【更新中】悪役令嬢は天使の皮を被ってます!! -5年前「白パンダ」と私を嗤った皆様に今度は天使の姿でリベンジします! 覚悟は宜しくて?-

薪乃めのう

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102. 探索

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「ローナ様がいなくなった?」

 フェリックス殿下から、自宅謹慎を申し付けられていたというのに? どうした事?

「昨夜から、屋敷から姿が見えなくなったという。晩餐までは確かにいたし、就寝準備を行ったまでは侍女も見ている。
 だが、今朝になって起床の為に部屋に行ってみると、ベッドはもぬけの殻だった。外から連れ去られた様子も無いし、自分から屋敷を抜け出したらしい。今は、カリノ家で捜索中だ。
 だから、君もローナが見つかるまではここにいてくれ。万が一にも、またここに来るような事があれば君の身が危険だ」

 まさか、ローナ様は私に何かしようとしているのですか?

「彼女は、フェリックスの事が好きだったようだな? 婚約者候補になれたことも喜んでいたらしいし、側室になれるものならなりたかったのだろう。でも、君が戻って来て、フェリックスと5年振りに和解した。フェリックスにとって、ある意味君は特別な存在だったから、ローナ嬢は焦ったし、君を妬んだんじゃないか? まあ、女の子の気持ちなど、俺には半分も判らないけどね」

 レイシル様が、腕組みをして遠い目をされました。確かに、ローナ様はフェリックス殿下をお慕いしていましたよね? 他の婚約者候補の方々のフェリックス殿下への気持ちとは、種類が違っていたと思います。

 それが何なのか。いわゆる初恋的な? 気持ちなのでしょうか。

「でも、一体どこに行ってしまったのでしょう? 夜の内に? 明け方? いつも馬車で移動しているローナ様でしょうから、行ける処は限られていそうですけど」

 何を考えて、何を思って家を出たの? 

「ローナ様からしたら、婚約者制度が無くなり、側室にもなれないと知ったらショックは大きいでしょうね。だって、一番大好きなフェリックス殿下と、今までの様に近くには居られませんものね。これからは、カテリーナ様がお傍にいるのですから……」
「とにかく、ローナ嬢が見つかるまでは、君はここにいてくれ。頼むから、変な気を起こさないでくれよ?」

 そう言ってレイシル様が、ソファから立ち上がりました。お話はもう終わりという事でしょうか。

「ああ。それから、君の魔法術の講義の件だけど、君は学業の方は大変優秀な様だね? だから、少し集中して魔法術の方を進めたいと思う。ここを退院したら週二日、午後魔法科学省で俺の講義を受けて欲しい。如何せん100年振りの光の識別者の育成だから、判らない事も多い。君には申し訳無いが、よろしく頼む」

 確かに、過去の識別者と大きく境遇が違いますものね。レイシル様にもご苦労をお掛けしますわ。

「まあ、とにかくここは出ないでくれよ? 出る時は必ず許可を取って欲しい。それから、エーリックとシルヴァ殿も昼頃に来るだろう。それまでは、セドリック殿を看てやってくれ」

 レイシル様とカイル様が帰ると、部屋の中はいきなり静かになりました。余りに静かで、考えなくても良い事迄考えてしまいます。







 ローナ様は、どこに行ってしまったの?









「お嬢様。お花を整えてセドリック様の所に行きましょう?」

 静かにマリが声を掛けてきました。そうですわね。せっかく摘んだお花を無駄には出来ません。

「ええ。そうね。可愛いブーケにしてセドリック様の所に行きましょう」

 暗くなる気持ちを振り払うように、明るく返事をしました。





















「まだローナは見つからんのか?」

 カリノ侯爵は、屋敷の書斎でじりじりとした気持ちで唸った。昨夜の夜から朝の間にローナが姿を消してしまった。もう昼近くになると言うのに、一向に行方が分からなかった。

「どこに行ったというのだ。馬車も使わず、馬にも乗っていない。歩いて行ける所など、たかが知れているはずだ」

 屋敷にいる者は、心当たりのある場所に探しに行かせた。屋敷の中も庭も、学院に友人知人の家にまでも。

「父上、只今戻りました」

 学院に探しに出掛けていたロイが、息を切らせて報告に来た。

「どうだった? ローナはおったのか?」

 食い気味にカリノ侯爵が問うたが、ロイは大きく頭を振った。

「学院を探したのですが、教室にも音楽室にも、図書館にもいませんでした。庭も探しましたが……残念ながら見つけられませんでした」

 朝からずっと探しているロイにも疲労の色が見える。

「ローナが行きそうな場所は見当がつかぬのか? 仲の良い令嬢からの情報などは無いのか?」

 ロイが思い当たる場所はすでに捜索済であり、それ以上の情報を持っている人間などいるのだろうか? 親しい令嬢の友人など思い当たらない。残念ながら。

「ローナが行きそうな場所……会いたそうな人……」

 独り言のように呟いてロイは、はたと気付いた。
 ローナが一番会いたいのは、フェリックス殿下。彼から、自宅謹慎を言い渡された。そして、唯一の心の拠り所であった、婚約者候補という立場も無くなってしまった。



 フェリックス殿下にも会えず、婚約者候補でも無くなった。







「空っぽになってしまったの?」

 ロイは小さく呟くと、意を決したように口を開いた。

「父上、私はフェリックス殿下の元に行って参ります。もしも、万が一ローナを見つけたら、必ず連れ戻します」

 ローナの行方不明は、王宮にも伝えられている。
 当然、フェリックス殿下も知っているはずだ。万が一、万が一にも起きてはいけない事が起きぬように願う。









 眠っているセドリック様のサイドテーブルに、先程摘んできた花々を花瓶に入れて置きます。可愛らしいガラスの花瓶に、ふんわりと活けられた花。まるで砂糖菓子かマカロンの様で、いい香りと共に目にも楽しく見えます。
 セドリック様は、すうすうと穏やかな寝息を立てて眠っています。昨日より今日と、一日ごとに回復されているのが判ります。顔にあった痣も、幾分薄くなった様に見えますもの。

 私は、セドリック様の寝台の傍に椅子を持ってくると、マリに持って来て貰った裁縫箱を開きました。
 そこには、数枚の白い布が入っています。

(お嬢様、ご注文されていた糸ですわ)

 マリが内緒話の様に囁くと、小さな紙袋からアイスブルーの刺繍糸を出してくれました。

(ありがとう)

 私もつられて小さな声でお礼を言います。そうですわ。セドリック様のシンの刺繍を完成させる為に頼んでいたのです。
 セドリック様も、楽しみにしていると言ってくれましたもの。素敵なハンカチーフに仕上げてプレゼントしたいですわね。

 私は、刺繍枠に布を張ると刺繍の続きを始めました。絹地よりも白い厚手の木綿は、実用性に富んでいて使い勝手が良いのです。それも、光沢を感じる凝った織り方なので、セドリック様が持っても遜色ないでしょう。デザインは、セドリック様の瞳の色の月と、マラカイト公爵家の家紋にある孔雀の羽をモチーフにしました。バランスの難しい図柄ですけど、なかなかいい感じだと思います。

(結構、良いかもですわ)

 あと少しで出来上がりそうです。刺繍枠を手元から少し離して見ながら自画自賛です。









「良い柄だな」









 いきなりの声。
 セドリック様がうっすらと目を開けてこちらを見ていました。いつから見ていましたの?

「セドリック様、目が覚めました? 煩かったですか?」

 セドリック様は瞳を伏せてそんなこと無い。と答えると、私の手の先をじっと見詰められています。

「それ、私の?」

 ハンカチーフの事を言っているのですね。

「ええ。作っていると申し上げてたでしょう? セドリック様のですわ。もう少しで出来上がりますから。でも、余り期待しないでくださいね?」

 じっと見られると何だか恥ずかしくなって、ハンカチーフを隠すように手元に戻しました。

「そんなこと、ない。シュゼットが作ってくれるなら、それだけで嬉しい」

 柔らかく微笑むアイスブルーの瞳に、ほっとします。今日は言葉もスムーズに聞こえますもの。




「失礼するよ」

 エーリック殿下とシルヴァ様がお見舞いにいらっしゃいました。

「ああ、シュゼット、セドリックのお見舞いありがとう。感謝するよ」

 エーリック殿下は今日もキラキラ笑顔ですわ。でも、気のせいか少しお疲れモードの気配が感じられますけど。

「それ、ナニ?」

 私の膝の上に在ったハンカチーフを刺繍枠ごと取り上げ、目の高さ待ちあげるとじっと見詰めました。

「えっと。ハンカチーフです。刺繍をしていましたの」

 何となく小声で答えます。



「ふーん。月と孔雀の羽。ふーん?」

 何か言いたそうなエーリック殿下ですけど。

「シュゼットが私に作ってくれているのです。月模様の私のハンカ―チーフ。殿下よりも先に」

 セドリック様が、エーリック殿下にしれっと答えましたけど、答えましたけど? それって、誤解を招きませんか? 

「セドリック。お前、怪我していなかったら思いっきり、デコピンしてやるところだ。まあ、仕方が無い。今回は譲ってやる」

 お二人はそう言い合って笑顔ですけど……作っているのは私ですよね? 私の都合は聞きませんのね?















 その頃、王宮のフェリックスの元に行ったロイは、そこにもローナの気配が無いことに落胆した。確かに、少女が一人で王宮に忍び込むなんて不可能だ。幾らカリノ家の者とはいえ、馬車にも乗っていないし、ここまで歩いて来るのはいささか無理がある。



 それでも、ここに来ているかと思ったのに。

「ロイ、ローナはまだ見つからないのか。ここには流石に来ていない。来れば結界に引っ掛かるはずだ。不審者であれば、必ず気配で察知が出来るだろう」

 フェリックスが口元に指を当てて思案する。ここでもないとしたら、後何処に行くと言うのか?

「まさか」

 思い当たるのは、もう一か所ある。

「ロイ。お前も一緒に来い。心当たりがある。まさかとは思うが」

 ロイが顔を上げてフェリックスを見た。

「魔法科学省の医術院へ」

 フェリックスは上着を取り上げると、ロイの肩をポンと叩いた。その表情は、カリノ家の双子を心配する幼馴染の顔だった。







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