりたくないと言いました。なりたくない者に、どうして私はならなくてはいけませんの?」

 本人がなりたくないって言っているのです。

「……確かに、君はそう言っていた。しかし、識別者である以上、国の庇護下に入って貰いたい。まして君は貴重な光の識別者だ」

 また。また! また!? 貴重な光の識別者ですか!?

「光の識別者……が嫌です。それが何になるのですか? 100年いなくても、平和にこの国は過ごせていたのでしょう? 今更私が光の識別者として現れたからといって、この国は私に何をさせたいのですか?」
「それはまだ決まっていない。しかし、もし君が国の庇護を拒むならば、君の安全を確保できない可能性が出てくる。君の力を不届き者が狙うかもしれないし、君の意志に関係無く不条理な力で使役させられるかもしれない」
「何ですの、それ? 私に選択権はありませんの? 今の魔法が使えない状態であってもですか?」
「君は知らないだろうけど、無理やり魔法術を使わせる手段など幾らでもある」

 レイシル様はそう言って、強い視線を私に向けました。綺麗なお顔が表情を消していて、見る者が冷やりとする冷たさです。

「無理やり?」
「そう。随分昔にも魔力を否定し、識別者の称号を自ら破棄した者がいた。しかし、結局は国の庇護に下った。どんな方法かは聞かない方が良いだろう。当時の魔法管理者達は、今と比べ物にならない程えげつない奴らだった」

 思わず背筋に震えが走りました。一体どんな方法で言う事を効かせたというの?

 まあ、今はそんな事が簡単にできない様に、国家として魔法科学省があると言っていますけど……

「そう。だから国の庇護を受けた方が良いんだ。そうでない無法者に利用されたら、命の保証すら出来ない。脅かすつもりでは無いけど、その位に考えて欲しい」



 つまり、国の庇護を受けなければ、万が一の場合は無理やり、卑劣な手段で魔法を使わせる。と言う事もあるという事ですか。

「……」
「判ってくれた?」

 確かにレイシル様の言うことは判りました。



 でも。

「でも、私には負の気持ちがあって、それをコントロールしなければ光の識別者になれないって、レイシル様はおっしゃいましたわね? 負の気持ちをどうすれば良いのですか? なりたくない者にならなければならない。そんな気持ちをどうコントロールすれば良いのです」

 テーブルの向こうで立ったままのレイシル様に向かって、私も椅子から立ち上がって言います。思い出しました。。もう一つ、いえ二つありました。

「婚約者候補だとか、側室だとかになりたくないと言うのも負の気持ちですか? 意識が底に沈んでいた時も、このことを考えると黒い霧が湧き上がってきました。こう思う気持ちもいけない事なのでしょうか?」

 そこまで言って言葉を飲み込みました。レイシル様にこれ以上言ってしまっても良いのでしょうか。
 私の脳裏には、カテリーナ様、イザベラ様、ドロシア様、そしてローナ様の顔が浮かびました。

 だって、皆さんはご自分がフェリックス殿下の婚約者候補だと言う自負を持っています。それぞれに思うところは別でしょうけど、私以外の4人はその立場を受け入れています。



 カテリーナ様は隣国ダリナスを。イザベラ様は政治を。ドロシア様は家系を。ローナ様は……多分、フェリックス殿下への恋慕を。それぞれに抱えているモノがあるように思えます。



 きっと、対象であるフェリックス殿下にも抱えているモノはあるのでしょう。


 私は、テーブルの上で拳を握り締めました。





 5年間で、変わってしまったのです。

 5年の間に、私以外の皆様は変わっていったのです。

 子供から大人へ。皆様が階段を上っていたのです。私が、仕返しを考えている間に……







 ペタンと椅子に座り込みました。これ以上レイシル様と向かい合っていると、言いたくないことまで全部言ってしまいそうです。そう、ぶちまけてしまいそうです。

「シュゼット、少し落ち着こう。レイシル様、急に話を進めるのも混乱させてしまいます。今日はここまでにしませんか? シュゼットも頭を整理する必要があるでしょ?」

 エーリック殿下が、静かな声でそう言って下さいました。
 この方は、本当に申し訳なくなる位にお優しい。いつもいつも……

 涙が滲んで来るのをぐっと堪えていると、エーリック殿下がすくっと立ち上がり、窓の傍まで歩いて行きました。



「エーリック?」

 レイシル様が驚いた声で呼び掛けて後ろを振り返ります。私も窓辺に向かうエーリック殿下の姿を目で追います。
 エーリック殿下が少しだけ開いていた窓を、大きく開きました。揺らめくカーテンが開けられ、清々しい空気と一緒に明るい光が煌めいて床と天井に光を映します。

 セドリック様の枕元に置いた花の甘酸っぱい爽やかな香りが、部屋中を駆け巡ったように感じられました。

「ああ。いい天気だね。籠っているのが勿体ない。レイシル様、ちょっと出掛けて来ます。セドリックの事、よろしくお願いしますね」

 そして、眠っているセドリック様の寝台に近寄ると、彼の耳元に何か囁いた様に見えました。そして、セドリック様の胸に優しく掌を添えると笑顔でこちらに向きました。

「じゃあ、行って来ます。シュゼット、行こうか?」

 驚いたままの私の傍まで来るとさっと右手を繋ぎ、エーリック殿下は爽やかな笑顔でおっしゃいました。



 目の前で思いも寄らない行動のエーリック殿下に、暫く目を見開いて様子を見ていたレイシル様。
 銀髪の頭を振ると我に返った様に肩を竦め、溜息を漏らしました。

「……判った。セドリック殿の事は承知した。でも、昼までには戻って来い。良いな? エーリック」

 レイシル様は諦めた様に頷くと、エーリック殿下にそう言ってローブに付けていたブローチをポイっと投げて寄こしました。

「これは?」

 空中で鮮やかにキャッチしたブローチは、煌めくグリーントルマリンです。レイシル様の瞳の色ですね。

「俺の識別章の片割れ。何かあればそれを使ってくれ。こちらからも何かあったら連絡するから。使い方は、エーリック判るな?」




 エーリック殿下は頷くと、私の手を繋いで扉を開けました。

「じゃあ、行って来ます」


 どこかに出掛けるらしいので、私はマリに声を掛けて上着を持って来て貰います。その間に、廊下では見送って下さるレイシル様が、エーリック殿下を手招きしたのが見えました。


 小走りで近づいたエーリック殿下の肩を、レイシル様が抱き込む様にして私から背を向けたのです。



 何で?
 すると、レイシル様に耳打ちされたエーリック殿下が怪訝そうな声を上げました。

「はい?」

 そして、次の瞬間。

「そ、そんな事‼ する訳無いでしょうっ!?」

 エーリック殿下が、顔を真っ赤にしてレイシル様から飛び退く様に離れました。



 はて。何を言われたのやら?

「行こう!! シュゼット! レイシル様は余計な心配しないで、セドリックをよろしくお願いしますよ!!」




 エーリック殿下が強く私の手を引いて、廊下にある小部屋に飛び込みました。

「ここは移動魔法の小部屋。直ぐに1階まで行けるから」

 そして、小さく、踊り場を通らなくて済むからね。と言いました。ああ、まだ完璧に床の張替えも済んでいないのでしょう。私に見せるのも、ご自分で見るのも辛い物だったのかもしれません。





「さあ、シュゼット。行こうか」





 エーリック殿下は、辺りに響く様に口笛を吹きました。
 すると、見覚えのある美しい馬が駆けて来ました。

「バシリスですのね!」

 久し振りに会うバシリスは、私の事を覚えていてくれた様で、私の頭にスリスリと長い首を擦り付けます。艶やかで滑らかな肌触りと、温かな体温にほっとしました。

 すぐに馬番によって騎乗の準備がされると、エーリック殿下が私に手を差し出しました。

「バシリスと一緒に行こう。大丈夫。私が後ろから支えるから。安心していいよ」

 任せて‼ と言わんばかりにバシリスがブルルンと鼻を鳴らし、可愛らしい目で私を見詰めています。

 エーリック殿下は、失礼するよっと声を掛けると、私の腰に手を当て、あっという間にバシリスの背に私を乗せてくれました。この細い身体に、なんて力が秘められていたのでしょう。

 そして、ひらりと私の後ろに乗ると、後ろから声を掛けてきました。

「じゃあ行こう。しっかり掴まっていてね。バシリス頼むよ」





 バシリスは嬉しそうにいななくと、庭を駆け出したのです。



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