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第5話 とてもご立派でした
③
***
「なんのつもりだ。辺境伯令嬢ともあろう者が覗きなんて……恥ずかしくないのか!?」
部屋に戻るなり、セルジュは声を張り上げた。あまりの剣幕に流石に驚いたのか、コレットが一瞬びくりと肩を竦めて目をつむる。
「ごめんなさい。でも、窓から覗いたのは事実ですけど、覗きをしてたわけじゃないですよ」
「……はぁ?」
「騎士団宿舎にセルジュさんがいるってロランさんに聞いたから……」
らしくなく胸の前でモジモジと指を動かしながら、コレットはちらりとセルジュに目を向ける。慌てて着替えたせいで掛け違えたシャツのボタンを直しながら、セルジュはどうにか気を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
口ではコレットを責めたものの、セルジュの不機嫌の原因は他にあった。女性恐怖症とはまた別に、セルジュはコンプレックスを抱えていたのだ。
無駄に成長した股間にぶら下がるモノ。大きさだけは人並み以上で、男なら誇るべきことなのかもしれない。だが、いざというときに萎んで使いものにならないのなら何の意味もない。ひたすらに恥ずかしいだけの代物なのに、大勢に見られてしまったのは屈辱だった。しかも、あの場に居たのは騎士団の男達だけではないというのが更に屈辱的だ。
驚きに見開かれていた榛色の瞳が脳裏を過ぎる。首から上がかあっと熱くなり、耳まで赤くなっているのが自分でもわかった。
「……その、とてもご立派でした! 七年も経つと人は成長するものなんですね」
「うるさい! 脱衣所でのことは忘れろ!」
フォローにもならない言葉にセルジュが反射的に怒鳴り返すと、コレットは瞳を丸くして口を噤んだ。
「くそっ、もういい! さっさと終わらせるぞ」
机の上の砂時計をひっくり返し、コレットの手を取って、セルジュはベッドの端にどさりと腰を下ろした。
静まり返った室内に、さらさらと砂が落ちる音が心地良く響いていた。
生まれたままの姿を見られてしまった羞恥もあって、いつも以上に手のひらが汗をかいていた。握り締めた指先が時折ぬるりと滑るものの、相変わらずコレットは嫌な顔ひとつせず、澄ました顔で宙を見つめている。おかげでだいぶ落ち着きは取り戻したものの、気まずい沈黙が部屋を満たしていた。
ただじっと時が流れるのを待つなかで、沈黙を破ったのはコレットだった。
「……あの、昨日の……リュシーとのこと、殿下は何か仰ってましたか?」
顔をあげてセルジュの顔を覗き込むコレットの表情は、いつになく弱々しく真剣だった。セルジュが大袈裟に悲観していた所為か、本当に護衛騎士の任を解かれるのではないかと心配していたようだ。
能天気で何かと気に障ることを口にするコレットだが、可愛いところも少しはあるのかもしれない。
「安心しろ、何も言われていない。ただ、いつまでも隠し通せることでもないだろう。殿下には全てをお話しした」
王太子に女性恐怖症のことを説明し、必ず克服してみせるから時間を頂きたいと願い出たことを、セルジュはコレットに打ち明けた。
「……それで、殿下は何て?」
「考えておく、と仰っていた」
「そうですか……」
会話が途切れる。ふたりとも視線を落とし、しばらくのあいだ口を閉ざしていた。
ややあって、繋いだ手にきゅっとちからが込められた。
「大丈夫ですよ。セルジュさんにはわたしが付いてますから」
いつもどおりの陽気な声でそう言って、コレットがにっこりと笑う。釣られるように顔をあげたセルジュも、自然と和らいだ表情になる。
「それが不安の種なんだがな」
含み笑って応えれば、コレットは「ひどい」と呟いてぷうっと頬を膨らませた。
ちらりと砂時計に目をやると、砂はとっくに落ち切っていた。
「時間だな」
「それじゃあ、また」
「さっさと帰れ」
ふん、と鼻で笑い飛ばして小さな手のひらを手放すと、セルジュは扉へと視線を投げた。
ふたつに結った亜麻色の髪を揺らし、コレットは弾むように長い廊下を駆けていく。遠ざかる小さな影を見送りながら、セルジュはほんの少し名残惜しさを覚えたのだった。
「なんのつもりだ。辺境伯令嬢ともあろう者が覗きなんて……恥ずかしくないのか!?」
部屋に戻るなり、セルジュは声を張り上げた。あまりの剣幕に流石に驚いたのか、コレットが一瞬びくりと肩を竦めて目をつむる。
「ごめんなさい。でも、窓から覗いたのは事実ですけど、覗きをしてたわけじゃないですよ」
「……はぁ?」
「騎士団宿舎にセルジュさんがいるってロランさんに聞いたから……」
らしくなく胸の前でモジモジと指を動かしながら、コレットはちらりとセルジュに目を向ける。慌てて着替えたせいで掛け違えたシャツのボタンを直しながら、セルジュはどうにか気を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
口ではコレットを責めたものの、セルジュの不機嫌の原因は他にあった。女性恐怖症とはまた別に、セルジュはコンプレックスを抱えていたのだ。
無駄に成長した股間にぶら下がるモノ。大きさだけは人並み以上で、男なら誇るべきことなのかもしれない。だが、いざというときに萎んで使いものにならないのなら何の意味もない。ひたすらに恥ずかしいだけの代物なのに、大勢に見られてしまったのは屈辱だった。しかも、あの場に居たのは騎士団の男達だけではないというのが更に屈辱的だ。
驚きに見開かれていた榛色の瞳が脳裏を過ぎる。首から上がかあっと熱くなり、耳まで赤くなっているのが自分でもわかった。
「……その、とてもご立派でした! 七年も経つと人は成長するものなんですね」
「うるさい! 脱衣所でのことは忘れろ!」
フォローにもならない言葉にセルジュが反射的に怒鳴り返すと、コレットは瞳を丸くして口を噤んだ。
「くそっ、もういい! さっさと終わらせるぞ」
机の上の砂時計をひっくり返し、コレットの手を取って、セルジュはベッドの端にどさりと腰を下ろした。
静まり返った室内に、さらさらと砂が落ちる音が心地良く響いていた。
生まれたままの姿を見られてしまった羞恥もあって、いつも以上に手のひらが汗をかいていた。握り締めた指先が時折ぬるりと滑るものの、相変わらずコレットは嫌な顔ひとつせず、澄ました顔で宙を見つめている。おかげでだいぶ落ち着きは取り戻したものの、気まずい沈黙が部屋を満たしていた。
ただじっと時が流れるのを待つなかで、沈黙を破ったのはコレットだった。
「……あの、昨日の……リュシーとのこと、殿下は何か仰ってましたか?」
顔をあげてセルジュの顔を覗き込むコレットの表情は、いつになく弱々しく真剣だった。セルジュが大袈裟に悲観していた所為か、本当に護衛騎士の任を解かれるのではないかと心配していたようだ。
能天気で何かと気に障ることを口にするコレットだが、可愛いところも少しはあるのかもしれない。
「安心しろ、何も言われていない。ただ、いつまでも隠し通せることでもないだろう。殿下には全てをお話しした」
王太子に女性恐怖症のことを説明し、必ず克服してみせるから時間を頂きたいと願い出たことを、セルジュはコレットに打ち明けた。
「……それで、殿下は何て?」
「考えておく、と仰っていた」
「そうですか……」
会話が途切れる。ふたりとも視線を落とし、しばらくのあいだ口を閉ざしていた。
ややあって、繋いだ手にきゅっとちからが込められた。
「大丈夫ですよ。セルジュさんにはわたしが付いてますから」
いつもどおりの陽気な声でそう言って、コレットがにっこりと笑う。釣られるように顔をあげたセルジュも、自然と和らいだ表情になる。
「それが不安の種なんだがな」
含み笑って応えれば、コレットは「ひどい」と呟いてぷうっと頬を膨らませた。
ちらりと砂時計に目をやると、砂はとっくに落ち切っていた。
「時間だな」
「それじゃあ、また」
「さっさと帰れ」
ふん、と鼻で笑い飛ばして小さな手のひらを手放すと、セルジュは扉へと視線を投げた。
ふたつに結った亜麻色の髪を揺らし、コレットは弾むように長い廊下を駆けていく。遠ざかる小さな影を見送りながら、セルジュはほんの少し名残惜しさを覚えたのだった。
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