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第13話 好きな人とするべきだと、思うから
③
***
今、何時だろう。
ベッドにうつ伏せになったまま顔だけを動かして、セルジュは窓のほうへと眼を向けた。陽は随分前に沈んだようで、窓の外は夜の闇にすっかり染まっていた。王族の晩餐も、とうの昔に終わったことだろう。
ヴィルジールに暇を出されてからも、セルジュは朝食と晩餐の際にだけは護衛騎士の任務に付いていた。王と王妃の手前、王太子の護衛騎士が不在であることは伏せておいたほうが良いと考えたからだ。ヴィルジールもそれには賛成のようで、今朝まで以前と同様にしてきたものの――現実には、セルジュが晩餐の際に護衛として顔を出さなくても気に掛ける者は誰もいなかったようだ。
ベッドの上にぐったりと倒れ伏したまま、セルジュは大きく息を吐いた。
舞踏室を飛び出したあのあと、部屋に戻って一発抜いて、それからずっとセルジュは自室に閉じこもっていた。晩餐の護衛に出なかったのは、単純にコレットと鉢合わせるのが怖かったからで、完全に勃起した性器を王や王妃の面前に晒すわけにはいかなかったからだ。
どうしてこんなことになってしまったのか。
ベッドと身体に挟まれた己の股間がぐったりとしていることに安堵しながら、セルジュはふたたび大きく息を吐いた。
閉じたまぶたの裏側に、最後に見たコレットの顔がふと過ぎる。榛色の瞳を大きく見開いて、驚いたと言うよりも心配していたようだった。
ロランの言うとおりだった。こうなった以上、コレットにも言わなければならないだろう。「訓練は、もうやめだ」と。
セルジュが決意した、ちょうどそのとき、小気味の良いノック音が室内に響き渡った。のそのそと起き上がり、重い身体を引きずって、扉の隙間から顔を覗かせる。部屋の前に、いつになく落ち着かない様子のコレットが立っていた。
「大丈夫ですか? セルジュさん」
「ああ。このとおり、問題ない」
セルジュが軽く頷いてみせると、コレットはホッと息をついて弱々しく微笑んだ。ほんの少し躊躇って、セルジュは結局、いつものようにコレットを部屋に招き入れた。これが最後だと、己に言い聞かせながら。
「晩餐の警護はどうなった?」
「殿下にはロランさんが付いてましたよ。セルジュさんは元々暇を出されている身だから、体調が良くないなら気にせず休ませるようにって言ってました」
「気にせず、か……」
皮肉な溜め息が漏れる。自虐的な気分で口の端を引攣らせていると、コレットが側にやってきてセルジュの顔を覗き込んだ。ほんのりと甘いあの香りが、ふわりと鼻を掠める。
「今日はどうしちゃったんですか? 昼間の練習のときもなんだかそわそわしてたし、すぐに帰っちゃうし……昨日はリュシーとあんなに上手に踊ってたのに……」
言葉尻を濁らせて、コレットが視線を落とす。的確な言葉が思いつかずにセルジュが黙り込んでいると、コレットは「てへっ」と笑って顔を上げ、
「やっぱり、わたしなんかじゃセルジュさんの役には立てませんね」
そう言って、小さく肩を竦めてみせた。
いつものお調子者の笑顔ではない。傷付いたような、弱々しい微笑みだった。
「そんなことはない!」
考えるよりも先に口が出て、セルジュは弾かれるようにコレットの手首をひっ掴んだ。気付いたときにはすでに、コレットの身体を強引に腕の中に抱き寄せていた。
冷静な判断などできなかった。ただ、放っておけばコレットが泣いてしまいそうな気がして――。
「セルジュさん、あの」
「おとなしくしていろ。いつもの訓練だ」
「でも、砂時計……」
言い掛けて、コレットが口を噤む。躊躇いがちに委ねられた身体を、セルジュはぎゅっと抱き締めた。
子供の頃――まだセルジュがコレットと出会ったばかりだった頃、コレットは内気で人見知りで、感情を表に出さない子だった。親の勝手で決められたとはいえ、婚約者だと言われてしまえば邪険にするわけにもいかなくて。当時のセルジュは幼いなりに気を遣い、親の用事が終わるまで忍耐強くコレットの相手をしていた。
そうして一年近くを過ごすうちに、コレットは徐々にセルジュのことを慕ってくれるようになり、セルジュもコレットのことを大切に想うようになった。ずっと側にいると約束もしたし、騎士を目指したのだって、元を辿れば彼女のことを護りたいと思ったからだ。
彼女はよく笑うようになった。拗ねたり膨れたりもしてみせたけれど、不思議と涙を見せることはなかった。だから彼女が泣くときは、きっとどうしようもなく傷付いたときなのだろうと、そう思っていた。
華奢な身体を抱き締める腕に、自然とちからが込められる。柔らかな亜麻色の髪が淡く香り、セルジュの鼻腔をくすぐった。
ただ純粋に、泣かせたくないと思っただけだったはずなのに、どうしようもなく劣情が煽られる。
昼間おかしくなったのは、変な夢を見たせいだ。大丈夫、慣れてしまえば問題ない。
そう己に言い聞かせようとするものの、獰猛な男根はむくむくと鎌首をもたげ、セルジュの意に反するようにコレットの下腹に擦り寄っていた。
「セルジュさん……ちょっと、痛いです……」
身動いだコレットを逃すまいと抱き寄せて、手のひらでそっと薄い肩を撫でる。背中を撫でおろした手のひらが腰から下へと向かおうとしたところで、コレットがびくりと身体を震わせて、恐る恐る顔を上げた。
「セルジュ、さん……?」
腕の中でセルジュを見上げるコレットと視線が交わる。榛色の揺れる瞳がどこか不安を滲ませていた。
薄紅く色づいた柔らかな唇が、夢にみた濡れた唇を想起させる。薄っすらとまぶたを伏せて、吐息を零す潤った果実のようなコレットの唇に唇を寄せた――はずだった。
今、何時だろう。
ベッドにうつ伏せになったまま顔だけを動かして、セルジュは窓のほうへと眼を向けた。陽は随分前に沈んだようで、窓の外は夜の闇にすっかり染まっていた。王族の晩餐も、とうの昔に終わったことだろう。
ヴィルジールに暇を出されてからも、セルジュは朝食と晩餐の際にだけは護衛騎士の任務に付いていた。王と王妃の手前、王太子の護衛騎士が不在であることは伏せておいたほうが良いと考えたからだ。ヴィルジールもそれには賛成のようで、今朝まで以前と同様にしてきたものの――現実には、セルジュが晩餐の際に護衛として顔を出さなくても気に掛ける者は誰もいなかったようだ。
ベッドの上にぐったりと倒れ伏したまま、セルジュは大きく息を吐いた。
舞踏室を飛び出したあのあと、部屋に戻って一発抜いて、それからずっとセルジュは自室に閉じこもっていた。晩餐の護衛に出なかったのは、単純にコレットと鉢合わせるのが怖かったからで、完全に勃起した性器を王や王妃の面前に晒すわけにはいかなかったからだ。
どうしてこんなことになってしまったのか。
ベッドと身体に挟まれた己の股間がぐったりとしていることに安堵しながら、セルジュはふたたび大きく息を吐いた。
閉じたまぶたの裏側に、最後に見たコレットの顔がふと過ぎる。榛色の瞳を大きく見開いて、驚いたと言うよりも心配していたようだった。
ロランの言うとおりだった。こうなった以上、コレットにも言わなければならないだろう。「訓練は、もうやめだ」と。
セルジュが決意した、ちょうどそのとき、小気味の良いノック音が室内に響き渡った。のそのそと起き上がり、重い身体を引きずって、扉の隙間から顔を覗かせる。部屋の前に、いつになく落ち着かない様子のコレットが立っていた。
「大丈夫ですか? セルジュさん」
「ああ。このとおり、問題ない」
セルジュが軽く頷いてみせると、コレットはホッと息をついて弱々しく微笑んだ。ほんの少し躊躇って、セルジュは結局、いつものようにコレットを部屋に招き入れた。これが最後だと、己に言い聞かせながら。
「晩餐の警護はどうなった?」
「殿下にはロランさんが付いてましたよ。セルジュさんは元々暇を出されている身だから、体調が良くないなら気にせず休ませるようにって言ってました」
「気にせず、か……」
皮肉な溜め息が漏れる。自虐的な気分で口の端を引攣らせていると、コレットが側にやってきてセルジュの顔を覗き込んだ。ほんのりと甘いあの香りが、ふわりと鼻を掠める。
「今日はどうしちゃったんですか? 昼間の練習のときもなんだかそわそわしてたし、すぐに帰っちゃうし……昨日はリュシーとあんなに上手に踊ってたのに……」
言葉尻を濁らせて、コレットが視線を落とす。的確な言葉が思いつかずにセルジュが黙り込んでいると、コレットは「てへっ」と笑って顔を上げ、
「やっぱり、わたしなんかじゃセルジュさんの役には立てませんね」
そう言って、小さく肩を竦めてみせた。
いつものお調子者の笑顔ではない。傷付いたような、弱々しい微笑みだった。
「そんなことはない!」
考えるよりも先に口が出て、セルジュは弾かれるようにコレットの手首をひっ掴んだ。気付いたときにはすでに、コレットの身体を強引に腕の中に抱き寄せていた。
冷静な判断などできなかった。ただ、放っておけばコレットが泣いてしまいそうな気がして――。
「セルジュさん、あの」
「おとなしくしていろ。いつもの訓練だ」
「でも、砂時計……」
言い掛けて、コレットが口を噤む。躊躇いがちに委ねられた身体を、セルジュはぎゅっと抱き締めた。
子供の頃――まだセルジュがコレットと出会ったばかりだった頃、コレットは内気で人見知りで、感情を表に出さない子だった。親の勝手で決められたとはいえ、婚約者だと言われてしまえば邪険にするわけにもいかなくて。当時のセルジュは幼いなりに気を遣い、親の用事が終わるまで忍耐強くコレットの相手をしていた。
そうして一年近くを過ごすうちに、コレットは徐々にセルジュのことを慕ってくれるようになり、セルジュもコレットのことを大切に想うようになった。ずっと側にいると約束もしたし、騎士を目指したのだって、元を辿れば彼女のことを護りたいと思ったからだ。
彼女はよく笑うようになった。拗ねたり膨れたりもしてみせたけれど、不思議と涙を見せることはなかった。だから彼女が泣くときは、きっとどうしようもなく傷付いたときなのだろうと、そう思っていた。
華奢な身体を抱き締める腕に、自然とちからが込められる。柔らかな亜麻色の髪が淡く香り、セルジュの鼻腔をくすぐった。
ただ純粋に、泣かせたくないと思っただけだったはずなのに、どうしようもなく劣情が煽られる。
昼間おかしくなったのは、変な夢を見たせいだ。大丈夫、慣れてしまえば問題ない。
そう己に言い聞かせようとするものの、獰猛な男根はむくむくと鎌首をもたげ、セルジュの意に反するようにコレットの下腹に擦り寄っていた。
「セルジュさん……ちょっと、痛いです……」
身動いだコレットを逃すまいと抱き寄せて、手のひらでそっと薄い肩を撫でる。背中を撫でおろした手のひらが腰から下へと向かおうとしたところで、コレットがびくりと身体を震わせて、恐る恐る顔を上げた。
「セルジュ、さん……?」
腕の中でセルジュを見上げるコレットと視線が交わる。榛色の揺れる瞳がどこか不安を滲ませていた。
薄紅く色づいた柔らかな唇が、夢にみた濡れた唇を想起させる。薄っすらとまぶたを伏せて、吐息を零す潤った果実のようなコレットの唇に唇を寄せた――はずだった。
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