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第6話 意外な一面
③
***
王太子の執務室は、意外にもすっきりと整理されており、セルジュが訪れる前にロランが粗方作業を進めていたことが容易に推測できた。
入口手前に置かれた応接セットのテーブルと大窓の前に置かれた執務机に、うず高く積み上げられたいくつもの書類の山が塔のように整然とそびえ建っている。セルジュとロランは手分けして書類の山を片付け始めた。
応接用のソファに腰掛けてセルジュが忙しなく手を動かしているあいだ、コレットはロランの要望で執務机の書類の整理を手伝っていた。ロランを補佐するコレットの姿は教育の行き届いた秘書のようで、貴族令嬢らしい淑やかな振る舞いは普段の姿からはおよそ想像できない。セルジュの前ではいつも落ち着きがなく煩わしい行動しか取らない癖に、他人の手伝いは真面目に出来るようだ。
言い現し様のないもやもやとした気持ちを抱えながら、テーブルの上の書類の山を半分ほど片付けたところで、セルジュはぴたと手を止めて、書面に綴られた見慣れない文字に眉根を寄せた。
「テレジア語ですね」
いつの間にか隣にいたコレットが、セルジュの横から書類を覗き込むようにして呟やいた。
「わかるのか?」
「はい」
訝しげにセルジュが問うと、コレットはこくりと頷いてみせた。
テレジアはデュランの隣国で、土地の痩せた貧しい北国だ。貧富の差も激しく多くの国民が常に飢えに瀕しているというのに、主義思想の違いから頑なにデュランの援助を拒んでいる。当然のことながらデュラン国民の多くがテレジアに抱く印象は良いものではなく、テレジアの言葉を学ぶ者など国政に携わる極一部の官僚のみだった。
テレジアの言葉で書かれた文字を確認し、コレットは次々に書類の山を仕分けていく。その手際の良さに、セルジュはいつの間にか感心していた。
「意外だな」
「あはは、テレジアからの難民に対応するのに必要だから覚えておけって、父がうるさくて。見直しました?」
「そうか……そうだったな」
言われてはじめてセルジュは思い出した。コレットの父が治めるマイヤール領は、テレジアと国境を介して隣接している土地だ。コレットとの婚約が解消されていなければ、セルジュも今頃、テレジアの言葉を学んでいたのかもしれない。
セルジュがすっかり手を止めてしまったところで、執務机のほうからロランの声が響いた。
「以前から気になっていたのですが、コレットさんはもしや、マイヤール卿のご息女ではありませんか?」
「そうですけど、それが何か?」
顔をあげ、きょとんとしてコレットが答える。ロランは面食らった顔で灰色の目を瞬かせると、
「いえ……、ああ、その書類はコレットさんにお任せしても宜しいですか。セルジュはこちらの手伝いをお願いします」
僅かに動揺した様子でコレットとセルジュに指示を出し、そそくさと執務机の上を片付け始めた。
王太子の執務室は、意外にもすっきりと整理されており、セルジュが訪れる前にロランが粗方作業を進めていたことが容易に推測できた。
入口手前に置かれた応接セットのテーブルと大窓の前に置かれた執務机に、うず高く積み上げられたいくつもの書類の山が塔のように整然とそびえ建っている。セルジュとロランは手分けして書類の山を片付け始めた。
応接用のソファに腰掛けてセルジュが忙しなく手を動かしているあいだ、コレットはロランの要望で執務机の書類の整理を手伝っていた。ロランを補佐するコレットの姿は教育の行き届いた秘書のようで、貴族令嬢らしい淑やかな振る舞いは普段の姿からはおよそ想像できない。セルジュの前ではいつも落ち着きがなく煩わしい行動しか取らない癖に、他人の手伝いは真面目に出来るようだ。
言い現し様のないもやもやとした気持ちを抱えながら、テーブルの上の書類の山を半分ほど片付けたところで、セルジュはぴたと手を止めて、書面に綴られた見慣れない文字に眉根を寄せた。
「テレジア語ですね」
いつの間にか隣にいたコレットが、セルジュの横から書類を覗き込むようにして呟やいた。
「わかるのか?」
「はい」
訝しげにセルジュが問うと、コレットはこくりと頷いてみせた。
テレジアはデュランの隣国で、土地の痩せた貧しい北国だ。貧富の差も激しく多くの国民が常に飢えに瀕しているというのに、主義思想の違いから頑なにデュランの援助を拒んでいる。当然のことながらデュラン国民の多くがテレジアに抱く印象は良いものではなく、テレジアの言葉を学ぶ者など国政に携わる極一部の官僚のみだった。
テレジアの言葉で書かれた文字を確認し、コレットは次々に書類の山を仕分けていく。その手際の良さに、セルジュはいつの間にか感心していた。
「意外だな」
「あはは、テレジアからの難民に対応するのに必要だから覚えておけって、父がうるさくて。見直しました?」
「そうか……そうだったな」
言われてはじめてセルジュは思い出した。コレットの父が治めるマイヤール領は、テレジアと国境を介して隣接している土地だ。コレットとの婚約が解消されていなければ、セルジュも今頃、テレジアの言葉を学んでいたのかもしれない。
セルジュがすっかり手を止めてしまったところで、執務机のほうからロランの声が響いた。
「以前から気になっていたのですが、コレットさんはもしや、マイヤール卿のご息女ではありませんか?」
「そうですけど、それが何か?」
顔をあげ、きょとんとしてコレットが答える。ロランは面食らった顔で灰色の目を瞬かせると、
「いえ……、ああ、その書類はコレットさんにお任せしても宜しいですか。セルジュはこちらの手伝いをお願いします」
僅かに動揺した様子でコレットとセルジュに指示を出し、そそくさと執務机の上を片付け始めた。
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