幼馴染みに初めてを奪われた騎士はトラウマを克服したい

柴咲もも

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第12話 いきり勃つ半身

***


 蝋燭の明かりが灯る廊下にけたたましいノック音が響く。王城の居館の一角、整然と並ぶ部屋の扉のひとつに、セルジュは今、必死の形相で齧り付いていた。
 形振り構わず助けを求めてここまで走ってきたというのに、部屋の主は一向に反応を示さない。痺れを切らしたセルジュが扉を蹴破ろうと脚をあげたところで、かちゃりと澄ました音をたて、部屋の扉がようやく開かれた。
 不快に歪んだ顔を扉の隙間から覗かせたのは、寝間着に着替え、すっかり寝ぼけ眼のロランだった。

「誰ですかこんな夜中に」
「俺だ、話がある。部屋に入れてくれ」

 野太い声でそう告げると、セルジュは返答も待たずにロランの部屋に押し入った。ロランは露骨に嫌な顔をしてみせたが、いきり勃ったセルジュの股間に気がつくと、嫌悪感を露わに部屋の奥まで後退った。

「うわっ、なんですかそれ。気持ち悪い」
「う、うるさい! 萎えるのを待っている余裕がなかったんだ」

 怒鳴るようにそう言って、セルジュはこれまでの経緯――いつもの訓練で気付いたら勃起していたこと――を掻い摘んでロランに説明した。
 ロランは話を聞き終えると、やれやれと肩を竦め、ベッドの柱に寄り掛かるようにして腕を組んだ。

「まあ、その様子なら女性恐怖症は治ったと思って良いのではありませんか?」
「治った途端にこれは異常だろう。リュシエンヌ様の前でこんなことになったらどうすれば良いか……」

 天に向かって聳り立つ逸物を忌々しく一瞥し、セルジュは頭を抱えてうずくまった。ロランはしばらくのあいだ、いつになく弱腰のセルジュを憐れむように見下ろしていたが、やがて溜め息混じりにセルジュに告げた。

「とりあえず、コレットさんとの訓練は終わりにしたほうが良いでしょうね」

 尤もらしく告げられて、セルジュの身体がぴくりと動く。怯えるようにロランを見上げたセルジュの顔には、明らかな動揺が浮かんでいた。

「まさか、続ける気だったのですか?」

 ロランが呆れた声を出す。
 ロランの指摘は納得のいくものに違いなかったが、セルジュはすぐには頷くことができなかった。狼狽えながらもなんとか頭を整理して、セルジュはようやく事態を飲み込んだ。

「……いや、そうだな。女性の前では勃たないから安心して部屋に呼べたんだ。こうなってしまっては今までのようにはいかないな」

 ちからなく呟いて、床の上に腰を下ろす。
 大切な何かを取り上げられてしまったようで、張り詰めていた気が抜けて、全身が脱力した。意気揚々と己の存在を主張していた股間も、いつの間にかなりを潜めていた。

「しかし、恐怖症が治ったと思ったら、今度は女性を抱き締めるだけで勃つなんて、貴方も見境のない男ですね」
「好きでこうなったわけじゃない!」

 ロランに見下すように告げられて、セルジュは勢い良く噛み付いた。
 見境がないと言われてしまえばそうかもしれないが、セルジュだって誰彼構わずおっ勃てているわけではない、と思いたい。
 昼間にはあのリュシエンヌと身体を密着させて踊ったけれど、何事もなく済んだのだ。香りたつような色香にも、押し付けられた豊満な胸の感触にも、セルジュの股間は全く反応しなかった。それなのに。

「もしかして……」

 顔をあげ、セルジュは眼を見開いた。
 ほんのりと頬を染めてセルジュを見上げるコレットの顔が鮮明に脳裏に浮かぶ。誘うようなあまい香りも、セルジュの身体にまだ微かに染み付いているような気がした。なによりも、抱き寄せた柔らかなあの感触を、両腕がまだ覚えている。

「なんですか?」
「……その、特定の相手にだけ勃つ、なんてことは、あり得るのだろうか」

 躊躇いがちにセルジュが問うと、ロランは目を丸くして、手のひらで口元を覆い隠した。

「さあ……どうでしょうね。男なんて触られれば勃つ生き物ですが、貴方の場合はそうではないようですし」

 含みのある物言いでそう呟いて、整った唇の端を吊り上げる。訳知り顔でにやにやと笑うロランを、セルジュがジロリと睨み付けた。

「……何が言いたい」
「言わないとわからないんですか?」

 揶揄うように告げられて、セルジュはくっと歯を食いしばった。膝に手をつき、勢い良く立ち上がる。
 これ以上居座ったところで揶揄われるだけな気がして。セルジュは「邪魔したな」と吐き捨てると、元来た廊下を寄宿舎に向かって歩き出した。

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