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103. 居場所
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もう誰にも会いたくない。
もう何も考えたく無い。
「誰も、私の事なんて気にしていないわ……」
身体をギュッと縮める。冷たい金属の管に囲まれた僅かな隙間。人気の無い空間は、シンと静まり返っていた。
「何で、こんな事になっちゃたの? 私の何が悪かったの?」
膝を抱えて顔を伏せた。鼻の奥がツンとして、涙がジワリと浮かんでドレスに冷たく滲んだ。
「もう、フェリックス殿下にも会えない。もう、家にもいられないかも……セドリック様に大怪我をさせて……」
それだけで無い。国の重要人物になる彼女に、悪意を持っているとされてしまった。その場をフェリックス殿下にも、レイシル様にも見られている。こんな危険人物、幾らお父様でも庇いきれない……
「ロイ。ロイ? 私は、どうしたら良いの?」
再び滲む涙に、肩が震える。自分で自分を強く抱きしめた。
行く所なんてどこにも無い。
「誰か来たな。フェリックス殿か? ン? もう一人いるか?」
シルヴァが顔を上げて、扉の向こうを見た。この気配は多分フェリックスの気配だ。レイシルの気配とよく似ている。コレール王族の血の匂いだろうか。
同じようにエーリックも気が付いたようで、席を立って歩みを進めると扉に手を掛けた。
「ようこそ。フェリックス殿と……ロイ殿?」
思いも寄らない人物が一緒にいた。
フェリックスが部屋に入ってくると、シュゼットが立ち上がり腰を落として挨拶をした。
「シルヴァ殿、エーリック殿も休んでいるところ済まない。セドリック殿の具合はどうだ? シュゼット嬢、君も体調は大丈夫か?」
エーリックが先導するように、フェリックスとロイを連れてセドリックの寝台に案内した。
「セドリック殿? フェリックスです。気分は如何ですか?」
シュゼットが椅子を退けて、セドリックの顔が見られるスペースを作る。左側の顔しか見えないので、フェリックスは少し屈んで声を掛ける。
「お気遣い……ありがとうございます」
小さな声だが、はっきりとセドリックが答えた。そして、セドリックの目がフェリックスの後ろの人物を認めた。
「……ロイ殿?……」
すると一瞬の間を置いて、セドリックの目が大きく開かれ、思い出したように声を上げた。
「ローナ嬢は? ローナ嬢は、ご無事、ですか!?」
ああ。やっぱりですわ。
今のセドリック様の言葉で、私が階段で見たのは彼の記憶だと判りました。
ロイ様を見つけて、ローナ様を思い出したセドリック様が、思わず起き上がろうと身体を動かしました。でも、さすがに今のセドリック様は動くことが出来ませんから、私とフェリックス殿下が同時に手を差し出しました。どちらかと言うと、押さえつけた。という感じかもしれませんけど。
「無理をするな。まだ安静中の身だ。セドリック、お前は事故の時の事を思い出したのか?」
シルヴァ様が問われると、セドリック様は起き上がろうとして無理をした為、きつく瞼を瞑って頷きました。
「セドリック殿。ローナが大変ご迷惑をお掛けしました。何とお詫びをしたらいいか……本当に申し訳ありません!」
ロイ様がそう言って、深々とセドリック様に頭を下げられました。
「……顔を上げて下さい。ローナ嬢は? 怪我、して、無いですか?」
セドリック様が、ロイ様を労わる様に声を掛け、更にローナ様の事を尋ねます。この方は、本当に優しいのです。ご自分が大怪我を負っているのに。
ロイ様がそれに答えるように大きく頷きました。
良かったですわ。怪我はしていない様ですのね。怪我をしたまま行方不明なんて事だったら、命にかかわってしまうかも。です。
「そう、なら良かった」
そう言ってセドリック様は目を閉じました。ああ、お疲れになったのでしょう。静かな呼吸に胸がゆっくりと上下しています。苦しくは無いようですね。
眠ってしまわれたセドリック様の傍から、私達はソファに移動すると、改めてフェリックス殿下とロイ様に眼を向けました。フェリックス殿下がいらっしゃるなんて伺っていませんでした。それも、ロイ様とご一緒だなんて。それって、もしかして……
「実は、まだローナが見つかっていないんだ」
フェリックス殿下が、私の顔を見ました。
「カリノ侯爵家で探しているのでしょう? お心当たりはもう探したのですか」
エーリック殿下が、私の替わりにロイ様に聞いて下さいました。
「ええ。一番行きそうな学院も図書館も、音楽室も。勿論庭園も。
ローナが行きそうな知人宅も探しましたが、まだ見つかりません。それで、もしやと思いましてフェリックス殿下の所に伺いました。でも、そちらにも姿は無かったのです」
ロイ様は、膝に置いた手を握り締めました。
「ロイが私を訪ねて来たのだが、王宮には簡単に入ることは出来ない。
それに、入って来たら結界があるから直ぐに判るはずだがそれも無かった。それで……まさかとは思ったが、ここに来るかもしれないと思って探しに来た。
しかし、ここには来ていなそうだな?」
ローナ様が、ここに来るかもしれないと思った。フェリックス殿下もそう思われたのですか。
「ローナが、シュゼット様に悪意を持っていたと。その為、結界に弾かれて階段から転落するところ、セドリック殿に助けられたと聞いています。お二人には、何とお詫びしたらいいか……本当に申し訳ありません。でも、何故ローナがそこまで思いつめてしまったのか…‥僕にも判らないのです……」
肩を落とし、俯いているロイ様。何と声を掛けて良いか判りません。
「それで、もしかしたらココに来るかもしれないと思ったんだ。もしかしたら、君やセドリック殿に会いに来るかも。と思ったのだがな」
フェリックス殿下が溜息を吐いて呟きました。
「しかし、ここにも来た気配は無い。来れば判るし、私もエーリックもいるからな」
シルヴァ様が腕組みをされたままそう言うと、エーリック殿下がロイ様に向かって言いました。
「ロイ殿、あと探していない所などは無いの? 時間が経てば経つほど、見つけるのが難しくなるだろう。それに、変な気を起こさなければ良いが……」
未だ見つからないローナ様。
どこにいるの?
貴方は何処にいるの?
貴方は、私に言いたいことがあるのでしょう? あったのでしょう?
編入して直ぐの私に、5年前のアノ出来事をストレートにぶつけて来たアナタですよ?
只の気の弱そうな女の子では無いでしょう?
私は、瞼を閉じてローナ様を思い浮かべました。
フェリックス殿下を見詰めていた瞳。私に向けられた嫉妬の言葉。
フッと、頭の中に映像が浮かびました。
初めて見る光景です。コレは……何でしょう?
金色に光る金属の管? 長い管が随分高い所まで伸びています。何でしょうか? 沢山の金色の管が並んでいます。長いの……短いのもあります。ローナ様?
金色の管の間にある僅かな空間に、身を隠すようにいる……ローナ様。
レイシル様が言っていた、鑑定の識別があるのなら、この光景が本当なら‼
「ロイ様。金の管が並んだ場所。沢山の金色の管が天井まで並んでいる場所に、ローナ様がいるように思えます。もし、もうお探しになるところが思いつかないのであれば、この場所を探して下さい」
はっきり言って、確信は持てません。でも、頭に浮かぶこの光景に今は縋りたいです。
ああ残念ながら、この場所が私には判りません。
金色の磨き上げられた金属の管。見たことがあるような、でも具体的に何かと断定できるほど鮮明には見えなかったのです。
ふと、何かに気付いた様に、ロイ様の目が大きく開かれました。
「……パイプオルガン? 学院の礼拝堂だ。あそこは鍵が掛かっていたから中まで確認しなかった! でも、ローナは合鍵を持っている。あのパイプオルガンの世話を任されていたから!!」
礼拝堂? 学院にそんな場所があったのですか。知りませんでした。
でも、そこにパイプオルガンがあるのですね? では、そこにローナ様がいるのでしょうか?
「フェリックス殿下。私は直ぐに礼拝堂に向かいます。シュゼット様、ありがとう! とにかく行ってみます」
ロイ様が勢いよく立ち上がり、部屋から出て行かれました。後を追うようにフェリックス殿下も立ち上がります。
「あ、あの!!」
私はフェリックス殿下に駆け寄ると、
「私も連れて行ってください! ローナ様と話がしたいのです!!」
驚くフェリックス殿下の、グリーントルマリンの瞳が見開かれて私を見詰めます。
「しかし……」
言い淀むフェリックス殿下のお気持ちも判ります。もしかしたら、ローナ様を刺激してしまうかもしれません。
でも‼
「判った。シュゼット嬢は俺が連れて行こう。フェリックスはロイを追え。シルヴァ殿とエーリックはどうする? 行くなら……」
フェリックス殿下の訪問の連絡を受け、やって来たレイシル様がロイ様と入れ替わりに部屋に入ってきました。一体、どこから話を聞いているのでしょう。
「シュゼットは、私が聖なる泉を使って移動させる。そうすれば、礼拝堂の地下にそのまま行けるからな。シルヴァ殿とエーリックは、カイルと一緒に移動してくれ。君達程の魔法術の識別者なら、先導者がいれば大丈夫だろう」
泉で移動? ちょっと待ってください。聖なる泉で魔法を使って移動するという事ですか?
「あ、あの、ダイジョウブなんでしょうか? 私、水の中を移動とか、初めてなのですけど?」
「大丈夫。さあ、魔法科学省の礼拝堂に行こう。そこの泉から移動するから。少し距離があるから急がなければ」
レイシル様は、私の手を引いて部屋を出ると、移動の小部屋に入りました。シルヴァ様もエーリック様、カイル様も一緒です。
「ローナ嬢が何を思って礼拝堂に行ったかは判らないが、万が一という事もある。最悪の事態になる事だけは避けたい」
医術院の玄関から礼拝堂に向かって歩きます。広大な魔法科学省の敷地のどこにあるのか判りません。でも、私の手を引くレイシル様は真っ直ぐに歩いて行きます。
どんな方であろうと、誤解されたままでは嫌です。
全部を理解できなくても、歩み寄る努力はしたいと思います。
例え、ローナ様が私を嫌いであっても‼
もう何も考えたく無い。
「誰も、私の事なんて気にしていないわ……」
身体をギュッと縮める。冷たい金属の管に囲まれた僅かな隙間。人気の無い空間は、シンと静まり返っていた。
「何で、こんな事になっちゃたの? 私の何が悪かったの?」
膝を抱えて顔を伏せた。鼻の奥がツンとして、涙がジワリと浮かんでドレスに冷たく滲んだ。
「もう、フェリックス殿下にも会えない。もう、家にもいられないかも……セドリック様に大怪我をさせて……」
それだけで無い。国の重要人物になる彼女に、悪意を持っているとされてしまった。その場をフェリックス殿下にも、レイシル様にも見られている。こんな危険人物、幾らお父様でも庇いきれない……
「ロイ。ロイ? 私は、どうしたら良いの?」
再び滲む涙に、肩が震える。自分で自分を強く抱きしめた。
行く所なんてどこにも無い。
「誰か来たな。フェリックス殿か? ン? もう一人いるか?」
シルヴァが顔を上げて、扉の向こうを見た。この気配は多分フェリックスの気配だ。レイシルの気配とよく似ている。コレール王族の血の匂いだろうか。
同じようにエーリックも気が付いたようで、席を立って歩みを進めると扉に手を掛けた。
「ようこそ。フェリックス殿と……ロイ殿?」
思いも寄らない人物が一緒にいた。
フェリックスが部屋に入ってくると、シュゼットが立ち上がり腰を落として挨拶をした。
「シルヴァ殿、エーリック殿も休んでいるところ済まない。セドリック殿の具合はどうだ? シュゼット嬢、君も体調は大丈夫か?」
エーリックが先導するように、フェリックスとロイを連れてセドリックの寝台に案内した。
「セドリック殿? フェリックスです。気分は如何ですか?」
シュゼットが椅子を退けて、セドリックの顔が見られるスペースを作る。左側の顔しか見えないので、フェリックスは少し屈んで声を掛ける。
「お気遣い……ありがとうございます」
小さな声だが、はっきりとセドリックが答えた。そして、セドリックの目がフェリックスの後ろの人物を認めた。
「……ロイ殿?……」
すると一瞬の間を置いて、セドリックの目が大きく開かれ、思い出したように声を上げた。
「ローナ嬢は? ローナ嬢は、ご無事、ですか!?」
ああ。やっぱりですわ。
今のセドリック様の言葉で、私が階段で見たのは彼の記憶だと判りました。
ロイ様を見つけて、ローナ様を思い出したセドリック様が、思わず起き上がろうと身体を動かしました。でも、さすがに今のセドリック様は動くことが出来ませんから、私とフェリックス殿下が同時に手を差し出しました。どちらかと言うと、押さえつけた。という感じかもしれませんけど。
「無理をするな。まだ安静中の身だ。セドリック、お前は事故の時の事を思い出したのか?」
シルヴァ様が問われると、セドリック様は起き上がろうとして無理をした為、きつく瞼を瞑って頷きました。
「セドリック殿。ローナが大変ご迷惑をお掛けしました。何とお詫びをしたらいいか……本当に申し訳ありません!」
ロイ様がそう言って、深々とセドリック様に頭を下げられました。
「……顔を上げて下さい。ローナ嬢は? 怪我、して、無いですか?」
セドリック様が、ロイ様を労わる様に声を掛け、更にローナ様の事を尋ねます。この方は、本当に優しいのです。ご自分が大怪我を負っているのに。
ロイ様がそれに答えるように大きく頷きました。
良かったですわ。怪我はしていない様ですのね。怪我をしたまま行方不明なんて事だったら、命にかかわってしまうかも。です。
「そう、なら良かった」
そう言ってセドリック様は目を閉じました。ああ、お疲れになったのでしょう。静かな呼吸に胸がゆっくりと上下しています。苦しくは無いようですね。
眠ってしまわれたセドリック様の傍から、私達はソファに移動すると、改めてフェリックス殿下とロイ様に眼を向けました。フェリックス殿下がいらっしゃるなんて伺っていませんでした。それも、ロイ様とご一緒だなんて。それって、もしかして……
「実は、まだローナが見つかっていないんだ」
フェリックス殿下が、私の顔を見ました。
「カリノ侯爵家で探しているのでしょう? お心当たりはもう探したのですか」
エーリック殿下が、私の替わりにロイ様に聞いて下さいました。
「ええ。一番行きそうな学院も図書館も、音楽室も。勿論庭園も。
ローナが行きそうな知人宅も探しましたが、まだ見つかりません。それで、もしやと思いましてフェリックス殿下の所に伺いました。でも、そちらにも姿は無かったのです」
ロイ様は、膝に置いた手を握り締めました。
「ロイが私を訪ねて来たのだが、王宮には簡単に入ることは出来ない。
それに、入って来たら結界があるから直ぐに判るはずだがそれも無かった。それで……まさかとは思ったが、ここに来るかもしれないと思って探しに来た。
しかし、ここには来ていなそうだな?」
ローナ様が、ここに来るかもしれないと思った。フェリックス殿下もそう思われたのですか。
「ローナが、シュゼット様に悪意を持っていたと。その為、結界に弾かれて階段から転落するところ、セドリック殿に助けられたと聞いています。お二人には、何とお詫びしたらいいか……本当に申し訳ありません。でも、何故ローナがそこまで思いつめてしまったのか…‥僕にも判らないのです……」
肩を落とし、俯いているロイ様。何と声を掛けて良いか判りません。
「それで、もしかしたらココに来るかもしれないと思ったんだ。もしかしたら、君やセドリック殿に会いに来るかも。と思ったのだがな」
フェリックス殿下が溜息を吐いて呟きました。
「しかし、ここにも来た気配は無い。来れば判るし、私もエーリックもいるからな」
シルヴァ様が腕組みをされたままそう言うと、エーリック殿下がロイ様に向かって言いました。
「ロイ殿、あと探していない所などは無いの? 時間が経てば経つほど、見つけるのが難しくなるだろう。それに、変な気を起こさなければ良いが……」
未だ見つからないローナ様。
どこにいるの?
貴方は何処にいるの?
貴方は、私に言いたいことがあるのでしょう? あったのでしょう?
編入して直ぐの私に、5年前のアノ出来事をストレートにぶつけて来たアナタですよ?
只の気の弱そうな女の子では無いでしょう?
私は、瞼を閉じてローナ様を思い浮かべました。
フェリックス殿下を見詰めていた瞳。私に向けられた嫉妬の言葉。
フッと、頭の中に映像が浮かびました。
初めて見る光景です。コレは……何でしょう?
金色に光る金属の管? 長い管が随分高い所まで伸びています。何でしょうか? 沢山の金色の管が並んでいます。長いの……短いのもあります。ローナ様?
金色の管の間にある僅かな空間に、身を隠すようにいる……ローナ様。
レイシル様が言っていた、鑑定の識別があるのなら、この光景が本当なら‼
「ロイ様。金の管が並んだ場所。沢山の金色の管が天井まで並んでいる場所に、ローナ様がいるように思えます。もし、もうお探しになるところが思いつかないのであれば、この場所を探して下さい」
はっきり言って、確信は持てません。でも、頭に浮かぶこの光景に今は縋りたいです。
ああ残念ながら、この場所が私には判りません。
金色の磨き上げられた金属の管。見たことがあるような、でも具体的に何かと断定できるほど鮮明には見えなかったのです。
ふと、何かに気付いた様に、ロイ様の目が大きく開かれました。
「……パイプオルガン? 学院の礼拝堂だ。あそこは鍵が掛かっていたから中まで確認しなかった! でも、ローナは合鍵を持っている。あのパイプオルガンの世話を任されていたから!!」
礼拝堂? 学院にそんな場所があったのですか。知りませんでした。
でも、そこにパイプオルガンがあるのですね? では、そこにローナ様がいるのでしょうか?
「フェリックス殿下。私は直ぐに礼拝堂に向かいます。シュゼット様、ありがとう! とにかく行ってみます」
ロイ様が勢いよく立ち上がり、部屋から出て行かれました。後を追うようにフェリックス殿下も立ち上がります。
「あ、あの!!」
私はフェリックス殿下に駆け寄ると、
「私も連れて行ってください! ローナ様と話がしたいのです!!」
驚くフェリックス殿下の、グリーントルマリンの瞳が見開かれて私を見詰めます。
「しかし……」
言い淀むフェリックス殿下のお気持ちも判ります。もしかしたら、ローナ様を刺激してしまうかもしれません。
でも‼
「判った。シュゼット嬢は俺が連れて行こう。フェリックスはロイを追え。シルヴァ殿とエーリックはどうする? 行くなら……」
フェリックス殿下の訪問の連絡を受け、やって来たレイシル様がロイ様と入れ替わりに部屋に入ってきました。一体、どこから話を聞いているのでしょう。
「シュゼットは、私が聖なる泉を使って移動させる。そうすれば、礼拝堂の地下にそのまま行けるからな。シルヴァ殿とエーリックは、カイルと一緒に移動してくれ。君達程の魔法術の識別者なら、先導者がいれば大丈夫だろう」
泉で移動? ちょっと待ってください。聖なる泉で魔法を使って移動するという事ですか?
「あ、あの、ダイジョウブなんでしょうか? 私、水の中を移動とか、初めてなのですけど?」
「大丈夫。さあ、魔法科学省の礼拝堂に行こう。そこの泉から移動するから。少し距離があるから急がなければ」
レイシル様は、私の手を引いて部屋を出ると、移動の小部屋に入りました。シルヴァ様もエーリック様、カイル様も一緒です。
「ローナ嬢が何を思って礼拝堂に行ったかは判らないが、万が一という事もある。最悪の事態になる事だけは避けたい」
医術院の玄関から礼拝堂に向かって歩きます。広大な魔法科学省の敷地のどこにあるのか判りません。でも、私の手を引くレイシル様は真っ直ぐに歩いて行きます。
どんな方であろうと、誤解されたままでは嫌です。
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