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第7話 不名誉な噂
②
***
「ロランさんは、お砂糖は?」
「ええ、いただきます」
にこやかに微笑んでロランが応えると、コレットはシュガーポットの角砂糖をロランの紅茶に落とした。
小さなトングから落とされた白く輝く塊が淹れたての紅茶に溶けていく。ティースプーンがカップと触れ合う軽い音に耳を傾けながら、セルジュはソファの肘掛けに肘をつき、コレットとロランの和やかなやり取りを眺めていた。
書類整理の様子を盗み見ていても感じたことだが、ロランの前でのコレットはまるで貴族令嬢のように立ち居振る舞いが淑やかだ。セルジュの知る押しの強い我儘な姿とは似ても似つかない。しなをつくるようなその態度を目にしていると、まるで自分だけおざなりな扱いをされているようで何故だか気に入らない。
不機嫌を隠そうともせず、一人掛けのソファにセルジュが背を預けると、ちらりとその様子を確認して、コレットはロランと向かい合う二人掛けのソファに腰を下ろした。
「それにしても感心しました。コレットさんは御自身でお茶を淹れられるのですね」
「ええ、趣味の一環というか、実際に自分でやってみるほうが色々と都合が良いんです。以前は厨房に入って料理したり女中に紛れて洗濯や掃除なんかもしてたんですけど、さすがに父に見つかって叱られました」
「それは卿も困惑されたでしょうね。……にしても、なぜそのようなことを」
「秘密です」
興味深そうに身を乗り出したロランの言葉に、コレットは小悪魔的に微笑んだ。仕草こそ愛らしいが、その趣味の一環とやらも、大方、執筆中の官能小説のリアリティがどうのといった理由でしていることだろう。全くもってくだらない。
ふたりの会話を鼻で笑い飛ばし、紅茶を一口啜ると、セルジュは皿に盛り付けられた焼き菓子に手を伸ばした。喉をとおる紅茶はほどよく温かく、焼きたての茶菓子はさくさくして美味しかった。
その後も、ロランとコレットは楽しくおしゃべりを続け、セルジュはその傍でつまらなそうに茶菓子を頬張り続けた。
セルジュが粗方茶菓子を食べきった頃、ロランが思い出したように柱時計を一瞥し、口を開いた。
「そろそろリュシエンヌ様もお戻りになる頃でしょう。残りは私達ふたりだけで充分間に合いますので、お迎えの準備をされたほうがよろしいのではないですか」
促されたコレットが、瞳をまるくして窓の外を振り返る。陽は高く昇りきっていて、時計を見なくてもとうに正午を回っているのがわかった。
「本当、さすがに戻らないと」
席を立ったコレットがテーブルの上のティーセットを律儀にワゴンへ片付ける。
部屋女中にでも任せれば済むことなのにと思いながら、最後の焼き菓子を頬張って席を立ち、セルジュはぐんと伸びをした。ふと室内を見回した視線が榛色の瞳と一瞬交わった気がした。
「それじゃ、ロランさん、お邪魔しました」
セルジュの視線を慌ててかわし、愛想の良い笑顔でロランに頭を下げると、コレットは顔を伏せたまま、そそくさとワゴンを押して部屋を出て行った。
「ロランさんは、お砂糖は?」
「ええ、いただきます」
にこやかに微笑んでロランが応えると、コレットはシュガーポットの角砂糖をロランの紅茶に落とした。
小さなトングから落とされた白く輝く塊が淹れたての紅茶に溶けていく。ティースプーンがカップと触れ合う軽い音に耳を傾けながら、セルジュはソファの肘掛けに肘をつき、コレットとロランの和やかなやり取りを眺めていた。
書類整理の様子を盗み見ていても感じたことだが、ロランの前でのコレットはまるで貴族令嬢のように立ち居振る舞いが淑やかだ。セルジュの知る押しの強い我儘な姿とは似ても似つかない。しなをつくるようなその態度を目にしていると、まるで自分だけおざなりな扱いをされているようで何故だか気に入らない。
不機嫌を隠そうともせず、一人掛けのソファにセルジュが背を預けると、ちらりとその様子を確認して、コレットはロランと向かい合う二人掛けのソファに腰を下ろした。
「それにしても感心しました。コレットさんは御自身でお茶を淹れられるのですね」
「ええ、趣味の一環というか、実際に自分でやってみるほうが色々と都合が良いんです。以前は厨房に入って料理したり女中に紛れて洗濯や掃除なんかもしてたんですけど、さすがに父に見つかって叱られました」
「それは卿も困惑されたでしょうね。……にしても、なぜそのようなことを」
「秘密です」
興味深そうに身を乗り出したロランの言葉に、コレットは小悪魔的に微笑んだ。仕草こそ愛らしいが、その趣味の一環とやらも、大方、執筆中の官能小説のリアリティがどうのといった理由でしていることだろう。全くもってくだらない。
ふたりの会話を鼻で笑い飛ばし、紅茶を一口啜ると、セルジュは皿に盛り付けられた焼き菓子に手を伸ばした。喉をとおる紅茶はほどよく温かく、焼きたての茶菓子はさくさくして美味しかった。
その後も、ロランとコレットは楽しくおしゃべりを続け、セルジュはその傍でつまらなそうに茶菓子を頬張り続けた。
セルジュが粗方茶菓子を食べきった頃、ロランが思い出したように柱時計を一瞥し、口を開いた。
「そろそろリュシエンヌ様もお戻りになる頃でしょう。残りは私達ふたりだけで充分間に合いますので、お迎えの準備をされたほうがよろしいのではないですか」
促されたコレットが、瞳をまるくして窓の外を振り返る。陽は高く昇りきっていて、時計を見なくてもとうに正午を回っているのがわかった。
「本当、さすがに戻らないと」
席を立ったコレットがテーブルの上のティーセットを律儀にワゴンへ片付ける。
部屋女中にでも任せれば済むことなのにと思いながら、最後の焼き菓子を頬張って席を立ち、セルジュはぐんと伸びをした。ふと室内を見回した視線が榛色の瞳と一瞬交わった気がした。
「それじゃ、ロランさん、お邪魔しました」
セルジュの視線を慌ててかわし、愛想の良い笑顔でロランに頭を下げると、コレットは顔を伏せたまま、そそくさとワゴンを押して部屋を出て行った。
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