追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる

灯乃

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第四章

向き不向きの問題です

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 アレクシアがエリックにそう言った瞬間、ブランドンの隣にいたディーンが、一歩前に踏み出した。

「あの、さ……! アレクシア! おれも、聞きたい! おれ……っあんまり、魔力保有量が多いほうじゃねえけど! おれは、おまえから見て、飛行魔導兵士になれると思うか!?」

「なれる。きみは体格と身体能力に恵まれているし、高い集中力も備えている。飛行魔術を習得するのも早そうだ」

 勢いこんでの問いかけに、あっさりと是を返されたディーンが、一瞬固まる。
 そして、胸の前に持ち上げた右手を、ぐっと握りしめた。

「そっか……うん。そっか」

 ――まずは、ひとり。
 体格がよく、近接戦闘のセンスにも優れている彼は、ウィルフレッドから見ても非常に兵士としてバランスのいい少年だ。
 これからきちんとした訓練をこなしていけば、相当に優れた飛行魔導兵士になるだろう。
 そんな友人の姿を見て触発されたのか、セドリックがひょいと片手を上げる。

「えっと……アレクシア。おれは? 頑張れば、飛行魔導兵士になれそう?」
「ああ。きみの柔軟な発想力と咄嗟の事態への対応力は、立派なものだ。飛行補助魔導武器との相性もいいかもしれんな」

 一瞬、セドリックが肩を震わせる。
 怜悧な印象の持ち主でありながら、実際にはひどくのんびりとした性分の彼が、何かに驚いたり慌てているところを、ウィルフレッドは今まで見たことがない。
 その彼が、アレクシアに肯定の言葉を向けられただけで、抑えきれない歓喜に瞳を揺らした。
 ――これで、ふたり。
 彼の固定観念に縛られない自由な発想は、ときに思考が硬直しがちな兵士たちの中で、貴重な武器になり得るものだ。
 お嬢さま言葉の計測と統計に全力で取り組む彼ならば、どんな苦難にも飄々と立ち向かってくれるに違いない。
 そして、親しい友人ふたりが、揃ってアレクシアからの太鼓判を捺されたからだろうか。
 ずっと何かを考えるようにしていたブランドンが、思い切ったように顔を上げた。

「……アレクシア。おれは? おれも、飛行魔導兵士に、なれるか?」
「なれる。きみの魔導武器を扱うセンスは相当のものだし、視野も広い。努力を怠らなければ、近衛出身のエリートにも劣らぬレベルで働けるようになるだろう」

 当然のように向けられたその言葉は、ブランドンにとってよほど驚きだったに違いない。
 目と口をぽかんと開いた彼は、次いで顔を真っ赤にしてわたわたと両手を動かした。

「え? えー……それ、マジで?」
「あくまでも、私見だがな。しかし、どれほど優れた素質を持っていようと、努力を怠ればただの人だぞ。そもそもわたしは、きみたちが飛行魔導兵士となることには賛同しないと言っただろう。くれぐれも、後悔をするような選択はしてくれるなよ」

 呆れたようにアレクシアは言うけれど、おそらく彼らはもう決めている。
 ――ブランドンで、三人。
 そして、すでにアレクシアを自身の友人だと認識している、ジョッシュとキャスリーン。
 彼ら五人はこれから、飛行魔導兵士となる道を選ぶだろう。
 彼ら自身にとっての、大切な誰かを守るために。
 そして、アレクシアという眩い光を追いかけ続け、自分の人生から失わないために。

(まったく……つくづく、人たらしでいらっしゃる)

 ウィルフレッド自身も覚えのある感覚だからこそ、彼らの気持ちはよくわかった。
 追い求めずには、いられないのだ。
 生まれてはじめて目にした鮮烈すぎる光は、心の奥底に強く、濃く焼き付くものだから。
 と、そこでエリックがアレクシアに声をかけた。

「なあ、アレクシア。おまえは教室で、飛行魔導兵士育成コースを志願していいのは、六名だと言ったな。こいつら三人と、ジョッシュ、キャスリーン。あとひとりは――」
「やめておけ、エリック。おまえが今上げた五名は、わたしに自ら聞いてきた。『自分は、飛行魔導兵士になれるか』と。それは、彼ら自身がそうなれる未来をイメージできたからだ。……おそらく、最後のひとりもそのイメージはできている。そのうえで、沈黙を保っているんだ」

 エリックから視線を逸らさないまま――その生徒のほうをちらりとも見ないまま、アレクシアは言う。

「それがその生徒の選択なのであれば、我々が口を出すべき問題ではない」
「わかってるよ。……おまえたちの協力に感謝する。本当に、ありがとうな」

 担任教師の感謝に頷きを返したアレクシアが、ふと何かを思い出した様子でクラスメートたちを見た。

「ああ、それから。改めて言っておくが、飛行魔導兵士に適性がある者のほうが、そうではない者よりも兵士として優れているというわけでは、断じてない。――考えてもみろ。もしきみたちが部隊を率いる指揮官だったとして、だ。この五名が部下だったなら、どう思う?」

 そのとき、件の五名以外の生徒たちの間に「えぇと……なんか、ヤダ」という空気が広がったのは、決してウィルフレッドの気のせいではないだろう。
 何しろそのメンバーは、脳天気――もとい、朗らかという言葉を具現化したようなジョッシュに、すでに誤解は解けているとはいえ、入学早々男子生徒全員に喧嘩を売るような発言をした、こうと決めたら一直線のキャスリーン。それに、教師たちからも親しみをこめて『三バカ』呼ばわりされている三人だ。揃いも揃って、個性的にもほどがある。
 アレクシアは、重々しく先を続けた。

「彼らの、不測の事態に対してすぐに動けるという長所は、ときに勝手な自己判断で動きがちだという短所にもなり得る。たとえば、彼らは仲間が危機に陥った場合には、上官の命令を無視してでもそれを救おうとするだろう。その結果、部隊全体を危険に晒すとしてもだ」

 そう言われた五名が口を開きかけたものの、結局揃って黙りこむ。きっと、彼女の言い分をまったく否定できなかったのだろう。
 スウィングラー辺境伯家での出来事を思い出しているのか、ものすごくいやそうな顔になってアレクシアは言う。

「少なくともわたしは、彼らのように扱いの面倒な部下を率いる立場にはなりたくない。飛行魔導兵士を目指さない者たちは、くれぐれも上官の命令や規則を無視することのない、立派な兵士になってくれたまえ。そうなってくれたなら、この国の一国民として、わたしも非常に心強く思う」

 最後ににこりと笑った彼女に、五名以外のクラスメートたちが大きく頷く。
 一方、これからおそらく飛行魔導兵士を目指すだろう者たちは、ひどく複雑な表情を浮かべた顔を見合わせていた。

(……うん。アレクシアさまに対する憧憬と、ご本人に『部下にはしたくない』と明言されたガッカリ感。それに、そもそも飛行魔導兵士を目指したところでアレクシアさまの部下になれるわけじゃないのに、自分は何をガッカリしてるんだ、という困惑が、いい感じにミックスブレンドされているな)

 なんにせよ、これから彼らが飛行魔導兵士育成コースに挑戦したとしても、実際に実戦投入できるレベルになるまでは数年という年月が必要になるだろう。
 この場にいる者たちには、ぜひとも後悔しない人生を選んでもらいたいものだ。

 それからいつも通りの授業に戻ったものの、クラスメートたちは随分と落ち着かない様子に見えた。
 浮き足立っている、とでもいおうか。そんな彼らに、エリックの厳しく指導する声が飛んでいる。少し、うるさい。
 訓練場の隅で、基礎体力向上のための地道な訓練に取り組みつつ、ウィルフレッドはアレクシアに声を掛けた。

「アレクシアさま。先ほどミスター・タウンゼントが言っていた、最後のひとりの件ですが。オレが想定している生徒であれば、本人があの場で自らアレクシアさまに確認をしてくるのは、少々難しかったのではないでしょうか?」

 その問いかけに、アレクシアが苦笑を浮かべて頷く。

「そうだろうな。適性があることと、本人の性格がそれに向いているかは、また別の話だ。……不思議なものだな。あれほどおとなしい子どもが、おそらくこの学園で最も高い飛行魔導兵士の適性を持っている」

 だが、と彼女はクラスメートたちのほうを眺めて言った。

「これでいいのだと思う。わたしはあの子のような子どもが、前線で戦う姿など見たくない」
「ええ。オレもです」

 本当はアレクシアにこそ、危険な前線で戦ってほしくなどないのだけれど。
 彼女自身の誇りが、安全な場所でただ座していることを許してくれないのだから、仕方がない。
 ウィルフレッドにできるのは、そんな主が決して傷つくことがないよう、ともに戦い守ることだけだ。
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