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番外編 3. 私と彼女 -シルヴァー
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久し振りの観劇の為、歌劇場への道を馬車で急ぐ。
何でも古典要素の高い歌劇を、現代風に解釈したという変わり種で、尚且つ登場人物達の年齢を少し引き下げた事から、若者からの関心が高く大層人気が出ているという。
まあ、これはカテリーナの受け売りだが……
あの娘は、意外な感じがするが結構芸術面、特に音楽や歌唱等が絡んだ類に詳しい。音楽や芸術に対して造詣が深いというのは良い事だ。特に、これから生涯を過ごすであろうこの国の物なら尚良いと思う。
「さすがに混んでいるな」
馬車の歩みがゆっくりとなり、馬車の外から人の声や車輪の軋む音が賑やかに聞こえ始めた。
「そうでございますね。本日は人気の演目でございますから」
向かいのドア付近に座るのは、ダリナスから自分に付いて来た侍従のハルベルトだ。
ハルベルトは小窓を小さく開けて外を伺って答えた。
「……」
「……」
それっきり馬車の中は静かになった。
馬車の中の空気が微妙に気鬱になった。理由は簡単だ。馬車に乗り込む前の屋敷での出来事だ。
「……何だ、これは?」
学院から屋敷に戻って来ると、いつも通りにハルベルトに迎えられて自室に入る。
テーブルの上には、銀台に乗った白い革張りの箱が置かれていた。箱の上には見覚えのある金色の刻印。ダリナス王家の紋章である大鷲がくっきりと刻まれている。ご丁寧に白絹の白布で包まれていた。
不吉な気配しかしない。
「本国からの定期便にて兄王様、国王陛下からシルヴァ様へのお届け物でございます」
上着を手渡したハルベルトが、淡々と答える。それは判っている。中身の事を聞いているのだが?
判っているが、念のため聞いてみる。多分、見合いの為の『釣り書き』や『肖像画』だろう。
「ご自分でご確認くださいませ。シルヴァ様」
この侍従とは既に、15年近く一緒に過ごしている。フラフラしている王弟には、しっかりした従者が必要と思われたのか、2年前コレールに来るときも自ら志願して一緒に来てくれた。
「判っているが……コレは多くないか?」
「何をおっしゃいますか。陛下が苦心して振り分けて下さるから、この程度の件数で済んでいるのですよ?」
「判っているよ」
「いいえ、シルヴァ様は判っていません。貴方の手元まで届いたこの『釣り書き』の主は、背中に重く大きな物を背負ったご令嬢ばかりです。何も見ずにお返しするなど以ての外です。お断りするなば、きちんとお返事を書いて陛下にお返ししなければなりません。宜しいですね?」
余りの正論に返事が出来ない。15歳も年上の、酷く真面目で職務に忠実な侍従に、返す言葉が思いつか無い。
「……判った。いつ迄だ?」
溜息と共にそう言って振り返る。
「1週間後でございます。判って頂けて安心しました。シルヴァ坊ちゃま」
ニッコリと微笑むハルベルト。久し振りの坊ちゃま呼びに背中が痒くなった。
親兄弟より私を想い、私の事を知っているこの侍従は、いつも私を第一に考えてくれる。だから、彼が困る事はしたくない。
したく無いが、ことこの件についてはそうも言っていられない。
「ハルベルト、お前の方から兄上にそれとなく言えないか? シルヴァは結婚するつもりなど無いという事を」
「何をおっしゃいます。今はそのようにおっしゃっていても、いつご伴侶が現れるか判りません。
魔法術の研究も大事ですが、生涯を共に暮らせる伴侶を得る事も大事なことです。他からのご推薦に気が進まないのなら、ご自分で見つけるのが一番です。1年後か、2年後か、3ヵ月後か。もしかしたら、今夜運命のお相手と巡り合えるかもしれません」
そうだった。この侍従は見た目と違ってロマンチストで、占いや気脈読みにも造詣が深かった。
「……」
「さあ、今日は『何事も早めに行動するが吉』ですから、お仕度が済みましたら歌劇場に向かいましょう」
もう何も言うまい。『何事も早めに行動するが吉』って、どこの占いだ。自分の顔の表情がみるみる無くなっていくのが判った。
とにかく、歌劇場に『早め』に着くようにした方が無難だ。この手の話は長くなれば長くなる程、いらん方向に向かうから。
「本当に混んでいるな。ハルベルト、馬車を停めてくれ。ここから歩いて行く」
ピタリと馬車が停まって暫く経った。まだ少し開演までに時間があるとはいえ、余りぎりぎりで席に着くのも落ち着かない。
「そうでございますね。ここからでしたら、お歩きになってもそんなに掛かりませんね」
ハルベルトはそう答えると、馬車を停めて扉を開けた。ここから歩く者はそう多くは無いが、それでも込み合った馬車から、ちらほらと出てくる客達が見受けられた。
「ホールの玄関までご一緒させて頂きます」
馬車から降りると、ハルベルトは御者に合図をして陰の様に後ろに付いた。私達は、街灯が美しい光を放つ通路を正面玄関に向かって歩く。右側の道には馬車寄せから溢れた馬車が多く停まっていた。
ふと見ると、見覚えのある横顔と金髪が目に留まった。
流れる眩い金髪。緩やかに背に流された髪には、淡い水色の小花が散っていて、小花と同じ淡い水色の、パステルブルーのドレスがフワリと揺れていた。
シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?
先日、学院の編入試験を受けに来た、コレール王国外務大臣の令嬢だ。
しばらく様子を伺った。彼女は一人で馬車から出ると、お付きの従者と思われる初老の男性と、何やら話をしていた。
その表情は、凄く悲しんでいる様にも見え、また必死に何か訴えている様にも見えた。困り顔の従者の様子から、何か起きたのかもしれないと思った。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?」
つい、彼女に声を掛けてしまった。
「歌劇場に来たのか?」
歌劇場の前で会ったシュゼットに、来れなくなった父親の代わりにエスコトートすると、進んで申し出てた。自分でも珍しい感覚に少し驚いたが、他意は無い。
人気の演目が見られる事は良い事だし、折角観劇用に着飾って来たのにこのまま帰るのは可哀そうだ。そうだ、可哀そうだった。
しかし、観劇は結局1幕しか観る事しか出来なかった。なぜなら、幕間の休憩時間に行ったラウンジで彼女が酔っ払ってしまったからだ。
間違えて酒を飲ませてしまったからだ。林檎酒と林檎果汁を間違えてしまったのが原因だ。
たった一口、二口だったと思うが、明らかに様子が変わった。ふわふわと甘々しい微笑みを浮かべ、潤んだ瞳に潤んだ唇。匂やかにうっすらとピンクに染まった頬。そして、何より普段ならばしないであろう行動に、皆の目が釘付けになった。
まさか、酔っているのか? 酔っ払っているのか?
私は彼女を促して退席すると、ふわふわと足元のおぼつかない彼女を抱き上げ、自分の馬車に彼女を押し込んだ。
「急いでグリーンフィールド公爵家に向かってくれ」
そう言って馬車を急がせた。
「大丈夫か?」
くってりと凭れ掛かり、目を閉じて眠りかけている彼女を支える。あんな少量の酒で酔ってしまうなど考えられないが、まれに体質的に酒を受け入れない者がいるらしいが、まさか彼女がそうであったら大変な事だ。命に関わってしまう。
「シュゼット? コレを飲みなさい。冷たい水だ」
水魔法でガラス瓶に冷えた水を満たして渡すが、手元の覚束ない彼女は旨く水を飲むことが出来ない。酔い冷ましに冷たい水を飲むのが良いのだが……
「……貸しなさい」
コレは、必要に迫られて行う事だ。そう自分に言い聞かせて、瓶に口を付けた。
姿勢の定まらない彼女の身体を支えて、顎を片手で押えた。
「……」
「……ゴック」
口移しに水を飲ませる。一瞬、彼女の身体がびくりと震えた様に感じた。
もう一口、飲ませる。今度はすんなり飲めた。
水を飲ませた後、彼女はそのまま私に凭れ掛かるように目を閉じていたが、苦しそうだったり気分の悪そうな様子は見えなかった。良かった。彼女が無事なら良かったが……
「意識のはっきりしない少女に……」
屋敷に帰ってから思いっきり落ち込んだ。彼女付の侍女から、ハンカチを差し出された意味が判った。主の寝込みを襲ったと思われた様だ。心外だが、侍女から見ればそうなのだろう。水を飲ませたことなど知らないだろうから。
以来、ことある毎にあの侍女、マリと言ったか? 彼女から険しい目で見られる。まるで主人に近寄る不埒者を見るような。仮にも王族である私に、幾ら何でも酷いのではないか? と思わないでも無いが……
◇◇◇◇◇◇
シュゼットの事が特別になってから、私は兄である国王宛てに、兼ねてより願い出ていた件について再度頼み込んだ。
願いとは、ダリナスの王位継承権の辞退と、ダリナスから他国への永住許可。以前からコレールの魔法科学省に入省したいとは考えていたが、他国の王族が国政の中枢である魔法科学省に入る事は出来なかった。魔法術の研究には、コレールの魔法科学省に入省するのが一番いいのだが。
シュゼットが、フェリックス殿の婚約者候補でなくなり、コレールに留まる限りは自由に伴侶を選べるとなった。彼女を想う者は何人もいた。甥であるエーリックも、セドリックも、レイシルもそうだろう。これからもっと出てくるかもしれない。
こんなに心惹かれる人間に会ったことは無かった。
こんなに想い巡らす人間に会ったことは無かった。
彼女が可愛らしい見た目に似合わず、自分の意見や気持ちをはっきり言う所も、
彼女が他人の為に、泣くことも助け出すために手を差し伸べる所も、
全部が全部、好ましい。愛おしい。
「君の伴侶に立候補する」
そう告げたのは、学院バザーの少し前だった。
魔法術の講義を行って、終わり間際にそう告げた。
これではっきり言えた。自分の意志で、君が欲しいと伝えられた。
昨日、ダリナスから正式な文書が届いた。王位継承権の辞退と他国への移住の承認についてだ。
受け取って、涙が零れた。兄王の、陛下のお心遣いと家族の気遣いに感謝した。文には他国に移り住んでもダリナスの王族としての血は薄まらない。身体は離れた所にいても、その気持ち、心は共にあるという温かい内容だった。王位継承権を自分の身勝手で辞退するにも関わらず、陛下は長らく空席だったスターディアム卿の称号を下さった。これで私は、シルヴァ・ハートラッド・スターディアムとなる。
コレールの魔法科学省の入省許可も時を待たずに出た。その為、王立学院の教師は退職しこれからは魔法科学省の議員として、コレールを支えることになる。
そして、ようやく彼女に自分の気持ちを伝える事が出来たのだった。
◇◇◇◇◇◇
「シルヴァ様」
ハルベルトがにこやかな顔で声を掛けて来た。
「お嬢様がいらっしゃいました」
ドアの横にスッとズレると、大きく開け開いた入口から華やかな気配がした。
「こんにちわ、シルヴァ様」
まるで太陽のような明るさで、爽やかな風と共に近づいてくる。
「どうかされまして?」
「いや、あまりにも眩しくて。目が眩んでしまったよ」
「……何ですか? ソレは」
少し照れたような、怒ったような、呆れたような声だ。
「本当にそう思っただけだ。今日は何だ? 行きたい所があると言っていたな? 迎えに行くと言ったのに、どうしたんだ?」
彼女はニコニコと微笑みながら、私の座る椅子の前まで来ると、いきなりストンとしゃがんで私の膝に手を置いた。そして、
「今日はお誘いに来ましたの。お出かけのお誘いですわ。ああ、でも正式なお誘いのポーズは、こうでしたかしら?」
しゃがんだまま、片膝をついて右手を私の方に伸ばした。
「シルヴァ様? どうか私と一緒に来て下さい?」
白いドレスは、よく見れば馬の遠乗り用のドレスに見える。襟や袖口から見える繊細なレースが仕立ての良さを物語り、彼女に良く似合っている。
私は彼女の両手を取ると、彼女をそっとその場に立たせた。目の前に立つ彼女は、キラキラした金髪を緩やかにリボンで纏め、胸元には銀とブラックアメジストのブローチが飾られていた。つるりと水滴の様に磨かれたブラックアメジストと透かし模様に加工された薔薇の花のデザインが白い胸元に良く映えた。
私の視線が胸元のブローチにあるのを、恥じらうように少し身を捩ってコホンと小さく咳をした。
ああ、確かに不躾だった。
「その、ブローチをしてくれたのか?」
「……はい。だって、シルヴァ様からのプレゼントですもの」
「そうか。良く似合っている」
「うふふ。ありがとうございます。これを着けて、行きたい所があるのですけど?」
「行きたい所?」
「はい。セレニア様へご報告に。セレニアの丘に行きたいのです。シルヴァ様と」
「セレニアの丘? 私と?」
「はい。シルヴァ様、貴方と」
私は座ったまま両手で目の前に立つシュゼットの手を握っている。滅多に無い、彼女が私を見降ろす視線に新鮮さを覚えた。
はっきりと、はっきりと彼女は言った。
私とセレニアの丘に行きたいと。
それは、
それは、
私は立ち上がるとシュゼットを見降ろして視線を合わせた。
「それは、私と結婚してくれるという事か?」
「はい! 私をシルヴァ様の奥様にして下さい」
うっすらと赤く染まる頬に、手を当ててもう一度聞く。
「私の妻になってくれるのか?」
「はい!」
薄桃色の薔薇の花が咲く様な微笑み。薄っすらと涙ぐんだ海色の瞳がゆっくりと細められた。
「幸せになろう」
私は彼女を抱き締めると、豊かなその髪に顔を埋めた。柔らかな髪は、花のような香りがして目も眩むようだ。
「さあ、セレニアの丘にご報告に行きましょう!」
照れ隠しか、明るい声音でシュゼットが顔を上げた。少し目元が赤くなっているのが可愛らしい。
「ああ、でもその前にですね」
彼女は手に持っていた小さなポーチから同じく小さな箱を一つだした。
「これを、シルヴァ様から嵌めて頂きたいのです」
小さな箱を開けると、そこにはブラックアメジストを小さな鑑定石が取り囲んだ指輪があった。
「これは、魔法術の識別章の指輪か?」
「はい。ようやく出来ました。シルヴァ様から頂いたブラックアメジストと同じ色を探すのに時間が掛かってしまって……やっと出来上がったのです!」
本来なら自分の色を中心の石に使うが、彼女は私の色を選んでくれたのか。ブラックアメジストの周りには彼女の鑑定石がキラキラと虹色に光っている。
「お願いしても良いですか?」
断るはずが無い。私は大きく頷くと、彼女から指輪を受け取り右手を持ち上げる。
「結婚指輪の為に、左手の薬指は取っておこう」
嬉しそうに微笑むシュゼットが小さく頷いて、はいと答えた。
右手の中指に収まった識別章の指輪は、彼女の細い指には少しだけ厳つい感じがしないでもない。しかし、目の前の彼女は嬉しそうに眺めている。
いつまでもこの様子を眺めていたい気もするが、折角彼女からのお誘いだ。
「さあ、セレニアの丘に行くのだろう? 君は私の馬は初めてだろう? 大丈夫か?」
ハタと気付いたシュゼットの顔が、ぱあぁっと明るくなった。
「大丈夫です! 私、乗馬も得意なんですよ? シルヴァ様こそ大丈夫ですか?」
にこにこと微笑みながら、私の周りを廻りながら聞いてくる。
おいおい、私だって馬にも乗れば剣術だって出来るんだ。シュゼットは私の事を何だと思っているのだ?
でも、まあいい。これからずっと一緒にいられる。
ゆっくりお互いを判り合えれば良い。
「シルヴァ様! 早く参りましょう!?」
私の手を取って、ぐいぐいと引っ張りながら急かす。
きっと、これからの人生もこんな感じなのかもしれない……
何となく、そう思った。
私は天使と共に、これからを生きる。
何でも古典要素の高い歌劇を、現代風に解釈したという変わり種で、尚且つ登場人物達の年齢を少し引き下げた事から、若者からの関心が高く大層人気が出ているという。
まあ、これはカテリーナの受け売りだが……
あの娘は、意外な感じがするが結構芸術面、特に音楽や歌唱等が絡んだ類に詳しい。音楽や芸術に対して造詣が深いというのは良い事だ。特に、これから生涯を過ごすであろうこの国の物なら尚良いと思う。
「さすがに混んでいるな」
馬車の歩みがゆっくりとなり、馬車の外から人の声や車輪の軋む音が賑やかに聞こえ始めた。
「そうでございますね。本日は人気の演目でございますから」
向かいのドア付近に座るのは、ダリナスから自分に付いて来た侍従のハルベルトだ。
ハルベルトは小窓を小さく開けて外を伺って答えた。
「……」
「……」
それっきり馬車の中は静かになった。
馬車の中の空気が微妙に気鬱になった。理由は簡単だ。馬車に乗り込む前の屋敷での出来事だ。
「……何だ、これは?」
学院から屋敷に戻って来ると、いつも通りにハルベルトに迎えられて自室に入る。
テーブルの上には、銀台に乗った白い革張りの箱が置かれていた。箱の上には見覚えのある金色の刻印。ダリナス王家の紋章である大鷲がくっきりと刻まれている。ご丁寧に白絹の白布で包まれていた。
不吉な気配しかしない。
「本国からの定期便にて兄王様、国王陛下からシルヴァ様へのお届け物でございます」
上着を手渡したハルベルトが、淡々と答える。それは判っている。中身の事を聞いているのだが?
判っているが、念のため聞いてみる。多分、見合いの為の『釣り書き』や『肖像画』だろう。
「ご自分でご確認くださいませ。シルヴァ様」
この侍従とは既に、15年近く一緒に過ごしている。フラフラしている王弟には、しっかりした従者が必要と思われたのか、2年前コレールに来るときも自ら志願して一緒に来てくれた。
「判っているが……コレは多くないか?」
「何をおっしゃいますか。陛下が苦心して振り分けて下さるから、この程度の件数で済んでいるのですよ?」
「判っているよ」
「いいえ、シルヴァ様は判っていません。貴方の手元まで届いたこの『釣り書き』の主は、背中に重く大きな物を背負ったご令嬢ばかりです。何も見ずにお返しするなど以ての外です。お断りするなば、きちんとお返事を書いて陛下にお返ししなければなりません。宜しいですね?」
余りの正論に返事が出来ない。15歳も年上の、酷く真面目で職務に忠実な侍従に、返す言葉が思いつか無い。
「……判った。いつ迄だ?」
溜息と共にそう言って振り返る。
「1週間後でございます。判って頂けて安心しました。シルヴァ坊ちゃま」
ニッコリと微笑むハルベルト。久し振りの坊ちゃま呼びに背中が痒くなった。
親兄弟より私を想い、私の事を知っているこの侍従は、いつも私を第一に考えてくれる。だから、彼が困る事はしたくない。
したく無いが、ことこの件についてはそうも言っていられない。
「ハルベルト、お前の方から兄上にそれとなく言えないか? シルヴァは結婚するつもりなど無いという事を」
「何をおっしゃいます。今はそのようにおっしゃっていても、いつご伴侶が現れるか判りません。
魔法術の研究も大事ですが、生涯を共に暮らせる伴侶を得る事も大事なことです。他からのご推薦に気が進まないのなら、ご自分で見つけるのが一番です。1年後か、2年後か、3ヵ月後か。もしかしたら、今夜運命のお相手と巡り合えるかもしれません」
そうだった。この侍従は見た目と違ってロマンチストで、占いや気脈読みにも造詣が深かった。
「……」
「さあ、今日は『何事も早めに行動するが吉』ですから、お仕度が済みましたら歌劇場に向かいましょう」
もう何も言うまい。『何事も早めに行動するが吉』って、どこの占いだ。自分の顔の表情がみるみる無くなっていくのが判った。
とにかく、歌劇場に『早め』に着くようにした方が無難だ。この手の話は長くなれば長くなる程、いらん方向に向かうから。
「本当に混んでいるな。ハルベルト、馬車を停めてくれ。ここから歩いて行く」
ピタリと馬車が停まって暫く経った。まだ少し開演までに時間があるとはいえ、余りぎりぎりで席に着くのも落ち着かない。
「そうでございますね。ここからでしたら、お歩きになってもそんなに掛かりませんね」
ハルベルトはそう答えると、馬車を停めて扉を開けた。ここから歩く者はそう多くは無いが、それでも込み合った馬車から、ちらほらと出てくる客達が見受けられた。
「ホールの玄関までご一緒させて頂きます」
馬車から降りると、ハルベルトは御者に合図をして陰の様に後ろに付いた。私達は、街灯が美しい光を放つ通路を正面玄関に向かって歩く。右側の道には馬車寄せから溢れた馬車が多く停まっていた。
ふと見ると、見覚えのある横顔と金髪が目に留まった。
流れる眩い金髪。緩やかに背に流された髪には、淡い水色の小花が散っていて、小花と同じ淡い水色の、パステルブルーのドレスがフワリと揺れていた。
シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?
先日、学院の編入試験を受けに来た、コレール王国外務大臣の令嬢だ。
しばらく様子を伺った。彼女は一人で馬車から出ると、お付きの従者と思われる初老の男性と、何やら話をしていた。
その表情は、凄く悲しんでいる様にも見え、また必死に何か訴えている様にも見えた。困り顔の従者の様子から、何か起きたのかもしれないと思った。
「シュゼット・メレリア・グリーンフィールド?」
つい、彼女に声を掛けてしまった。
「歌劇場に来たのか?」
歌劇場の前で会ったシュゼットに、来れなくなった父親の代わりにエスコトートすると、進んで申し出てた。自分でも珍しい感覚に少し驚いたが、他意は無い。
人気の演目が見られる事は良い事だし、折角観劇用に着飾って来たのにこのまま帰るのは可哀そうだ。そうだ、可哀そうだった。
しかし、観劇は結局1幕しか観る事しか出来なかった。なぜなら、幕間の休憩時間に行ったラウンジで彼女が酔っ払ってしまったからだ。
間違えて酒を飲ませてしまったからだ。林檎酒と林檎果汁を間違えてしまったのが原因だ。
たった一口、二口だったと思うが、明らかに様子が変わった。ふわふわと甘々しい微笑みを浮かべ、潤んだ瞳に潤んだ唇。匂やかにうっすらとピンクに染まった頬。そして、何より普段ならばしないであろう行動に、皆の目が釘付けになった。
まさか、酔っているのか? 酔っ払っているのか?
私は彼女を促して退席すると、ふわふわと足元のおぼつかない彼女を抱き上げ、自分の馬車に彼女を押し込んだ。
「急いでグリーンフィールド公爵家に向かってくれ」
そう言って馬車を急がせた。
「大丈夫か?」
くってりと凭れ掛かり、目を閉じて眠りかけている彼女を支える。あんな少量の酒で酔ってしまうなど考えられないが、まれに体質的に酒を受け入れない者がいるらしいが、まさか彼女がそうであったら大変な事だ。命に関わってしまう。
「シュゼット? コレを飲みなさい。冷たい水だ」
水魔法でガラス瓶に冷えた水を満たして渡すが、手元の覚束ない彼女は旨く水を飲むことが出来ない。酔い冷ましに冷たい水を飲むのが良いのだが……
「……貸しなさい」
コレは、必要に迫られて行う事だ。そう自分に言い聞かせて、瓶に口を付けた。
姿勢の定まらない彼女の身体を支えて、顎を片手で押えた。
「……」
「……ゴック」
口移しに水を飲ませる。一瞬、彼女の身体がびくりと震えた様に感じた。
もう一口、飲ませる。今度はすんなり飲めた。
水を飲ませた後、彼女はそのまま私に凭れ掛かるように目を閉じていたが、苦しそうだったり気分の悪そうな様子は見えなかった。良かった。彼女が無事なら良かったが……
「意識のはっきりしない少女に……」
屋敷に帰ってから思いっきり落ち込んだ。彼女付の侍女から、ハンカチを差し出された意味が判った。主の寝込みを襲ったと思われた様だ。心外だが、侍女から見ればそうなのだろう。水を飲ませたことなど知らないだろうから。
以来、ことある毎にあの侍女、マリと言ったか? 彼女から険しい目で見られる。まるで主人に近寄る不埒者を見るような。仮にも王族である私に、幾ら何でも酷いのではないか? と思わないでも無いが……
◇◇◇◇◇◇
シュゼットの事が特別になってから、私は兄である国王宛てに、兼ねてより願い出ていた件について再度頼み込んだ。
願いとは、ダリナスの王位継承権の辞退と、ダリナスから他国への永住許可。以前からコレールの魔法科学省に入省したいとは考えていたが、他国の王族が国政の中枢である魔法科学省に入る事は出来なかった。魔法術の研究には、コレールの魔法科学省に入省するのが一番いいのだが。
シュゼットが、フェリックス殿の婚約者候補でなくなり、コレールに留まる限りは自由に伴侶を選べるとなった。彼女を想う者は何人もいた。甥であるエーリックも、セドリックも、レイシルもそうだろう。これからもっと出てくるかもしれない。
こんなに心惹かれる人間に会ったことは無かった。
こんなに想い巡らす人間に会ったことは無かった。
彼女が可愛らしい見た目に似合わず、自分の意見や気持ちをはっきり言う所も、
彼女が他人の為に、泣くことも助け出すために手を差し伸べる所も、
全部が全部、好ましい。愛おしい。
「君の伴侶に立候補する」
そう告げたのは、学院バザーの少し前だった。
魔法術の講義を行って、終わり間際にそう告げた。
これではっきり言えた。自分の意志で、君が欲しいと伝えられた。
昨日、ダリナスから正式な文書が届いた。王位継承権の辞退と他国への移住の承認についてだ。
受け取って、涙が零れた。兄王の、陛下のお心遣いと家族の気遣いに感謝した。文には他国に移り住んでもダリナスの王族としての血は薄まらない。身体は離れた所にいても、その気持ち、心は共にあるという温かい内容だった。王位継承権を自分の身勝手で辞退するにも関わらず、陛下は長らく空席だったスターディアム卿の称号を下さった。これで私は、シルヴァ・ハートラッド・スターディアムとなる。
コレールの魔法科学省の入省許可も時を待たずに出た。その為、王立学院の教師は退職しこれからは魔法科学省の議員として、コレールを支えることになる。
そして、ようやく彼女に自分の気持ちを伝える事が出来たのだった。
◇◇◇◇◇◇
「シルヴァ様」
ハルベルトがにこやかな顔で声を掛けて来た。
「お嬢様がいらっしゃいました」
ドアの横にスッとズレると、大きく開け開いた入口から華やかな気配がした。
「こんにちわ、シルヴァ様」
まるで太陽のような明るさで、爽やかな風と共に近づいてくる。
「どうかされまして?」
「いや、あまりにも眩しくて。目が眩んでしまったよ」
「……何ですか? ソレは」
少し照れたような、怒ったような、呆れたような声だ。
「本当にそう思っただけだ。今日は何だ? 行きたい所があると言っていたな? 迎えに行くと言ったのに、どうしたんだ?」
彼女はニコニコと微笑みながら、私の座る椅子の前まで来ると、いきなりストンとしゃがんで私の膝に手を置いた。そして、
「今日はお誘いに来ましたの。お出かけのお誘いですわ。ああ、でも正式なお誘いのポーズは、こうでしたかしら?」
しゃがんだまま、片膝をついて右手を私の方に伸ばした。
「シルヴァ様? どうか私と一緒に来て下さい?」
白いドレスは、よく見れば馬の遠乗り用のドレスに見える。襟や袖口から見える繊細なレースが仕立ての良さを物語り、彼女に良く似合っている。
私は彼女の両手を取ると、彼女をそっとその場に立たせた。目の前に立つ彼女は、キラキラした金髪を緩やかにリボンで纏め、胸元には銀とブラックアメジストのブローチが飾られていた。つるりと水滴の様に磨かれたブラックアメジストと透かし模様に加工された薔薇の花のデザインが白い胸元に良く映えた。
私の視線が胸元のブローチにあるのを、恥じらうように少し身を捩ってコホンと小さく咳をした。
ああ、確かに不躾だった。
「その、ブローチをしてくれたのか?」
「……はい。だって、シルヴァ様からのプレゼントですもの」
「そうか。良く似合っている」
「うふふ。ありがとうございます。これを着けて、行きたい所があるのですけど?」
「行きたい所?」
「はい。セレニア様へご報告に。セレニアの丘に行きたいのです。シルヴァ様と」
「セレニアの丘? 私と?」
「はい。シルヴァ様、貴方と」
私は座ったまま両手で目の前に立つシュゼットの手を握っている。滅多に無い、彼女が私を見降ろす視線に新鮮さを覚えた。
はっきりと、はっきりと彼女は言った。
私とセレニアの丘に行きたいと。
それは、
それは、
私は立ち上がるとシュゼットを見降ろして視線を合わせた。
「それは、私と結婚してくれるという事か?」
「はい! 私をシルヴァ様の奥様にして下さい」
うっすらと赤く染まる頬に、手を当ててもう一度聞く。
「私の妻になってくれるのか?」
「はい!」
薄桃色の薔薇の花が咲く様な微笑み。薄っすらと涙ぐんだ海色の瞳がゆっくりと細められた。
「幸せになろう」
私は彼女を抱き締めると、豊かなその髪に顔を埋めた。柔らかな髪は、花のような香りがして目も眩むようだ。
「さあ、セレニアの丘にご報告に行きましょう!」
照れ隠しか、明るい声音でシュゼットが顔を上げた。少し目元が赤くなっているのが可愛らしい。
「ああ、でもその前にですね」
彼女は手に持っていた小さなポーチから同じく小さな箱を一つだした。
「これを、シルヴァ様から嵌めて頂きたいのです」
小さな箱を開けると、そこにはブラックアメジストを小さな鑑定石が取り囲んだ指輪があった。
「これは、魔法術の識別章の指輪か?」
「はい。ようやく出来ました。シルヴァ様から頂いたブラックアメジストと同じ色を探すのに時間が掛かってしまって……やっと出来上がったのです!」
本来なら自分の色を中心の石に使うが、彼女は私の色を選んでくれたのか。ブラックアメジストの周りには彼女の鑑定石がキラキラと虹色に光っている。
「お願いしても良いですか?」
断るはずが無い。私は大きく頷くと、彼女から指輪を受け取り右手を持ち上げる。
「結婚指輪の為に、左手の薬指は取っておこう」
嬉しそうに微笑むシュゼットが小さく頷いて、はいと答えた。
右手の中指に収まった識別章の指輪は、彼女の細い指には少しだけ厳つい感じがしないでもない。しかし、目の前の彼女は嬉しそうに眺めている。
いつまでもこの様子を眺めていたい気もするが、折角彼女からのお誘いだ。
「さあ、セレニアの丘に行くのだろう? 君は私の馬は初めてだろう? 大丈夫か?」
ハタと気付いたシュゼットの顔が、ぱあぁっと明るくなった。
「大丈夫です! 私、乗馬も得意なんですよ? シルヴァ様こそ大丈夫ですか?」
にこにこと微笑みながら、私の周りを廻りながら聞いてくる。
おいおい、私だって馬にも乗れば剣術だって出来るんだ。シュゼットは私の事を何だと思っているのだ?
でも、まあいい。これからずっと一緒にいられる。
ゆっくりお互いを判り合えれば良い。
「シルヴァ様! 早く参りましょう!?」
私の手を取って、ぐいぐいと引っ張りながら急かす。
きっと、これからの人生もこんな感じなのかもしれない……
何となく、そう思った。
私は天使と共に、これからを生きる。
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