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絶望
「いやだぁああああっっ!! 父さん、母さん……! やめて、お願い、姉さん、助けて姉さん! ああぁあああっっ!!」
「ギル!!」
本部建物のすぐ近くに、雷が落ちた。
ほんの数秒だけ落ちた照明が、すぐに復旧する。
その直後、蒼白になって座りこんだギルが、震えながら頭を抱えて泣き叫んだ。レオナルドは、咄嗟にその両肩を掴む。
(……え?)
細い。
硬く強張りきったその肩は、あまりに細く頼りなかった。
いくらギルが細身だといっても、これではまるで――。
「ギル! 落ち着け!」
ギルの傍らに膝をついたユージィンが、大声で呼びかける。
それに激しく震えて反応したかと思うと、ギルは顔の前で腕を交差させ、小さく小さく身を縮めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。もう、泣いてうるさくしたりしません。ちゃんと、言われた通りにします。だから、お願いですから、姉さんにだけはひどいことをしないでください」
幼い子どものようにしゃくり上げながら語られる言葉に、呆然とする。
(姉さん……? 姉が、いたのか……?)
ヒトガタの呪詛に食い殺された両親のほかに、ギルにはまだ生きている家族がいた。
ユージィンが、ギリ、と歯を食いしばる。
――俺なら、家族の安全を盾に脅されたなら、たとえどんな相手であろうと、黙って従うしかないと思います。
つい先日、彼が語った言葉を思い出す。
(ああ……そうか。姉が、人質だったんだな)
――キミは、知っただろう? あの美しい雷雨の夜に、両親をボクに生きたまま食い殺されて。その理不尽に、理解しただろう? 幼かったキミにとって、キミを心から愛してくれる優しい両親は、幸せそのものだったんだ、って。
ギルの両親が食い殺された夜も、こんな雷雨だったのか。
カタカタと震えながら頭を庇う仕草は、殴られ慣れている子どものそれだ。
胃の底が、焼けつくような心地がした。
雷鳴によって引き起こされた、強烈なフラッシュバック。
そのせいで、完全に意識が過去に戻っているらしいギルの体を抱き寄せれば、一層震えが酷くなる。
「落ち着け、ギル。ここに、おまえを傷つけるやつは、誰もいない」
「い、や……」
掠れた声。
震える、細い体。
「ギル。大丈夫だ。大丈夫だから」
「やめ、て」
涙に濡れた声に、胸が痛むほど締めつけられる。
柔らかな黒髪を撫でて、軽く頭を引き寄せながらそっと囁く。
「……ギル。いい子だから――」
「わたしを、そんな名前で呼ばないで……」
消え入りそうな、嗚咽交じりの声だった。
(え……?)
それまで感じていたさまざまな違和感が組み合わさり、唐突に明確な形となって完成する。
きつく強張っていてさえ、どこまでも柔らかな感触の華奢な体。
いつもの感情の透けない声とはまるで違う、硬い響きの高い声。
滑らかな肌からかすかに香る、甘いにおい。
『わたし』という一人称。そして、口調。
それらすべてから導き出される答えに、レオナルドが大きく目を見開いたとき、腕の中の体から力が抜けた。そのままずるりと床に崩れ落ちていきそうになるのを、辛うじて抱き留める。
ユージィンが、深々と息を吐いた。
「気絶したか……」
「女、だ」
勝手にこぼれ落ちた言葉に、ユージィンが目を丸くする。
「は?」
「コイツ……女だ。ユージィン」
激しく窓を叩く雨音の中、呆然と呟くレオナルドの声だけが、妙にはっきりと響いた。
誰もが呼吸すら忘れたような数瞬ののち、慌ただしく靴の踵を鳴らして近づいてきたクローディアが、血の気の失せたギルの顔を食い入るように見つめる。
そして、キッとレオナルドを睨みつけた彼女は、低く押し殺した声で言う。
「レオナルド。すぐに、この子を医療棟へ連れていってくださいな」
「わ、かった」
この状況で、すぐに最善を判断して動けるクローディアの胆力に感嘆しつつ、全員で向かった医療棟。
そのトップであるブラッドリーが、意識のないギルの姿を見て軽く眉根を寄せる。
「何があった?」
「……コイツの両親は、雷の夜に、ヒトガタの呪詛に食い殺されてる。たぶん、そのときのことがフラッシュバックしたんだろう。泣き叫んで、気絶した」
できるだけ端的に説明すると、ブラッドリーは一拍置いてそうか、と頷いた。
「じゃあ、そっちのベッドに――」
「アンタは、コイツが女だって気付いてたのか? ブラッドリー」
ブラッドリーは、優秀な医者だ。
彼が直接触れた人間の性別を、見誤るとは思えない。
案の定、彼は小さく苦笑した。
「そりゃあまあ、骨格が完全に女だからな」
「それなら……! なんで、すぐにそう言わなかった!? アンタがさっさと言ってくれてりゃあ、コイツは危険な戦場になんて行かずに済んだ!」
ブラッドリーが、ため息を吐く。
「そんなこと、簡単に言えるわけがないだろう。――おまえの体は男に見えているかもしれないが、本当は女なんだぞ、なんて。ずっと男として生きてきたのに、突然そんなことを言われて、おまえなら耐えられるか?」
「…………は?」
なんだか、話がおかしい。
同僚たちも揃って首を傾げる中、クローディアが口を開いた。
「あの……ブラッドリーさま。それは、どういうことですか? ギルさまのお体が、その……男性に見えている、というのは……?」
「半陰陽っていってな、生まれつきそういう体の人間がいるんだよ。ギルの骨格は間違いなく女だが、生まれたときの外見的特徴で男と判断されたんだろう。これから、体つきもどんどん変わっていくかもしれないが――」
淡々と説明していくブラッドリーに、レオナルドは思わず声を上げる。
「ちょっと待てよ、ブラッドリー。ギルはフラッシュバックで泣いてるとき、自分のことを『わたし』って言ってた。口調も、多少ガキっぽいが女のモンだったぞ。普通に考えて、女の子が男の格好をさせられてただけじゃねェのか?」
「………………む?」
軽く首を傾げたブラッドリーが、レオナルドの腕からひょいとギルの体を持っていく。そのまま手近な診察台に下ろした彼は、ギルの戦闘服のファスナーを下ろした。
現れたハイネックのインナーを、まったく躊躇なく処置用の大きなハサミで切り裂く。
(おいおいお……!?)
晒された、ほっそりとした白い体。
その胸部を覆っているプロテクターにブラッドリーが手を掛けた瞬間、素晴らしい瞬発力で飛び出したクローディアが、景気よく彼の後頭部をしばき倒した。
「何をなさっていますの、ブラッドリーさま!! あなたたちもです! 今すぐ、後ろを向きなさい!」
後半、キッと男たちを睨みつけながらの言葉に、即座に回れ右をする。
しかしその前に、レオナルドの目にはしっかりと、プロテクターに潰された豊かな胸の谷間と、白い肌のあちこちに残された傷跡が映っていた。
(なんっだあの体、傷だらけじゃねェか! つーか、あんなに胸潰してて苦しくねェのか!? あ、ひょっとしてそのせいで、スタミナがすぐに切れやすいとか!?)
レオナルドが青ざめながら赤面するという器用なことをしている間にも、背後でブラッドリーがクローディアに叱り飛ばされている。
「女性の肌を、殿方たちの前で晒すだなんて! いったい、何を考えていらっしゃいますの!?」
「いや……その、スマン。ちょっと、びっくりしたんだ」
珍しくしどろもどろになっているブラッドリーに、クローディアの声がますます高くなった。
「びっくり!? びっくりですって!? こちらのほうがびっくりですわよ!?」
「お、おう。……いや、まさかタイマン勝負でコイツらと普通にやり合えて、顔の傷にもまるで頓着しない女のガキがいるとは思わなくてなあ……」
その言葉を聞いた瞬間、レオナルドとユージィンは同時にざぁっと青ざめる。
顔の、傷。
ギルが呪詛対策機関にやって来て間もない頃に、レオナルドとユージィンは、彼――ではなく、彼女の顔を傷つけた。
それらの傷は、すでに綺麗に消えているものの、だからといって過去がなかったことにはならない。
――十代の女性の顔を、大の男がいきなり殴って傷つける。
どんな理由があっても、断じて許されない所業であろう。
(え……これ、どうすればいいやつ? って、今はオレの自己嫌悪とかどうでもよくてな!? ギルが女だったこととか、ギルの姉が生きてて人質になってるっぽいこととか! まずは、そっちを全力で解決して! それから全身全霊で謝罪しまくるしか……!)
レオナルドが、今までの人生で一番というほど動揺しまくっていたとき、ふとギルの呼吸の音が変わった。
反射的にそちらを見ると、なぜ今まで彼女を男だと思っていられたのかわからなくなるような、長く濃い睫毛がふるりと揺れる。
ゆっくりと瞼が持ち上がり、どんな宝玉よりも美しい青の瞳が現れた。
何度か瞬きをしたあと、ぱっと目を見開いたギルが、勢いよく体を起こす。
そして、開かれたジャケットと切り裂かれたインナー、晒されていた胸部のプロテクターに気付いたのだろう。
震える手でジャケットの前をかき合わせたギルが、硬く強張った顔で周囲を見回す。
視線が、絡んだ。
「……ぁ」
その、瞬間。
ギルの瞳から、完全に光が消えた。
――そんな哀れな生き方をしている限り、いずれ必ずキミは心の底から絶望できる。
――ちゃあんと絶望したら、ボクを呼んでね。
――そのときは、すぐに迎えにいってあげるから。
「ギル! ダメだ……っ!!」
背筋が、凍りついた。
呼吸すらままならなくなるような焦燥の中、レオナルドが叫ぶのと同時に、医療棟の丈夫な窓ガラスが砕け散る。
反射的に風の壁でガードした瞬間、暗闇の中からすさまじい勢いでなだれ込んできた水が、遮る風をものともせずにギルを目指し、殺到するのが見えた。
「ギル!!」
その細い体を捉えようとした風は、ぶ厚い水の壁に阻まれる。
屋内では、分が悪い。
天から降り注ぐ大量の水が、まるでギルを攫っていくかのようで、必死に伸ばした手は水の塊に押し戻された。
ほんの、数秒。
文字通り、嵐が通り過ぎていったかのようにぐちゃぐちゃになった室内に残されたのは、呆然と立ち尽くす人々だけ。
青い瞳の水使いは、言葉ひとつ残さず姿を消した。
「ギル!!」
本部建物のすぐ近くに、雷が落ちた。
ほんの数秒だけ落ちた照明が、すぐに復旧する。
その直後、蒼白になって座りこんだギルが、震えながら頭を抱えて泣き叫んだ。レオナルドは、咄嗟にその両肩を掴む。
(……え?)
細い。
硬く強張りきったその肩は、あまりに細く頼りなかった。
いくらギルが細身だといっても、これではまるで――。
「ギル! 落ち着け!」
ギルの傍らに膝をついたユージィンが、大声で呼びかける。
それに激しく震えて反応したかと思うと、ギルは顔の前で腕を交差させ、小さく小さく身を縮めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。もう、泣いてうるさくしたりしません。ちゃんと、言われた通りにします。だから、お願いですから、姉さんにだけはひどいことをしないでください」
幼い子どものようにしゃくり上げながら語られる言葉に、呆然とする。
(姉さん……? 姉が、いたのか……?)
ヒトガタの呪詛に食い殺された両親のほかに、ギルにはまだ生きている家族がいた。
ユージィンが、ギリ、と歯を食いしばる。
――俺なら、家族の安全を盾に脅されたなら、たとえどんな相手であろうと、黙って従うしかないと思います。
つい先日、彼が語った言葉を思い出す。
(ああ……そうか。姉が、人質だったんだな)
――キミは、知っただろう? あの美しい雷雨の夜に、両親をボクに生きたまま食い殺されて。その理不尽に、理解しただろう? 幼かったキミにとって、キミを心から愛してくれる優しい両親は、幸せそのものだったんだ、って。
ギルの両親が食い殺された夜も、こんな雷雨だったのか。
カタカタと震えながら頭を庇う仕草は、殴られ慣れている子どものそれだ。
胃の底が、焼けつくような心地がした。
雷鳴によって引き起こされた、強烈なフラッシュバック。
そのせいで、完全に意識が過去に戻っているらしいギルの体を抱き寄せれば、一層震えが酷くなる。
「落ち着け、ギル。ここに、おまえを傷つけるやつは、誰もいない」
「い、や……」
掠れた声。
震える、細い体。
「ギル。大丈夫だ。大丈夫だから」
「やめ、て」
涙に濡れた声に、胸が痛むほど締めつけられる。
柔らかな黒髪を撫でて、軽く頭を引き寄せながらそっと囁く。
「……ギル。いい子だから――」
「わたしを、そんな名前で呼ばないで……」
消え入りそうな、嗚咽交じりの声だった。
(え……?)
それまで感じていたさまざまな違和感が組み合わさり、唐突に明確な形となって完成する。
きつく強張っていてさえ、どこまでも柔らかな感触の華奢な体。
いつもの感情の透けない声とはまるで違う、硬い響きの高い声。
滑らかな肌からかすかに香る、甘いにおい。
『わたし』という一人称。そして、口調。
それらすべてから導き出される答えに、レオナルドが大きく目を見開いたとき、腕の中の体から力が抜けた。そのままずるりと床に崩れ落ちていきそうになるのを、辛うじて抱き留める。
ユージィンが、深々と息を吐いた。
「気絶したか……」
「女、だ」
勝手にこぼれ落ちた言葉に、ユージィンが目を丸くする。
「は?」
「コイツ……女だ。ユージィン」
激しく窓を叩く雨音の中、呆然と呟くレオナルドの声だけが、妙にはっきりと響いた。
誰もが呼吸すら忘れたような数瞬ののち、慌ただしく靴の踵を鳴らして近づいてきたクローディアが、血の気の失せたギルの顔を食い入るように見つめる。
そして、キッとレオナルドを睨みつけた彼女は、低く押し殺した声で言う。
「レオナルド。すぐに、この子を医療棟へ連れていってくださいな」
「わ、かった」
この状況で、すぐに最善を判断して動けるクローディアの胆力に感嘆しつつ、全員で向かった医療棟。
そのトップであるブラッドリーが、意識のないギルの姿を見て軽く眉根を寄せる。
「何があった?」
「……コイツの両親は、雷の夜に、ヒトガタの呪詛に食い殺されてる。たぶん、そのときのことがフラッシュバックしたんだろう。泣き叫んで、気絶した」
できるだけ端的に説明すると、ブラッドリーは一拍置いてそうか、と頷いた。
「じゃあ、そっちのベッドに――」
「アンタは、コイツが女だって気付いてたのか? ブラッドリー」
ブラッドリーは、優秀な医者だ。
彼が直接触れた人間の性別を、見誤るとは思えない。
案の定、彼は小さく苦笑した。
「そりゃあまあ、骨格が完全に女だからな」
「それなら……! なんで、すぐにそう言わなかった!? アンタがさっさと言ってくれてりゃあ、コイツは危険な戦場になんて行かずに済んだ!」
ブラッドリーが、ため息を吐く。
「そんなこと、簡単に言えるわけがないだろう。――おまえの体は男に見えているかもしれないが、本当は女なんだぞ、なんて。ずっと男として生きてきたのに、突然そんなことを言われて、おまえなら耐えられるか?」
「…………は?」
なんだか、話がおかしい。
同僚たちも揃って首を傾げる中、クローディアが口を開いた。
「あの……ブラッドリーさま。それは、どういうことですか? ギルさまのお体が、その……男性に見えている、というのは……?」
「半陰陽っていってな、生まれつきそういう体の人間がいるんだよ。ギルの骨格は間違いなく女だが、生まれたときの外見的特徴で男と判断されたんだろう。これから、体つきもどんどん変わっていくかもしれないが――」
淡々と説明していくブラッドリーに、レオナルドは思わず声を上げる。
「ちょっと待てよ、ブラッドリー。ギルはフラッシュバックで泣いてるとき、自分のことを『わたし』って言ってた。口調も、多少ガキっぽいが女のモンだったぞ。普通に考えて、女の子が男の格好をさせられてただけじゃねェのか?」
「………………む?」
軽く首を傾げたブラッドリーが、レオナルドの腕からひょいとギルの体を持っていく。そのまま手近な診察台に下ろした彼は、ギルの戦闘服のファスナーを下ろした。
現れたハイネックのインナーを、まったく躊躇なく処置用の大きなハサミで切り裂く。
(おいおいお……!?)
晒された、ほっそりとした白い体。
その胸部を覆っているプロテクターにブラッドリーが手を掛けた瞬間、素晴らしい瞬発力で飛び出したクローディアが、景気よく彼の後頭部をしばき倒した。
「何をなさっていますの、ブラッドリーさま!! あなたたちもです! 今すぐ、後ろを向きなさい!」
後半、キッと男たちを睨みつけながらの言葉に、即座に回れ右をする。
しかしその前に、レオナルドの目にはしっかりと、プロテクターに潰された豊かな胸の谷間と、白い肌のあちこちに残された傷跡が映っていた。
(なんっだあの体、傷だらけじゃねェか! つーか、あんなに胸潰してて苦しくねェのか!? あ、ひょっとしてそのせいで、スタミナがすぐに切れやすいとか!?)
レオナルドが青ざめながら赤面するという器用なことをしている間にも、背後でブラッドリーがクローディアに叱り飛ばされている。
「女性の肌を、殿方たちの前で晒すだなんて! いったい、何を考えていらっしゃいますの!?」
「いや……その、スマン。ちょっと、びっくりしたんだ」
珍しくしどろもどろになっているブラッドリーに、クローディアの声がますます高くなった。
「びっくり!? びっくりですって!? こちらのほうがびっくりですわよ!?」
「お、おう。……いや、まさかタイマン勝負でコイツらと普通にやり合えて、顔の傷にもまるで頓着しない女のガキがいるとは思わなくてなあ……」
その言葉を聞いた瞬間、レオナルドとユージィンは同時にざぁっと青ざめる。
顔の、傷。
ギルが呪詛対策機関にやって来て間もない頃に、レオナルドとユージィンは、彼――ではなく、彼女の顔を傷つけた。
それらの傷は、すでに綺麗に消えているものの、だからといって過去がなかったことにはならない。
――十代の女性の顔を、大の男がいきなり殴って傷つける。
どんな理由があっても、断じて許されない所業であろう。
(え……これ、どうすればいいやつ? って、今はオレの自己嫌悪とかどうでもよくてな!? ギルが女だったこととか、ギルの姉が生きてて人質になってるっぽいこととか! まずは、そっちを全力で解決して! それから全身全霊で謝罪しまくるしか……!)
レオナルドが、今までの人生で一番というほど動揺しまくっていたとき、ふとギルの呼吸の音が変わった。
反射的にそちらを見ると、なぜ今まで彼女を男だと思っていられたのかわからなくなるような、長く濃い睫毛がふるりと揺れる。
ゆっくりと瞼が持ち上がり、どんな宝玉よりも美しい青の瞳が現れた。
何度か瞬きをしたあと、ぱっと目を見開いたギルが、勢いよく体を起こす。
そして、開かれたジャケットと切り裂かれたインナー、晒されていた胸部のプロテクターに気付いたのだろう。
震える手でジャケットの前をかき合わせたギルが、硬く強張った顔で周囲を見回す。
視線が、絡んだ。
「……ぁ」
その、瞬間。
ギルの瞳から、完全に光が消えた。
――そんな哀れな生き方をしている限り、いずれ必ずキミは心の底から絶望できる。
――ちゃあんと絶望したら、ボクを呼んでね。
――そのときは、すぐに迎えにいってあげるから。
「ギル! ダメだ……っ!!」
背筋が、凍りついた。
呼吸すらままならなくなるような焦燥の中、レオナルドが叫ぶのと同時に、医療棟の丈夫な窓ガラスが砕け散る。
反射的に風の壁でガードした瞬間、暗闇の中からすさまじい勢いでなだれ込んできた水が、遮る風をものともせずにギルを目指し、殺到するのが見えた。
「ギル!!」
その細い体を捉えようとした風は、ぶ厚い水の壁に阻まれる。
屋内では、分が悪い。
天から降り注ぐ大量の水が、まるでギルを攫っていくかのようで、必死に伸ばした手は水の塊に押し戻された。
ほんの、数秒。
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