【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

文字の大きさ
93 / 121

92. 二人の目覚め

しおりを挟む
 草原の海からの帰り道、バシリスの背に揺られながら私は色々と考えていました。

 自分の知らなかった光の識別者の事。多くを明らかにされていないその魔法術は、100年経った今でもこの地に影響を及ぼしていました……

 その力は想像していたよりも、ずっとずっと大きなモノでした。
 戦の炎を一掃したという魔法術は、あの広大な土地を草原に還し、100年間変わらぬ姿を保っていました。
 まるで、変わることを是としない強い意志を持っているかのよう。それほどの力を持っていた先代の光の識別者は、どのような方だったのでしょうか……



 死してなお、その魔力であの地を守っている。
 私もそうなることが出来るのでしょうか。
 瀕死の王太子を救った力とは、どうすれば身に着くのでしょうか。
 負の気持ちを持った私が、光の識別者等と呼ばれるに値する力を得るには……
 どの位時間が掛かるのでしょうか。







 白い貌、白い包帯、血の滲んだ頬や額。冷たい指先に、堅く閉じられた瞳。
 セドリック様の姿を思い浮かべれば、胸がズキンと疼いて涙が出そうになります。
 癒しの力で身体を直す事が出来るのは、光の魔術が展開できる真の光の識別者でしょう。

 セドリック様が治るのならば、治せるのならば、今すぐ力を使いたい!!
 今すぐに、使える様になりたい!!

 その為には、私が光の識別者にならなくてはいけない事など、最初から判っていました。
 でも、負の気持ちをコントロールしなければいけない。それはどうするのでしょうか。私の中の何かを失くさなければいけないのでしょうか。


 私は変わってしまうのでしょうか。

 疑問で一杯になった私は、深呼吸をして前を見ます。レイシル様なら答えて下さるのでしょうか? それともシルヴァ様なら判るのでしょうか? 

 お二人さえも会ったことが無い人になる……怖い気持ちが無い訳ではありません。

 でも、それでも、変わらない気持ちがあります。
 セドリック様を救いたい。それだけは、はっきりと言えるのです。















「お帰り」

 セドリック様の病室に戻ると、レイシル様とカイル様がいらっしゃいました。テーブルに沢山の書物を持ち込んで研究に余念がありません。

「ただいま戻りました」
「レイシル様、セドリック様のご様子は如何ですか?」

 エーリック殿下と私は静かにご挨拶をすると、セドリック様の容態を聞きます。そろそろお昼になりますから、お医者様がおっしゃった麻酔薬の切れる頃ですけど。

「まだ起きる気配は無いな。医師も診察では変化は無いと言っていた。でも、呼吸も脈も安定しているし、熱は傷の状態からもう少し続くと言っていた」

 私はセドリック様の顔が、少しだけ見える左側に周り込みました。呼吸は穏やかですけど、朝よりも顔が赤いように見えました。首筋を触ると、確かに熱が高くなっているようです。

「熱が出ているのは、身体が治そうとしているからだと医師は言っていました。ただ余りにも熱が高くなると危険な事もあるので、コレで解熱します」

 そう言ってカイル様が、掌に載る大きさのクッション? の様なモノを幾つも箱から出してきました。

「これは?」
「魔法術で作った、冷却袋です。これを首筋や脇の下に挟んで熱を冷まします」

 ぽとりと私の掌に置いて下さりました。

「冷たい。ですわ」

 魔法には、こんなモノを作り出す力があるのですね。一般に出回っている冷却袋は水が入っているのですが、これは柔らかいのに冷たい、不思議な感触がします。

「これも、魔法術の産物なのですね? 氷の識別魔法でしょうか?」

 カイル様は頷くと、冷却袋を箱ごと寝台の傍に控えていた看護師に渡しました。彼女はテキパキとセドリック様の身体に当てると、腕に刺さっていた薬液の針を抜いて部屋から出て行きました。昼の治療が一区切りついたところでしょう。

「気分転換になった?」

 セドリック様を挟んで向こう側に立つレイシル様。穏やかなその顔は、まるで草原での事も私の頭の中の事も全てお見通しの様な感じです。

「はい。レイシル様、時間を頂いてありがとうございました。エーリック殿下も感謝致します。大切なお話を伺えましたもの」

 そう。と頷いたレイシル様。じっと私を見詰めるグリーントルマリンの静かな瞳。
 ああ、確かにこの方は、魔法科学省の師長で、神官長で、何よりこの国の誰よりも魔法術を理解されている識別者なのです。

「レイシル様」

 私はまっすぐレイシル様の視線を受け止めます。

「セドリック様を治す力が欲しいのです」

 はっきりと伝えます。そして、隠すことの無い本心も言葉にしました。

「今、それしか考えられない私が、光の識別者になれるのでしょうか?」

 もう一言伝えなければ。

「レイシル様。私は、光の識別者に」





「……めだ……」



「!?」









 私とレイシル様の間から、掠れた小さな声が聞こえました。

「セ、セドリックさ、ま?」

 僅かに見える顔に眼を向けます。薄っすらと、本当に薄っすらと開いたアイスブルーの瞳。

「シュゼ……駄目……だ。ひかり……者……なる……駄目だ」

 掠れた声が、振り絞る様に伝えてきます。微かに震えるその声は、私に向かって発せられています。だって、うつろな輝きの瞳は、確かに私を見詰めていますもの!!

 見開いた私の目から、涙がぶわっと一気に溢れ出ました。止められない勢いで頬を伝います。

「セドリック様! しゃべらないで下さい。ああ! 気が付かれたのですね?」

 私の声に、エーリック殿下が寝台に駆け寄って来られ、カイル様は医師様を呼びに部屋を飛び出して行きました。

「セドリック! 気が付いたのか?」

 エーリック殿下が私の後ろから、セドリック様の視界に入って声を掛けます。セドリック様が、震える様に僅かに瞬きをし、問いかけに返事をした様に見えました。


「良かった……セド……気が付いた……」

 エーリック殿下が安堵した様に呟きました。

「……シュ、ゼ……」

 小さく聞こえるセドリック様が、私の名を呼んだように聞こえました。彼の言葉を聞き取ろうと、思わず私はセドリック様に近づきました。

「シュゼット……光の……識別者……にならなくていい。なっては……駄目だ……」
「セドリック様?」

 小さな声ですが、はっきりと聞こえました。

「皆さん! 場所を開けて下さい!!」

 駆け込んできた医師様達に、寝台周りから追い立てられると、忙しく動き回るその様子を茫然と見ていました。



 頬を伝い流れる涙が、ぽたぽたと床に落ちています。









『シュゼット。光の識別者にならなくて良い。なっては駄目だ』













 セドリック様は、確かにそう言ったのです。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

処理中です...