幼馴染みに初めてを奪われた騎士はトラウマを克服したい

柴咲もも

文字の大きさ
20 / 67
第7話 不名誉な噂

***


「ロランさんは、お砂糖は?」
「ええ、いただきます」

 にこやかに微笑んでロランが応えると、コレットはシュガーポットの角砂糖をロランの紅茶に落とした。
 小さなトングから落とされた白く輝く塊が淹れたての紅茶に溶けていく。ティースプーンがカップと触れ合う軽い音に耳を傾けながら、セルジュはソファの肘掛けに肘をつき、コレットとロランの和やかなやり取りを眺めていた。
 書類整理の様子を盗み見ていても感じたことだが、ロランの前でのコレットはまるで貴族令嬢のように立ち居振る舞いが淑やかだ。セルジュの知る押しの強い我儘な姿とは似ても似つかない。しなをつくるようなその態度を目にしていると、まるで自分だけおざなりな扱いをされているようで何故だか気に入らない。
 不機嫌を隠そうともせず、一人掛けのソファにセルジュが背を預けると、ちらりとその様子を確認して、コレットはロランと向かい合う二人掛けのソファに腰を下ろした。

「それにしても感心しました。コレットさんは御自身でお茶を淹れられるのですね」
「ええ、趣味の一環というか、実際に自分でやってみるほうが色々と都合が良いんです。以前は厨房に入って料理したり女中に紛れて洗濯や掃除なんかもしてたんですけど、さすがに父に見つかって叱られました」
「それは卿も困惑されたでしょうね。……にしても、なぜそのようなことを」
「秘密です」

 興味深そうに身を乗り出したロランの言葉に、コレットは小悪魔的に微笑んだ。仕草こそ愛らしいが、その趣味の一環とやらも、大方、執筆中の官能小説のリアリティがどうのといった理由でしていることだろう。全くもってくだらない。
 ふたりの会話を鼻で笑い飛ばし、紅茶を一口啜ると、セルジュは皿に盛り付けられた焼き菓子に手を伸ばした。喉をとおる紅茶はほどよく温かく、焼きたての茶菓子はさくさくして美味しかった。
 その後も、ロランとコレットは楽しくおしゃべりを続け、セルジュはその傍でつまらなそうに茶菓子を頬張り続けた。
 セルジュが粗方茶菓子を食べきった頃、ロランが思い出したように柱時計を一瞥し、口を開いた。

「そろそろリュシエンヌ様もお戻りになる頃でしょう。残りは私達ふたりだけで充分間に合いますので、お迎えの準備をされたほうがよろしいのではないですか」

 促されたコレットが、瞳をまるくして窓の外を振り返る。陽は高く昇りきっていて、時計を見なくてもとうに正午を回っているのがわかった。

「本当、さすがに戻らないと」

 席を立ったコレットがテーブルの上のティーセットを律儀にワゴンへ片付ける。
 部屋女中にでも任せれば済むことなのにと思いながら、最後の焼き菓子を頬張って席を立ち、セルジュはぐんと伸びをした。ふと室内を見回した視線が榛色の瞳と一瞬交わった気がした。

「それじゃ、ロランさん、お邪魔しました」

 セルジュの視線を慌ててかわし、愛想の良い笑顔でロランに頭を下げると、コレットは顔を伏せたまま、そそくさとワゴンを押して部屋を出て行った。

感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています