17 / 67
第6話 意外な一面
②
***
荘厳な装飾の施された扉の前に立ち、金属製のドアノックを打ち鳴らす。広い廊下に心地良い鐘に似た音が響き、程なくして重い扉が開かれた。
顔を覗かせた赤銅色の髪の青年は、セルジュの顔を見て灰色の瞳を細め、僅かに口の端を吊り上げると、怪訝な表情でセルジュの傍を見下ろした。
「遅かったですね。理由はなんとなく把握できましたが」
「……すまん、色々と試みたが無理だった」
隣に立つコレットを一瞥し、セルジュはロランに頭を下げる。この部屋に至るまで、セルジュは入り組んだ廊下を速足で移動し、ときにはわざと道を違えたり身を隠したりと手を尽くしたものの、コレットの追跡能力は猟犬並みで、結局最後まで振り切ることができなかったのだ。
がっくりと肩を項垂れたセルジュに小さく肩を竦めると、ロランは口元を手で隠し、さも不思議だと言いたげに疑問を口にした。
「前々から気になっていたのですが、貴方達は一体どういった関係なんですか?」
「セルジュさんはわたしのこんにゃ……」
すかさず口を開いたコレットの両頬を、背後から伸びたセルジュの指がぐにっと摘まむ。呂律の回らない声を出しながら首を捻り、コレットは恨めしげにセルジュを見上げた。
「いひゃいれすしぇるじゅしゃん」
頬肉を摘ままれたまま訴える顔が滑稽で、思わず吹き出しそうになる。込み上げる笑いをぐっと堪えると、セルジュはコレットを押し退けてロランに向き合った。ほんのりと紅く腫れた両頬をさすりながら、コレットが拗ねた子供のように唇を尖らせる。
「婚約……って、セルジュ、貴方以前、決まった相手はいないと言っていましたよね」
「元婚約者だ。今は何の関係もない」
「なるほど……『元』ですか」
呟いて、ロランが再びちらりとコレットを見やる。訝しむような視線を受けて、コレットがにっこりと微笑んだ。
「書類整理するんですよね。お手伝いします」
「ふざけるな! 重要な書類もあるのに部外者を中に入れられるわけがないだろう」
「いえ、重要な物は昨日までに殿下と済ませてありますから、手伝いなら歓迎しますよ」
穏やかな笑みとともにロランが応えると、コレットは「やった」と声をあげて、勝ち誇ったように両手で拳を握って見せた。セルジュのこめかみに血管が浮き上がる。先日の剣の稽古の時といい、コレットの肩を持つようなロランの言葉がいちいち気に障る。
「くそっ、邪魔になるようならすぐに放り出してやるからな。……ロラン、仕事の説明を頼む」
苛立ちに任せて吐き捨てるように告げると、目を丸くするロランを促して、セルジュはずかずかと執務室に踏み込んだ。
荘厳な装飾の施された扉の前に立ち、金属製のドアノックを打ち鳴らす。広い廊下に心地良い鐘に似た音が響き、程なくして重い扉が開かれた。
顔を覗かせた赤銅色の髪の青年は、セルジュの顔を見て灰色の瞳を細め、僅かに口の端を吊り上げると、怪訝な表情でセルジュの傍を見下ろした。
「遅かったですね。理由はなんとなく把握できましたが」
「……すまん、色々と試みたが無理だった」
隣に立つコレットを一瞥し、セルジュはロランに頭を下げる。この部屋に至るまで、セルジュは入り組んだ廊下を速足で移動し、ときにはわざと道を違えたり身を隠したりと手を尽くしたものの、コレットの追跡能力は猟犬並みで、結局最後まで振り切ることができなかったのだ。
がっくりと肩を項垂れたセルジュに小さく肩を竦めると、ロランは口元を手で隠し、さも不思議だと言いたげに疑問を口にした。
「前々から気になっていたのですが、貴方達は一体どういった関係なんですか?」
「セルジュさんはわたしのこんにゃ……」
すかさず口を開いたコレットの両頬を、背後から伸びたセルジュの指がぐにっと摘まむ。呂律の回らない声を出しながら首を捻り、コレットは恨めしげにセルジュを見上げた。
「いひゃいれすしぇるじゅしゃん」
頬肉を摘ままれたまま訴える顔が滑稽で、思わず吹き出しそうになる。込み上げる笑いをぐっと堪えると、セルジュはコレットを押し退けてロランに向き合った。ほんのりと紅く腫れた両頬をさすりながら、コレットが拗ねた子供のように唇を尖らせる。
「婚約……って、セルジュ、貴方以前、決まった相手はいないと言っていましたよね」
「元婚約者だ。今は何の関係もない」
「なるほど……『元』ですか」
呟いて、ロランが再びちらりとコレットを見やる。訝しむような視線を受けて、コレットがにっこりと微笑んだ。
「書類整理するんですよね。お手伝いします」
「ふざけるな! 重要な書類もあるのに部外者を中に入れられるわけがないだろう」
「いえ、重要な物は昨日までに殿下と済ませてありますから、手伝いなら歓迎しますよ」
穏やかな笑みとともにロランが応えると、コレットは「やった」と声をあげて、勝ち誇ったように両手で拳を握って見せた。セルジュのこめかみに血管が浮き上がる。先日の剣の稽古の時といい、コレットの肩を持つようなロランの言葉がいちいち気に障る。
「くそっ、邪魔になるようならすぐに放り出してやるからな。……ロラン、仕事の説明を頼む」
苛立ちに任せて吐き捨てるように告げると、目を丸くするロランを促して、セルジュはずかずかと執務室に踏み込んだ。
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
藤白ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389