追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる

灯乃

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第四章

慣れ、もしくは命の危機

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 ――そして、その日の昼食時のこと。
 いつも通り、ジョッシュとキャスリーンとともにテーブルを囲んだウィルフレッドとアレクシアは、ふたりからの質問攻めに遭う羽目になった。

「なあなあ! あんなふうに空を飛び回って、目が回ったりしねーの? なんか、特別な訓練とかやってんのか!?」
「ふたりがすっごく強いのは、頭ではわかってるつもりだったんだけどさ! なんかもう、実際に見ると全然迫力が違うよね! どうやったら、あんなふうに空中でひゅんひゅん動けるの!?」

 本日のランチプレートは、豚肉の香草焼きと白身魚のムニエルの二種類だ。
 白身魚を選んだアレクシアが、ふんわりとした丸パンをちぎりながら、ふたりの質問に一言で答えた。

「慣れだ」
「…………へ?」
「…………え、それだけ?」

 拍子抜けしたようなふたりに、アレクシアは真顔で頷く。

「うむ。強いて言うなら、任務中に敵の攻撃を食らって、何度か死にそうになったことがある。あのときの危機感が、一気に全身の感覚を開いてくれた気はするが……。まあ、当然ながらおすすめはできないな」

 ジョッシュとキャスリーンが、ものすごくしょっぱい顔になる。

「なるほど。つまり、死にたくなければコツコツ地道な訓練を続けるしかないってことだな」
「そうだよね……。そんな都合のいい抜け道なんて、あるわけないよね」

 理解が早くて、結構なことだ。
 そんなふたりに、アレクシアが問う。

「そもそもきみたちは、わたしの話を聞いていたのか? いくら素質があったとしても、わたしはきみたちが飛行魔導兵士になることには、反対だ。きちんとした教育を受ければ、きみたちならば間違いなく立派な王宮警護兵になれる。わざわざ危険な前線勤務を志願することもあるまい」

 自分たちの目から見て『飛行魔導兵士になれば、間違いなく早死にする』という生徒たちは、もはやその道を志願することはないだろう。
 そうではない六名についてだって、アレクシアの本音のところでは、最初からその可能性を否定したかったに違いない。けれど、彼らの可能性を他人である彼女が潰してしまうのは、あまりに身勝手で傲慢だ。
 だからこそ、彼女なりにできるだけ誠実な対応をしたのだろうが、それ以上は賛同も応援もするつもりはない、ということか。
 眉根を寄せた彼女に、ふたりは顔を見合わせてから笑って応じた。

「わかってる。ちゃんと、考えるよ」
「うん。……ただね、アレクシア。あたしは、あんたのことを大事な友達だと思ってる」

 虚を突かれた顔をしたアレクシアが、まじまじとキャスリーンを見る。
 だからさ、とキャスリーンが笑みを深めた。

「あたしは、アレクシアに庇われるばかりじゃなくて、アレクシアに頼ってもらえる大人になりたい。知ってる? 一方的に心配されたり、守られたりするのってね。結構、悔しかったりするんだよ」

 そうそう、とジョッシュが頷く。

「おまえがおれたちの心配をする気持ちは、わからなくもないけどさあ。なんつっても、今のおまえとおれたちじゃあ、ガチで勝負したら瞬殺間違いなしだし?」

 ひょいと肩を竦めて、彼は言う。

「でもな、アレクシア。おれたちだって、いつまでも弱いばかりのガキじゃない。ついでに言うなら、おれたちの選択におまえが責任を感じる必要なんて、全然ないんだ」
「……そうか」

 アレクシアが、ふっと息を吐く。

「すまない。わたしはどうやら、きみたちの気持ちをまるでわかっていなかったようだ」
「いや、おまえがおれたちのことを考えていろいろ言ってくれてたのはわかるから、それは全然いいんだけど。……ただまあ、おれたちだって、やるときゃやるよってことで」

 少し照れくさそうな顔をしたジョッシュが、アレクシアとウィルフレッドを順に見る。

「おまえたちが、おれたちよりずっと先にいるのはわかってる。だから、おまえたちはそこで待ってろよ。そのうち、絶対追いついてやるからさ」
「そうか。それは、我々もうかうかしていられんな。これからは、より一層鍛錬に励むことにしよう」

 真顔で応じたアレクシアに、目を丸くしたジョッシュがぎゃあと喚く。

「いや、だから! 待ってろって言ったじゃん!?」
「そうだよ! ただでさえ、目標までの道のりが長すぎて気が遠くなりそうなのに! その距離をますます広げようとしないでくれる!?」

 ふたりの切実な訴えを、アレクシアがあっさりと切り捨てる。

「何を言う。きみたちは、わたしにとってとても大切な友人なんだ。万が一、きみたちの身に何かあった場合には、即座にこの手で敵を殲滅せねばならんのだからな。日々の鍛錬を怠るわけがないだろう?」

 ジョッシュとキャスリーンが、固まった。
 そんなふたりに、ウィルフレッドは笑って告げる。

「一応言っておくけれど、もしそうなった場合には、オレはアレクシアさまを止めるつもりはないよ。ああ、ヒューバートどのにはちゃんと連絡してあげるから、安心するといい」

 蒼白になったジョッシュが、ぎゃあと叫んだ。

「安心できるかー! ちょ、おまえ、火に油を注ぐような真似とか、マジでやめてくれる!?」
「……あのさあ、ジョッシュ。もしあんたが、本当に飛行魔導兵士育成コースに志願するとしたらだよ? その前に、ヒューバートさんにきちんと報告しておかないと、絶対、ものすごくマズいことになるんじゃない?」

 キャスリーンの指摘に、あ、と声を零したジョッシュが、再び固まる。
 そんな彼に、アレクシアが言う。

「うむ。ヒューバートどのがきみの飛行魔導兵士育成コース志願を認めるのであれば、わたしからは何も言うまい」

 ウィルフレッドも、黙って同意を示して頷いた。
 何しろ、ジョッシュに対してかなり強火のブラコンぶりを発揮しているヒューバートは、飛行魔導兵士部隊が採用している飛行補助魔導武器の開発チーム責任者なのだ。
 もしジョッシュが飛行魔導兵士になるという意思を貫き通すのであれば、きっと彼は飛行補助魔導武器の安全性のレベルを、天元突破の勢いで引き上げてくるに違いない。
 ウィルフレッドは、呆然としているジョッシュをしみじみと眺める。

(……うん。ヒューバートどのがいる限り、ジョッシュだけは、どんな危険な任務にぶちこまれようと、絶対無事に帰ってくるような気がする)

 そのときウィルフレッドは、自分があのかなりの変人である天才研究者を、思いのほか信頼していることに気がつき、なんとも言い難い気分になった。
 ヒューバートは、たしかに比類無き頭脳を誇る天才研究者であるし、その人柄も決して悪いものではない。むしろ、かなりの好青年であると言えるだろう。

 しかし天才というのは、ときに越えてはいけない一線を、鼻歌交じりのスキップで軽やかに踏み越えていくものなのである。
 アレクシアと自身の安全を確保するため、今後もヒューバートと接触する際には慎重に慎重を期すことにしておこう、と心に決めるウィルフレッドだった。
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