11 / 67
第4話 責任の取らせかた
①
騎士団宿舎の自室に戻り、勢い良く扉を閉めると、セルジュはコレットの腕を投げるように解放した。襟元のタイをほどき、上着を脱いで椅子の背に掛ける。手袋を机の上に投げ捨てて、シャツの胸元を寛げた。
一部始終を見ていたコレットが小さく息を飲み、心許なげに視線を彷徨わせる。セルジュの一連の行動は毎日の習慣から無意識にとったものだったが、コレットには何やら誤解を与えたようだ。黙りこくったまま顔を俯かせると、彼女はベッドの端に腰を下ろした。
気まずい沈黙が部屋に降りる。勢いに任せてコレットを部屋に連れて来てしまったものの、庭園から宿舎までの長い道中でセルジュの頭はすっかり冷え切っていた。
冷静になって考えれば、先のコレットはセルジュを心配していただけで、別段おかしな言動はしていなかった。セルジュの女性恐怖症の元凶がコレットであることに間違いはないが、今回の件に関して言えば完全な八つ当たりでしかない。だが、そうとは理解していてもつまらない矜持が邪魔をして、セルジュは素直に頭を下げることができなかった。
机と椅子とベッドとチェスト、その他に何もない狭い部屋にふたりきり。女性恐怖症の身には些か辛い状況を、セルジュは自ら作り出してしまっていた。
この状況をどうしたものかと打開策を考えていると、ベッドのほうから微かに衣擦れの音がした。はっとして顔を上げたセルジュの目に、ベッドの端に腰掛けたまま胸元のスカーフリボンをほどくコレットの姿が映った。
「何をしている」
「何って……仲良くするんでしょう?」
素っ気なく応えて軽蔑するようにセルジュを睨め付けると、コレットは腰の後ろに手を回し、今度はエプロンの紐をほどいた。
「ちょ……っと待て、何か誤解が」
「仲良くするって、そういうことですよね?」
白いエプロンがはらりと床に落ちる。ぞんざいに革の靴を脱ぎ捨てたコレットが、脚を引いてベッドの奥へと後退った。膝を立てたせいでスカートの裾が持ち上がり、白い靴下を穿いた脚が覗く。身動ぐたびに徐々に露わになる白い下肢からセルジュは目が離せなかった。
「おまっ……ちょ、いいから落ち着け」
「わたしは落ち着いてます。セルジュさんこそ、無理矢理部屋に女の子連れ込んでおきながら、今更怖気付いたんですか?」
「ち、違う! そんな目的で連れて来たわけじゃない! 犯罪者を見るような目で俺を見るな!」
真っ赤に染め上げた顔をベッドから背けつつも、セルジュの視線はふらふらと彷徨い、捲れ上がったスカートの中へと向かってしまう。慌てふためくセルジュに向かって、コレットは艶やかに榛色の瞳を細めてみせた。
「……っていうかお前、軽蔑しているように見せかけて実は誘っているだろう!」
不自然に捲れあがったスカートを指差してセルジュが声を張り上げると、コレットはちろっと舌を出して「バレたか」と小さく肩を竦めた。白い下肢をスカートで覆い、ベッドの上にぺたりと座り込む。へへへっと無邪気に笑われて、セルジュは深い溜め息を吐いた。
「相変わらず純情なんですね」
「お前は以前にも増して破廉恥になったがな」
動揺を誤魔化して突き放すように言い捨てる。
一瞬、コレットが傷付いた表情を見せた気がして、セルジュは慌てて話を続けた。
「……まあ、安心しろ、絶対に手出しはしない」
「絶対って、わたしが相手じゃそういう気分にならないってことですか?」
「何もお前に限った話じゃない。言っただろう、女性が怖いと……その、つまり……」
視線を落として口籠るセルジュを見上げ、コレットは少し前のめりになってセルジュの顔を覗き込む。いつになく深刻な顔付きで彼女はその言葉を口にした。
「もしかして、勃起不全ってやつですか?」
「おまっ……!」
ただでさえ紅かったセルジュの顔が茹でだこのように真っ赤に染まる。つぶらな瞳を瞬かせるコレットにセルジュは勢い良く噛み付いた。
「仮にも婚前の娘で……貴族令嬢だろう! もう少し慎しみを持った発言をしろ!」
感情的に喚き散らすが、コレットはあくまで澄まし顔だ。息を切らして睨みを利かすセルジュを前に、彼女は悪怯れもせず反論する。
「それを言うなら、こんなシモの話をわたしに振ること自体が間違ってるんじゃないですか?」
「振ってない!」
「……あれ?」
わざとらしく肩を竦める姿が小憎らしい。ふん、と鼻を鳴らし、そっぽを向いたセルジュに、コレットは尚も興味津々といった様子で続けた。
「でも不能なんですよね?」
「……誰のせいだと思っているんだ」
「わたしのせいなんですか?」
小首を傾げられ、力強く頷いてみせる。
セルジュにトラウマを植え付け、人生を狂わせたのはコレットだ。他の何が間違っていようと、これだけは譲れない事実だった。
「それに、不能では語弊がある。……全く勃たないわけではない。いざという時に緊張しすぎて萎えてしまうだけだ」
暴露して、馬鹿正直に話したことを後悔した。いい加減冷静になれと自分自身に言い聞かせ、セルジュは軽く咳払いする。
「……まあ、勃つ勃たないの話はどうでもいい。問題は女性恐怖症のほうだ。護衛騎士を続ける以上、今日のように女性に触れられるだけで失態を犯すようでは流石に不味いだろう。こうなったのはお前の所為でもあるわけだし、少しくらい協力して欲し……しろ」
腕を組んで踏ん反り返り、せめてもの虚勢を張る。セルジュの言葉にくすりと笑うと、コレットはさも愉快そうに頷いた。
一部始終を見ていたコレットが小さく息を飲み、心許なげに視線を彷徨わせる。セルジュの一連の行動は毎日の習慣から無意識にとったものだったが、コレットには何やら誤解を与えたようだ。黙りこくったまま顔を俯かせると、彼女はベッドの端に腰を下ろした。
気まずい沈黙が部屋に降りる。勢いに任せてコレットを部屋に連れて来てしまったものの、庭園から宿舎までの長い道中でセルジュの頭はすっかり冷え切っていた。
冷静になって考えれば、先のコレットはセルジュを心配していただけで、別段おかしな言動はしていなかった。セルジュの女性恐怖症の元凶がコレットであることに間違いはないが、今回の件に関して言えば完全な八つ当たりでしかない。だが、そうとは理解していてもつまらない矜持が邪魔をして、セルジュは素直に頭を下げることができなかった。
机と椅子とベッドとチェスト、その他に何もない狭い部屋にふたりきり。女性恐怖症の身には些か辛い状況を、セルジュは自ら作り出してしまっていた。
この状況をどうしたものかと打開策を考えていると、ベッドのほうから微かに衣擦れの音がした。はっとして顔を上げたセルジュの目に、ベッドの端に腰掛けたまま胸元のスカーフリボンをほどくコレットの姿が映った。
「何をしている」
「何って……仲良くするんでしょう?」
素っ気なく応えて軽蔑するようにセルジュを睨め付けると、コレットは腰の後ろに手を回し、今度はエプロンの紐をほどいた。
「ちょ……っと待て、何か誤解が」
「仲良くするって、そういうことですよね?」
白いエプロンがはらりと床に落ちる。ぞんざいに革の靴を脱ぎ捨てたコレットが、脚を引いてベッドの奥へと後退った。膝を立てたせいでスカートの裾が持ち上がり、白い靴下を穿いた脚が覗く。身動ぐたびに徐々に露わになる白い下肢からセルジュは目が離せなかった。
「おまっ……ちょ、いいから落ち着け」
「わたしは落ち着いてます。セルジュさんこそ、無理矢理部屋に女の子連れ込んでおきながら、今更怖気付いたんですか?」
「ち、違う! そんな目的で連れて来たわけじゃない! 犯罪者を見るような目で俺を見るな!」
真っ赤に染め上げた顔をベッドから背けつつも、セルジュの視線はふらふらと彷徨い、捲れ上がったスカートの中へと向かってしまう。慌てふためくセルジュに向かって、コレットは艶やかに榛色の瞳を細めてみせた。
「……っていうかお前、軽蔑しているように見せかけて実は誘っているだろう!」
不自然に捲れあがったスカートを指差してセルジュが声を張り上げると、コレットはちろっと舌を出して「バレたか」と小さく肩を竦めた。白い下肢をスカートで覆い、ベッドの上にぺたりと座り込む。へへへっと無邪気に笑われて、セルジュは深い溜め息を吐いた。
「相変わらず純情なんですね」
「お前は以前にも増して破廉恥になったがな」
動揺を誤魔化して突き放すように言い捨てる。
一瞬、コレットが傷付いた表情を見せた気がして、セルジュは慌てて話を続けた。
「……まあ、安心しろ、絶対に手出しはしない」
「絶対って、わたしが相手じゃそういう気分にならないってことですか?」
「何もお前に限った話じゃない。言っただろう、女性が怖いと……その、つまり……」
視線を落として口籠るセルジュを見上げ、コレットは少し前のめりになってセルジュの顔を覗き込む。いつになく深刻な顔付きで彼女はその言葉を口にした。
「もしかして、勃起不全ってやつですか?」
「おまっ……!」
ただでさえ紅かったセルジュの顔が茹でだこのように真っ赤に染まる。つぶらな瞳を瞬かせるコレットにセルジュは勢い良く噛み付いた。
「仮にも婚前の娘で……貴族令嬢だろう! もう少し慎しみを持った発言をしろ!」
感情的に喚き散らすが、コレットはあくまで澄まし顔だ。息を切らして睨みを利かすセルジュを前に、彼女は悪怯れもせず反論する。
「それを言うなら、こんなシモの話をわたしに振ること自体が間違ってるんじゃないですか?」
「振ってない!」
「……あれ?」
わざとらしく肩を竦める姿が小憎らしい。ふん、と鼻を鳴らし、そっぽを向いたセルジュに、コレットは尚も興味津々といった様子で続けた。
「でも不能なんですよね?」
「……誰のせいだと思っているんだ」
「わたしのせいなんですか?」
小首を傾げられ、力強く頷いてみせる。
セルジュにトラウマを植え付け、人生を狂わせたのはコレットだ。他の何が間違っていようと、これだけは譲れない事実だった。
「それに、不能では語弊がある。……全く勃たないわけではない。いざという時に緊張しすぎて萎えてしまうだけだ」
暴露して、馬鹿正直に話したことを後悔した。いい加減冷静になれと自分自身に言い聞かせ、セルジュは軽く咳払いする。
「……まあ、勃つ勃たないの話はどうでもいい。問題は女性恐怖症のほうだ。護衛騎士を続ける以上、今日のように女性に触れられるだけで失態を犯すようでは流石に不味いだろう。こうなったのはお前の所為でもあるわけだし、少しくらい協力して欲し……しろ」
腕を組んで踏ん反り返り、せめてもの虚勢を張る。セルジュの言葉にくすりと笑うと、コレットはさも愉快そうに頷いた。
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389